家族の飼育
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父が逮捕された。目覚まし代わりに聞く怒号と罵声は夜の静けさを打ち破るには十分たる破壊力と母の自我を現実と乖離させるには事大過ぎた。
父は極めて冷静に手首の手錠を見下ろしていた。すこし笑っていたような気もする。僕は瞼にのしかかる眠気と格闘していた。隣で姉が目に涙を溜めながら僕の肩を抱こうとした。僕はそれを振り払って、母の背中を指さした。姉は母の背中を摩りながら泣いた。
母は何かの間違いだと訴えた。その訴えは神頼みに等しく、もちろん祈りは叶わない。祈りは絶望の慰めにすぎない。却下された祈りが何処に消えるか知っているか。僕は知っている。廃棄物として夢の材料になるのだ。
外傷のない患者となった母を連日苦しめたのは報道だった。ある日、学校から帰宅すると母がテレビに椅子を投げつけている場面に遭遇した。僕は冷蔵庫から冷えた牛乳を取り出してコップに波波注いでゆっくりと味わいながら、その一連の行動を黙って眺めていた。狂気とは程遠いな、と笑った。破壊衝動は葛藤に負けた行動だ。自分自身に負けた人間が取る八つ当たりだ。僕はそんな愚かな真似だけはしないようにしようと、心に杭を打った。
「もしこんな風にならなかったら」姉はその夜、ぐちゃぐちゃに壊れたテレビの破片とスリッパで踏みながらいった。「私たちは幸せのままだったと思う?」
答えはすでに出ているくせに。
「父さんを恨めばいいの。だいぶ救われるからね。あんたもそうしな」と続け、舌を鳴らした。
「そもそも僕らは幸せだったの?」
「違うかもしれないね」
母が奥の部屋で壁か床を殴っている音が聞こえる。何かが凹む音。
「普通だったんじゃないか。よく覚えちゃいないけど」
「普通って何なのよ。その普通ってのは何なのよ。逃げんじゃないわよ」姉は突然僕に詰めより、語気を静かに荒げた。「死んじまえ。みんなみんな死んじまえ」
姉はスリッパを脱いで、素足のまま破片を踏み鳴らした。母の破壊衝動の音と姉の血まみれのステップが混ざりあい、この世の最後を感じさせるダンスが僕だけのために披露されたのだ。死ねというように。それは実に直裁的なメッセージを孕んでいるように感じられた。脳を見えない手に捕まれ、桃のように簡単に潰されかけた瞬間、ぐるぐると殊勝に回り続けていたレンジが甲高い音を、死のダンスのステージに響いて、僕をまた現実へと連れ戻す。
「まだ死ぬなよ。」「甘えるんじゃない」「てめぇが死んで得する人間もいない内に勝手に死ぬのは許されない」
耳元で何者かがささやく。
僕は、笑みを賭して、囁きに頷いた。次第に声は遠くなっていった。
僕ら犯罪一家は世間から約二ヶ月で飽きられた。
犯罪一家。そうだ、父だけが数百件という事件を起こし、何を思ったか突然日常の終止符として自供した。それはつまり僕ら家族の崩壊だけではなく、個人としても糾弾されるにたる自供だったのだ。報道は常に妄想/推測をさも真実のように垂れ流す。思考停止中の人間は疑うことを知らない。無垢というより阿呆なのだろう。批判も肯定もすべて責任逃れのために先導者任せだ。先導者が僕らを犯罪一家と名付けた時にはもう僕らの口から出る否定はただの言い訳に成り下がり、へたすれば火に油を注ぐ形になる。
父の起こした窃盗事件の件数は桁違いだっただけあり、マスコミや犯罪研究家は当然複数犯だと懐疑的になり、その共犯者は僕ら家族だと揃って報道した。当時小学生だった僕、中学生だった姉、姉を孕んで大学を中退し父と結婚した母──いったい何が出来る? 今ではすっかりお笑い種なのだろうが。
家族が全焼した後も僕は健気にも登校を続けた。逆に姉はすっかり人間不信に陥り、ヨーグルトばかり食べやせ細ったが言動は太る一方で挨拶代わりに僕を罵倒した。僕も僕で姉を認識しない、つまり無視で応戦というより自らを守るために仕方なくだが、姉を傷つけた。僕と姉は言葉の暴力と心理的態度で昼夜問わず殴り合い、慰め合った。
母は死んだも同然だった。目はいつも胡乱気で濁っており、何かとつけて破壊衝動・破壊衝動。大学中退後すぐに結婚した母には社会経験が皆無で、それに生きてたころから贔屓しても社交的とは言い難い神経質な性格だったのも災いし、死んだ。もちろん呼吸も、それから食事だって無理やり口にいれてやれば噛まずに嚥下するし、医者の見地からいわせれば、
「元気ではないが生きてます」
となるのだろうが、僕と姉は母を完全に死者として扱った。母の蓋を失った糞尿の始末はどちらかが気付いたときにやるという不文律がいつのまにか確立し、母への弔いという名の〈愛の食事〉も活けた花に水をやるようにして朝晩適当な時間に行った。毎日食パンでも母は文句を言わない。毎日水だけで満足する花と同じだ。華道よりも楽な飼育だった。
飼育。
母の飼育。
僕は下卑た笑いを禁じ得ない。介護でいいじゃないか。それなのにあえて僕は〈飼育〉と表現したくてたまらないのである。生前は、
「二人の子を産んだとは思えない」
と評された母が糞尿と共に眠り自我を唾棄している姿はなんとも醜い。醜悪な丸まった肉だ。崖で見かけたら迷わずその背を押す。罪悪感など毛ほども感じさせないこの世でいっとう劣悪な存在。母はたまに思い出したように、あるいは寝言のように僕に言う。
「殺して……」
馬鹿が。殺す? そんなの不可能だ。首を絞める作業すら億劫だ。そもそもあんたはもう死んでいるじゃないか。そんな醜い面をして、口元をべちゃべちゃと濡らして、それでもまだあんたは自分が生きていると、生にしがみついていると、そうのたまう真似をするのか。
殺さない。
僕は母を殺さない。
姉も母を殺さない。
僕と姉を繋ぎ止める飼育を止める気は毛頭ない。
僕は胸の中でざわざわと煮だつような喧騒を時折感じる。飼育に依存する自分を客観視できない自分を客観視している感覚の襲われる。物足りないのだ。すでにひとり分の飼育を、姉と二人で分けているのでは。物足りない。物足りないんだ。
母だけじゃ物足りない──。
清々しい朝だった。余計なことを排除した頭は清涼剤をぶちまけられたような薄荷の匂いと覚醒を僕にもたらした。天井の染みを目が合う。声に出さず、おはよう、と呟いてみる。笑えるほどに好青年じゃないか。知らない人にも気兼ねなく挨拶をするなんて。
ベッドに横たわったまま首を西の方角に。窓枠が見える。といってもガムテープで補強した形跡のある汚い窓枠だけど、そこからにわかに射し込む陽の光を僕は久しく視界いっぱいに浴びた。清々しい朝だ。何年ぶりだろうか。朝らしい朝を迎えたのは。
「おはよう」
やにわに人の声が隣から聞こえた。驚愕する僕に畳み掛けるようにして背中を何かつるつるの布のようなものが這う。ぞぞっと筋肉が呻く。
「おはよう」
まったく変わらないアクセントでその声は繰り返した。
僕は寝返りを打つようにして、声の方を確認した。
女だ。女がいた。姉でも母でもなく、そこには見知らぬ女が色素の薄い髪をすこしばかり咥えながら僕の目をじっと見つめている。睨んではいない。抱きしめるような柔和な視線で僕を見つめる。
「おはよう」
その声は三度目だった。唇の動きがゆっくりと空気を挟み、ゆっくりと吐きだした。
確かに三度目だったのだ。
「おはよう」
僕は清々しい朝に似合う笑顔を浮かべて言い、彼女から四度目の機会を奪った。
そして、僕の新たな飼育は始まろうとした。同時に母の飼育は完全に姉に委ねた。そもそも正確な取り決めなど存在しないのだから僕が放棄すれば自動的に姉が一切を負うことになる。別段、罪悪感も湧かず、姉も僕に母の件ではとやかく言わなかった。
「名前は?」僕は女に訊ねた。
「ない」
「そうか。じゃあ〈メス〉にしよう」
「はい」色素の薄い女は頷いた。
「それから、僕のことだけど」
「大丈夫です」
「何が?」
「すべてです」枝毛の生えていない髪が揺れた。
「そうか。すべてか。分かったじゃあさ、とりあえず服脱いでよ」
〈メス〉は笑いもせずに、ベッドから起き上がった。薄いタオルケットがはらりと床に落ちて、そこでやっと僕は気付き、恥も捨て音をたて唾を飲み込んだ。脱ぐものがない。〈メス〉は一糸纏わぬ姿だった。
「服は、着ないの?」
「そのほうがいいでしょう」〈メス〉は口角をあげた。
途端に妖艶な光を放つ。眩暈に誘う馥郁。くらくらする。神経に針を刺されたようだ。
僕は〈メス〉を抱き寄せた。未発達な自分の四肢が憎い。年上であろう〈メス〉の体をすべて包み込むには不足する筋力が憎い。〈メス〉は僕の耳に息を吹きかけた。せせら笑うようにそれは罵倒に似ていて、口の中で血の味がした。でも甘かった。血は甘いんだ、とばんやりとした知識が新たにすり込まれる。
〈メス〉は舌で僕の耳朶を弄びだす。僕は抵抗もできず、勃起する。耳朶はさくらんぼと化し、噛まれても、噛みちぎられても文句はいえないな、と僕は勃起しながら受け入れる。〈メス〉の舌はどうやら二つに割れているようだった。ちょうどじゃんけんの鋏のように、だが幼児の作るそれのように浅い。鋏で僕の耳朶は挟まれ続ける。開いたり、潰したり、体中の神経が耳朶に集中して僕の意識も介入しだす。耳朶、耳朶、耳朶が僕だ。僕自身だ。〈メス〉は僕を殺すために来たのだろうか。そうなのだろうか。それでもいいかもしれない。粗末なものを逆上させながら達観した思考をめぐ、め、めぐら。す。
「健太……」
〈メス〉は僕の名前を粘膜のはった発音で呼ぶ。返事。返事をしなくちゃ。名前を呼ばれたら返事……。
「健太は、生きてる?」
僕はこくこくと頷いた──つもりになった。熱病に犯された股間と頭は今にも爆発しそうで、静止するので精一杯になっていた。〈メス〉は耳朶から鋏を引いて、僕の耳元に直接口をつけ、そのまま脳に管でも繋げたかのように、あっ、語りかけ。
「生きてないよ。健太は生きてないよ。健太だって死んでるよ」
〈メス〉の声が近くなる。ずっと一緒にいたような気さえする。違う。ずっと一緒にいたんだと思う。この女は生前の母にも似ている。この女は優しかった頃の姉にも似ている。この女は、〈メス〉は女であって女だ。女としての尊厳なのか。
「違うよ。私はそんな偉そうなもんじゃない」
否定された。
「じゃあなんなんだよっ。気持ち悪い。気持ち悪い。飼い主にむかって」
〈メス〉を突き飛ばした。〈メス〉は玉のようにごろごろと転がりベッドから落下。しかし痛みをおくびにも出さずに、それどころか僕に、にや、と笑いかけた。僕はぞっとした。辺りが丑三つ時のごとく暗転した。朝が消え、女の顔だけが、色素の薄い女の顔だけが僕をじっと凝視する。口がぱくぱくと動いている。何か言おうとしている。聞いちゃいけない。それは禁忌だと本能的に、僕は怯えながら聴覚を尖らせてしまう。女は、
「死ね」
僕は悲鳴をあげた。ベッドのシーツに黄色い染みが広がり、浅瀬で溺れた雑魚のように心境的にも肉体的にも呼吸を奪われた。目の前に、鼻頭がぶつかる距離に女の顔がある。女はまるで睦言を交わすようにして僕に祈る。死ねと祈る。
厭だ。死ぬのは厭だ。
ベッドから転がり落ちた。深海が僕を待ち受けていた。必死にあがいてみるが何処にも掴めそうにない。仮に掴めたとしても弾かれてしまいそうだ。いや弾かれるだろう。他人から僕は弾かれて、これからも弾かれて──これから……?
これからなんてないじゃないか。このままじゃ。僕にこれからなんて永劫訪れない。掃いて捨てる人生未満のまま僕は誰かの慰み者にすらなれずに見えない指から目を潰され、腸を引きずりだされ、それでそれで……。
厭だっ。
「駄々をこねないの……」
母の声がした。死んだ母が僕を手招きしている。実の息子を道連れに地獄に落ちようとしている。目を瞑る。目を開く。すると母が僕の顔を覗き込んでいる。美人だった母が、今は亡き母が僕の耳朶を舐める。
やめろっ。死んだくせにっ。
「悪い子だ。健太は悪い子だ」
黙れっ。
僕は母を全力で蹴飛ばす。蹴飛ばした腹に何かが詰まっていた、そんな感触があった。母が痛みに呻きながら腹をさする。
「健太をいじめちゃ駄目でしょ……」
健太を、
いじめちゃ、
だ、め……。
僕は、健太。
健太は、僕なのに。
やはり母は死んでしまったのだ。僕を忘れてしまったのだから。
黒の中を呼吸も漂う。これが絶望なのだとしたら父を失った絶望とはなんだったのだろう。父が嫌いだったか。それはない。それだけはない。僕は父が好きだった。父も父としての愛に従順だった。僕は愛情を得て、凡俗な成長を遂げていた。姉も同じだ。等しかった。僕らは愛されていた。
父さんが逮捕され、警察に囲まれ、赤いサイレンと母の慟哭が夜に溶け込み、僕は絶望したはずだった。何もかもが怖く、何もかもが煩わしく、体中の細胞が否定だけを続けていた。母は日に日に壊れ、僕はそれを憮然と害虫でも見るかのように──ああ、厭な奴だ。僕ときたら凝縮した悪意のような人間じゃないか。まだ青いガキの癖に黒々と光を拒絶して、母を飼育した気になっている。姉に罵倒されながら、姉を救った気になっている。諦観の平行線に立ちすくんで唾を垂らしているだけなのに、まるで自分が英雄かのように、この家で唯一まともな人間かのように、振舞って、それで、
「目が醒めた?」
知らない声がいった。〈メス〉とも姉とも母とも違う声だった。
僕は首を降って、濁った返事をする。
「まだ全然だよ」
「焦らないでいいからね」
「うん」歳相応の青い返事をしてから親指を咥える。耳朶をつまむ。ある。指だって耳朶だってちゃんとある。
「怖いだろうけど、とっても怖いだろうけどね」声が頭の奥で鳴る。「とっても良い事だからね。とてもとても良い事だから」
「良い事だらけだったらいいのに。悪い事なんて起きなきゃいいのに。みんなみんな優しかったらいいのに」
「そしたら、君だって。ううん、私だって生きちゃいけない人になっちゃうよ」
「……ごもっともだね」
僕は苦笑して、頭を下げた。声に慇懃に頭を下げ、面をあげた。
声が、くすっ、と揺れた。
清々しい朝だった。ずうっと限界まで海に潜っていて、ざばっと顔を出してから酸素を取り込む……そんな朝だった。透明な皮を体がまとっていたので丁寧に一枚ずつ剥いでから起き上がった。代わり映えない朝のはずが、今日はどこか違う。意識が変わると認識もやはり変わるのか。気持ち悪く、心地よい。
部屋を出ると、姉が向かいの自室のドアの前で眠っていた。毛布もかけずにごろりと丸まって浅い寝息をたてている。僕は姉を素通りして、母の部屋に向かった。荒れたリビングにはまき散らしたティッシュやびりびりに破かれた新聞紙、二つに折れた携帯、中身が半分残ったヨーグルトのカップ……どれもこれも僕を邪魔するには不十分だった。
母は依然として死んでいた。青白い頬がぴくぴくと痙攣し、口の端には涎が泡立っている。髪はちぢれ、廃棄された日本人形みたいだ。それでも脈々と伸び続けているのも怪奇じみた逸話を持つ日本人形そのものだ。
母は美しかった。
これは美しくない。
母が死んだのを再確認して、僕はようやく母の首を絞めることにした。指の骨が、ぺきぽ、と鳴って僕の命令からすこしずれた場所からの信号を受け、すっと首筋に伸び、
絞めた。
母は小さく呻いた。
生気の失せた面に恍惚とした表情が……。
いや勘違いだ。母は死んだ。母は死んでいるんだ。だから殺してあげなくちゃならない。弔いができないじゃないか。母を殺さないと僕が、
「死ぬ」
母の無意識の抵抗が、その死者の無様な抗いが、息を絶とうとする瞬間──
「何してんのよ……」
姉だった。僕の背後から姉が呟いたのだ。
「何してんのって……」
僕は答えず、更に指に力を込めようと──
「何してんのよ、健太っ!」
姉は僕に全身全霊をもって体当たりをかましてきた。僕は弾かれたボーリングのピンのごとく弾け飛び、頭から壁に激突した。
「母さんを殺す気なの……? 健太、あんたそこまで頭に蛆が湧いたわけ? キチガイじゃない。キチガイそのものじゃない」
「そうだよ、姉ちゃん。僕は死ぬしかないぐらいに頭がおかしい」うずくまったまま肯定する。そのとおりだ。姉のいうとおりだ。姉はいつも正しい。
「やめてっ」
姉は頭を振る。何度も頭を縦横に振る。気が狂ったように。
「やめてっ、やめてよっ。私まで頭がおかしくなる。私までおかしくなったら……」
「ほら、分かってんじゃん。やっぱり姉ちゃんも僕がおかしいってこと分かってんじゃん。なのにどうして聞くんだよ。どうしてだよ。ねぇ」
姉は半狂乱のまま、僕の顔面に蹴りを入れた。鼻が潰れた。血が散る。白が散る。殺すのかよ。殺してくれんのかよ。なあ。
「あんたのせいだ……。母さんがこんなになったのも……」
「父さんのせいだろ。いい加減にしろよ。逃げんな」
「私は逃げてないっ。逃げてんのはあんたでしょ。知ってんだから。いつもぶつぶつ言いながらパソコンでなんか打ってるの知ってんだからっ」
姉の蹴りが僕の腹を打とうとする。僕は姉の脚を掴んで引っ張った。姉は肩から床に落ち、痛いだの馬鹿だのと僕を罵る。
姉も気が狂っている。
母は気が狂うどころか──今だってこうして姉弟が面罵し合う状況でも、とろんとした目で何も言おうとしない。姉がいつも僕を虐げるとき、ちらちらと母の顔を確認するのを僕は知っている。母がいつか姉弟喧嘩を、むかしのように止めてくれるんじゃないかと期待してんだ。馬鹿らしい。死んだ人間に期待なんかすんなっ。
「死んじゃえ……」姉はぼろぼろと泣きながら、
「死んじゃえ。あんたも母さんも死んじゃえ」
「じゃあ殺させろよっ」僕は怒鳴る。
「それは駄目っ」姉も怒鳴り返す。
泣く人間を見ると急激に醒める。自分は悪魔に魂を二束三文で売ったのかもしれない。しかし、それで得たものなんて一つもないのだ……。泣きじゃくる姉と死んだように生きている母を眺める度に嫌でも認めなければならない。
まっとうにやり直すには、自殺しかない。
邪魔な人格を殺して、僕はやり直すことに決めた。
殺してやる、と拳を握り起き上がろうとすると、姉が僕の脚を引っ張って、僕は顔から床に叩きつけられた。何度目だろう。
甘い血の味がした。
―終―
最後まで読んで頂き感謝です。あなたが生まれてきた奇跡に感謝です。
あとがきについて本気だして考えてみた。ポルノ的に。
やはり真摯なあとがきが好ましいという結論にいきつきそうで、ひらりと身を躱す俺、ピーカブー・スタイル。意味は知らん。
ゴールデンウィーク中に公開しようと思ってたのに間に合わない俺、ノリオクレ・スタイル。意味は木村拓哉の「ちょ、まてよ」と同義。
そういやゴールデンウィークはモテレッチ踊ったぐらいかなあ。アンドゥトロワっ。なんだあの曲。耳に残って気が狂そわ~っ。そもそも「モテレッチ」ってセンスがやばい。モテ子になろうとか歌詞で平然と書いてるのがやばい。音楽業界やばい。もしこれがオリコン一位になったらやばい。しかし、この曲一年んぐらい前の発売らしくそれに気づかない俺もやばい。みんなやばい。まだ五月なのに暑いしやばい。「やばい」言いたいだけで、やばい。
やばい!
モテレッチ踊ってる場合じゃない!
俺が昼寝してる間にも世界は廻っているんだ!
やばい! やばいで! 俺が関西弁使い出したらいよいよやべーけん! ほんなこつ言われてん俺そんな知らんっちゃとか思っちょんキミもやばいっちゃ! この方言はラムちゃんじゃなくて素の言葉やけんな。そこらへん勘違いせんでほしいけん。
……お分かり頂けただろうか。
この男もうどうしようもないのである。何が言いたいのか。何がしたいのか。何をもって生まれてきたのか。
とにかくふざけた野郎である。趣味の欄に、
「古本屋のBLコーナーの拡大を見守ること」などと書いてしまう男である。棚がひとつ増える度に、くすくす笑っている変態である。
ではではまた。
損しかしないあとがきは、次回はないよ、きっとね。
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