艦魂年代史 恋する乙女は大艦巨砲主義エピローグ 僕達の艦魂物語は終わらない(10/16)PDFで表示縦書き表示RDF


艦魂年代史 恋する乙女は大艦巨砲主義エピローグ 僕達の艦魂物語は終わらない
作:黒鉄大和



第十章 神の福音


 天界王宮。
 天界でも揉め事などが起きる為、それを解決する実働部隊の本拠地であるここには天界全てを統率する天界の長――神が君臨している。
 神は天界大臣以外の天使以外とは通常謁見せず、一年に二、三回公の場に現れるぐらいだ。
 そんな神の間に、今は珍しい客人が来ていた。
「一体何したんですか長門さんッ!」
 小声で隣にいる長門に大和が悲鳴に近い声で尋ねると、長門も汗を流す。
「し、知らないわよ。私が知る訳ないでしょ?」
「この中に神様を怒らせるくらいの問題を起こしそうなのはあなただけですッ!」
「失礼ねッ! 人を歩く問題発生機みたいに言わないでよッ!」
「そのものズバリですッ!」
「黙らんか愚か者ッ!」
 いつの間にか声を荒らげていた二人に切羽詰った顔をした金剛が叫んだ。
 慌てて長門と大和は沈黙した。
 今現在ここには金剛、長門、陸奥、伊勢、大和、武蔵、翔鶴と指揮能力が高めな艦魂が集まっていた。
 そんな彼女達を見詰めるのは身長三メートルはあろうかという大男。その姿は高貴・神秘なオーラを放っている。
 大和達は遠くからしか見た事のない神の姿を見詰めて青ざめていた。
「い、一体どのようなご用件ですか?」
 あの金剛が真剣な顔で敬語を使っているのを見て皆硬直する。
 今大和達は旧海軍の軍服を着ている。正装のない彼女達の唯一の正装服である。場違いだが。
「お前達は人間ではなく艦魂という存在なのだろう?」
 柔らかな声に一瞬安堵するも、すぐに相手が神だと思い出して硬直する。
「は、はい。そうですぅ」
 大和が小さすぎる声で返答すると、神はうなずいた。
「あの大きな戦争の中に生きた悲劇の乙女達。それが艦魂であろう?」
「ま、まあ、そうです」
 陸奥もちょっとした衝撃で泣きそうな顔で何度もうなずいた。
 神はしばしの沈黙の後、悲しげな顔で大和達を見詰めた。
「悲劇の乙女達に、何かしてやれる事はないかと考えていた」
「そ、そんなッ! 自分達のような人間でもない人外の存在に神様がそのような事をお考えにならなくてもよろしいものをッ!」
 伊勢は陸奥異常にパニック寸前だった。
 先頭に立つ金剛は大和達の表情を一瞥すると、真剣な瞳で神を見詰める。
「失礼ですが、我ら艦魂は海の戦姫。戦う事を使命とする者達。その我らが戦争で命を落とすのはむしろ本望。神様ともあろうべき人がたかが我らのような存在に同情心を抱く必要はありません」
 さすが金剛。神様相手に毅然とした態度で接している。主婦になったとはいえ、今でも彼女は胸に強い志を持つ戦士なのだ。
 金剛の態度に大和達は感動すると同時に、その何ものも恐れない態度を神様にしてしまった事に恐怖した。
 はらはらと大和達がしていると、神は柔和な笑みをした。
「戦姫だからと言っても、幸せに生きたいと願った者もおろう」
 金剛は大和を睨んだ。
「な、何ですか?」
「お前はそういう考え方の筆頭だ。前へ出ろ」
「えええぇぇぇッ!? 無理ですよッ!」
 嫌がる大和を、金剛は有無も言わせずに引きずり出した。
「そなたは?」
 もう諦めるしかないと大和は覚悟し、神の質問に答えた。
「わ、私の名は大和と言います」
「大和・・・そなたが大和か?」
「は、はい。ご存知なんですか?」
「もちろん」
 神の返答に大和は驚く。
「な、なぜ?」
「天界に昇った魂のそれまでの経緯は全て記録されている。その中で君の記録を見て、私は艦魂に対する処置を考えたのだ」
 神は少し寂しそうな顔で大和を見詰めた。
「君は、愛する人を地上に残したままここへ来たのであろう?」
 神の言葉に、大和はうつむいた。
「・・・そうです」
「もしも君が人間だったら、このような別れ方はなかったと、思わないか?」
「・・・思いません」
「何?」
 慌てる長門達を無視し、大和は驚く神を見詰める。
「もしも私が人間だったら、翔輝さんとは会っていなかったはずです。艦魂だったからこそ、私は翔輝さんに出会えたんです。艦魂だったから、ずっと一緒にいられたんです。いた時間は短かったかもしれませんけど、でも、私はその短き時間の中で、彼に多くの思い出をもらいました。艦魂だったから、私達はこうして仲間と出会え、彼と出会え、生きて来れたんです。人間だったらなんて、考えた事ありません」
 大和の毅然とした態度に、長門達の恐怖心もいくらか消えた。
「そうです。確かに中にはあたなの言うとおり人間の方が良かったと思う者はいますが、それでもここにいる私達は艦魂であった自分達に誇りを持っています」
 長門の言葉に、後ろにいる陸奥達もうなずいた。
「艦魂だったから長谷川さんに出会えたんです」《陸奥》
「もし人間だったら、艦魂のような制限はありませんが、その分彼と出会えていた可能性はさらに低かったです」《翔鶴》
「艦魂という制限を受けた私達に、彼は優しく接してくれたからこそ、私達は彼に惹かれたんです」《伊勢》
 次々に自分の意見を言う大和達の中、今までずっと沈黙を続けていた武蔵が大和を後ろに下げて前に立った。
「武蔵?」
「・・・神だかなんだか知らないけど、同情心なんかいらない」
 武蔵の敬語抜きの態度に全員が驚愕した。
「武蔵ッ! 相手の力量をわきまえろッ!」
 金剛が慌てて怒鳴るが、武蔵は全く動じない。それどころか神を怒り一色の鋭い瞳で睨み付けた。
「・・・同情するなら、もう一度翔輝に会わせろッ!」
 もはや武蔵の暴走を止める事もできず、大和達はある意味死を覚悟した。
 だが、神からの返答は――
「そのつもりだ」
『・・・はい?』
 大和達の予測のはるか上を上回っていた。
 呆然とする大和達に、神は毅然とした態度で見詰めた。
「人間は死ぬと死体となり、その痕跡が残ってしまう。だがお前達艦魂は死んでも死体は残らない。つまり、人間を蘇らせる事はできないが、お前達のような人外の存在は蘇らせる事ができる。つまり貴様達を人間にする事ができるのだ」
 神の言葉に、大和の中で何か温かいものが流れた。
 それは希望という光であった。
「私達が・・・人間に・・・?」
「そうだ。そうすれば、もう一度お前の想い人にも会える」
 神の言葉に大和達に動揺が広がる。そんな中、金剛だけは神に食い付く。
「私達を人間にする事など、本当にできるのですか?」
「できる。ただし志願制だ。艦魂の中にもここで生きたいと思う者もいるであろう」
 金剛はその言葉に沈黙した。
 何も言い返せない大和達を神はじっと見詰める。
「期限は明日の正午。それまでじっくりと考えなさい」

 王宮から帰った大和達は緊急に天界中の日本海軍の艦魂達を集めた。
 他の国の艦魂にも知らせようかと迷ったが、いまだ日本艦魂と世界の艦魂の間には溝があってできそうもなかった。しかし長門が知り合いのアメリカの艦魂であるサラトガに伝えたが、すでに他国の艦魂達にも通知がいっていたらしい。
 街外れの広場に総勢千人近い日本海軍艦魂が集まっていた。
「という事で、この天界から地上に戻りたいと思う者は明日の正午に王宮へ行きなさい」
 長門の言葉に艦魂達は動揺した。
 だが、どうやら艦魂達の意見の大半はここに残って姉妹や仲間と共に幸せに暮らす側だった。
 地上に未練がある者はほとんどいないのだ。
 そのまま艦魂達は解散した。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう