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東方神記録 作者:ドラゴン

地上の都

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その名は神、諏訪子

 彼女は暗い空間で目を覚ました。
 どこを見ようとも色は無く、それどころか体すら動かせない。
 手足を動かそうとすれば何か硬い物に当たり、体をどうかして動こうとすれば何かに阻まれる。
 目を覚ました女性、ゼウスは掌で硬い物の表面を触っていく。

(……んだ?材質的には石みてェな手触りだな、それが四方八方……)

 ゼウスは試しに息を思い切り吸い込み、声を出した。

「あっ!!」

 本人の思考とは不釣り合いな、高い声が放たれた。
 声は空気へ伝わり、ゼウスを中心として広がっていく。
 そして声は見事なまでに跳ね返り、またゼウスへと返っていく。

「いぎっ!?」

 反響してきた音のあまりの高さに、ゼウスは身をよじらせて耳を塞ごうとした。
 だが腕はそこまで動かないし、体もあまり自由には動かない。
 結局、ゼウスは一人暗闇で悶絶するハメになった。

「うっ……ぐぐぐぐ……あぁ跳ね返れ!!」

 彼女を中心とする、半径3m付近の物が吹き飛んだ。
 暗闇はそれと共に消え去り、同時に光が広がった。
 ちょっとしたクレーターと化した地面を蹴り、跳ね上がって平らな地面へ着地する。

「ふう、よし出れ……ん?」

 ゼウスは地面に降り立って少し気を緩めたが、その目には大量の人が映った。
 ゼウスを取り囲むように立っている人々は、目を大きく見開いて驚きの表情を作っている。

「……えっ、と?」

 首を傾げて、自分を包囲している人間達を見る。
 ほんの数秒、空白の隙間ができた。
 そして直後

「う、ああぁぁぁぁぁあ!?」

 一人の男の絶叫をスイッチとし、辺りの人々は散り散りとなって逃げた。蜘蛛の子を散らすよう、とは正にこの事である。
 まるで悪魔でも見たかのような人々の慌てように、ゼウスは首を逆に傾げて口を尖らせた。

「んー……ん?あれ、何があったんですかね?」

 目を瞑って理由を考えるが、ゼウスの頭には何も浮かんでこなかった。
 もともとゼウスは脳筋派で、敵を倒す事にしか才能が無かったし、それ以外を伸ばそうとしていなかった。
 他人の気持ちを汲むのは極端に苦手で、更にそこから何かを導き出す事など、まず出来ない。

(あー……俺が何かしやがっちゃったですかねェ……)

「って、ん?」

 ゼウスはスットンキョンな声を上げて膠着した。
 顔を青くし、汗をかいている。

(へ?ちょっと待って下さりやがれ……この反転の薬の効果が、まさか脳内にまで及んできていたりすんじゃ……!?)

 反転の薬により性別や能力、口調を変えられたゼウスだったが、脳内だけは一切変化をしていなかった。
 だからこそ、彼女は脳内ではいつも通りの汚ない言葉を使っていたわけだが……。
 ゼウスの脳内の言葉ですら、敬語になりつつある。

「え、あ、ちょっ、うあ!?」

 気付いたら暗い場所にいて、いつの間にか知らない場所で人に逃げられ、自分の異変に気付き、ゼウスの小さい脳みそはショートを起こした。
 戦うこと以外で、彼女が覚え切れる事柄はほどんど無い。
 戦場での適応能力は高いが、真面目な場所での適応能力は無に等しい。

 完全なコミュ症。しかも自分では気付いていない。
 それがゼウス。

「うー……なんか知らない場所で悪口言われた気が……」

 三人称視点、つまりはさくしゃの声に反応する辺りは流石『天空神』だが、状況が変わるわけではない。
 そもそもゼウスは気付いていないが、なぜか人がいる。
 人は確か何らかの物を使って宇宙へ飛び出した。
 つまり、この地球にはもう人間がいるわけがないのだが。

「ちょっとそこの君ー!!」

 そこに、一人の少女の声が響き渡った。
 ショートした脳で馬鹿なりに情報を整理していたゼウスは、予想外の声で肩をビクッと動かした。
 それが衝撃となり、まとめかかっていた情報の数々が手元から離れる。

「っと、ねえそこの、少し話をいいかな?」

 空から降り立ったのは、一人の少女だった。
 髪は金髪で、。青と白の壺装束を着ている。そして頭にはカエルのような目玉のついた帽子を被っている。

「えっと、さっき人が大量に逃げている所を見かけてさ、それで辿り着いた場所がここなんだけど、何か知らない?」

「えっと、ちょ、ちょっ、待、あ、え、あー」

 少女の質問に、ゼウスは更に混乱した。
 もう何をやったら正解で、何をやったらOUTなのか分かっていない。
 ゼウスは混乱する脳の中で、自分が一番正しいと思った事を行動することにする。
 天空神にして、戦闘脳のゼウスが取る行動。それはあまりにも単純なもの。

「え、と……『雷霆』!」

 ゼウスが宣言した瞬間、彼女の頭上に槍が現れた。
 先端が三つに裂けており、槍の長さはゼウスの身長である163cmの三倍。更にその槍の表面は赤い炎が渦を巻いている。
 ゼウスの持つ最高の武器であり、神々の武器の中でもトップの力を有する神器。

 いきなりそれを見せられた少女はギョッとした顔になるが、混乱したゼウスはそれを見ていない。
 彼女の考えたのは一つ。
 この辺りを更地にして、0にしよう。
 上空より落ちてくる槍を素手で掴み、力を発揮すーー。

「あへ?」

 と思われた直後、ゼウスの手から離れ、重々しい音と共に槍が地面に落ちた。

 空白の隙間がうまれる。

 ゼウスはゆっくりと腰を下ろし、その槍を持ち上げようと手をかけた。
 力を入れ、一気に上へ上げる。

 が、

「……あ、れ?」

 持ち上がらない。
 ゼウスはいま、女性の姿である上に、慣れていない体。
 上手く力を加えられないため、凄まじい重量の武器を持てないのだ。

「………」

「………」

 気まずい空気が流れる。
 諏訪子はどう声をかけていいものかと困った顔をしており、ゼウスは少し涙目になりながら必死に持ち上げようとしている。
 だがまあ、必死にもなるだろう。
 自分は考える事が出来ず、混乱して自分が唯一使える武力を酷使しようとして、出来ない。
 自分にある、ただ一つの武器が奪われたのだ。
 必死にならない理由がない。

「う、うう……!!は、跳ね返す!」

 その宣言は見事に機能し、槍は更に地中深くまで埋まってしまった。
 自分が能力を使える所を見て自信を取り戻そうとしたのだろうが、裏目に出てしまったようだ。
 触ることすら絶望的になり、膝を地面につけて落ち込む。

「えっと〜……なんか、ごめん」

 少女は頭を下げて謝った。
 ゼウスはゆっくりと顔を上げて、少女を見た。

「あっはは〜、私は大丈夫ですよ〜。ちょっと観光に行ってきまーす」

 力なく笑いながら、長いロープを片手に巨大な木のある方向へと歩いていく。

「ストップストップ!早まらないで!」

 少女は空に浮かび、フラフラと立ち去ろうとするゼウスを後ろから羽交い締めにする。
 正直、空気を取り込むことを必要としないゼウスからすれば、首を絞めた所で死にはしないわけだが、少女はそんな事知りはしない。

「し、しょうがない。神社に連れて帰ろう」

 そう呟き、空中に浮遊したままゼウスを持ち上げると、少女は高速で移動した。



ーーーーーーー

「えーと、その、お騒がせしてすみませんでした」

 畳の敷かれた六畳の部屋。
 そこの中心に置かれている木のテーブル近くに座り、ゼウスは頭を下げて謝罪した。
 その対に座る少女は、手を軽く振った。

「大丈夫大丈夫。別に気にしてないから」

 さっきまでの出来事を思い出してるのか、苦笑いをしながら少女は答える。

「そんな事よりさっきの武器、天空神ゼウスの物?」

「……なぜ分かるのです?」

「私は神だからね。同じ『神』の武器くらいは分かるよ」

 ここでゼウスは考えた。
 龍神から『ゼウス』の名を隠すように言われている。だが、目の前の少女は自分を『神』と呼んでいる。
 同じ『神』にはバラしていいのか、それとも『神』にもバラしてはいけないのか。

「と言っても、天空神ゼウスとは統括する場所も何もかもが違うから、実際の面識はないんだけどね」

 それにはゼウスも理解が早かった。実際にゼウスは少女に会った事が無い。

「私は諏訪子、ミジャクジを統括している神だよ。貴方は?」

 そう聞かれ、ゼウスは迷う。
 だがここで迷った結果、時間をとってしまえば怪しまれるだろう。
 つまり、出来るだけ迅速に答えなければならない。

「イ、イザナミノミコト……!!」

 結局、偽名を使ったゼウスだった。
 だが、その名を聞いた諏訪子は目をきらつかせて

「伊邪那美!?伊邪那美って、あの国産みの!?」

 ゼウスは石化した。
 恐らく、本当にいるなんて思っていなかったのだろう。
 そもそも何処かで聞いた事のある名前を適当に言っただけなのだろうが、諏訪子はそんなゼウスの心境など知らずに尋ねた。

「い、伊邪那美さん!!何か予定などがありますか!?無ければ是非とも手伝ってもらいたい事が!!」

 急に敬語に変わり話し出す諏訪子を見て、ゼウスは心の中で『ヤバイ』と呟いた。
 ここまで敬語を使われるということは、恐らく『伊邪那美』というのは高ランクの神。
 しかも畏怖で敬語を使われていない、いや、それどころか本物の敬意で敬語を使っている。

(おいおい、こりゃないでしょう。名前を偽って使ってたらヤバイんじゃ……)

 もし伊邪那美を信仰している神が多ければ、名を偽っていた自分は反感を食うのでは無いだろうか。と、不安がゼウスにのし掛かる。
 もうこうなれば早めに白状してしまった方が楽なのでは?という考えが芽生える。
 思い立ったが吉日、即座実行。

「あ、あの諏訪子さん?実は私はイザナミでは」

「お願いです伊邪那美様!このままだと、戦争で負けてしまうんです!!」

 戦争。
 その言葉を聞いたゼウスの目が光る。

「……話を詳しく」

 そのゼウスの言葉に、諏訪子が説明していった。






「ふぅむ……成る程」

 諏訪子から聞いた話を即座に情報体へと変換していく。

・諏訪子の所に神奈子という神が来た。
・この土地と信仰を明け渡せと言われ、諏訪子は当然のように反対。
・結果的に戦争となったが、諏訪子側には戦力が『ミジャクジ』と『諏訪子』のツーカードのみ。
・あちら神奈子側の軍勢は、約100を優に超える神の軍団。

 諏訪子から感じられる神力と、その情報から得られた情報で、ゼウスは一つのイメージを整えていく。
 諏訪子と敵軍が真正面から潰し合う光景をイメージし、動画のように二つの勢力を動かし合う。

 それは総計して、たった数十秒の思考。
 ゼウスはゆっくりと目を開き、諏訪子の目を見て言った。

「勝利は絶望的ですね」

「そうですか……やはり、困難ですかね」

「困難とかではなく、不可能です」

 戦争は数が一番の武器。
 諏訪子にはその『数』が圧倒的に足りてないし、恐らく個人レベルでの信仰も、大国である向こうには届かないだろう。
 戦い方次第で勝てるようなものでは無い。

「……いや、勝ち目ならありますね」

「え!?本当……ですか!?」

「とりあえず敬語は止めてもらっていいですか?」

 ゼウスは一息おいて、作戦を頭の中で描きながら言う。

「まず、一体一なら勝ち目はあります」

「え?……でも、あっちは大国で」

「だからこそ、です」

 諏訪子は首を傾げる。

「大国という事は人も多い訳ですが、あちらは神も多い。全ての人間が一つの神だけを信仰しているわけではなく、それぞれが好きな神を信仰している」

 ここまで言えば分かるでしょう?というゼウスの視線に、諏訪子は首を横に振った。
改めて説明を続ける。

「簡潔に言うとですね、『小さな土地だが信仰を一箇所に統一されている神』と『大きな土地だが信仰が分散されている神』。両者は恐らく互角レベルです」

 と言っても、やはり数の利はあちらについているのだ。
 単騎VS単騎ならば勝ち目があるが、軍隊VS単騎ならば勝ち目が無い。
 だが、ゼウスは薄く笑って、

「で・す・が、地の利ならば話は別。最近乗り込んで来た新参ものの神と、ここに住んでいる神。どちらが土地を知り尽くしているのか、なんて考えるまでも無いでしょう?」

「地の利……?」

「そうです」

 ゼウスは女性とは思えない程の獰猛な笑みを浮かべ、言う。

「協力しましょう。そして、見せてあげますよ。戦とは、決して兵力だけが武器ではないと」


 始まる。
 諏訪子VS神奈子の『戦争』が。
 『お互い』イレギュラーを混ぜて。
今回の話、遅くなってしまい申し訳ありませんでした!!
ゼウスの出した『武器』に活躍はあるのか……いや、多分ない←

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