お稲荷さまの秘め事!(32/135)PDFで表示縦書き表示RDF


お稲荷さまの秘め事!
作:俺とキルマシーン



32ページ目!あーした天気になーれ♪


 心を高揚させる賑やかな音。霞んだ意識の中にそれは流れ込んできた。
 獣が放つ独特の臭い。それが染み付いた毛皮を立麻は被されていた。
 目が覚めたその時、立麻はアカの家にいた。傍らには長老が腕を組み目を瞑りながら鎮座している。

(……何がしたいんだ。このオッサンは)

 歓喜の音色が立麻を立ち上がらせた。体の痛みは無いようだ。
 中に居てもハッキリと聞こえる。猛烈な雨音。
 それを聞いた途端、立麻の表情が沈んだ。

「――奴なら魔天老に送られたぞ」

 長老の口からそう言われた。
 しかし、立麻の表情は沈んだままだ。

「そっか……。雨も止ませられなかったし、結局、俺は何の役にも立てなかったな」

 立麻は苦笑いをしながら、そう言った。
 長老の表情が引き締まる。
 立麻は握った拳に視線を落とし、歯を食いしばった。

「口先だけじゃ何も守れない。
 だから、強くなりたい。
 誰も傷つかないように強く」

 弱々しく握られていた拳がギュッと引き締まる。
 長老はソッと動き出し、出入口の方へ足を進めた。

「どんなにお主が強かろうと、戦いなれば人は傷つく。辛かろうが、これが現実なのだ」

「ならせめて、誰か一人でも守れるようになりたい」

「――それなら、もう出来ているではないか」

 出入口が開かれた。
 立麻の視界に入ってきたもの。それは、土砂降りの雨の中で踊る。火の民族達の姿。
 歓喜に舞い、雨に舞う。
 青空なんてない。どんよりとした雨雲が空を占領しているから。
 しかし、火の民族達は、まるで待ち侘びた晴天の中にいるようだった。
 誰も泣いてなんかない。笑っているのだ。
 立麻は呆然としている。
 長老は立麻の隣に立ち、物語るように口を開いた。

「儂等は、雨を止めたいが為に大切な何かを失い続けていた」

 しかし――、と長老は前置きをし、立麻の肩を軽く叩いた。

「お主は、それを儂等に気づかせ、身を呈し守ってもくれた」

 雨は火の民族の心までを濡らし、熱い絆で結ばれていた彼等に、冷たい絆をもたらせていたのだ。
 だけど、今はもう、大丈夫なようだ。
 外を見ての通り、火の民族のその表情は雨雲のように暗くなんかない。
 元通り、太陽のように明るい笑顔を取り戻していたのだから。

「礼を言う。綾辻立麻よ」

 アカが立麻の方に向かって、大きく手を振っている。
 白も幼い子供のように笑っていた。
 立麻の表情に明るさが戻る。そして、走り出す。
 雨の中へ、温かい仲間達の元へ。
 アカは立麻の元へ駆け寄り、そして、

「ありがとう! 立麻さん!」

 頬を押さえ、顔を近づけ、唇を重ねた。
 綾辻立麻、気絶。

「たっ、立麻さん……!?」

 しかし、その表情は幸せそうだ。鼻血が垂れてて残念な感じに見えるのは、きっと気のせいだ。
 そう思えたのも束の間。もう片方の鼻の穴からも鼻血が。前言撤回。やっぱり気のせいじゃない。
 こうして、綾辻立麻は残念な男の称号を得た。
 そんな残念な男に恋をする乙女・新庄由香里は風邪を引き、家で寝込んでいた。
 くしゅん、と、可愛らしくしゃみをする。
 ずびー、と、その可愛らしさを台無しにするように鼻をすする。

「何だろう。バカ立がまたバカやってそうだわ」

 乙女の勘は鋭い。

「早く見舞いに来なさいよ。バーカ!」

 布団の中に顔を潜らせ、由香里はあっかんべーと舌を出しながら、そう呟いた。
 そして、眠りにつく。
 立麻は起き上がり、仲間達の輪の中に向かって走り出す。

(そういや、由香里のやつ大丈夫なのかな)

 その国の名は、火の国。

「立麻さん! 早く早く!」

 熱い絆で結ばれた国。

「へいへい。今、行くよ!」

 国が、笑っていた。












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