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Let's 臨死体験〜夢の中で異世界転移!ヒーロー目指して人助け頑張ります〜 作者:E-nine
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人生迷子中ー08

 事態が完全に沈静化したのは、それから一時間後のことだった。それまでには俺達の回復や、廊下に山のように積まれていた“値”の整理も終わっていた。

「担当代わりまして、案内人の、江藤と申します」

 さっきの井野さんではなく、別の女性スタッフだった。井野さんはどうしたのだろう?一連の騒動で、怪我でもしたのだろうか?
 だが、質問を挟む余裕無く、江藤さんは話を続けた。

「時間がかかりましたが、転生の準備が整いました。宮野さん、転生しますか?」

 そう言われ、雫は頷こうとする。ただ、途中でその動きは止まってしまった。

「あ……」

 視線の先には、諒太がいる。
 そういえば、雫を励ます時に『雫が居なくなるのは寂しい』とか言っていたような。
 自分が雫を引き止めようとしている事に気がついた諒太は、慌てて伝える。

「少しだけ、時間を貰えますか?」
「はい、構いませんよ」

 何かを察したのか、江藤さんは小さな会議室へと通してくれた。

「……わたし、てんせいしないほうが……いい、よね?」
「いいや、そんなことはないよ」
「でも、だって、りょーたお兄ちゃん、かなしいんでしょ……」
「……そうだよ。誰かが居なくなってしまうのは、とても悲しいし、寂しい」
「じゃあ、わたしやめる!りょーたお兄ちゃんといっしょに、てんせいする」
「ダメだ。
これは、君の人生だ。君は今、自身が望む、文句なしの人生を迎えようとしている。それを、僕の勝手で止めるのは、もっと悲しいよ」
「でも……りょーたお兄ちゃんがずっとかなしい、ってなってるの、わたしやだ!」

 それでも食い下がろうとする雫を、諒太は優しく宥めた。

「約束する。
僕は、絶対に乗り越えてみせる、って約束するよ」
「……ほんと?」
「ああ。
それに、立派な一生を送ろう、ってこれまで頑張ってただろ?
また、こんな騒動に巻き込まれたら、今度こそ強制転生してしまうかもしれないし」
「……うん、そうだね」

 そこまで言うと、雫は力強く頷いた。

「そんなにいわれちゃ、がんばって生きるしかないね」
「ごめんな、ちょっとめんどくさい奴で」
「そんなことないよ。りょーたお兄ちゃんは、やさしくて、かっこいいお兄ちゃんだよ」
「……そっか」

 それから、俺達は再度案内人に導かれ、今度は地下5階の転生室へと案内される。地下3階は工事が必要だから、なんだそうだ。

「……じゃあ、元気で」
「りょーたお兄ちゃんも、げんきで!
かげひとお兄ちゃん、ラドちゃん、いろいろ、めいわくかけたり、まきこんだりして、ごめんね」
「いいえ。
僕も、あなたと一緒にいられて幸せでした。
新しい命を、どうか幸せに」
「私からも!
雫ちゃんのことは、絶対忘れないから!」

 そう言うラドは、何かを嘴に引っ掛けている。綺麗な桃色のそれは、今となっては大昔の事のように思う、レストランの席で渡されたものだった。
 雫は本当に幸せそうな笑顔を浮かべ、手に薄黄色のお守りを持った。

「さよなら」
「ううん、だめだよりょーたお兄ちゃん。
そこは、またね、っていわなきゃ!」
「……わかった。
またね」
「またね!」

 最後の言葉を交わし、俺達は転生室を出る。案内人が隣の部屋に入ると、転生室の入り口上部にあったランプが点灯した。
 体感では、恐ろしく長い間、前の廊下に立っているようだった。時間が経つのがとてもゆっくりに感じる。だが、実際はそこまで長くもなかったのだろう。こういう重い時間というのは、そういうものだ、と長い経験で知っていた。
 隣の部屋から、案内人が出てくる。

「……転生、無事に終了しました。お疲れ様でした」
「……っ、お疲れ、様、でした……」

 諒太は、暗がりを向いて、顔を隠してしまう。しかし、動作で何をしているのかはだいたい察した。
 転生室のドアを開けると、その室内には何もなかった。まるでマジックのように、白髪の女の子は忽然と姿を消してしまった。マジックとは違うのは、もう二度とその子に会うことはない、という事だ。
 これが、“個”の死。幸せな、次の人生へのスタートの瞬間。
 俺は、その光景を目にした時の心境を、なんと言えば良いのかわからず、貰った水色のお守りを握ったまま、立ち尽くしていた。


■□■


 ひとまず心の整理をつけた後、3人になった俺達は地上に戻る。諒太はぎこちない笑顔を浮かべ、先に帰ると一方的に告げて走り去っていった。
 この後、どうしようか?とラドと顔を見合わせていると、唐突に江藤さんが語りかけてきた。

「つかぬことをお伺いしてよろしいでしょうか?」
「あっ、はい、どうぞ」
「長尾様は、つい先ほどから濃赤級を討伐した異色のルーキーとして噂されていますが……それは、真実でしょうか?」
「えっ……そうなんですか?
ありがとうございます。でも、多分それは僕だけの力じゃないです。何よりも、雫……宮野さんの勇気が無ければ出来なかった事ですから」
「……なるほど。しかし、濃赤級、または薄黄級との攻防を繰り広げたという事でもありますね」
「ええ……まあ」
「ならば、是非討伐者の資格を取得なさった方がよろしいかと存じ上げます。本日すぐに、とまでは言いませんが」
「はい、前向きに検討させていただいてます」

 この協会に来てから、ずっと興味があった事だ。本当になれるかはわからないが、調べる価値はあるだろう。

「それと、1つお尋ねしたい事があるのですが」
「何でしょう?」
「怨霊からの逃避行の最中、何か異質な物をお見かけしませんでしたか?」
「異質のもの……?」
「袋のようなもの、とか」

 袋と言われてピンときた。

「《袋》ですね」
「‼︎」

 取り出すと、江藤さんは目を見開いてその袋を凝視していた。

「これを、どこで?」
「最初の転移室にいた怨霊から出てきました」
「……そうですか。ありがとうございます」
「これは協会の備品ですか?すみません、わからなくて……」
「いえ、お構いなく。本来なら、怨霊に喰われたものはその怨霊を討伐した者の物ですから……お引き渡し、本当にありがとうございます」

 その様子は、マニュアル対応とはいえない、どこか生々しい感情が混じっているように感じた。
 けれど、深く追求する必要は無いだろう。
 そう思った俺は、袋を渡して街に出る。


■□■


 爺さんのお使いにあった、サバを買って、俺達の社会科見学は終了する。
 来た道を戻り、少し迷子になりながらも、爺さんの家に帰る。

「おかえり」
「あ……ただいま、帰りました」
「実に遅かったのぉ……どうじゃ、この世界の事を少しは学べたか?」
「……はい。それなりには」
「ま、詳しい話は後じゃ、後。
その前に、ご飯にしようじゃあないか」

 この人はご飯やお風呂にただならぬこだわりがあるらしく、ご飯をちゃんと食べ、風呂は1日2回入る事を居候の条件にされている。何故そうするのかの意味は、よくわからない。
 ただ、出てくるご飯は絶品の一言だった。

「いただきます!」

 晩御飯はカレーのようだ。余り馴染みがない料理だが、嫌いではない。
 福神漬けと一緒に食べるカレーは、疲れも相まって最高の味がする気がした。

「……今日は、どんな事をして来たのじゃ?」
「えーっと、それは……」
「……私が説明しましょうか?」

 言い淀んだ俺に代わって、ラドが説明をしようと申し出た。慣れない事をアドリブでやるのは、やはり億劫にならざるを得ない。

「お願いします」
「それでは、今日お出かけして1番最初にあったのはですね、迷子になったことなんですよーーー」
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