32ページ目!あーした天気になーれ♪
心を高揚させる賑やかな音。霞んだ意識の中にそれは流れ込んできた。
獣が放つ独特の臭い。それが染み付いた毛皮を立麻は被されていた。
目が覚めたその時、立麻はアカの家にいた。傍らには長老が腕を組み目を瞑りながら鎮座している。
(……何がしたいんだ。このオッサンは)
歓喜の音色が立麻を立ち上がらせた。体の痛みは無いようだ。
中に居てもハッキリと聞こえる。猛烈な雨音。
それを聞いた途端、立麻の表情が沈んだ。
「――奴なら魔天老に送られたぞ」
長老の口からそう言われた。
しかし、立麻の表情は沈んだままだ。
「そっか……。雨も止ませられなかったし、結局、俺は何の役にも立てなかったな」
立麻は苦笑いをしながら、そう言った。
長老の表情が引き締まる。
立麻は握った拳に視線を落とし、歯を食いしばった。
「口先だけじゃ何も守れない。
だから、強くなりたい。
誰も傷つかないように強く」
弱々しく握られていた拳がギュッと引き締まる。
長老はソッと動き出し、出入口の方へ足を進めた。
「どんなにお主が強かろうと、戦いなれば人は傷つく。辛かろうが、これが現実なのだ」
「ならせめて、誰か一人でも守れるようになりたい」
「――それなら、もう出来ているではないか」
出入口が開かれた。
立麻の視界に入ってきたもの。それは、土砂降りの雨の中で踊る。火の民族達の姿。
歓喜に舞い、雨に舞う。
青空なんてない。どんよりとした雨雲が空を占領しているから。
しかし、火の民族達は、まるで待ち侘びた晴天の中にいるようだった。
誰も泣いてなんかない。笑っているのだ。
立麻は呆然としている。
長老は立麻の隣に立ち、物語るように口を開いた。
「儂等は、雨を止めたいが為に大切な何かを失い続けていた」
しかし――、と長老は前置きをし、立麻の肩を軽く叩いた。
「お主は、それを儂等に気づかせ、身を呈し守ってもくれた」
雨は火の民族の心までを濡らし、熱い絆で結ばれていた彼等に、冷たい絆をもたらせていたのだ。
だけど、今はもう、大丈夫なようだ。
外を見ての通り、火の民族のその表情は雨雲のように暗くなんかない。
元通り、太陽のように明るい笑顔を取り戻していたのだから。
「礼を言う。綾辻立麻よ」
アカが立麻の方に向かって、大きく手を振っている。
白も幼い子供のように笑っていた。
立麻の表情に明るさが戻る。そして、走り出す。
雨の中へ、温かい仲間達の元へ。
アカは立麻の元へ駆け寄り、そして、
「ありがとう! 立麻さん!」
頬を押さえ、顔を近づけ、唇を重ねた。
綾辻立麻、気絶。
「たっ、立麻さん……!?」
しかし、その表情は幸せそうだ。鼻血が垂れてて残念な感じに見えるのは、きっと気のせいだ。
そう思えたのも束の間。もう片方の鼻の穴からも鼻血が。前言撤回。やっぱり気のせいじゃない。
こうして、綾辻立麻は残念な男の称号を得た。
そんな残念な男に恋をする乙女・新庄由香里は風邪を引き、家で寝込んでいた。
くしゅん、と、可愛らしくしゃみをする。
ずびー、と、その可愛らしさを台無しにするように鼻をすする。
「何だろう。バカ立がまたバカやってそうだわ」
乙女の勘は鋭い。
「早く見舞いに来なさいよ。バーカ!」
布団の中に顔を潜らせ、由香里はあっかんべーと舌を出しながら、そう呟いた。
そして、眠りにつく。
立麻は起き上がり、仲間達の輪の中に向かって走り出す。
(そういや、由香里のやつ大丈夫なのかな)
その国の名は、火の国。
「立麻さん! 早く早く!」
熱い絆で結ばれた国。
「へいへい。今、行くよ!」
国が、笑っていた。
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