82ページ目!その名は、帝王艦隊(ラストエンペラー)!
身を低く構えたカリオストロ。地面を強く踏み潰し、足の裏に力を入れて、蹴り飛ばす。
柱の上から、カリオストロの姿が消えた。
姿を追うように、ジークフリードは天井を見渡した。
いない。本当に消えたのか。
と、どこからか、人が着地した音が聞こえた。
音の鳴った方へと、目を向ける。
壁。反対側の壁に着地していた。真っ直ぐ立っているのではなく、身が傾いた状態で立っていた。
距離にして、五百メートルはくだらないだろう。
人が飛べる距離ではない。年老いているのなら尚更のこと。
それを、楽々と行っているカリオストロ。世界三大魔術師と呼ばれるだけのことはある。
瞬間、カリオストロが再びその場から消えた。
音。突風が吹き荒れたような音だ。
肉眼で捉え切れないほどの速度で天井を縫うように飛んでいたのだ。
数秒、飛んだ後、カリオストロは再び柱の上に戻ってきた。
何をしたんだ。とでも言っていそうな表情をしながら、ジークフリードはカリオストロに目を向ける。
大波の激流は、依然として轟々と渦を巻いている状態だ。
中心に残されたジークフリードから見れば、山のように見えるだろう。
己の眼前にそびえ立つ、大きな山のように。
「解せぬ、と言った表情をしているのう」
ジークフリードは固唾を飲んだ。
その強大なる力に圧し殺されぬよう、掌の中で爪を食い込ませていた。
やや震えた声で、
「ったりめーだろ。何だ? 時間差攻撃でもするつもりかよ?」
と言った。態度はあくまで強気で行くようだ。
「時間差攻撃か……的は得ては射ないが、良いところを射てはいる」
カリオストロはご自慢の髭を丁寧に擦りながら、悠長に口にした。
閉じられていた瞼が細く開かれる。――同時に、空間に細長い切れ目が生まれた。一つ二つではなく、幾数にも及ぶ数だ。
切れ目の先は真っ暗。何も見えない。
不気味な切れ目が、天にどす黒い花を咲かせた。
「儂のミスリルは、発動するのに相当の体力を消耗するからのう……」
切れ目から現れたのは、船体の尖頭。
深い月を描いたような形をした船体に巨大な十字架が数本、髑髏印の帆を掲げて現れた。
船体の底には、合計十基もの黒い大砲が取り付けられている。
ジークフリードは驚愕し、地面に腰を下ろしてしまった。
圧倒的なその光景を間のあたりにしながら、欠片も強気が見られない声で口にする。
「なん、だよ……“これ“」
そう言うのも無理はない。
何故なら、ジークフリードの周囲に浮く、合計八体の船体が、自分に向けて砲を狙い定めていたのだから。
つまり、八十もの大砲が彼を――一人の人間に向けて、狙い定めていたのだ。
「帝王艦隊」
「ラスト……エンペラー?」
カリオストロはカットラスを下に向けて、誇らしげにこう口にした。
「昔は、もう少し出せたのじゃがな。儂も年には勝てぬ。
このカットラスで出入口を作ることが発動条件でのう。
今の儂じゃ、せいぜい、これくらいしか出せぬよ」
ジークフリードは動けなかった。動く隙はあっただろう。だが、極限の状態に立たされた人間の筋肉というのは、思うように動かず、硬直してしまうものなのだ。
「せめてもの情けじゃ――」
砲口に集束する白い光。
チャージを開始すると同時に駆動音が震え上がった。
船はゆっくりと波に乗り、流されながら、目標物に狙いを定め続ける。
その光景は、まるで、大砲のメリーゴーランドのようだ。
「――一瞬で殺してやろう。
帝王艦隊、撃て……!」
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