第ニ話 始まり
風吹く四月の道を僕は歩いて行く
目指す目的はただ授業を受けるため
それ以外に何があるの?って言われたのはいつだったっけ?
考えるのも面倒くさくて、僕はそのまま肩からずれた鞄を持ち直した
蒼い空の下で歩きながら、ふと思う
今日で僕は高校2年生になる
カラッポな春休みは僕の中に何も残さずに通り過ぎた
おかげで少しゆっくりできた 気がするのは、僕がただ爺臭いだけかな?
今日から、また僕の日常が始まって、また何ごとも無かったような毎日が始まる
提出期限をいつも守れない課題も
面倒な友達付き合いも
明日も明後日も何も変わらずに
僕の毎日はそうやってて終わって行くとずっと思ってた
―――――今日、君に出逢うまでは
***
新学期始めの登校はギリギリのスタートを切った
校門を潜って、チャイムの音と一緒に教室に滑り込むといつもの顔ぶれが僕の視界に入ってきた
教室の位置もクラスメイトも担任も何一つ変わっていない
なんだかとてもつまらないかもしれないけれど、僕にはそれがとても安心できた
ほっとして机につくと、いつものように目の前から声が振ってきた
「久しぶりじゃん、繭。春休み満喫したわけ?」
あぁ久しぶり、と自分の口から声を出そうとした瞬間に稜真に思い切り口の中にカツサンドをつめられた
「ムゥ…っ!?」
むせ返りそうになる喉を抑えながら なんとか飲み込もうとしたとき、『チャラリラリン♪』という聞き覚えのある電子音が
「ちょっと、稜真?」
「ん?」
間の抜けた返事でこっちをにこにこと見ている僕の親友は、片手に携帯を持ちながら満面の笑みで僕の反応を楽しんでいる
ほんといただけない。というか真面目に僕が窒息でもしてたらどうしたわけ?
え、何。放置……?
こんな朝のSHRから?
担任だって見過ごしちゃうでしょ!?面倒くさすぎてっ
大体僕はこんな場所でそんな死に方嫌だからねっ!?
そんな僕のじとっとした視線にうんざりしたような声で稜真ははぁ、と溜息をついた
「そんな機嫌落とすなっての、」
「落とすでしょ、嫌でしょ、ダメでしょ 普通に考えてよっ!?」
その普通が判らないんですけどぉ〜?という最近の女子高生みたいなフリでわざと裏声を使う所謂世間で言うイケ面はもう僕のコンプレックスを刺激しているとしか思えなくて思いきり握った拳を叩き付けた
「いったぁー!何すんだよ!?」
「正当防衛だよ、」
「あの、あえて言ってもいいかな!?一体どこが!?」
稜真が両手で頭を押さえているうちにすばやく携帯電話を奪い取る
「あ、」
気の抜けた『しまった!』という稜真の顔を睨みつけてから、画面へと眼を向けた
「は?」
無意識に出た声は、まぎれもなく僕の不機嫌さを物語っている
そこには涙目になりながら喉を押さえている僕の顔
「あのさ、何度も言うけど人が気を抜いてるときにこういう写真撮るのやめてっていってるよね?」
最大限の不満をぶつけてみた
すると、悪びれもしない顔で稜真が生返事を返す
「あー、でもお前の写真よく売れんだよな」
「は………っ!?」
驚愕の事実。
何、君は僕の写真を売ってるの?
「あの、稜真くん?」
僕の質問内容を聞かなくてもわかっている目の前の親友はにこやかに笑いながら、僕の手からするりと携帯電話を抜き取った
ついでに言うと、その額にはうっすりと青筋が浮き出ているようにも見える
………。
え?なんで?どうして怒ってんの?
というかこの場合立場逆じゃないの!?
普通写真売られてた僕の方が怒ってて当然だよね??
「お前はそろそろ気付け?」
そんな殺し文句を言う稜真はいつにも増して押しが強い
うーん、僕は一体何に気が付けばいいのかな?
なんて考えていると、
「……あのさぁっ 久城くん達は先生の話聞いてるのかなっ!?」
という半泣きの担任の声がした
そういえばもうSHRが始まって15分以上経つ
何を長々話しているんだと思って前を向くと、黒板にはいつものように中年男性の汚い文字で『ニノ宮 円』と書かれていた
そしていつにも増したクラス内の異様な盛り上がり加減
っていうか話聞いてなかったの明らかに僕達だけですよねこれは。
何何、どうしたの 何がしたいの、そんなキャッキャ騒いで
ちょっとどころじゃなくて朝からテンション高いでしょそれ。
僕がそこまで思いかけた時、稜真があぁそうか。と声を漏した
「今日転校生が来るんだろ?さっき女子が騒いでたし」
何君はちゃっかりそういう情報を聞いてるの!?という僕の視線を完全に無視して、稜真は続けた
「まぁいいんじゃないの、こんな風に盛り上がっても」
というか俺達まだ高校生だし?わいわいしてない方が不健全でしょ
という無言の稜真くんスマイル
あのさ、笑顔に本音混ぜるの止めよ?
「繭もこういうときくらい雰囲気に乗っかってろよ、普通にさぁ。何、お前おじさん?」
「いやいやいや、ちがうから。僕を勝手なイメージで固めないでっ!」
「じゃぁいいだろ……。あ、もうくるんじゃね?」
稜真の声で僕が前を向くと、黒板の前一人女の子が立っていた
「はじめまして」
その声は、細くても真っ直ぐに僕の耳の中に届いた
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