4ページ目!お稲荷さまの共食い?
「まぁとにかく、ここで話すのもアレだから中に入りなさい」
綾は白にそう言い残してスタスタと廊下を歩いていき、階段の手前にある居間に入っていった。
困惑した表情をする立麻。背後に立つ白を一瞥し、後頭部をポリポリと掻きながら廊下を進んでいった。
白も草履を脱いで中にお邪魔する。
が、玄関を閉め忘れてたのに気づき、閉めてから再び中にお邪魔した。
ギシギシと悲鳴をあげる廊下の上を慎重に歩き、綾辻姉弟が入っていった部屋に入る。
そこは、六畳一間の居間だった。畳が敷かれた部屋で中心に木製のテーブルがある。
角に置かれたテレビはかなり古い型だ。リモコンでチャンネルを変えるのではなくテレビ画面の横に付いたダイヤルを調節して変えるのだ。今時なかなかお目にかかれない代物と言える。
居間に置かれているのは、それだけ。何とも殺風景な構造だ。
綾はテレビの近くに座り立麻は背後に雨戸がある場所に座る。
白は入口の手前に位置する場所に腰を下ろす。
カチカチ、と、時計の針の音が響く。
――で、と前置きをして、綾は片腕だけをテーブルに乗せた状態で顔だけを向ける。
「うちの弟に何か用かい?」
綾のその細く開いた目は、人から見ると睨みつけているようにも見えなくはない。
白はビクッと肩を震わせていた。蛇を前にした蛙のようなものだ。本人は狐だが。
(うぅー、こんなところで躓いてたら、魔天老様に怒られてしまう。でも……)
白は綾を上目で見た。何か言いたげな雰囲気がある。
立麻はそれを見ていた。
「何か知んないけど、俺に用あんだろ? だったら俺の部屋行って話そうぜ」
立麻は廊下に出て、白を誘導した。
階段を上って、突き当たりの右側にあるのが立麻の部屋だ。
(そういや俺の部屋に女いれるのって、由香里以外だとコイツが初めてだ)
扉を開けて中に入る。鍵はついてないので閉めれない。
部屋の中は汚かった。一人暮らしの男の部屋を見ているような、そんな感覚がある。
居間と同じくらいの広さの部屋。半分は布団が占領している。テレビが枕の前にあり、布団の周囲には雑誌がばらついていて、本棚には漫画がある。欠番が結構目立つ。
と、立麻の眼下にある物が飛び込んできた。
(……!!!)
アダルトビデオ。
立麻は飛んだ。その姿は、どこか競泳のスタート時を連想させる。
布団の上に散らばったアダルトビデオを俊敏の動きで片付ける。ただ押し入れに放り投げているだけなのだが。
ついでに布団も片付け、二人分のスペースをつくった。
引き攣った表情をしながら、扉に背もたれする白に言う。
「まあ適当に座って」
「う、うむ、では」
白は座る。が、立麻との距離が人二人分くらい離れている。
とにもかくにもようやく一段落がつき、これから本題に入ろうとした。――その時だ。
グー、と腹の音が鳴った。
立麻は白を見た。白は顔を伏せていた。
(腹減ってるのか……?)
(うぅ、弧月は体力の消耗が激しいからのぅ)
白は上目で立麻の様子を窺っていた。
(そんな目で見られてもなあ……あ、そういえばアレがまだ残ってたか?)
立麻はその場を立ち上がった。
「ちょっと待ってて」
そう言い残し、一階へ下りていった。
ドカドカと音が下っていく。
――数分後。
ドカドカと音が上がってくる。
立麻の部屋の扉が開く。
「こんなもんしかないけど」
立麻の手には、割り箸で蓋を押さえ付けられたカップうどんがあった。
立麻はそれを白に渡し、蓋を剥がして割り箸を割ってあげた。
白は警戒しているのか、クンクンと鼻を動かしながら臭いを嗅ぎ、ちょこんと小指を汁につけて舐めている。
「大丈夫だよ。毒なんかいれてねーから(三日ほど賞味期限切れてるけど)」
「そうか! では有り難く頂戴するよ」
相当腹が減ってたのか、白は一分もかからずに完食した。
しかし、後にそれを後悔する羽目になるとは、満腹でご機嫌上昇中の白には思いもしなかっただろう。
「これは美味じゃな! 特に中に入っていたアレ」
「あぁ、油揚げのことか?」
「うむ! アレは美味かったぞ! ――ところで、これは何て食べ物なんじゃ」
立麻は即答する。
「きつねうどん」
きつね。
白は言葉を失い、すっからかんになったカップを見る。
その面影はない。それは白の体内に消化済みだから。
共食い。
その言葉が白の背中に重く乗しかかる。
白は角で背中を丸くしていた。これほどまでに、ズーン、という効果音が似合う姿はないだろう。
立麻は白の背中を軽く叩く。
「まっ、そう落ち込むな!」
白は顔だけを向け、涙目で睨みつける。
「斬る」
「はっ?」
白は立ち上がる。
「お前など白の手で斬ってやる〜!!」
その夜、綾辻家の二階が久しぶりに賑やかだったという。
しかし、賑やか過ぎるのは禁物だ。
「こら! バカたつ! 近所迷惑でしょ!」
近所迷惑になるから。
綾辻家のお隣さん。新庄家の一人娘。
新庄由香里がベランダに出て叫んでいた。
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