15ページ目!神の臓腑の伏線
「バカ立? この人と知り合いなの?」
由香里の不安そうな声をよそに、立麻と水の魔術師・ベネチアは一時も目を離さずに睨み合っていた。
(狐女の言う話では俺は魔術師らしいが……肝心の魔術とやらを俺は使えないわけで……)
土砂降りの雨の中、ベネチアの足元から、ピンッ、という軽い金属音がした。
音の正体は、数本の針。全形三センチ程度のとても小さな針だ。
立麻は全ての針が地に落ちる様子を見ていた。
(何をしてるんだ?)
針が一本、また一本と、靴底ら辺まで溜った雨の中に落ちていき、最後の一本が地に着いた。――瞬間、ベネチアを中心とした円を青光りが包み込んだ。
「な、なにあれ!?」
立麻の片腕に抱きつく由香里。
「分かんねぇ、分かんねぇけど……」
全ての針は雨と一体と成り、やがて、鋭利な尖端を潤す水の刃と化す。
それは、どこか水竜神の牙を連想させる。
(――アレがアイツの魔術なのか?)
牙は独りでに地を走る。その道を塞ぐ水を掻き分けながら。
立麻は咄嗟に傘を前に出した。――瞬間、背後から青光りが。
「た、たつ……んんっ……」
立麻は振り返ってしまった。
「ゆ、由香里……!」
そして、見た。
水の牢獄に閉じ込められた、由香里を。
水の牢獄の正体は、不規則に体を動かす軟体動物のような生き物。
全長二メートルはある。その透き通った水の巨体には足がなく、触手のような手だけを生えていた。
顔のパーツはなく、マネキンのような型だけがある。
由香里は気絶していた。水の牢獄の中で溺れてしまったようだ。
「テメェ! 由香里に触れんじゃねぇ!」
立麻はその水の牢獄に向かって突進した。否、押された。
背後から押された。水の刃が生み出した小さな波によって。
傘は骨組みの状態と成り、そのまま中を踊り、遠くの方へと飛ばされていった。
「ぐ……っッ!」
立麻の背中に無数の切り傷が刻まれる。衣服は破れ、まるで竜にのような化物に貪られたような痕が残った。
(……完全防御は働いていないみたいですね)
水の牢獄の前で膝をつく立麻。雨が傷口を打ち、ジリジリと痛みを与えていた。
震える手。地面を支える力を奪っていく。
ベネチアは立麻の背中に視線を下ろした。
(……治癒能力もですか。まだ目覚めてもない状態というわけですね。――“神の臓腑“は)
「早く立ちなさい。神の臓腑」
立麻は体を引きずりながら、水の牢獄へと向かった。
「……何をしているのですか?」
そして、その中に手を突っ込んだ。
立麻はベネチアの問いに対し、息を荒くさせながらこう答えた。
「見て分かんねぇのかよ。魔術師。ダチを助けてんだよ!」
真っ直ぐな叫び。その声の勢いに乗せ、水の牢獄から由香里を引きずり出す。
意識のない由香里の体が壁にぶつかり、独りでに座っていった。
由香里が牢獄から解放された瞬間、水の牢獄は弾き解かれた。
そして、立麻は重い体を立ち上がらせる。
「女に手ェ出したくはねぇけど、、俺のダチに手ェ出した以上、女でも何でも借りは返させてもらうぜ……」
魔術さんよ、と言い終わろうとした時には、そこにベネチアの姿は無かった。
はは、と渇いた笑いをこぼし、立麻は地面に倒れた。
ベネチアが消えたからか、土砂降りの雨は突如として止み、自然の明るさを取り戻した。
こうして、戦いの雨は止んだ。
水の魔術師が『戦い』を目的としていたかは定かではないが。
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