いつも見ていた。
植木の隙間から時折見える、君の姿。
『そんなマークじゃ簡単に抜かれるに決まってるだろ!粘りつけ!!』
『はい!!』
グランドでボールを追いかけるあなたを
部員に指示するあなたを
シュートを決めるあなたを
いつも見ていた。
グランドの周りにある植木。
人1人分ほどあいてるその隙間から、いつもあなたを見ていました。
最初に見かけたのは、ほんとに偶然。
だけどそれ以来、いつもあなたを目で追いかける。
部活をやってないあたしは、放課後それを見るのが日課になっていた。
「音。おい、音」
「えっ?あ、なによー彼方」
「お前今度の土曜暇?」
「うん」
「じゃあさ、学校来いよ」
「学校ー?なんでよ?」
彼のサッカー練習着が目に入る。
あたしたちは今年、同じクラスになった。
彼は長谷川彼方。
サッカー部部長。
そして、あたしの好きな人。
「試合」
背番号10番の彼方は、うちのサッカー部のエースだ。
見てれば分かるよ。
だってやっぱり彼方が一番上手だもの。
「サッカー部が?」
「そう。うちの学校でやるんだ」
「へー!じゃあ行く行く!何時?」
「午後1時っくらいだな」
「オッケー」
実は、あたしたちが仲良くなったきっかけは・・・
『あれー今日はいないなぁ』
今年の春のこと。
あたしはいつものように彼を見る。
今年から同じクラスになったけど、5月になった今もまだ話したことはない。
けど、その日はグランドにいなかった。
『なにしてんの?』
『えっ?あっ!は、長谷川くんっ』
後ろにいたのは、彼だった。
『サッカー部?好きな奴でもいんの?』
『あ・・・っと、ただサッカー好きなだけ!だから見たいなって』
『へぇ。俺もサッカー部なんだ。同じクラスの室井さんでしょ?』
そのときから彼方とは仲良くなったんだ。
今でも彼方はあたしがほんとにサッカーが好きだから見てると思ってる。
ほんとは、彼方を見てるだけなんだけどね。
マネージャーになろうかなって思ったけど、あたしには無理。
だって、マネージャーには彼方の彼女がいるから。
「彼方!はやくしないと部活はじまっちゃうよ」
「あーはいはい。じゃあな、音」
「うん、がんばって」
迎えにきたのは彼方の彼女。
細くてきれいで、あたしなんか足元にも及ばない。
あたしは教室から外を見下ろす。
サッカー部や陸上部、野球部たちが部活をやってる。
そのうち彼方と彼女が走ってサッカー部のもとへ向かうのが目に入る。
彼方を好きでも、彼方には彼女がいる。
しょせんは叶わない恋。
けど、やっぱり諦めることなんてできないんだ。
好きで好きでたまらない。
こんな思いだけが、溢れてくるだけ。
「諦めたほうが良いのかなぁ・・・」
同じクラスになって
いっぱいいっぱい話もするようになって
名前で呼び合うようにまでなった。
けど、肝心なことはなにもできてない。
告白する勇気すらなくて
前へ進む度胸もない。
なにもできなくて、ただウジウジするだけの自分が大嫌い。
「音?1人でなにしてんだー?」
ぼーっとしてると、教室に誰かが入ってきた。
「あー多紀」
「さてはまたサッカー部見てんだな?」
「そーゆー多紀は部活行かなくて良いの?仮にも副部長でしょー」
「委員会だったんだよ。今から行く。仮は余計だっ」
多紀はサッカー部副部長。
で、同じクラス。
彼方と仲が良い人。
「・・・なぁ、まだ彼方のこと追いかけてんの?」
「なによーいきなり」
「俺だったら絶対に音を悲しませないのに」
多紀は机の上のカバンを手にとって、教室のドアを開ける。
「今度の試合、絶対彼方より多く得点するから!そしたら俺の告白聞いてもらうから」
「はっ?ちょ、多紀?!」
「絶対負けない」
そして、多紀は走って出て行った。
なにがなんだか分からず、あたしは呆然とする。
告白って・・・あたしに?
多紀が、あたしに?!
そんなバカな・・・・
・・・それに、別に勝負しなくても彼方には彼女いるんだよ。
だから別に彼方が勝っても別に意味ないよ・・・
*****************************************************
「おー多紀、委員会長かったな」
「ああ」
部室へ行って急いで着替える。
そして、グランドへ行く。
みんなが練習してるけど、俺は準備運動をする。
そして、練習に混ざった。
シュートの練習。
「ナイス長谷川!」
やっぱり一番上手いのは彼方だ。
だけど、俺だって一応二番目って意味で副部長についたんだ。
そんな簡単には・・・負けない!
「ナイッシュー氷川!」
「よしっ」
シュートを決める。
その足で彼方のもとへ向かう。
「どした?多紀」
俺が近づくと、彼方はボールを止める。
「俺、絶対お前に勝つ」
「は?」
「土曜の試合お前より得点すっから。そしたら音に告白する」
「は・・・・なんでそこに音が出てくんだよ?」
「音が好きだから」
音が彼方を好きなことも知ってる。
音は知らないかもしれないけど
去年からサッカー部を見ていた音の存在を、俺は知ってた。
ただそれが彼方を見ていたってことは、今年になって知ったこと。
だから悔しかった。
彼方よりずっと先に音の存在に気づいてたのに
その音は彼方のことが好きだってことに。
俺じゃなくて彼方を見てたってことが、どうしようもないくらいに悔しかったんだ。
「好きって・・・お前が?音を?」
「そうだ」
だから
いつも一番得点してるのは彼方。
その彼方に、もし勝てたのなら、音に告白しようと思った。
「もしお前が勝ったら潔く諦める。けど、俺が勝ったら音は俺のもんだ。絶対負けない」
「そ、そんな勝負乗れるわけ・・・」
「怖いの?俺に負けんのが」
「てめっ・・・!!」
「いつまでものんきにしてっと敵が増えるぜ」
告白したってだめなのは分かってる。
けど、きっとちゃんと振られたのなら諦めがつく。
「野郎・・・宣戦布告かよ。いーぜ、その勝負受けて立つ!」
彼方が音のことを好きなのは目に見える。
ただ、本人が自覚してないだけなんだ。
音はマネージャーが彼方の彼女だって思い込んでるみたいだけど、でも違うよとは言ってやんない。
だって、もし彼方がフリーなことを知ったら告白してしまうかもしれない。
卑怯だけど、想いを伝えないまま失恋するのは嫌だった。
ただの俺のわがままだけど
でも音を思う気持ちだけは絶対負けたくないんだ。
───────────土曜日。
「あ、もうやってる」
土曜日。
今日はサッカー部の試合だ。
人ごみにまみれて、試合を観戦する。
「すげぇな。前半だけで氷川2点だぜ」
「あーでも今やってる後半のいれりゃ長谷川も2点だな」
もう後半終盤らしい。
どうやら始まる時間が早まったようだ。
残り時間はあとわずか15分となっていた。
ほんとに勝負してるの?
だって、彼方には勝負してもなんのメリットもないでしょう?
でも、もし彼方が負けたらどうするの?
あたし負けてる彼方なんて見たくないよ・・・
だからお願い、別にあたしのこと思ってなくても良いから勝って!
「くそっ・・・走れー!ボールを追いかけろ!絶対決めさせるな!」
「おうっ!!」
ボールが相手側に取られる。
俺も必死に追いかける。
ちらっと多紀のほうを見る。
こいつ・・・本気だ。
シュートしてる数、いつもに比べて多い。
けど俺とあいつのスコアは2−2だ。
「よし!ナイスカット!!」
俺んち側にボールが回る。
ゴールめがけてみんなで走る。
多紀にシュートが回って、打った。
けど、はずれる。
「くそっ!!」
良かった。
これで多紀が決めたら3−2になるとこだった。
・・・って、なんで俺まで本気なんだ?
別に多紀が音に告白しようが関係ないじゃん。
けど、もし音がOKしたらって考えるとすっげぇ嫌なんだ。
あいつが多紀のもんになるのが、嫌だ。
「多紀!こっちにまわせ!!」
「ふざけ!!」
「バカ!お前にはマークが2人もいるだろ!」
俺は自分をマークしてる奴らを振り払って、走る。
多紀からのパスがきた。
「彼方ー!!絶対決めてーーーっ!!!!」
遠くから音の声がしたように聞こえた。
俺はフィールドを走る。
これが最後のチャンスだ。
これで俺がハットトリック決めれば、多紀に勝てる。
「多紀!俺は絶対お前にだけは譲らない!!」
シュートした球は、見事にキーパーの手を弾いてゴールに入った。
ピピィーーーーーー!!!!
ホイッスルが鳴った。
「後半終了!」
試合終了のホイッスル。
ワァっと歓声があがる。
俺はその場で座り込んでガッツポーズをした。
みんなが俺のところに集まる。
「ナイッシュー部長!」
「ハットトリックお見事です!!」
「勝ったぞー!!」
「5−0だー!!!」
そして整列をして礼をする。
試合が終わると、俺のとこに多紀がきた。
「完敗だな」
多紀はふっと笑った。
「やっぱお前には勝てねぇな」
「ったりめぇだ。それに、俺も絶対負けたくなかった」
別にただの勝負なら負けようがなんだろうがかまわない。
けど、音がかかってるんだって言うのなら負けられるわけない。
なんでそう思うのかやっと分かった。
「はやく行ってこいよ」
「おう!」
俺は音を探しに行った。
「ちぇ・・・やっぱ適わねぇわ。サッカーも、音も」
さっきの声は音に違いない。
絶対にどこかにいるんだ。
キョロキョロと探してると、玄関のほうに1人で立っている音を見つける。
「音!」
俺は走って音のところへ行く。
音は俺に気づいて、手を振った。
「おめでと、彼方。見てたよーすごいね」
「ああ」
思えば、きっかけはあのときだったのかもしれない。
───ただサッカー好きなだけ!だから見たいなって───
───へぇ。俺もサッカー部なんだ。同じクラスの室井さんでしょ?───
あのときから始まってたのかもしれない。
どうしてもっとはやく気づかなかったんだろう。
「俺、多紀に勝ったよ。絶対に負けたくないって思った」
「うん」
「音を取られたくなかった」
人ごみの少ない玄関で
冬の風だけがピュウっと吹き注ぐ。
「音が好きだ」
せっかく多紀がくれたチャンスを無駄にはしない。
おかげで自分の気持ちに気づくことができたんだ。
「え・・えっ?だって彼方はマネージャーと付き合ってるんじゃ・・・」
「マネージャー?付き合ってないよ。あいつはただの幼なじみ」
「えー?!じゃあただの勘違いっ?!」
「ばぁか」
ふっと笑う彼方。
そっか、彼方の彼女じゃなかったんだ。
でも、良かった。
ん?待てよ・・・ってことは・・・・・?
「あたしも・・・彼方が好き」
ずっとずっと見てた。
なかなか伝えられることができなかったこの気持ちを
まさか彼方も思っていてくれてたなんて、夢みたい。
好きな人が好きでいてくれるって、どれだけ幸せなんだろう。
「音の声届いた。そのおかげでシュート決まったんだ」
「ほんと?」
「うん」
憧れの存在だった人が
今、こうしてあたしの目の前であたしを好きだと言ってくれる。
あの頃のあたしには想像もできないよ。
「大好きだよ、彼方!」
諦めない気持ちが大切なんだって知った。
臆病なあたしは大嫌いだけど、そんなあたしを彼方が好きだと言ってくれたからあたしも好きになれるような気がするの。
好きって素敵。
恋って素敵。
だからあたしは「好き」に恋をしたの。
fin |