内緒の話
これは内緒の話なのだけど。
実は僕のお父さんは、サンタクロースなのです。
この事実は、お父さんとお母さんは知っているけれど、弟や妹には内緒の話。
だって、サンタクロースが実のお父さんだなんて、夢が壊れるだろ? 折角、2人が眠った後にプレゼントを靴下に入れて枕元に置いているのだし、僕なりの気づかいだ。やっぱりプレゼントを運んでくるサンタはトナカイと一緒に空飛ぶソリで飛び回っていて欲しいじゃないか。
2人にはもう少し大きくなったらこっそり教えるつもり。
プレゼントはお父さんが配るのだけど、準備するのはお母さんと一緒。
毎年、何がいいかしらと2人で悩んでいるのを僕は知っている。新聞のおもちゃの広告を見ては、赤丸を付けたりしてこれでいいだろうかと考えているのだ。
そして買ってきたおもちゃに、ラッピングを自分達でする。
昔は手作りで良かったのだけど、今の子供達はいいおもちゃを知っている上に、手作りよりもいいものが売られているから買うしかないそうだ。でもせめてラッピングだけでも自分達でやりたいらしい。大変だからお店でやってもらえばいいのにと思うけれど、これはおじいちゃんやその前のおじいちゃんからやっているそうで、こだわりという奴だ。
心を込めて、2人はおもちゃにラッピングをする。
おもちゃだって、手作りではないけれど、真剣に考えに考えて選んでいるのを僕は知っている。だから2人が用意したプレゼントはとても大切に使って欲しいなと思う。
そして将来、僕もこんなサンタクロースになりたいと思う。
1つ1つのプレゼントに気持ちを込めて。子供に夢を与えるなんて、最高じゃないか。
「じゃあ、そろそろ配るな」
弟や妹が眠ってしまってから、お父さんは赤い服に着替えると、2人の枕元にプレゼントを置いた。今年は確か弟は戦隊モノの剣で、妹はぬいぐるみだと思う。実際には確認していないけれど2人がすごく欲しがっているのを知っているから。
「はい。お前には、この間欲しがっていたゲームだ。1日1時間ぐらいにして、ちゃんと勉強もしろよ」
「うん。分かってるよ。ありがとう、お父さん」
僕もきれいにラッピングされたプレゼントを貰う。
ちゃんと勉強をしないと立派な大人にはなれないのだと言われているから、冬休みだけどしっかりと勉強をするつもり。僕もいつかお父さんみたいになりたいから。
「じゃあ行って来るな」
「うん。いってらっしゃい。来年は僕も連れていってくれる?」
「うーん。来年はまだ早いな。もしも運転ミスしたら大変だろう?」
そう言ってお父さんは手袋をした手で僕の頭を撫ぜた。
むぅ。いつもそうなんだよな。中々お父さんは、仕事を手伝わせてくれない。まだ早いと言って、夜中に1人で仕事に出かけてしまう。
「今まで一度も事故した事ないくせに」
「そんな事ないぞ。危ない時も何度かあるんだからな。特に猛吹雪になると、視界が悪くて危険なんだよ。北海道支部の奴らは大変だといつも思うんだよな。逆にオーストラリアとかだと、Tシャツで動けるぐらいだから楽だよな」
「ふーん」
Tシャツが仕事着なんて僕的にはかっこ悪いと思うけれど、確かに寒い中で仕事をするのは大変だと思う。
「ほら。遅くなっちゃうからそれぐらいにしなさい」
「はーい」
お母さんに言われて、僕は諦めて引き下がった。
確かに家で引き止めたら仕事が遅れてしまって大変だ。まだプレゼントは3つしか配り終わっていないのだから。
「お父さんいってらっしゃい」
「いってきます」
そう言ってお父さんはソリに乗るとトナカイに引かれて夜空に向かって飛び立った。
やっぱりサンタクロースは空を飛んでこそサンタクロースだ。だから、この事はもうしばらく弟と妹には内緒にしておこう。
僕達のお父さんがサンタクロースという事は。