74ページ目!その名は、神の烙印(インゴット)!
「――ふむ、どうやら、ジークフリードのやつが綾辻立麻と接触しているな」
五大大国の中心に位置する国・光の国。その国の空の頂に浮遊する一基の聖殿。そこに在住する、魔天老と呼ばれる三人の魔術師達が話を交えていた。
「野放しにしておくからだ。奴は狂犬だ。狂犬には首輪を締め付けておくべきだ」
三本の柱は長く、数値にして十メートル以上はあるだろう。
その細長い柱は、椅子だ。
魔天老は、そこに座っている。
ただし、明かりが無いに等しい場所なので、姿は確認できない。故に、魔天老が確りと在席しているのかも分からない。
何故、地位や名声を築いた、偉大な魔術師なものだから、魔術で身代わりを置いているかもしれないのだ。
一人の魔術師が清澄な雰囲気で口を開く。その様子は、どこか水面に浮かぶ波紋を連想させる。
「何を慌てる必要があるのだ。ジークフリード如きの魔術師が、神に勝てる訳がなかろう」
一つ、間が開く。
「ジークフリードは、烙印のことを知らないのか?」
「教えてないからのう。烙印の存在を知っているのは、現時点で五名しかいない」
中でも、最も凶悪さを感じさせる魔術師が口を開く。
「俺達で三人と“封魔の魔術師“で四人……“革命の魔術師“で五人か」
「“空白の開闢“に関わった者達のみ知るわけだ。それ以外の者に口にすれば、儂等の計画に支障が出る恐れがあるからのう」
「――おっ、どうやら、烙印が発動したようだ」
二人の間を割って、比較的穏やかな雰囲気のある魔術師がそう知らせた。
しかし、彼の前には水晶やらの映像を写す物がない。
一体、何で知ったのか。
「ようやく、最終進化まで達したか。これで、自在に制御できるまで成長すれば、
いよいよ、儂等の出番だ」
不穏な空気がその場を包み込んだ。
全体から力が脱け、痙攣し、止まった。
それは、死の瞬間であった。
素敵で愉快な笑みをただひたすらに浮かべる、ジークフリード。
その手に掴む、生暖かい贓物。神の臓腑を、ゆっくりと自分の方へと引き寄せた。
貫通した胸。ぽっかりと空いた穴から戻、――れない?
「んだァ? 臓腑が引っかかってやがんのかァ?」
強引に引き寄せようとするが、やはり抜けない。
むしろ、外れないとでも言うべきか。
まるで、逃がさんぞとばかりに掴まれている気分だ。
やけになりながらも、引っ張り抜こうとする。が、外れない。
「ちっ、何だよ、コイツは!」
外れない。腕が外れない。臓腑が外れない。
その瞬間だ。
体内から青き閃光が走った。
ジークフリードは空いた片手で目を隠した。
「何だ!? 何が起きてやがる!?」
その目では、確認できない。
何故なら、それは、肉壁の向こう側で起きていたのだから。
神の臓腑と幾数の光糸で結ばれた体内。
幾数もの光糸は、やがて、体内に奇妙な魔法陣を紡ぎ出した。
いや、これは、魔法陣ではない。
そう、まさに、烙印だ。
肉眼で追えぬほどの速さで紡がれていった。
『INGOD』という烙印。
バチンッ、と破裂音が勢いよく響く。
「ぐがァ!」
ジークフリードは身を引いた。入れていた腕に刺激的な痛さが襲ったのだ。
腕を押さえながら、気づく。
そして、疑う。
独りでに、神の臓腑が主人の胸に戻っていっていることに。
中を覗かねば、独りでに動いているように見えるだろう。
しかし、実際は、『INGOD』の烙印が神の臓腑を引き戻していたのだ。
まるで、共鳴しているかのように。
「くそがァ!!」
ジークフリードはがむしゃらに炎を放ち続けた。
炎は全弾直撃した。が、立麻は全くの無傷だ。
その間にも空いた穴を塞ぎ終えていた。
気づけば、そこには、何事もなかったかのように、立麻が立っていた。
しばらく、頭が混乱していたせいか、黙り込んでいた。が、ソッと胸を押さえ、そして、ようやく口を開いた。
『魔術を極限まで防ぎ切る……。これが、神の烙印。“俺のミスリル“の力なんだな』
その名は、神の烙印。立麻のミスリルだ。
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