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我らが死世界に夢を 作者:E9
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転生依頼ー08

 そして、俺達は迷宮へと到着する。
 相性が悪く戦闘に加われないマリーはそこで見送り、ぽんたが手をぶんぶんと振っていた。
 迷宮の入り口では、協会の方が警備をしていて、一般人の立ち入りを規制していたが、俺達を見ると何かを察したように道を開けた。……結構有名……だからかな。
 マリーのはぐるまくんは、マリー自身が居なくとも動く事は出来る。ただし、動力はチャーリーだけになるし、操作はぽむの担当だ。
 ぽむは外に出られたのが余程嬉しいのか、壁を走ったり、階段を走ったり、机(怨霊ではなく迷宮内に存在するもの)を踏み潰したり、ハイテンションな様子だった。しかし、乗ってる俺達からしたらたまったもんじゃない。
 名西のおっさんはブツブツと呟き、ルエは体育座りをして目が座っている。田本さんはしがみ付いて、振り落とされないのに必死だ。チャーリーは速度を出す為に必死で、ラドは楽しそうに車内を飛び回る。可哀想なぽちが酔った様子で俺に擦りついて来たので、俺は黙って背中を撫でた。問題の爆弾、宮上は、隣で訳のわからない事を呟き始めていた。……爆発、近いな。
 昨日怨霊を刈り尽くしたからか、襲って来るものが居ない。……本当に、それで良かったよ……。

「……よし、次の階だ!」

 チャーリーの声に、みんなの表情がはっとなる。
 フロアに出てすぐに、ラドとルエ、ぽちが飛び出す。その3人を目標に、2本の光線が投げかけられた。

「危ねぇ!」

 チャーリーの声に、みんな回避を取る。そのお陰か、ダメージは無かった。だが、本当に油断が出来ないという事がヒリヒリと伝わって来る。
 しかも、光線は2本飛んできた。
 相変わらず揃っている、8つの頭を見れば、デジタル時計が口から煙を吹いているのが見えた。あいつか。

「デジタル時計の頭だ!
何とか切り落とす!」
「頑張って‼︎」

 ぽちと共に車を降り、オロチの懐へと跳ぶ。
 その間に、死んだ目をした宮上とチャーリーが動くのが視界端でわかった。大丈夫、きっと何とかなる。
 紙の弾丸が飛ぶ中を走り、その間絡繰箱に筒を入れる。

「【水斬刀】‼︎」

 取り出した刀の柄に、絡繰箱をはめ込む。すると、刀身は青色の光を纏う。

「【水斬舞】‼︎」

 無数の刃が精製され、オロチの首へと向かう。デジタル時計と資料の塊の頭が斬り落とされ、机とバインダーが皮一枚で繋がっているという様子だった。

「宮上、頼んだ‼︎」
「……ははっ」

 順調におかしくなっている宮上は、チャーリーの上で両手に持った双刀に絡繰箱を嵌めていた。……なんか、3つ5と電池が押し込まれている気がするのだけれども。待って、怖い。
 ポケットの中に、麻酔銃を持っているのを思い出し、安心した。とても、安心した。それに名西のおっさんもいるだろう。なんとかなる。
 雑多な考えを浮かべている間にも、状況は刻一刻と変化する。
 チェーンソーのように角の灰皿を動かすオロチの左首が、目の前に落ちて来る。俺を妨害するつもりのようだ。
 回復しつつある首を睨み、灰皿の頭を踏み台にしようかとも考える。しかし、その前に、デジタル時計の首に鉄の槍が突き刺さった。

「ちくわのキュウリ詰め」
「馬鹿な事言ってないで早く固定を頼む」

 ちょっと笑いそうになっただろうが。確かにキュウリ詰めたちくわっぽいけど。
 ラドはちょっとドヤっとしている。笑いそうになったのバレてら。
 でも笑うのなんて俺だけだぞ、こんな状況下で。誰もそんな余裕持っちゃいないんだから。
 田本さんとぽちは、コピー機の頭と必死に戦っている。そんな中、突然コピー機の頭は仰け反り、呻く。名西の狙撃が命中したようだ。呻いた後、頭は爆発して木っ端微塵となる。爆弾付きの弾丸だったらしい。怖ぇ。2人は一瞬唖然とした後、また身構える。再び、頭が復活しだしていたのだ。
 段々元に戻りつつあるコピー機の首。ラドはまだかと思ったが、ラドは胴体を釘付けるので背一杯だったようだ。
 それはそれで仕方ない。俺はラドが放ち終わった辺りで、バインダーの頭を斬り落とそうと準備する。

「ふ……ふははは、あ、あはははははっ‼︎」

 水斬刀の柄を握った時だった。首の向こうから、狂った人の声が響き渡って来た。

「『狂気の社畜(マッドネス・ウェイジュスレイブ)』来襲!
チャーリー離れろ‼︎」
「お、おう‼︎」

 首の間から、チャーリーが飛び出して来る。空飛ぶ自転車を食い千切ろうと、コンピュータの頭が宙に伸びる。しかし、その口は途中で勢いを無くして落下する。

「え、何か食べたかったの?食べたかったの?じゃあこれでも食べる?食べる?食べるか、美味しい、美味しいかぁ!!」

 何も聞こえん。俺は何も聞いていない。野郎が錯乱して意味不明な言葉を発していても、元が可憐な少女でなければ面白くもなんともないんだ。

「足りない?足りない?これだけ食べても足りないの?そっかぁー、そっかぁ!
じゃあこれでも食べる?」

 のたうつ首の隙間から、宮上がオロチの尾を切り裂くのが見えた。途端、オロチの全ての首が大きく鳴き喚く。

「そっか!そんなに!そんなに嬉しいんだね!!お兄さんも君と遊べてとっても嬉しいなぁ!!」

 そう言って、宮上は更に尾を斬り裂いていく。狂った笑い声が、オロチの咆哮の中から聞こえて来る。
 ここは地獄か何かか。
 宮上が発狂するのは前提条件だったけれども、まさかオロチがこんなにも煩いとは思わなかった。
 機械の身体を斬り裂き、首が回復しないようダメージを与えていく。技?も多くを使い、定期的に回復する首を吹き飛ばしていく。それでも、何故か間に合わない。詰められた鉄を押し退け、新しい首か生えてレーザーが天井と床、服を焼く。

「っ、でやぁ!!」

 田本さんの槌が、オロチの胴体に響く。ビキビキッ‼︎とヒビ割れる装甲から、紫色の液体が染み込んでいく。
 しかし、そこに別の首が現れる。
 まずい、みんな体制を崩し始めている。首4つと尻尾全部を相手取ってる宮上はどうなのかわからないけれど。笑い声が聞こえるということは無事なのだろう。

「景仁‼︎
一斉攻撃だ‼︎」
「わかった!
みんな、宮上は置いて一旦引け!」

 声はギリギリ届いたようで、みんなは噛み付かれない程度の距離に逃げる。

「一斉に攻撃して、あの首を全部斬り落とす‼︎正面左から、田本さん、名西、ラド、チャーリー、ぽち、ルエだ!俺が残り2つの担当をする‼︎」
「応!」

 言うが早いか、俺達はUターンしてオロチに向かう。

「てめぇの相手は俺だ‼︎
【爆氷斬】‼︎」

 オロチの首は凍りつき、そこに刀を振り下ろす。かなり気力を持っていかれるが、相応の効果はある。凍った場所は、必ず粉々に砕け散るのだから。
 咆哮は途切れ、残るのは嘲笑の叫びと機械の蠢く音だけだった。

「やったか⁉︎」

 チャーリーが叫ぶ。馬鹿野郎、それはフラグだ!
 チャーリーがフラグを立てたからか、もしくは元からそうだったのか、オロチの首は即座に元どおりになっていく。

「……属性相性とかじゃ無いだろうな」

 名西が珍しく意見を言う。俺もそうかもしれないとは思ったが、それだとこちら側が不利過ぎないだろうか?パーティを組まないと、絶対に倒せない相手になってしまう。薄赤級とはいえ、そんな鬼畜でいいのか?
 レーザーを放たれる前に阻止しようと、再び懐に潜った時だった。
 首が一本足りないのに気がついた。

「景仁⁉︎
首一本無いよ⁉︎」

 見れば、オロチの1番右の首、コピー機の首が無くなっている。根元は壊死したようになっており、回復する兆しは無い。
 あれをやったのは誰だ?確か……
 見回すと、首の根元にいる田本さんと視線が合う。

「どういうことですか⁉︎」

 田本さんは混乱しているようだった。
 ふと、先程田本さんが攻撃していた場所を見る。装甲を割り、中に毒?を流し込んでいた場所だ。そこは、さっきと同じように、ヒビ割れたままだった。……というか、毒々しい紫色が浸透し、コピー機の首だった所と同じように壊死しているかのようだ。
 作戦時のラドの話がフラッシュバックする。「神話のセオリー、気にしなくて大丈夫?」だった気がする。
 酒は、動物にとっては毒になる。神話で酒に酔い、眠ってしまった八岐大蛇。その神格を持つから、毒に弱い?
 いや、理屈はどうでもいい。

「名西!
こいつ毒が効くらしい‼︎」
「……待ってろ‼︎」

 名西は一線を退き、はぐるまくんの影に隠れて《即席道具》を作り始める。その間、あの蛇を抑えていれば、多分なんとかなる。
 田本さんは余り危険には近付いて欲しくなかったが、こうなれば別だ。

「田本さん、俺とぽちが守るので、首の処理をお願いします‼︎」
「は、はい!」
「わう!(らじゃー!)」

 田本さんは隣のデジタル時計の首へと、その槌を振り回す。一度や二度では、ピクリともしない。それでも、段々と表皮が崩れていく。
 そうだ。

「【斬霧ノ型弍式】‼︎」

 田本さんが一度引いた時を見計らい、右上から左下へと切り傷を入れる。目配せをして、田本さんに同じ場所を叩いて貰う。
 するとどうだろう。
 割れた表皮から、ジワジワと毒が染み込んでいくではないか。
 それでも、まだ壊死はしていない。効くにはもう少し時間がかかるようだ。
 と、そこへデジタル時計の頭が口を開け、エネルギーを充填させ始めた。

「わぅ‼︎(やべっ)」
「撤退‼︎」

 地面を蹴り、一気に後退する。だが、エネルギーの充填が済んだらしいデジタル時計の頭は、その口を大きく開く。

「は、ははっ?
ぁあ⁉︎
よそ見してんじゃねぇよっ‼︎てめぇの遊び相手は俺なんだよぉぉ‼︎‼︎」

 激昂した宮上の声が聞こえる。そして、エネルギーを溜め込んでいた頭はスパッと切れ、落下する。
 グッジョブと言いたい所だが、撤退のタイミングが少しズレていたら俺達はあの首に押し潰されていた。恐ろしい。
 ……ヤンデレっぽい台詞を、更年期を控えたおっさん(ただし強い)が叫んでいる姿。田本さんですらも、少し引いている。

「わう(大丈夫)」
「……えっ?」
「ふしゅっ(じき慣れるよ)」
「それって大丈夫って言わないと思うが」

 ただ、そろそろ俺達も慣れた。感覚が麻痺したとも言うだろうけど。
 回復していく首だったが、途中でその無限とも思えるような回復力が落ちていく。

「わん!(【獄炎】‼︎)」

 ぽちが吠えると同時に、デジタル時計は黒い炎に包まれ、燃える。炎が消えた後には、何も残らない。そして、再び回復する事も無かった。

「よし!
田本さん、よろしくお願いします‼︎」
「は、はいっ!わかりました‼︎」

 ぽちと田本さんは再びオロチを攻撃し始める。その様子を見つつ、俺は壊死した胴体に攻撃を加える。
 ボロボロ崩れる椅子や机は、大分毒が回っている様子だ。

「……ラド‼︎」
「はいよ、何、何?」

 呼ぶと、ラドはすぐに来てくれる。

「ラド、ここから内側に釘をばら撒く事は出来るか?」
「はっはーん、なるほど?
合点、承知の助‼︎」

 一言で察してくれたみたいだが、言動に女子力が無い。何だよ承知の助って。今時子供でも言わねぇと思うぞ?この子声からすると女の子のようだが……まぁいいや。

「【鉄檻ノ鋲】‼︎」

 鉄の鋲の塊が飛び、壊死したポイントを的確に貫く。
 貫いた所で鋲は巨大化し、体内の内側から抉り抜いていく。
 ……巨大化した鋲が、どこかウニに似ている気がした。

「……ウニって美味いのかなぁ……」

 気のせいでは無かったらしい。
 ラドはシミジミと、切実に言っていた。
 ……ほっとこう。
 頭が半分になり、身体の半分も奪われたオロチは、惨めにのたうち回っている。

「……全員、退避しろ‼︎」
「は、はい⁉︎」

 田本さんがなんとか全部の首に毒を流した時、突然名西のおっさんが声をかけてきた。
 見ると、手には小型爆弾のような物を持っている。宮上以外が退避すると同時に、さっきまで空気だったぽむがその小型爆弾を咥え、首元へと向かって行っていた。
 宮上は、ああなってしまうと意思疎通が難しいので、手段がもう回復前提の放置しかなくなる。
 ぽむがセットを完了したのを車の裏から確認し、みんなの防御が完了したのを見計らって、名西は銃を構える。
 首が動かし辛くなりつつあっても、未だに光線を放とうとしているオロチ。その首元に挟み込まれた爆弾に、名西は照準を当てた。
 目と耳を瞑り、衝撃に備える。
 暗闇の中で、衝撃波と爆風が吹き乱れるのを感じる。はぐるまくんごとグラグラ揺れ、世界が揺さぶられるのを感じる。

「………っ、【回復】……」

 名西が傷を回復する声が聞こえた。狙撃して爆発炎上させるのに、頭や手だけは社外に出さなければならない。多分そこで爆風やら破片やらを受けてしまったんだろう。
 衝撃波も治まってきたので、うっすらと目を開けると、血みどろで申し訳無さそうにしている名西の姿があった。

「……お疲れ様」
「……貴様らが軟弱過ぎるからだ‼︎」
「わかってるって。取り分多めにしておくから」
「……材料費込みで、1千は貰うからな」
「はいはい」
「はいは一回!」
「はい」

 1千、となると、一般的な人間が1月に稼ぐ値とだいたい同じぐらいだろうか?夢の無い言葉で形容すると、まともに生きてる人間の月収がそれぐらいだ。そのまともを何と形容するかが、問題となりそうだけれども。
 閃光が収まった所には、山のように硬貨が積まれていた。ファンタジーによく出てくる、金銀財宝の図、あれがそっくりそのまま車一台分ぐらいの山になっている。

「すげぇ……10万枚はくだんねぇぜ⁉︎」
「倒し辛かっただけはあるね‼︎」
「……むにゃ」

 多分、迷宮で果てた人間の分もあるだろうし、迷宮が現世の人間から奪った物もあるだろう。戦闘時間が思ったよりかかったから、俺達の分も1万ぐらいは入ってるんじゃなかろうか?

「協会に3万ぐらいはとっとかないと怒られるからなー」
「……ちぇー……」
「協会に渡すんですか?」
「まぁ、彼らも影なりに手伝ってくれてますから。
白級以下なら別に取られませんし、黄級もまだ自己申告です。
ただ、赤級以上になって来ると、協会のサポート……例えば入場規制だったりとかを、受けざるを得ない事になります。そのお礼です。勿論出会い頭に倒せればそれでも良いんですが。
この値は、怨霊に倒されないよう技術を学ぶ学校だったり、転生の手伝いをする協会等の運営費用になるので、僕等としても有難いかな、と」
「俺らの給料?も、そこから払われるらさいしなー」

 薄赤級なら、3万程。濃赤級はだいたい10万だったか。大概がそれ以上のリターンがあるから、赤字になった、という噂は余り聞かない。もっとも、絡繰箱等の道具で費用がかさんで赤字、なんて事はちらほらあるらしいが。

「……そういえば、宮上さんはどうしたんでしょう」
「あー、すっかり忘れてた」
「……あんな奴が、あれっぽっちで死ぬことは無い。最悪肉塊だろうが、死にやしないさ」

 そう言って、おっさんは銃に睡眠弾をこれでもかと詰める。容赦ねぇ……
 そう思う俺も、懐から銃を取り出し、安全装置を外す。

「……宮上ー!」
「宮上ー、あそぼーぜー‼︎」

 声をかけると、天井からぼとっ、と何かが落ちて来る。
 炭になった宮上だ。ガラガラの声を張り上げ、まだ笑っている。

「ハ、ハははハハ!!
遊ボ、うカァ!!!
イイねぇ、トッてモ久しブり!何日ぶりカな?何日ぶリかナ?何日?何日?何日?何日?何時間?何時間?何時間?何週間?何週間?何週間?何ヶ月?何ヶ月?何ヶ月?何ヶ月?何年?何年?アレェ、何年ブりだッタっけェ?」
「……っ、う」

 悍ましい光景に耐え兼ねた田本さんが、口元を抑えて身を引く。そこに、宮上が反応した。ギョロリとした目が田本さんを見竦める。

「田本サん……
君、素敵な手ヲしてイルねぇ!
綺麗ダなァ……俺ダけのノモのに、してモイイよね?俺ダケのもノ、イイよね?イイよね?イイって言って?ねぇ?ねぇ?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ‼︎」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 宮上さんは真っ青になって逃げ出す。そりゃそうだ、焼死体寸前の人間に追いかけ回されたら誰だって怖い。俺も怖い。逃げたい。怖い。

「み、宮上ッ‼︎」
「ナぁに?景仁君?
君ノ手も、綺麗な手ヲーーー」

 ズガァン‼︎と音を立て、俺と名西の銃が火を噴く。腹と腕を貫かれた宮上は、何が起きたのかわからない、と言うように、キョロキョロと手と腹を見て、それから俺を見た。

「こレ、ナァにーーー」

 そこまで言うと、糸が切れた人形のように倒れ込んだ。ぽちがその元へと向かう。

「わぅ(……大丈夫、眠っただけだ)」

 その一言で、田本さん以外の面子の肩の力が降りる。
 宮上は、眠れば治る。あの狂気(トラウマ)も、暫くは見る事は無いだろう。
 田本さんが何か力が抜けたようにへたり込んだが、気にしない。
 ぽちとルエが、宮上をひっくり返し、口元に回復薬を運んでいっている。それだけで、あのイケメンフェイスが元に戻るのだ。本当チートだと思う。なんか今朝よりも血行良くなっているし、本当イケメンって何なんだろう。イケメンって何なんだろう。

「おーーーい!!かーげっひとーー!」

 ラドが硬貨の上で羽ばたいているのが見える。今はあいつに意識を集中させよう。

「どうだ?」
「めっちゃ一杯ある!
あたしと景仁じゃ持ち運び出来ないぐらい!」

 我に返った田本さんも、こちらにやって来る。山のような硬貨に、唖然とした様子だった。

「これが……あの怪物の中にあった、魂の値」

 その時、僅かに硬貨の塊が動いた。田本さんは身構えたが、多分怨霊では無い。
 ガサガサ動くそれを確かめる為、俺は硬貨の一部を払った。
 すると、中から1つの青白い火の玉が現れる。怨霊に取り込まれていた、魂だろう。
 あっという間に天井上へと飛んで行き、見えなくなった。

「……よかったね、無事転生出来たみたい」
「そうだな……」
「……岩田君……?」

 田本さんが、知らない人の名前を呼んだ。知り合い、だろうか?
 魂はパッと見区別はつかないけれど、よく知った友達だったり家族だったりすると直感的にわかるらしい。

「ひかるちゃん……知り合いだったの?」
「……ううん。そんなワケ、無いし」
「レディ。ここは大概何でも起こる場所だぜ?レディが感じた事を、信じればいい。
そうじゃないと、何も信じられなくなっちまうさ」
「……うん。
……知り合いの、同級生だった気がしたの。それだけ」
「……そっか」

 田本さんは何も話そうとしないので、そのままそっとしておく事にした。
 値の硬貨の中を探し回ると、中に袋が埋もれているのが見えた。それは、間違いなくさっき転生していった魂の持っていた物だろう。
 チャーリーは、個の夢に【収納】した物は転生すると消えてしまうと言ったが、それはあくまで協会で転生する魂の話。ランダム転生は無理くり転生に向かわせるような物なので、【収納】した中身が遺されている事が多いらしい。もっとも、他の怨霊に喰われたり、迷宮に飲み込まれたり、草木に吸収されたりしていて、実物を発見した例はそんなに多くないのだが。

「……これが、依頼の品ですか?」
「はい。
……中身、見てもいいですよ」
「……はい」

 田本さんは中身を1人静かに確認する。中身の物を取るのは依頼からすると良くないが、見るぐらいならいいだろう。
 怨霊は他にも数人分の袋を持っていて、収益はかなり上々になりそうだった。
 ぽむが値を取り込み、大分太った様子で車に乗る頃、田本さんは何故か元気そうになっていた。

「よし、帰ろう‼︎」
「ぽむー!」

 ぽむの間の抜けた掛け声と共に、俺達は帰路についた。
数値的な話。
値は結構適当につけています。
それぐらいだろう、いう憶測で、「それなりに幸せで長生きした人間の最大値は100万」としました。
が、寿命を80年とするならば、単純計算で1日で35枚?も稼いでいる事になります。
流石にそれは多いかなー、とは思いましたが、もう面倒なのでこのままにします。

一食、ご飯を食べる毎に5枚程稼ぐ。
豪華な食事だと、10枚ぐらい。
ちゃんと6時間眠って、10枚ぐらい。
それに加え、“善”を行うと、更に増える。
そんな設定で参ります。

因みに、怨霊と出会った時
1分毎の目安
薄黒級…1枚
濃黒級…5枚
薄白級…10枚
濃白級…15枚
薄黄級…30枚
濃黄級…60枚
薄赤級…100枚
程、のような想定をしています。
級が上がるほど、倒しづらくなる上に、持ってかれる値も増えるという事がわかればそれでいいです。
……何で薄赤級なんていうバケモノ登場させてしまったのか、今はとても悔やまれます。
+注意+
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