29ページ目!お姉さまが人尾を知らないワケ!
(遂に覚醒しましたか。――綾辻立麻の神の臓腑が)
一体、何が起きたのか。
立麻自身にもそれが分からないご様子だ。
胸を強く締め付け、高鳴る鼓動を押さえ込むのが精一杯。
白は不安そうな顔で立麻を見る。
「立麻……?」
立麻は白に向けて手を突き出してきた。
「俺は大丈夫だ。それより、お前の方こそ怪我してねーか?」
白の顔から不安の色が消えた。ぴょこんと耳が嬉しそうに跳ねる。
「うむ、白も大丈夫じゃ。――おそらく、水の魔術師が複数の魔術の発動を維持できなくなったのじゃろう」
ベネチアは水竜神のみを発動させていた。それも先程のような氷の鱗と牙が生えていない。弱体化した水竜神だ。
「どんなに凄い魔術師でも一度に発動を維持できる魔術の数は三つが限界。魔天老様くらいの魔術師でないと限界数を維持出来ぬじゃろうな」
白が得意気にそう言い、弧月を持ち直した。同時に立麻も応戦できるよう構えた。
しかし、肝心の相手は空にいる。
「なあ、俺達もアイツが乗ってるようなやつを出せないのか?」
「召喚獣は……高いのじゃ」
白は煮詰まった顔でそう言った。
「高いって……。え、もしかして?」
立麻はそう訊くと、白は耳を畳みながら首を縦に振った。
「ちょ、えっー!? 魔術師が金欠かよ! 子供が見てたら泣くぞ!?」
白は照れ臭さを勢いで隠し通す。
「びゃ、白はそんなもの要らないんじゃ!」
「嘘つけ! 口からよだれが出てるじゃねーか!」
はっ! と白は口を拭った。が、よだれなど出ていない。
「騙したな! 立麻!」
「騙されたってことは、やっぱり欲しいんじゃねーか!」
むっ、と言葉に詰まる白。
そして、白は顔をうつ向かせ、物語るように口を開いた。
「確かに欲しいさ。じゃが、白は魔天老様の御好意により無料で住まさせてもらっているのじゃ。……そんな命の恩人からお金など受け取れぬ」
立麻は意表をつかれたような表情をしていた。
「お前、仲間のいる国に住んでないのか?」
忌々しいあの光景が――白の脳裏に浮かび上がる。
燃え盛る炎の中に立つ。魔術師の姿。
外套のみを羽織り、特徴が何一つ隠れていて見えない。
ただ、唯一特徴をあげるとするならば、その魔術の手に刻まれた複雑な文字で形成された紋章である。
紋章が赤く点滅していた。
その名は、ジークフリート。
二つ名は、革命。
革命の魔術師である。
「白がまだ生まれて間もない頃、仲間は皆、“紋章の男“によって殺された。――白は、人尾の唯一の生き残りなのじゃ」
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