電話再び
「それにしても、脅迫されている相手を病院まで運ぶなんて、不思議な奴だな」
長谷川が興味なさそうに言った。
「おまえ、そんなに女に甘いやつだったか?」
「こいつは特別だ。それに、こいつに脅迫されたんじゃない」
「じゃあ、例の電話は?」
「男の声だったからな。正体は知らんが」
「さっきの女は何者だ」
「…研究室の仲間だ」
「なぜ襲われた? 痴情のもつれか? 浮気でもしたか?」
長谷川はにやにやし始めた。
「そんなわけあるか。だいたい、その電話で指定された時間と場所にあいつはいたんだぞ。単なる偶然の可能性だってあるが、そう思うか?」
「確かに」
長谷川は辺りを見回した。学生が何人かいるくらいで、怪しい者はいない。とはいえ、相手の姿を知らないのだ。
「まあ、そんなことはともかくだ」
長谷川は俺をじろじろ見た。
「おまえ、腹とか刺されてなかったか!?」
「まあ、それほど深くはなかったからな。血は結構出たが」
「おま…それは浅いとはいわんぞ!」
「かすり傷だ。もう治った」
「…」
長谷川は俺のシャツの血のシミをじっと見た。
「さっきのを運んでいったのに、良く医者に何も言われなかったな」
「医者に見られなかったからな。あいつを置いてきただけだ」
「しかし、尋常じゃないぞ。腹を刺されて一時間もたたないうちに、治っただと…」
「まあな、元々俺は傷の治りが早いらし…」
俺の携帯が鳴り出した。取り出して画面を眺める。登録されていない番号。この間の男のものだ。一瞬画面をにらみつけてから、通話ボタンを押す。
「もしもし」
「狭山…翔一郎」
紛れもない、あの晩の男の声。怒りに目がくらむ。
「…おまえが現れると期待していたんだがな」
声を絞り出すと、相手は冷たく笑った。
「私はそんなことは言ってはいない。良く思い出してみることだ」
「ぐ…」
俺は一瞬黙り込んだが、すぐに言葉を続けた。
「とにかく、言うとおりにしたぞ。これからどうなる?」
「言うとおり…にはしていないようだがな」
のどの奥で笑うような声。
「おまえはどうも自分の都合の良いように、私の言葉を解釈しているようだな」
「それはおまえの方だろうが!」
「ともかく、これはペナルティに値する」
「どうするというんだ!」
「それは、そのうちわかる」
またも笑いを漏らすと、携帯は切れた。俺は携帯を地面に投げつけようとしたが、思いとどまった。
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