学園騒動記ノイザーズヘヴン!(8/27)縦書き表示RDF


やたらとFile.1、長いです。まさかここまで伸びるとは、自分でも予想していなかったですね。

今回でやっと中編は終わりです。次回でやっとこさ後編に入ります。

さて、峯栄は生徒会に入ることができるのでしょうか?
学園騒動記ノイザーズヘヴン!
作:天澄暢月



File.1 入会試験で購買闘争 中編3


 非常におごそかに行われた席替えの結果、面白い結果になった。

 まず、中央後方の席に僕。そして僕を中心として右に玲乃れいの、左に庄野しょうのがくる。ここから結構驚きなのだが、僕の真後ろが御簾坂みすざか、目の前の席に墨原すみはらがいる。

 まさに転入生サンドイッチ。

「葛城……貴様ぁ……!」

「許せん……いや、許すまじ……!」

「わたしのひとえちゃ〜ん……」

「葛城君なにか仕組んでないよね?」

 そんなこと言われても偶然は偶然なのだから仕方ない。

 なんて事は言えないので、とりあえず無視して各方面に挨拶あいさつをしておく。

 まずは墨原から。

 彼女は前を向いたままで、藍色あいいろのつやつやした長髪も微動だにしない。こうしてみると、なんとなく人形みたいな女の子だ。悪い意味ではないのだが。

「よろしくね、えーと」

 すると、すかさずプラカードが。ちなみに明朝体みんちょうたいみたいな手書き文字。どうもそれがデフォルトのようだ。

『好きに呼べばいい。墨原でも、単でも。ひとえっちでも構わん』

 いや最後のはない。どこで呼ばれたんだそんな名前。

『前の学校ではたまにそう言われていた』

「そ、そう……え?」

 あれ、僕はどこで呼ばれたかなんて聞いたろうか? たしか何も言っていないような。

『気にするな葛城少年。そのうち分かる』

「ふーん……」

 そう言われては深く追求もできまい。というかなんで僕の名前をってかまず少年って何だ少年って。

 さておき。次に僕は後ろを向いて、御簾坂の方へと向く。その際、墨原がプラカードをしまい損ねて苦労しているのが見えた。ちょっと可愛かった。

 そういえばあれはいつも死角に消えているが、あれはどこにしまっているのだろうか?

 ……さておき。

「よろしくね、うーんと」

実依みよだよ〜。しばらくの間よろしくね?」

 すると握手を求められたので、握手。白く滑らかな彼女の手は、とても柔らかかった。

「うん、こっちこそ。……まだ緊張してるみたいだけど、大丈夫?」

「え?」

 少々驚いた様子の彼女。分からないままにしておくのもアレなので、原因を教えておく。

「いや、ちょっと手が汗ばんでたからね。緊張してるんだなって。あんまり緊張すると気分悪くする人もいるけど、御簾坂さんは大丈夫?」

 僕の言葉を聞くとまた少し驚いた様子を見せ、程なく彼女はにぱっと笑う。なんだか周りの視線が痛いのは気のせいだろうか。

「ふふ、すごいなぁ、そんなことがわかっちゃうのかぁ。うん、大丈夫だよ。ありがとねっ」

 何度見てもまばゆいばかりの笑顔だ。まさに太陽のようなである。きっと彼女は一組のムードメイカーになるに違いない。玲乃とムードメーカーの双璧そうへきが出来上がるかも。

 ……玲乃みたいにならない事を祈ろう。

「お礼なんていいよ、大した事ないからさ」

「いいのいいのー」

 なんてやりとりを少しばかり。……おかしい、今どこかで拳銃のコッキング音が聞こえたぞ。ガシャンって。

「あなたの名前は?」

 と、そう問うたのは髪を下ろした依実よみの方。実依が太陽とするなら、彼女はやはり月といったところか。イメージにもしっくりくるわけだし。

 そんな月のような依実は、落ち着いた笑みでこちらを見つつ僕の答えを待っている。

「葛城、葛城峯栄かつらぎみねはだよ」

「葛城さん、でよろしいでしょうか?」

「うん、いいよ。改めてよろしくね、依実さん」

 と、こうして近くで彼女を見ていると、ふと気付く事がある。

 それは特にこれといった感情もなく気付いたものだ。決してやましい気持ちがあったわけではない。だがしかし、僕もれっきとした男という生き物。気にならないと言えば嘘になるし、そうそう看過かんかできたものでもない。だがだがだが、本当に決して、やましい気持ちがあったわけではない。

「どうかしましたか?」

 僕が胸中で微妙な気持ちになっていることなど知る由もなく、不思議そうに僕へと言う彼女。彼女は僕の視線が気になったようだが──

「おい峯栄! きっさま、ドコ見てやがる!」

「見やがったな! 間近で見やがったなぁ!」

「俺だって見てぇのに我慢がまんしてんだぞ! それなのに……それなのに貴様はぁ!」

「御簾坂さんの巨乳はみんなのものだぞ!」

 そう、そういうことである。

 指定制服であるブレザーのジャケットを着ていても分かる、大きな胸。十二分に膨らんだ彼女の胸元は、正直非常〜〜〜〜〜〜に目を引く。

 だから、僕も簡単には看過できないのだ。やましい気持ちはないにしても。これが本能と言うものなのだろうか?

 あと弁明するなら、見慣れていないからということもある。身近な女の子と言えば玲乃だが、彼女の場合小さくはないが大きくもない。平均的といったところか……と僕は何を評価しているのやら。

「え、あの……葛城、さん?」

「ちょっと待とう。うん。僕は、別に、やましい事を考えたわけじゃない」

 顔も赤く、胸元を隠すように己を抱く御簾坂。これはこれで絵になる構図なのだろうが、そんなことより誤解を解く必要がある。何しろこのままでは変態街道を大型トラックで驀進ばくしんして、なおかつ迫りくるパトカーを蹴散けちらしているようなものだ。

「ミネハくん、じつはえっち?」

 こんな時に何て事を言うんだ実依。

「いや、断じて違うよ?」

 僕は努めて冷静を装ってそう答えるが、かえって逆効果なのか、

「嘘つけこのムッツリ!」

「知っているぞ、俺はお前が巨乳趣味だと!」

「あと童顔だよな!」

「うっわ峯栄ってば変態!」

 デマもいいところだなてめぇら、後で覚悟していろ。いや今覚悟しろ。

「御簾坂さん、後ろにいる馬鹿の戯言ざれごとは放っておいて」

 そんな助け舟を出してくれたのは玲乃。左手に何か庄野っぽい物(者)をぶら下げている。

『葛城少年に罪はないだろう』

 なんて墨原も言って(書いて?)くれる。結構いい人みたいだ。

『何しろ男のさがだからな』

 前言撤回ぜんげんてっかい

『冗談だ、許せ葛城少年』

 冗談でも済まない事と言うのはあるものなのだが……。

『ザザ……こちら葛城暗殺部隊A班、現刻より状況を開始する』

『ガガ……こちらB班、了解』

「今のどこから聞こえた!? てうわ!」

 などと突っ込む暇すら与えず、僕の足元を弾丸が穿うがつ。狙撃か?

『ガピ……こちらC班、狙撃に失敗した。D班、そちらはどうだ』

『ジジ……こちらD班、残念だが死角になって見えない。X班に引き継ぐ』

 どこまで班いるんだよ。

 と突っ込みたいところではあったが、とにかく逃げるべきだと判断。教室の外へと全力でダッシュをかける。

「御簾坂さん!」

「は、はい!」

 逃げつつ狙撃弾を回避している僕が突然御簾坂に呼びかけると、呆然ぼうぜんとしていた実依に代わって依実の方が反応した。

「これは勘違いだからね! 覚えておいて!」

「は……はあ」

「よし、それじゃ!」

 逃走。

『こちらA班、目標が逃走。追跡せよ』

「こちらSHONO班、了解した!」

「庄野にはやられない」

「うごがっ」

 廊下で背後からいきなり迫ってきた庄野を潰すと、更に後方から銃声がいくつも聞こえてきた。

 一体どこまで非常識なんだ、この学園は。


     ◇



「どこだ! どこにいった!」

「今こっちに人影が……追え!」

「さすが葛城峯栄……今まで我々を翻弄ほんろうしてきただけはあるな!」

 などのような声を響かせながら、足音が遠ざかっていく。

「はぁはぁ、まいたか……」

 僕は張り付いていた天井から降りると、そう言って一息ついた。

 あれから高等部の校舎を逃げ回る事二十分。ようやく奴らの目から姿を消す事ができたものらしい。

 とにかく、奴らはいつもやる事が派手すぎる。狙撃は激しくなる一方だし、重機関銃は乱射するし、途中から対戦車ライフルまで出てくるし、一体奴らは僕を何だと思っているのだろう。まぁ中等部時代にRPG-7(テロ屋さん御用達のロケットランチャー)を向けられた事もあったし、まだマシな方だろうか。

 とりあえずまた見つかっては困るので、見た事もない廊下をふらふらと移動する。もう数え切れないくらいに廊下のそこら中に弾痕があり、また一部壁が倒壊している。奴らは校舎の損壊もいとわないのだ。何故かって明日には直るので。

 今僕がいるのは、多分校舎の西側、特別教室棟。そこの三階だったか。結構階段を上り下りしたが、記憶が正しければここは三階のはず。

 長々と続く廊下を眺めつつ、僕はゆっくりと歩む。本当に長い廊下だ。何しろ生徒数が多い分一つの教室が大きいので、必然的に廊下も長くなる。かといって移動に困るほどではない(校舎のH字上方にも細い渡り廊下がある。だから実際校舎の形は口の字に近い)が、結局長いものは長い。

 そんな長い廊下には、様々な特別教室がずらりと並ぶ。頭上に見えるプレートいわく、そこは化学実験室、実験準備室、出張開発室、開発員休憩室、ドリンクコーナー、☆人☆体☆実☆験☆室☆だそうである。なんか最後のが色々と気になるが、突っ込んだら負けなのだろう。ちなみにその隣は『おゆうぎしつ』だとか。

 とりあえずそのあたりは無視し、もう少し進んでみる。また様々な教室が見えるが、見てもいいことがないので流し見て終わる。

 すると階段に着いたので、上ってみる。なんとなく他の階段とは雰囲気が違い、そこだけが古びた木製のそれ。一段上がる度にぎしぎしと軋みまでもする。段の端々にはクモの巣や何やらどす黒い染みが見て取れた。

 その階段の途中、いわゆる踊場おどりばに大きなひび割れた鏡があった。全身が映せるタイプのものだ。気になってのぞいてみると。

「…………」

 なぜだか僕の姿が映っていなかったので、見なかったことにする。見なかった、そう、僕は何も見なかった。いいぞ峯栄、順調に現実逃避できている。

 そして僕はきびすを返し、再び階段を上る。なんか鏡のあたりから誰かに呼ばれているような気もするが、無視して階段を上りきる。階段の真ん中あたりでは肩を冷たい手で叩かれたが気にしない。

 両肩をつかもうとする冷たい手を払いのけると、そこには見たこともないような光景が広がっていた。

 今までの廊下とは打って変わって、全面コンクリートき出しの床・壁・天井。先ほどまで聞こえていた学校の喧騒けんそうは消え去り、全くの静寂。聞こえるのは僕の足音や呼吸くらいで、後は何も聞こえない。強いて言うなら、階段のほうから喧騒の余韻よいんやうめき声めいたものが、たまに聞こえる程度。

 窓なんかはよく見ると二重構造で、しかもはめ殺し。全く開かない。雰囲気からして、もしかしてこれは防弾ガラスだろうか? しかも二重なので防音もほぼ完璧にできている。この階がやたらに静かなのはそのせいだろう。

 そして一番奇妙な事に、この階には教室が全くない。

 左右どちらを見てもあるのは壁と窓だけで、本来そこにあるはずの教室のドアは一つもない。ただただ無機質なコンクリートの壁とはめ殺しの窓。

 一言で言って、不気味だった。

 おかしい。ここは、何かがおかしい。同じ学校の校舎だというのに、なぜここだけがこんなにも雰囲気が違うのか。そもそも、なぜこんなにも造りを変える必要があるのか。

 わからない。

 あまりにも不可解すぎる。理解が全然及ばない。

 僕がそう思いため息を一つつくと、

「う、うわ、何だこの鏡! 俺が映ってないぞ!」

「今俺、誰かに肩叩かれた!」

「つ、冷たい、この手冷たいぞぉぉ!」

 被害者の声が続々。まぁ、なんということでしょう。

 と、そんな事を言っている場合ではない。続く声には、

「ま、まあいい。あとはここしかないんだ、さっさと葛城を始末するぞ」

 早くも奴らがここまで来てしまったようだった。もたもたしていられない、早く隠れる場所を探さないとならない。

 だが先述の通り、ここには隠れる事ができるような教室はない。あるのは壁と窓だけなのだ。

「くそう、さっきの手は何なんだよ……まだ肩が冷たいぜ」

「おかしいな、俺さ、お前の肩に青白い手が乗ってるように見えるんだ」

 声はだんだんと近付いてくる。僕は階段を上りきってすぐの場所にいる。だから、彼らが階段を上りきってしまえばすぐに見つかり、そして捕まる事になる。見たところ教室棟につながる渡り廊下もなく、逃げ道が存在しない。

 ずりずりと僕は後退あとずさるが、すぐに背中が壁についてしまう。ひんやりとしたコンクリートの壁が、僕の緊張をより強めてくる。

 やばい、本当にどうしたらいい。

「気のせいだろ。さ、いくぞ。もうここしかないんだから」

「あ……ああ。わかったけどよ、ここって立ち入り禁止じゃねえ?」

 そうなのか。もしかしたらここは、まだ工事中とかそういうものなのかもしれない。

 しかしそんな事より大切な事がある。

「そうだけどさ、気にすんな。あいつを始末するためだ」

「……あいよ」

 いかにして、逃げるかということ。

 本当に手詰まりだ。どこを見ても逃げられる要素がない。

 苦し紛れに僕が、更に強く壁へと背中を押し付けたとき。

 ──ガ、シュウン。

 突如、背中を押し付けていた壁が、両開きの扉めいて真っ二つに割れて開いた。

「え?」

 そのまま横にスライドしていった壁の中に吸い込まれるように、僕は背後に倒れる。

「う、うわっ!」

 受身を取ることもできず、そのまま背中から倒れこむ。どすんと鈍い音がし、背中に鈍痛が広がる。

 それに異議を唱える間もなく、開いた壁が閉じられていく。意外な事に音は小さく、ぷしゅうといったような音しかしない。

 その閉じていく壁の隙間から、僕を追ってきた奴らの姿がちらりと見える。三人いる彼らは皆こちらを見ておらず、幸いな事にこの開いた壁の存在に気付くことなく、壁は閉じられた。

 そして再びの静寂。しかし先ほどとは違い、ブウンブウンと何か機械の作動音らしき音が聞こえてくる。言うならば、変電所で聞こえるあの音に似ている。

 何だかよくわからないが、助かった。

 だが、そんなことよりも。

 僕は痛みも忘れて立ち上がり、後ろを向いてみる。

 するとそこには、長々とした通路が伸びていた。




──学園騒動記ノイザーズヘヴン!

────File.1 入会試験で購買闘争 後編1 へ続く


─次回予告─

学園騒動記ノイザーズヘヴン!
File.1 入会試験で購買闘争 後編1
8月8日公開予定

※執筆状況により、数日前後する場合があります。











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