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死者+αで行く異世界転移~シビアだけど気楽な天国生活~ 作者:E-nine
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人生迷子中ー01

 俺達は今、異世界で迷子になりつつあった。
 異世界であろうと、現実世界であろうと、初めて通る道は地図をじっくりと凝視して歩かなければ、落とし穴にはまるかのように迷う事もある。少なくとも、俺のような一般的高校生は絶対方向感なんて持っていない。
 それなのに、「若干近道になりそうだから」という軽い気持ちで、教えられた道以外に足を踏み入れてしまった。
 それで、俺達は今、迷子になりつつある。
 幸いなことは、本来行くべき街のある場所だけはまだわかっているので、完全に迷子になってはいないという事だけだった。

「でも、ここまでして行く必要はあるのでしょうか……?」

 平坦な野原の間の道を歩くのに飽きた、虹色の尾羽を持つ鳥が泣き言を言う。

「仕方ないでしょう。家主が社会科見学に行ってこい、って言ったんですから……それに、実際に歩いているこちら側の事も考えてくれませんか、ラド」
「……わかりました」

 片手間にスマホを操作し、目の前のT字路(進行方向から見るとト字路に見える)を直進すればいい事を確認し、また足を踏み出す。

 それにしても、不思議な異世界だ。
 手持ち無沙汰になった俺は、さっき出会ったばっかりの爺さんから聞かされた説明を、もう一度思い返す。
 今俺達がいるのは、『死世界』と呼ばれる場所だ。死んだ者が行く場所で、次の転生への準備をする為の場所だという。
 といっても、俺は今死んでいるわけじゃない。たまに、生きていても『死世界』に来れる奴がいて、そんな奴を『夢見人』と言うんだそうだ。爺さん曰く、行き倒れ状態で倒れてたらしい。俺のような生きてる途中で偶発的な覚醒をした奴は、大概そうなると爺さんは言っていた。

 全部が不確かな言い方なのは、俺も未だに実感が湧いていないからだ。というか、死者の世界にいるなんて、馬鹿な話があるものだと思った。
 けれど、見た所全部本物みたいなので、その話を信じる事にした。そして、爺さんは、実感を沸かせるためにもまずは社会科見学に行け、と、俺達にお使いを命令した。
 内容は、“江戸”と呼ばれる街に行き、旬のサバを買ってこいというもの。明日の夕飯に使うらしい。

 物思いにふけていると、肩の鳥がピクリと身を震わせた。

「あれ、今の音、なんだろう?」
「えっ?」

 聞き返した時、メキメキメキ、という音が間に挟まった。聞こえた方向……右手の林を見ると、大きなヒノキが傾いていた。枝先にかけて、あっという間に茶色がかっていき、萎びていく。地響きを立てて倒れた時には、完全に枯れ木と化していた。

「……枯れてる?」
「あ、あそこ‼︎誰か人が倒れてる‼︎」

 ラドの言うように、倒れた枯れ木の間近に人のような何かが倒れているのがわかる。見過ごせないと思った俺達は、右手の野を駆け、林近くに向かう。
 倒れていた人は、気絶しているのか意識がない状態だった。木に叩きつけられたようにも見える。若草色の芋ジャーが、枯れ木の合間でよく映えていた。

「だ、だれかたすけて……‼︎」

 状況を判断しようとしていた時、林の中から、か細い悲鳴が聞こえた。
 藪を掻き分けて林の中へ入ると、さっきよりも大きな、メキメキという木が折れる音がする。

「危ない、上見て‼︎」
「ッ‼︎」

 巨大な枯れ木が、頭の上からゆっくりと落下してきていた。
 俺は、恐怖を感じながらも、教わった通りに言葉を放つ。

「《水斬刀(ミズキリノカタナ)》‼︎」

 何も持っていなかった手に、ズシリとした重みを感じるやいなや、倒れる木に向けて刀を振る。
 タイミングが合わず、刀は木の手前を斬ってしまい、手応えは殆ど無かった。しかし、斬ると同時に一陣の水が飛び、完全にリーチの外だった枯れ木を一刀両断した。

「う、うわわわわ……」
「す、すげぇ」

 半分になった枯れ木が、肩を掠めて両側に落ちる。直撃は絶対にダメだったろうが、今の迎撃の仕方でも、思ったより危なかった。

「う、ううっ……!もうだめだぁ……」

 その時、怯えきった女の子の声が聞こえてくる。

「だ、だ、大丈夫ですか⁉︎」
「……⁉︎だれ……?」

 声を張り上げ、返事が聞こえてきた方に急ぐ。倒れた木とは別の木の根元で、小さく丸まっている女の子を発見した。
 真っ白なショートカットに黒のメッシュという、見慣れない髪型をしていた。アニメにいそう。服装は、長いコートを着ていてよくわからない。だいたい小学校高学年ぐらい……10〜12歳程だろうか?

「えっと、助けてって言ったのは、あなたですか?」
「う、うん……お兄ちゃんが、たすけにきてくれたの?」
「はい、そうですけど……」
「はやく、にげよう!おんりょうが来るよ‼︎」
「怨霊……⁉︎」

 怨霊とは、生きている間幸せでなかった物が成る、化け物だと聞いた。近くにいる魂が持つ、幸せだった時の証“魂の値”を無差別に奪う習性を持つ。
 出来ればさっき倒れた木に押し潰されていればいいなと思いながら、俺は女の子の腕をとる。

「林の外に、人が倒れてたんですが、お知り合いですか?」
「う、うん、さっき、おんりょうのこうげきで、とばされちゃったの」
「じゃあ、その人の所に行きましょう」

 1人だけ残したら、なんかマズそうだ。あの人も助けておかないと。
 音を立てないよう、そっと立ち上がり、警戒しながら、林の中を歩く。
 自分が出来る、最大限の警戒を心がけていると、ふと、空気が揺らぐ感じがした。いきなり、冷たい風が流れるような、そんな感覚を覚える。
 嫌な予感がして振り向く。すると、10メートルぐらい奥の木々が、枯れて色を失っていく様子、そして、その中央にいる黒い何かが近付くのが見えた。

「や、やばい、先に逃げーー」

 言いきるよりも早く、枯葉が舞い落ちる中、黒いモヤでできた獣のような物が接近した。
 刀を使って先制するも、ガキッ、と嫌な音を立てて跳ね返される。
 一旦距離を取り、怯えた女の子を更に外の方へと、後ろ手に急がせる。

 突撃してきたものを凝視していると、次第にそれは姿をはっきりとしたものに変える。
 翡翠色のメッキが剥がれたそれは、安っぽそうなライオンの置物にとてもよく似ていた。しかし、そのサイズは置物を遥かに凌駕していた。駅前にあるような銅像でさえも、ちっぽけに見えるぐらいの巨大さだ。しかも牙や爪がとても強そう。
 あんなの、よく一撃入れられたな、と思う。セメントが詰まった車かダンプカーの突撃を、刀で防ぐようなものだ。まともに考えて、無理だろう。
 やはり、ここは異世界なんだなぁと実感する。

「……倒さないと、生き延びられないみたいだな」

 早くあいつをなんとかしないと、女の子達含めた全員の生死に関わる。
 怨霊に奪われる“魂の値”は、俺達がこの死世界に存在する為に必要となる。この世界にいる限り、毎秒と減っているのだ。それが完全に無くなってしまうと、死者には強制的に転生しなければならないというペナルティが発生する。転生だけでも、今ある自分の完全な『死』の為重いものだ。が、強制転生となると、次の転生先がランダムになって選べなくなる。夢見人も死にはしないが、他にペナルティーはある。らしい。

 俺はまだいいとして、恐らくは死世界人の女の子達が被害に遭うのは避けたい。

「早く外に逃げろ‼︎」
「う、うん‼︎」

 牽制して、リーチを保っている間に女の子を逃す。

「ど、どうしますか?」
「叩き斬る、しかないでしょう」

 戦略なんて問われても、俺にはわからない。喧嘩は苦手だけれど、死世界(ここ)では少し頑張ってみようと思った。
 女の子がある程度離れた頃合いを見計らって、相手に仕掛ける。枯葉で覆われた地面を蹴り、一気に懐まで駆け込む。
 先程の反省を活かし、斬る、のではなく、突く、感覚で刀を振るう。
 今度はしっかりとした手答えがあり、巨体の怨霊は明らかによろめく。水の刀は、黒いモヤの中に突き刺さっていた。

「よし!」
「がっ、がんばれー!」

 ラドは遠くから俺の様子を眺めている。戦えないから仕方がないとはいえ、手伝えと言いたくなる。
 と、余所見をしていると、もがく怨霊から刀が抜け出て、怨霊は逃げようと後ろに飛び退く。踏み潰された若木は枯れ、後も残さず塵へと変わった。

「トドメだ‼︎」

 枯葉を蹴り上げながら、更地になりつつある林を駆け抜ける。力を入れて地面を蹴ると、3〜4メートル程も跳べた。
 勢いをつけて、怨霊へと刀を突き立てた。
 ズブリという音を立て、石像の頭を貫通する。怨霊は小さく痙攣した後、覆っていた黒いモヤと一緒に消えた。
 跡には、ひと山の銭だけが残される。

「倒した……のか?」
「凄い、よく頑張りましたね!」
「実感は無いけれど……そのようです。
《収納》って言えば……いいみたいですね」

 俺が刀に向けてそう言うと、刀は鞘ごと宙に出来た空間の裂け目に飲み込まれて消えていった。
 『個人の夢』の中に仕舞っているとかなんとか言われたが、理屈はよくわからないし、どうでもいい。大切なのは、これは《収納》と言えば何でも仕舞ってくれて、いくらでも入るということだ。逆は、さっきやったように固有名詞を言えばすぐに出てくる。便利だ。

 目の前に山のように硬貨が積み上がっていたが、何の硬貨か調べる前に、確かめないといけないことがある。さっきの女の子だ。

「大丈夫……でしたか?」
「きもののお兄ちゃん、すごい!」
「え?」
「すごいよ、お兄ちゃん。おんりょうたいじしてくれるなんて、すごい。
りょーた兄ちゃんよりも強いね!」
「りょーた兄ちゃん?って、誰ですか?」
「これ!」

 女の子に腕を持ち上げられていたのは、さっき林の入り口で気絶していた人だった。だいたい18〜20歳ぐらいに見える。よく見れば、若草色のジャージはボロボロに破けていて、戦闘の激しさを伺わせる。

「人をこれ、とか言ってはいけないと思いますよ」

 ラドが強めの口調で嗜める。
 その間に、りょーたをよくよく観察するが、大きい外傷は無さそうに見える。脳震盪とかがこの世界にもあるのかは微妙だが、その辺は俺にも対処しかねる。一応これ以上動かさないように寝かしておくことにした。

「お兄ちゃん、とっても強いね!
ヒーローみたいでカッコよかったよ!」
「そ、そうかな……
僕にはヒーローなんて肩書き、似合いませんよ」

 やったことといえば、悲鳴の所に駆け付けて、無我夢中……とまではないが、適当に刀を振った程度だ。
 でも、そうやって言われると嬉しい。

「……ありがとう」
「どういたしまして!」
「ところで、あの硬貨って、どうすればいいのかな?」
「こうか、って……おんりょうがのこしていったやつ?」
「そう、それ。
あれは何なのかな?」

 そう女の子に聞くと、女の子は目を大きく開いて、奇妙な動物でも見るような目で俺を見た。

「お兄ちゃん、しらないの⁉︎」
「うん。僕は死世界に来たばっかりで、何にもわからないんです」
「そっか……たいへんなんだね……」

 本気で俺を心配してくれているのはとても嬉しいが、その前に教えてくれると助かるな。

「あれはね、さわれる形になった“あたい”だよ。おんりょうをたおすと、そいつがあつめたやつ、みーんなのこってるんだ」
「なるほど、ありがとう」

 まずは全部拾い集めて《収納》し、女の子の所に持って行こうとした。
 が、俺が持てる“値”はあまり多くなく、半分以上の“値”が残ってしまっていた。もう一往復するつもりで引き返していると、隣でラドが“値”を拾っていてくれた。

「ほら、これでいいでしょう?」
「ありがとうございます」

 彼女なりに、俺の意図を察してくれたようだった。

「なくなった“値”は、どれぐらいですか?」

 俺は女の子に聞く。
 怨霊と接していると“値”が減るのなら、その怨霊から逃げていたこの子の“値”も減っている事だろう。それは多分、良くない。

「いいの⁉︎」
「ああ。お兄ちゃんには持ちきれないほど多かったし、君はきっと“値”が減っているだろ?」
「うん……それなら、300まいぐらい、ちょうだい」
「《300枚》ですか、うわっと」

 300枚の硬貨を思い描くと、宙からズッシリと重い袋が落ちて来た。爪先に落ちたら痛いやつだ、これ。危ないな……。

「ありがとう!
りょーた兄ちゃんにも、あとではんぶんあげとくね」

 この子はとても純粋で、優しい子供みたいだ。
 ……そういや、さっきからこの子や女の子と、名前を知らないままでいる。

「君、名前は何て言うの?」
「わたしは、みやのしずく、です」
宮野(みやの)(しずく)さん、か」
「お兄ちゃんは?」
「僕?僕は長尾(ながお)景仁(かげひと)っていいます。こっちはヨウムのラド」
「よろしくね」
「よろしくおねがいします!」

 白髪の女の子は、たどたどしくも挨拶をし、頭を下げた。

 りょーたが目を覚ますまで待つことになり、また暇になった俺は、さっきの戦闘やらの、非日常的な事を思い返した。
 ……死世界に、値に、怨霊か。
 爺さんから軽く説明されただけでは疑問だったが、どうやら本物みたいだ。何というか、とても凄い。異能力は楽しいし、頑張れば強そうな化け物だって倒せる。
 なんだか、この状況が楽しくなってきたように感じた。
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