北の県から
数日は調子の上がらない日々が続いた
スカウトもイマイチ
スロットもイマイチ
それで食っていても毎日勝利とはいかない
仕事とするなら月や週でのスパンの成果が肝だ
アベレージを上げるために無駄を減らす
負けを抑えて早く引き上げるのも重要
歩合の仕事は仕事量を増やせば割りが上がるわけではない
効率を考えて動く
「それはわかるんすよー
でもそれじゃ楽しくないでしょ?
もぐもぐこの餃子1個いただきます」
「楽しみなんて求めてないよ
もぐもぐ
仕事にしてーなら徹底
好きにやりてーなら趣味よ」
中華料理店でユウとコウタは少し遅い夕飯
コウタは事あるごとに質問攻めをする、が
ユウの教え通りに動くことなど無い
「楽しみながら勝ちたいっすねぇ…」
最終的にはこの言葉に辿り着く
仕事か趣味か…
実際の仕事でもそうだが楽しみとの共存には妥協が必要
「お前な、家を出てみろ
絶対ハンパには出来なくなる
ただのプーじゃねーか今!情けねえなぁ」
ユウは言葉に遠慮が無いので時に人を傷つける
しかし、コウタは全く傷つかなかった
「そうなんすよねー
でもほとんど家にいないし
メシも自分で食ってますよ?」
「ほぼ俺が毎日出してんじゃん…」
………
六月一日早朝
なんだかんだ大きな収入になった五月
GWの長い連休はスロットにはマイナス要素
ただし都心でのスカウトは連休こそプラス要素
…究極のコンボやで
ユウは常々自分の仕事選びに自ら感心していた
少し調子に乗りやすい21歳である
いつものようにスロット店で並ぶ
少し遅れてコウタが現れた
「おはよござーす
ユウさん突然ですが合コン行きませんか?」
「うん、行く」
「即答?でも明日夜っすよ」
「うん、行く」
「………わかりました」
「なんだその間は!
嫌なのか?誘ったくせに」
「違うんす!
ユウさん連れてくの嫌なんすよ!」
「…なにが違うの…」
コウタの言い分は
同級生の女に3vs3の合コン企画されたらしい
その女達はいわゆるヤリマン
見た目は悪くないが下品でうるさい
ユウが嫌がるのでは?と考えた
「待て、もう1人どうすんだ?」
「それは大丈夫、あの人です」
コウタの指はスロット店に並ぶ男を差した
よく見かける顔、しかし知り合いだったとは…
まあ地元だからね…
と、ユウは考えた
「昨日仲良くなったんすよねー」
(´Д` )…
コウタ君、他に友達いないの?
スロ屋の常連で合コンて…
ユウは口には出さずしばらくポカンとした
開店
いつも通りにコウタはバイト
珍しく給料で財布を買ったコウタ
そんな日は調子が良かったりする
しばらくしてコウタの台が高設定の挙動
ユウは早めに見切りをつけてコウタの台のみに絞った
フラフラ店内を見回りコウタの台に向かうと誰かと話している
朝の男である
なんとなく話すのは気まずいのでスルーしかけたが
「ユウさん!この人カズキさんね!」
小太りにヒゲ、身長はユウと同じくらい
笑顔がうさんくさい男ってのが第一印象だ
「どうもーまた取ってますねぇ」
「いやいや…久しぶりに取れたんだけど…」
ユウはまったく人見知りは無かった
しかし手の内を見せたくない理由で同業の付き合いは避けていた
コウタのように負けている奴は同業では無い
カズキはそのまま話を続ける
よく喋る奴だな…とユウは思った
カズキはユウより3つ上
ユウとコウタがコンビなのは見てわかったらしい
自分も月に2.30万は上がってると簡単な自己紹介と自慢
ユウも適当に自分の情報を伝えた
「じゃあコウタ、あとはよろしく
また夜になったら戻るから」
多少の現金を置いてユウは逃げるように店を出た
同業には多くの情報を与えない
スロットは情報戦の要素もある
店の癖を把握している自負があるためだが
人に教えていては損しかない
実際カズキが30万を稼いでいるかはわからない
もしかしたら重大な情報を握っている可能性もあった
それでもユウは自分の掴んでいる情報を流さないだろう
交換はしない、貰えるなら貰う
相手も同じ姿勢でいるのが基本。と疑う
スロット屋は戦場なのだ
…。。
しかしやることねーな…
ユウは公園でタバコを吸いながら無駄に鳥に拾った枝を投げていた
微妙に当たらないように投げた
どうやらスカウトする気は無いらしい
ふと開いた携帯には複数の未読メール
パチンコ屋は頻繁にメールを送って来る
キャバ嬢ばりの営業メール