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我らが死世界に夢を 作者:E9
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転生依頼ー01

宜しくお願いします
 今日も、昨日と変わらない。何一つ変わらない、退屈な日常だった。
 始めて数週間経ったバイトに慣れて来た、というのが、僅かな変化だろうか。それは悪くないことだろう。
 しかしまぁ、大した相違では無い。
 勉強をし、バイトをし、家事をこなし、寝る。それが俺の“現世での”日常なのだから。あっという間に過ぎ去る日常に、変化などは殆ど見られない。高校に入れば変わるかとも思ったが、現実なんてそんなものだ。
 俺は皿洗いをしながらそんな事を考えた。
 背後では、ラドが眠気で頭をうつらうつらさせている。

「おい、こんな所で寝ると風邪ひくだろ?」
「ぬぁ……ぅぁ……
……あー……かげひとぉ……」
「ったく。
先寝てるか?」
「あ?……ぁぇ……ぅん……」

 俺はラドを連れ、自室の止まり木にとめてやる。鳥である彼女は、やはりテーブルの上よりも止まり木の方が落ち着くらしい。そのままぐっすりと眠ってしまった。
 ……そういや、まだこいつの飼い主、見つかってないんだったよな。こいつを拾ってから、いつの間にやらもう半年が経過している。こんな不思議な鳥の飼い主、心配しているだろうに。

「眠ってしまえば、可愛いものなんだがなぁ……」

 濃いグレーの身体に、仮面のような白い顔、真っ赤な尾羽。寝てしまえばこんなにも普通の鳥なのに、起きている時の彼女はとても饒舌なのだ。……よく、人間と錯覚する程に。そして、人と変わらないような知性も見える。とても不思議な……というか、謎な鳥だ。
 改めて考えても、謎だ。

「……考えても仕方ないか」

 一応警察には持ってってあるし、そこは俺がどうこう考えても無駄だろう。
 ふと時計を見れば、既に随分と時間が経っていた。

「やっべ、もう12時かよ」

 録画したドラマ、見ようと思ってたのに……でも、この時間じゃ仕方ない。明日に響く。
 さっさと身支度を整え、布団を被る。
 目を閉じ、眠りに落ちる前、ラドの寝息が聞こえてきていた。
 ……“むこう”では結構どやされそうな気がするなぁ、なんて事を思いつつ、俺は徐々に意識を暗闇に落としていった。


■□■


 目を覚ました。
 “いつも”と同じ、日本家屋の屋根裏部屋。クジ引きで決まった、カビ臭い部屋だ。目覚めた向かいに見えるのがガラクタ、ってのだけでハズレ部屋感が凄い。

「……はぁ……ぉおーい、おはよー」
「あれ、まだ“起きてた”の?」
「家事が長引いちゃってさ……」
「そっ……そっ、か……早くしないと、朝ごはん食べ尽くされるよ?」
「ぅわっ、やっべ!」

 話しかけてきたのは宮上だ。同じくハズレ部屋に寝泊まりしている彼は、既に身支度を整えていた。
 早く行かないと、大食漢達に全部食べられてしまう。それだけは勘弁してほしい。
 思うが早いか、俺は急いで着替えて食卓に向かっていった。
 食卓にいるのはいつものメンバー。ラブラドール犬のぽち、おどおどする少女のマリー、眠っているのか食べているのかわからないケモ耳のルエ、ルエの乗り物のぽんた7号、相変わらず不機嫌なおっさんの名西、自転車のチャーリー、そしてヨウムのラド。俺と宮上も含め、計5人と2匹と2台。
 いつも通りの、カオスで愉快な仲間達だ。

 俺が朝食をなんとか確保しようとしていると、唐突にチャイムが鳴った。

「ひっ‼︎」
「誰かな誰かな?女の子だといいなぁ‼︎」
「景仁いってらー」
「何で俺なんだよ」
「チッ、儂は行かないからな」
「わむっ(僕ご飯食べてるから、景仁頼むよー)」
「……。」
「………ぐぅ」

 撤回しよう。カオスで頼りにならない集団だ。
 俺は助けを求めて宮上を見る。寝惚け眼を擦っていた彼は、期待の目線から目を逸らす。
 代わりに手を差し出した。

「……戦利品は確保しとくから、安心して行ってきなよ‼︎」
「血も涙も無いのかあんたらは‼︎」
「もう死んでるのが大半ですし?
早く帰って来ないと飯抜きになるよ?」
「クッ……」

 俺は奥歯を噛み締め、食卓に群がる連中に怒鳴りつけたい衝動を抑えて仕事場に向かう。
 ガラガラガラ、と扉を開けると、外には縮こまった若い女性がいた。

「はい、どうもこんにちは」
「こ、こん、にちは……
おはよう?ございます?」
「ん?」

 女性の視線が俺の頭の上を向いている。嫌な予感と共に手を頭の上にやると、一房の逆立った髪に触れた。……寝癖、だ。貼り付けた笑顔が凍る。
 宮上‼︎少なくともあなたは気が付いたよな‼︎言えよ‼︎それからなんでこの状態で俺に接客任せるんだ‼︎
 なんとか誤魔化そうと、そのまま何も無かったかのように部屋へと女性を招き入れる。そうだ、何も無かったんだ。
 客間のソファーに座らせ、朝食を食い終わったラドに給餌を頼む。

「まずはお名前を教えて頂けますか?
僕の名前は長尾景仁と申します」
「あ、わ、私は、田本ひかる、です……」
「えーっと、今回はどういったご用件で?」
「死世界……協会?の飯島さんから、紹介を受けて……こちらに来るように、と」

 ……またか。いったい、飯島さんはどれほど俺達に仕事を任せるつもりなんだ。
 心の中でぼやきつつ、俺は営業スマイルを忘れない。現世での接客業が僅かながらも役に立っているみたいだ。

「これを見せるように、とだけ言われて……来ました」

 渡されたのは、薄茶色の封筒。お役所とかから渡されるアレによく似ている。重要書類!という赤いスタンプが押されていて、如何にも重要そうだった。
 しかし、実際中に入っていたのは紙ペラ一枚。そこには雑多な文字で、

『忙しかったからそっちに回しちゃった!
彼女には一切説明してないから、まぁ頑張って‼︎』

 とだけ書かれていた。オマケのように、ゴメンネ‼︎と言っている絵文字も殴り書きされている。
 殺意が湧いた。

「な、なるほど……状況はわかりました」

 しかし、如何にも大事そうに持って来た彼女に、実際は数行の殴り書きしかなかったという事を言うのは酷だろう。それに、きっと右も左も分からない状態でここまでやって来たんだ。寛容に、寛容に……。
 書かれている側が見えないように、慎重に紙を封筒に仕舞う。

「それでは、まずはこの、死世界という世界の説明からさせて頂きます。
手短な説明になりますが、よろしいでしょうか?」
「は……はい」
「死世界とは、死んだ者の魂が転生を待つ場所、です。簡単に言うと天国ですね」
「あ……。
そっか。
私……死んだ、んですね、やっぱり」

 田本さんは悲しそうに俯く。ここが天国だと知って、反応は色々だ。彼女は、マシな部類に入るだろう。

「……。
あっ、すみません、話を続けてください」

 3分程、そのまま静止していた。きっとショックだっただろうし、仕方ない事だ。

「いえ、大丈夫ですよ。
けれど、説明も必要でしょうから、先に済ませておきます」
「は……はい……」
「現世での送った一生に対して、神様は様々な特典を与えてくれます。来世で使う特典や、この死世界でのみ使える特典などです。
「特典?」
「飯島さんから、手帳みたいなものは貰いませんでしたか?」

 田本さんははっとした様子でバックの中を探す。
 すぐに取り出されたそれは、銀行手帳と何一つ変わらない外見をしていた。

「これ、ですか?」
「はい。それは値手帳といいます。
そこに、あなたが人生の中で獲得した“値”が書かれています。
それが神様からの特典の交換条件……お金みたいに考えると良いですね。色々な特典を、その値で買う、そんな仕組みです」

 田本さんは手帳を見て、驚いた様子だった。
 手帳をじっくり見て、少しの間考える。

「……これが、ですか?」
「はい」
「一般的に言うと、どれぐらいが基準になりますか……?」
「一般的、がどこまでの定義に当てはまるかはわかりませんが、人間の場合は100万辺りが、それなりに幸せに長生きして死んだ者の基準と言われています」

 それを聞くと、田本さんは少しシュンとしてしまう。けれど、それも短いものだった。

「……でも……良いことなんて、何もないって思ってた割には、ある方なのかな?」
「若い方は長生き出来なかった分、値が少なめになりますから、長寿の方には見劣りしがちです」
「……そっか、あんな人生に……こんな評価がつくんだ」
「値とは、それぞれの魂に設定された“善”と“悪”の差で決まります。
一般的に考えると良い事が無い、と嘆かれるような人生でも、当人にとってはとても幸せだった……というのはよくある話だそうですよ」

 田本さんは、「じゃあ、どこが幸せだったんだろ?」と頭をひねっていたが、その様子からは僅かに幸福も感じられる。

「手帳の4頁目に、その手帳の持ち主の“善”と“悪”が書いてあるそうです」
「そ、そうなんですか?
……。
……ああ、そっか」

 何かにとても納得したように、田本さんは頷いた。

「……そうだね、うん。
……あ。
ところで、ここではその……転生?のサポートをしてくれるって聞いてきたんですが」
「はい。
先程、特典の話をしましたが、特典の中には現時点での値では届かないような物が多数存在します。
それを取りやすくする為のサポートをするのが、僕達、“死世界案内人”というワケです」
「な、なるほど……?」

 田本さんはなんとか頑張って理解しようとしていた。まぁ、今わからなくとも、そのうちわかるだろう。

「それでは、今回はどういったご用件でいらしたのでしょうか?
どのような【特典】が欲しいとか、どういった人生を送りたいか、また現世での様子が知りたい等、どのようなご用件でも結構ですよ」
「……あっ
私……他の方と比べると、明らかに値は少ないと思いますし、他に持っているものもありませんから……報酬とか、用意は……」
「ああ、そこの所は大丈夫です。
協会からの支援で活動させて頂いておりますから、値を頂く事はしません。
ただ、少しの情報を提供して貰えませんか?」
「……情報?
私が知っている事は、殆ど無いでしょうけど……」
「それでも良いんです。
けど、その話は後にしましょう。
まずは、田本さんのご依頼は何でしょうか?」

 田本さんは顎に手を当て、じっくりと考える。
 ……と、そこへ、お茶を持った宮上がやって来た。
 視線でさっきの寝癖の一件を訴えると、宮上さんははっとした後、申し訳無さそうにし、その後してやったり、といった薄ら笑いを浮かべた。
 ……視線だけで相手を殺せる特典は無いものだろうか。

「あ」

 田本さんの考えがまとまったようだった。

「お金持ちになりたい……とか、叶えられたりしますか?」
「はい。というか、現世で前例があるような物だったら、概ね叶えられますよ」
「アイドルになりたい、とかね」
「そうなんですか……
でも、叶えるとしたら、お金持ち……あ、人間の、お金持ちって言った方がいいですか?」
「賢い選択ですね。転生ですから、それこそその辺の草木にでも、虫にでもなれます。逆にいうと、そうなる可能性もある、という事です」

 何故か宮上が説明を代わってくれる。小声で今後の説明も頼めるか、と聞くと、壁向こうでラドと名西がデザートの取り合いをしているから無理、とだけ返事が帰ってくる。
 何がデザートだよ!俺は朝飯すら食えないって言ってるのに!

「転生の申請をする事で、ランダムな転生結果を固定する事が出来ます。【特典】はその一つです。【人間】で【お金持ち】となると、大分値が張りそうですね……」
「そんなにかかるんですか?」
「【人間】もそこそこですが、今時【お金持ち】は殆ど応募がかからない状態で」

 得られるとするなら、闇市とか、闇オークションとかのルートになるな……
 供給量、限られてるからなぁ……。

「本当ですか……
まあ、景気も良いわけじゃないし、仕方ないとは思いますが……」
「あ、でも、情報筋は巡ってみます。
じゃ、後は頼んだ」

 宮上は会釈した後、生活スペースに消えていく。多分チャーリーに頼んだんだろう……。
 何だ、何だこの気持ち。宮上は今、何も悪いことをしていないのに……凄まじく、ムカつく‼︎畜生逃げやがって‼︎

「それと、例えその【特典】への道筋が見えても、僕達はそこに介入は出来ません。
『他人の道に介入するべからず』、というルールがあります。これはここで守らなくてはならない最大のルールです」
「……破ると、どうなるんですか?」
「現世で言う、指名手配犯のような扱いになります。裁判にかけられ、やむなき事と判断されれば良いのですが、最悪魂ごと抹消されるので気をつけてください。
因みにですが、現世での刑法はそのままあるぐらいの認識でいてください」
「わかり、ました……。」

 田本さんはまたしゅんと萎れてしまう。
 その背後をこそこそと無人自転車が通り過ぎて行く。多分彼女は気がついていないだろう。

「……もしも、道筋が見えたとして、私の値が足りなかったらどうするんですか?
……諦める、んですか?」
「いいえ、大丈夫です。他に、様々な抜け道がありますから。
一番手っ取り早いのは、値そのものを回復させる事ですね。
“善”を行うと値は最大値ごと増えます。一方で、“悪”を被ると値は同じ最大値のまま、中身だけが減ります。
一度死んでしまうと、その最大値がそれ以上増える事はありませんが、中身の値を増やす事は可能です」
「……つまり、また“善”を行う?事で、値が増える……って事ですか?」
「はい。
けれど、それではどれほど時間がかかるかわからない場合もあります。
そのため、“怨霊”を倒しに行く事が、危険ながらも確実な方法とされています」
「怨霊……?」
「現世で言う、妖怪とか悪魔とかの類に近いものです。それを倒せば、わりとまとまった量の値が手に入ります。ただし、危険も伴います」

 まぁ色々とあるが、細かい説明は今は要らないだろう。

「危険、なんですか……」
「はい。
けれど、そんな魂の為に、僕達“死世界案内人”がいます。
値を稼いだり、欲しい【特典】に必要な物を揃えるのを手伝う事も、サポートの内には入りますから」
「そうなんですか」
「もっとも、値を稼ぐのは、依頼人の希望する【特典】に必要な経費の半額まで、となっていたり、色々と制約がありますが」
「本当ですか……ありがとうございます」

 田本さんは深々と頭を下げる。
 よし、説明はこのくらいで十分だろうか。後で足りなくなったらその分補えばいいし。
 俺は、とりあえず情報が集まるまで朝食でもどうかと誘う。

「あれ、というと、今は朝なんですか?」
「はい」
「………。
いえ、何でもありません。
頂いて、宜しいのですか?」
「は、はい、構いませんよ。
食事はこちらの世界では娯楽の一つです。少し量が減っても、問題はありませんから」

 減るのは主に俺の分だろうけど。
 そんな事より、さっきの意味深な俺への視線だ。明らかに、頭の上の方を凝視されていた。そして、僅かに笑われた気がする。……。元々こういう髪型ですと、誤魔化したつもりだったんだけれども……無理だったか。
 顔が赤くなるのを感じる。そして、ウザったるく頭の上でぴょこぴょこ跳ねる髪の存在も、感じる。

「い、今朝食をお持ちしまひゅね‼︎」
「は、はい……」

 今この瞬間に消えたくなった。どうして、どうしてこのタイミングで噛むんだ。噛むタイミングなら、さっきの説明シーンでたっぷりあったろうに。どうしてだ。テンパったからか。畜生、宮上の野郎め‼︎お前が居なくなったのが悪い‼︎ちょっと笑われてるだろ‼︎
 耳まで真っ赤になるのを感じつつ、俺は慌てて生活スペースに引っ込んだ。

「……クスクス」
「…………ふふっ」
「うるせぇ‼︎」

 こんな時に限ってルエは目を覚まし、ラドと一緒に笑っている。マリーも珍しく目を細めているし、名西のおっさんはというと俺に背を向けている。酷え奴ら。

「代わりにお前らが行けば良かっただろ……何で俺なんだよ……!」
「え?
面白いからじゃないの?」

 ラドはぬけぬけと言う。
 宮上は姿を隠したようで、今はどこにも居ない。後で文句を言ってやろう。
 まぁ……このチームでは、接待ができる人間が限られてるのはよくわかる。
 人語を喋ったりテレパスを使うぽち、ラドやチャーリーは論外。腰を抜かされる事だろう。加えてぽんた7号は実質マリーの人形だ。俺達ですら会話も出来ないのでは、最早論外以下だろう。
 マリーはそもそも対人関係が相性が悪い。彼女に定められた“悪”の為、人とのコミニュケーションを極度に怖がるようになっている。
 ルエはこのメンツでは比較的まともだが、あの人は常に寝ていると言っていい。寝言でコミニュケーションを取られたら仰天間違いない。やはり任せることは出来そうにない。
 名西のおっさんはマリー程ではないが、やはり相性が悪い。ついでに性格も卑屈だから、余計対人は任せられない。
 そういえば宮上も宮上で、彼は爆弾を抱えている身。だから、対人を思いっきり任せる、というのはそれなりに危険なようにも思える。当人に関しては別に構わないが、人前で爆発されたらやばい。
 ……結局、俺しかいないのか、まともな奴は……。
 その感情は諦めに近かったが、何故かすんならと受け入れられた。

「……はぁ……」

 もっとも、朝食を勝手に食い荒らして他人の分まで奪うのは許せん。後でおやつを盗み食いしよう。こいつらの名前の書かれたシールのアイスを奪おう、そうしよう。
 僅かに残った菓子パン2つを持ち、依頼人のいる客間へと向かう。

「ッ、きゃああああああああ!!」
「⁉︎」

 その時、客間から女性の絶叫が木霊した。
 何かあったのか⁉︎

「【水斬刀】!」

 俺は刀を亜空間から取り出し、走って客間へと向かった。
+注意+
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