婚約破棄なんて絶対に認めませんから
久しぶりに会ったというのに、急に何ですか。
婚約を破棄して欲しいですって?
ふざけないでください!
一体どれだけ私が待ったと思ってるんですか!?
十年ですよ!十年!
十年間ずっとあなたを待っていたんです。それがなんですか。ようやく会えたと思ったのに。やっとの事で結婚出来ると思ったのに。
どうして婚約を破棄しなくてはいけないのですか!?
絶対に嫌です。
婚約破棄なんて絶対に認めませんから!
これが見えないのかですって?
何言ってるんですか。
見えるに決まってます。
それがどうかしたんですか?
そんな事を婚約破棄の理由にしないでください!
いい加減諦めろだなんて、どの口が言ってるんですか?
どうして私が諦めなければならないんですか!?
どうして私が身を引かなければならないんんですか!?
どうして私が……。
少しは私の気持ちも考えてください!
我儘なのは、あなたの方じゃないですか!
戦争に行って大怪我したから何ですか!?
片足を失ったからなんですか!?
片手を失ったからなんですか!?
顔が半分潰れたからなんですか!?
子供が出来ないかもしれないからなんですか!?
そんな理由で、婚約を破棄しないでください!
片足で立てないなら私が支えます。
片手で足りないなら私が手伝います。
顔が半分潰れたくらいじゃ、私は怖がったりしません。
子供が出来ないのは残念ですが、二人だけの生活だって良いじゃないですか。
私はあなたが傍にいてくれるだけでいいんです。
それだけで幸せなんです。
だから……。
だからお願いです。
婚約を破棄するなんて言わないでください。
私は!
私は……。
……。
――嫌です。
許しません。
どうしても許して欲しいなら、約束してください。
婚約破棄なんてしないって!
もう私を一人にしないって!
ずっと傍にいるって!
約束してください!
今ここで約束してくれたら……。
ちゃんと約束を守ってくれたら……。
私がヨボヨボのおばあちゃんになって、息を引き取るその瞬間に、あなたを許してあげます。
だから、約束してください。
もうどこにも行かないって。
私を一人にしないって。
どんなに大変でも構いません。
どんなに貧しくても構いません。
周りに反対されても関係ありません。
良いじゃないですか。
誰が何て言おうと、私達には私達の幸せがあるんですから。
私は……。
私はあなたさえ居てくれれば、それで良いんです。
それだけで幸せなんです。
だから……。
だから私は、婚約破棄なんて絶対に認めませんから。
これは決して物語の表舞台に立つ事のない無名な元騎士と、彼を生涯に渡り支え続けた女性の話。