オレンジの君へ(3/3)PDFで表示縦書き表示RDF


オレンジの君へ
作:ごん太



後編



 あの日の夕日――

 あの日の海――

 あの日の彼女――

 一つ一つ思い出しながら彼女のための音色を、頭に思い浮かべる。
 それを実際に音色にし、いつもの場所でバイオリンを弾く。

 今日は楽しそう

 今日は練習は休み

 今日は機嫌が悪そう

 彼女を見ながらバイオリンを弾くうちに、気付いたこの気持ち。


 君に伝えたい――



     ◆


 授業が終わり、生徒達が部活や帰宅のため教室を去って行くなか、真は机に頬杖をつき、すやすやと眠っていた。
 アリスは真の肩を揺らすと、それに目を覚まし真はしばし宙を見つめた。

「明石さん?授業終わりましたよ?」

 その言葉に反応すると鞄を持ち、勢いよく席を立った。

「それじゃあ、また明日」

「あ、ちょっと待って!」

 教室から出ようと歩き出したアリスを真が呼び止めると、その声に立ち止まり振り返った。

「午後の練習、付いて行っていいかな?」

「良いですよ。さ、そうと決まったら急ぎましょう」


     ◆


 太陽が街を淡くオレンジに染めはじめた頃、朝と同じメンバーが揃い、練習を開始していた。

「よし、交代!次、後輩ちゃんねー」

「はい。今日はでっかい本気でいきます!」

 高らかに宣言すると握り拳をつくり、オールを持った。

「おぉ、後輩ちゃんが燃えている!」

「アリスちゃん、頑張れ!」

 本気を出す!と言っても慣れた練習ルートのため、これと言って見せつけるところもないわけだが。

 進み出したゴンドラは、運河から細い水路へと入って行く。迷路のようなそこを巧みにオールをさばき、難無くクリアしていく。
 灯里と藍華はいつもの事のため落ち着いたものだが、真は踊るようなオールさばきに感嘆した。

「朝の練習でも思いましたけど、オールさばきは3人の中では一番…」

 真は藍華の睨みつける視線に気付き、とっさに口を閉じた。

「ふん、すぐに追い抜くからいいわよ!勝ち誇っていられるのも今のうちなんだからね!」

 藍華はビシッとアリスを指差し挑発するが、それにアリスはふんっと鼻で笑い余裕を見せつけた。

「藍華先輩が追い付く頃には、私はプリマ・ウンディーネになっていますから。残念でしたね」

「ぬなっ!?」

 アリスと藍華がむむむっとうなりながら睨み合い、灯里がそれをなだめていた。それを見ていた真はクスリと笑みをこぼした。
 それに気付き、藍華は真を睨みつける。

「あによ!?」

 藍華の迫力に押され、真はたじろぎ、それを灯里が『藍華ちゃん、どうどう』と、馬や牛でもなだめるように落ち着かせた。

「あ、あの……僕は親の仕事の関係で転校してばかりだったから、皆さんのような関係がうらやましくって…」

「そっか…。それじゃあ……はい!」

 藍華は白と緑のストライプリボンを小物入れから取り出し、真に差し出した。 アリスは、そのリボンに見覚えがあった。

 いつだったか、髪をまとめるためのお気に入りのリボンを無くしてしまった時、藍華が渡したリボン。
 その後、お気に入りのリボンが無事見つかり、藍華に返したもの。

「後輩ちゃんの使ってたリボン。今日の記念と後輩ちゃんとの友情の証!」

 リボンを受け取ると、バイオリンケースから弓を取り出し、持ち手部分に縛り付けた。

「白と緑のストライプが2人を表してるみたいで、なんだか素敵ぃ〜」

「恥ずかしい表現禁止!」

「えぇー!?そんな事ないよぉ。ね、アリスちゃん?」

 灯里の言葉にアリスは頬を少し赤くさせた。

「いえ、でっかい恥ずかしいです」

 真は3人のやり取りを微笑みながら見つめていた。

 夕日を背景にしたその光景を目にした時、何かを思い付いたのかバイオリンを弾きはじめた。

 流れ出した音色に3人は静まり、その音に聞き入った。
 落ち着いた音色が奏でるその曲は、通り過ぎる人やゴンドラがつい止まって聞いてしまうほど。

 演奏終了とともに、辺りから拍手が鳴り響いた。
 それに対し4人は適当に挨拶すると、急いでその場を離れた。

「あー、驚いた。…にしても良い曲だったわねぇ。感動しちゃった」

「うん!すごく素敵な曲!なんて言う曲ですか?」

「でっかい気になりますね」

 その質問に、真はアリスを見つめて答えた。

「黄昏の姫君、なんてどうですか?」

「黄昏の、」

「姫君?」

「それって…」

 灯里と藍華は、同時にアリスに向く。その視線に訳がわからないと言った感じで、アリスは首を傾げていた。


 1週間後、真は思いを秘めたまま、地球の学校に転校して行った。


     ◆


 それから、季節が巡り

 プリマ・ウンディーネとなったアリスのもとに、封筒に入れられたリサイタルチケットが送られて来た。 差し出し人の名前は無かったが、チケットを見ると自然と笑みがこぼれた。

 白と緑のストライプ柄のチケット。
 そこには一言、添えられていた。





 ―オレンジの君へ―


     完


短い連載でしたので、短編にしちゃえばいいんじゃない?と思われそうですが、ネタを絞るのに時間がかかったのでこうなりました。 作中ラストのチケットに書かれた一言はそのまま題名になっていますよ、って事だったんですが。わかりましたかね?わかりにくかったかなぁ。       もう一つ、白と緑のストライプ柄は、真とアリスの髪の色にかけてあるんですが、これもわかりにくいかなぁ。          最後に、「オレンジの君へ、この曲を送る」みたいな言葉が繋がるわけですが、そこは皆さんの想像にお任せします。       それでは、この次ありましたら、また呼んでやって下さい。













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP


小説家になろう