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その伍 黒猫懐柔困難予報
 変な黒猫(俺の中では不吉な、又は奇怪な運のこと)に懐かれた俺はこうして最凶の神楽佑璃の下で働くことになって数ヶ月
 とはいったものの、殆どが雑用だった
 任命されたのが庶務係ってことは一応理由になるのかもしれないけれど
 まぁそれは楽だったからさほど心配も無かったのだが、問題は神楽さんにあった
 いや、出会ったあの瞬間の竹刀裁きめったざしもかなり問題大有りだったのだけれどこの際そんなことは無かったことにしてしまいたい
 いつ雑した記憶の中にはものすごい竹刀捌きの神楽さんが・・・・
 思い出すのも怖い。というか恐ろしい。どうして瞬時に背筋が凍るのか俺自身にもわからない。もしかしたら重傷なのかもしれない。トラウマにでもなったらどうしよう
 でも問題は意外と身近な所に存在していた
 流石は皆が恐れる不良も恐れる神楽さん
 口数が尋常では無いほどに少ない(俺が思うには多分神楽さんのこわさっていうのはこういうところからも滲み出てるのかなぁと思う)
 考えてみれば長い言葉を神楽さんが発しているのを聞いたのはおろか自分の主張しかしない神楽さんは「だから」とか「何」とかの単語で日々を過ごしている
 女の子なんだからもう少し色のある感じで話してもよさそうなのに。神楽さんは例えると白黒のモノクロ映画みたいな会話するんだよな。
 どうしてかなんて聞いたってそれも単語で返される始末になりそうだから聞くのはよしておくけれど
 笑った顔もあの時で最後、というようにあれから数ヶ月、陰も形も見当たらない
 放課後忙しそうにする神楽さんの横でそんなことばかり考えては掃除をしたり、お茶を入れたり
 ただぼーっと顔をみるだけなんてこともしょっちゅうで―――――――――


「何」

  
 え?なんて声を漏す前にはもう
 不意に神楽さんの視線が俺とぶつかる
 穴が開きそうなほど見ていたらしい。最近気が付いたことなのだけれど神楽さんはジッと見られたり、俺が黙っていたりするのがあまり心地よくないみたいだった
「だから、何」
「え、いやそのあの」
 言えない。何の意味も無く見てましたなんてそんなこと
 ごめんなさいと俺が口籠ったときにはもう神楽さんの目線は資料に刺さっていた
 ほっとして、俺は神楽さんに入れたついでに余ったお茶を口に運んだ
 と、少し違和感を感じてしまった
 
 あぁ、

 納得の感嘆の溜息、とまではいかない心のつぶやきは隠しきれていなかったのかポン、と手をたたく
 そうか、、そうなのか・・・・・・・・・・・今分かった神楽さんは美麗だ。
 うん。
 綺麗と言う方が似合うようなそんなくらいの綺麗さ
 細い指と綺麗な漆黒の瞳に真っ黒の髪の毛が良いバランスで華奢な身体に在って僕って言うときの唇は多分笑ったらもっと赤みを帯びるのに
 あ、俺今別にやましい想像とかしてないですよ?まぁ健全な男子高校生として、ここは一応俺の名誉の為に言っておくけれど、そんな(ものすごく勇気のある)想像してたらもうとっくに俺は総理大臣にでもなってるよ
 まぁ視界に竹刀が存在しなかったらの話なんだけれど
 こんな俺と同じくらいの身長で女の子でしかも可愛くて
 『最凶』なんだから世界っていうのはむずかしい
 ははぁ〜と俺がまた性懲りもなくしげしげと見ていると、終に神楽さんの我慢の限界が訪れたのかギロリとした目がこっちに刺さった
 ヒッと短い悲鳴が口の端からこぼれ落ちて、カシャンと乱暴にカップを机に置いてしまった
 どうしようもない空気と言い訳出来ない視線がイタイ
 ごめんなさい、と開口一番切り出せなかった俺の口は半開きのまま硬直している
 言葉に詰まった俺の瞳に、竹刀がチラリと映った。途端どきっと心臓がさっきよりも主張をつよめては身体全体に信号を送る――――だめだ、逃げろ。このままだとお前消えるぞ!―――――そんなことわかってる、でも、だって
 なんて思ってる間に神楽さんの口が開く
 やばい!と思った俺は反射的にごめんなさい!と大声で謝っていた(限り無く額を床に押し付けた見るに無惨な土下座で)
 いや、謝っていたと言うよりも叫んでいたと言う方が多分正しいんだろうけれど
 すると、想定外のことが起こった
 というか予期できてなかった
「何、君なにしたいの」

 薄く、ほんとうに少しだけ
 見落としてたらわからなかったのかもしれない
 だって本当に少しだけ――――――――

「え?神楽さん怒ってないんですか?」
「うん」
 というか何でそう思ったの。なんて聞かれて、俺は溜息がぼろぼろ漏れて、終いには大分深く溜息を吐き出していた
「・・・・・・・・・・はぁ」
「杞憂な子、」
 違うな馬鹿な子か。と神楽さんは言い直す
「えっちょっと!なんですかそれ!」
「本当でしょ」
 僕に間違えなんてない。そう言って神楽さんはお茶を啜った
 ほら、また薄く―――――――
 この日、俺は初めて神楽さんが冗談を言う所を見た

 薄く、本当に少しだけ
 見落としてたらわからなかったかもしれない
 神楽さんはその日綺麗な顔で
 綺麗に笑ったんだ 

 とか思ったのも束の間で、俺は必要ないのに見るなとかその後に言われ続けたけれど
 嬉しかったんだ、素直に
 だってあんな気まぐれな人が俺に少しずつ自分のこと見せてくれるなんて
 少し優越感なんて感じている俺は幼いのかもしれないけれど
 でももう少しだけ神楽さんのこと知りたいって初めて思ったんだ
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