76ページ目!魔術師vs人間!ラウンド5!
ゆっくりと地面に落下していく立麻。掴める物などなく、自然に身を任せて落下していった。
(対象以外の箇所は、魔術の有効範囲内なんだ)
ドンッ、と鈍い音をあげて地面に投げ出される。
落下した距離が高くなかったのが幸いし、痛みは最小限で済んだようだ。
立麻は、ジークフリードのいる方を見上げた。
ジークフリードは、立麻のいる方を見下ろした。
大破した壁の方から風が入り込む。
立麻の着ていたブレザーは既に焼却され、今は白いワイシャツのみとなるが、そのワイシャツもが焼け焦げ、まるで着ている意味がなくなっていた。
ワイシャツが静かに揺れる。
ボロボロになったワイシャツを立麻は破り捨てた。
随所に火傷を負った上半身が露となる。
「正直、手前には驚いたぜ」
「ああ、自分でも驚いてるくらいだ」
立麻はジークフリードの手から目を離さなかった。
「そのミスリル・神の烙印とか言ったか。そいつは、俺の持つミスリル・未体詠唱に匹敵するくらいの強さがあるな」
「どうだっていいよ。そんなこと」
と、立麻がその異変に気づいた。
ジークフリードの両手。その双方の手に“自分の血がついていない“ことに。
(どういうことだ? 俺の事をぶっ刺した時の返り血が全くついてない……?)
しかし、返り血は浴びていた。
両手以外の箇所には。
(手だけ洗い流したのか? いや、コイツの言動を見ている限り、そんな几帳面な感じには見えない)
「そうかい。まあいいさ。手前と分かち合うつもりなんてねえからな」
研ぎ澄まされた瞳、そして、思考。
立麻は思う。ここにジークフリードの弱点が存在するのではないか、と。
防戦一方の争いでは、きりがない。かといって、魔術で対等に渡り合うことなど、根本的に無理な話だ。
(神の烙印みたいな強力なミスリルには、必ず条件が必要になるはずだ。だとしたら、コイツの未体詠唱にも条件があるはず)
立麻は、その弱点に気付いたのか、ギュッ、と拳を握り締めた。強い確信を感じる。
(弱点はその手にあり、それこそが条件なんだ。その手にあるもの。『魔法陣』!)
「――まあ、どちらにせよ、今さら分かち合ったところで意味はねえ。今から殺す相手と分かち合う意味なんて、な」
ジークフリードが地面に飛び下りてきた。難なく着地する。
「手前のミスリルは、魔術を極限まで防ぎ切るという、使い勝手のいい力みてえだが、一ヶ所しか防ぎ切れないのが難点だな」
不気味に歩み寄る、ジークフリード。
その周囲には、幾数の氷柱のように鋭い刃が横になって並列していた。
「――この弾数を、防ぎ切れるか?」
ピシッ、と軽快な音と共に指先を弾く。
それを合図に、氷の刃は一斉に発射された。
まるでミサイルのように。
立麻は避けようとしなかった。ただ黙り込んだまま立っているだけ。怖じけついて動けなくなってしまったのか。
否。それは、違う。
「ハハハ! 策がねえから命を投げ出したのかァ!?」
立麻は、前進していた。
幾数の氷の刃の群れへと、突進していた。
全体の八割以上の刃が、立麻の体に突き刺さる。
倒れ込もうとする、立麻。
「手前が馬鹿で良かったぜ」
ジークフリードは立麻に近づく。
「今度こそ、神の臓腑を奪い……、――ッっ!?」
ジークフリードは己の目を疑った。
何故なら、眼前に、鬼神が現れたのだから。
全身を鮮血で厚化粧された、鬼神という名の、一人の人間が。
綾辻立麻という、一人の人間が。
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