美少女に懐かれたい
女性向け恋愛シミュレーションゲーム、『七色の宝石』。
舞台は魔法と剣と貴族とその他諸々が入り交じったファンタジー世界、主人公はその世界のとある学園に転校してきた高校2年生。
学園で出会うタイプの違った7人の美形|(隠しキャラ有り)と恋愛を楽しんだり何だりする、王道ものの乙ゲーである。
何を隠そう我が弟ローランは、その攻略対象のうちの一人だ。謳い文句は[人とは違う音を聞く少年、若き天才ヴァイオリニスト ローラン=フェリール]。
笑っちまうぜ。いやヴァイオリンの才能については文句ないですけども! 人とは違う音って何!うちの弟何聞いてんの!
家名が違うのはそのうちローランが別のお家に養子に出されるから。
ローランと私が姉弟なのは知っていたが、よもやその上にもう一人兄弟がいたとは。
で。
私ことイルニアルカ・アイリアはそれに出てくる所謂噛ませ犬キャラ、リディア=アントワーヌ・フェイトルナ・フリージオ侯爵令嬢の筆頭女官というか、彼女つきの侍女だった。
ゲーム本編でリディアは主人公を虐めすぎて最終的に攻略対象の怒りを買う。イルニアルカはお嬢様の命に従っていろいろ暗躍していたのでそのお怒りに巻き込まれ、主と共に国外追放の憂き目を負う羽目になるのである。
そんな人生ごめんこうむる。
ごめんこうむるが、どうも回避策が見あたらない。一番良いのはリディア嬢の侍女にならないっていう選択肢だけど、そもそも私がリディア嬢の侍女になるっていうのは父親が先方の父親といろいろ懇意にしてた繋がりからで、あっちの父親がお前の娘を我が子の侍女にしたいといおうものならうちの親父には拒否権がない。
たとえ今回避したとしても、金も身分もそこそこしかない子爵家の娘なんて侍女としてどこかの家に奉公に出るしかないだろう。その時に声をかけられればまぁ案の定拒否なんてできない。
だって格差社会だもの。貴族とか怖い。子爵でよかった。上に行けば行くほど怖くなる世界。
彼女の侍女になることがもう決定事項、運命、回避できないことだとするのならば。
自分より周りの人間の愛を集めるから主人公を苛めるなんてねじ曲がった根性にならないように、こう―――――調きょ、ううんと教育?するしかないと思う。
ゲームで私もといイリアが追放の巻き添えを食ったのは、有能なのにお嬢様の命令を何でもはいはいと聞いたことに加えてお嬢様の根性がこの上なくねじ曲がっていたからだ。前者の理由がなくなった今すべきことは、駄目なことはちゃんと教える、ちゃんと叱る、それでも侍女という身分上強く命令されれば拒否はできないのだけれど、だからそういう馬鹿な命令をしないような性格にする。
まだ遅くない。
リディア嬢はローランの一つ上だから、まだ4歳。………いける。全然いける。今から行けば全然。人格形成にはまだ間に合うぞ………!
ゲーム全クリ特典で見られるミニストーリーで、リディア嬢とイリアの出会いはリディアが4歳の頃みたいな話してたからたぶんもうすぐ。
早ければ早いほど良い、けど自分からリディア様の侍女になりたいの!なんて言い出したら訳の分からない子認定をいただくこと請け合い。私まだ一度もリディア嬢のお話聞いた事ないしな!
はやく言い出せ親父!今となってはもう貴方が私にできることなんてそのくらいだぜひゃっほう!
目指せ平和な侍女ライフ!あわよくば美少女なお嬢様にイリア大好きよずっと一緒にいてねなんて言われちゃってなはっはー!!
とか騒いでた日の、翌々日の夜。
夕食時、家族5人全員が食卓についた瞬間。
父親が何か言いにくそうに口を開いた。
「……イリア、お前侍女の仕事に興味がないか?」
は い き た 。
興味!?ありまくりですお父様!!