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あゆの風

作者:aaa
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14/03/29 08:11
彼氏
無題
 どうしてなぐったの?(笑)
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14/03/29 08:35
彼女
Re:
 ぶっ壊したくて(笑)
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14/03/29 08:37
彼氏
Re:
 扉を??
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14/03/29 08:40
彼女
Re:
 んーちょっと違うかも
 正直私にもわからない(笑)
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14/03/29 08:43
彼氏
Re:
 なんだそれ(笑)
――――ーーーーーーーーーーーーー

***

 無人駅の改札(改札といっても小さな駅舎の扉があるだけだけれど)を私は切符を持たずに通り過ぎる。別に不正乗車しようってわけじゃない。電車に乗るのは彼で、私はただの見送り。彼はちゃんと切符も買ったし、新幹線の切符も持っている。

「しばらく、この海も見納めだな」

 彼はホームを区別するためにたてられた、金網のフェンスに手をかけてそういった。
 この駅のホームからは海が望める。すぐそばには海水浴場もあって、夏になれば結構人で賑わう。浅瀬が長くて、水も綺麗な海だ。

「雪も、しばらく見れないんじゃないかな」

 もうすぐ四月になるというのに雪はまだ残っている。今日は比較的暖かくなるそうだけど、まだまだ寒い。その証拠に私も彼も、冬用の厚いコートを着ている。
 桜は蕾のまま。春の訪れはもっと先だ。

「あっちじゃ雪なんてめったに降らないもんな」
「それどころか大騒ぎだよ」

 何気ない会話。私は今、それを愛おしく儚いものだと思う。

「こっちじゃそんなのふつうのことなのにな」
「むしろもっとすごいもんね」

 そう言って私達は笑い合う。次はいつ、こうして笑いあうことが出来るだろうか。

 電車の走る音が刻々と大きくなってくる。こないで、と思う。電車は私の思いに応えてはくれない。電車は素知らぬ顔でホームに進入し、騒音を立てて停車した。彼は電車の開閉ボタンを押して扉を開く。

「それじゃ、いってくる」

 そういって彼は電車に乗った。

「……うん」

 いかないで。そう言いそうになって曖昧に返事をした。私はただ「またね」と言おうとしたのに。

「泣かないんだね」
「泣かないよ」

 泣いてしまったら、本当にお別れみたいじゃないか。

「泣き虫なくせに」
「……うるさい」

 彼の軽口に私はむくれて返す。彼は笑って、そして私の唇にそっとキスをした。

「それじゃ、いってくるよ」

 彼は再び、確認するように言った。

「うん。またね」

 今度は言えた。さっきの彼の軽口のおかげかもしれない。あるいは、キスのおかげかもしれない。笑顔を作ってまたねと再会の約束をする。そういった別れ。彼はきっとそれが一番だと思ってる。

 彼が扉の開閉ボタンを押して、扉が閉じる。彼は扉越しに手を降っている。

 電車が動き出そうとしている。彼がいってしまう。行ってほしくない。離れたくない。でも私は手を振り返さなければならない。私に電車を止めるすべなんてないから。

 私は腕を上げて手のひらをひらひらと振る。お別れのジェスチャー。

 これでしばらく彼に会えない。そう、しばらく、だ。永遠に会えないわけじゃない。そうわかっているのに、私の中は悲しさや寂しさで満ち満ちていく。泣いてしまいそうになる。手が震える。私はそれを隠すようにぎゅっと手を握りしめた。

 ――そして、思い切り扉をぶん殴った。

 いや、直前で怖気づいてとても弱く。そっと触れるみたいに。

 痛いと思った。

 私の腕は細くて短い。そして、弱い。それは身体的な意味でも。気持ち的な意味でも。私はだたのちっぽけな一人の女でしかないんだ。

 電車は私のことなど意に介さないように発進した。最後の別れ際、彼の少し驚いたような表情を私の網膜に焼き付けて。

***

 気がつけば、私は海の中にいた。
 海の中といっても波が膝に届く程度の場所だ。ご丁寧にも、きちんと履いていた靴とタイツは脱いであった。おかげで足は冷えきって痛いくらいだった。

 私は何をしているのだろう。馬鹿なんだろうか。こんな寒い中、海に入って何がしたいのだろう。わからない。私は私自身の行動の理由をまったく知らなかった。

 どれくらい時間が立っているのか確認しようと携帯を取り出すと、彼からメールが来ていた。

 なぜ殴ったのか――そう何でもないことのように、すこしふざけて書いてあった。気を使ってくれているのだろうか。

 そうだ。私はあの時なぜ殴ろうと思ったのだろう。考える。ぶっ壊してやろう。そんな感じだった気がする。私はそのことを彼と同じように少しふざけた調子で返信した。続いて、メールが来る。

『扉を??』

 疑問符が二つ付いているところに彼の当惑が見て取れる。

 電車の扉を壊したかった。彼と私とを隔てたそれを。

 あっているような気もするし、少し違うような気もする。私は一体何を壊そうとしたのだろうか。私はそのモヤモヤとした気持ちをそのまま文面に起こして返信した。次いで来たメールは『なんだそれ(笑)』だった。

 なんだそれ、だ。私もそう思う。わからない。さっきからずっとわからない。わからないから海の中でぽつんと佇み続けている。

 波が寄せては返していくのに合わせて、足元の白砂がさらさらと流れていく。冷えて悴んでいる足はその感触すらわからなくなっていた。

 ぽつりぽつりと雫が海面に落ちた。わからないけど、涙が出た。

「あれ?」

 思わずそう呟く。なんで泣いてるの。わからない。でも涙は次から次へと零れ落ちていく。

「なんで」

 止まらない。それどころかを増えていく涙の雫。

 私の中でなにかが壊れそうになっていた。激しい、わけのわからない何かによって。

 涙を拭う。嗚咽を唇を噛んでおさえる。鼻水をすする。でも止まらない。

 結局、私はそのわけのわからない奔流に耐えることができず決壊した。


 私は泣いた。情けない声まで出しながら、恥も外聞もなく、とにかく盛大に。それに伴って気持ちも奔流になって溢れてくる。そして、わかった。私が壊そうとしていたもの。

 馬鹿みたいだ。壊せるわけがないじゃないか。私が壊そうとしていたものは扉なんかじゃない。電車なんかじゃない。

 彼だ。彼とのすべてだ。恋人という関係も、今までの彼との思い出もすべて。

 私は逃げようとしたのだ。あまりにも辛いから。弱いから。すべて壊すことで、何もかもなかったことにして、彼を知らない私になろうと思ったんだ。彼と出会わなかった、「もしも」の私にだ。なんて愚かなことだろう。そんなありもしない「もしも」になろうとするなんて。

 私の中は彼でいっぱいなのに。こんなに恋い焦がれているのに。捨てられるわけがない。最初から出会わなければよかった、なんて思えるはずがない。

 できればそんなことを考えた私を海に沈めてやりたいと思った。もがき苦しんで冷たい海の中で死んでしまえと。

 それほど愛しているのに。ほんと私は馬鹿で浅はかで弱いだめな女だ。

「あいたい」

 酷い声で私は言う。

「あいたいよお」

 いまさっき、別れたばかりだというのに。でも、本当に会いたくて会いたくて仕方がなかった。

 今すぐに彼の顔を見たかった。彼に触れたかった。彼に抱きしめて欲しかった。彼にもう一度キスをして欲しかった。

 こんな調子で本当に大丈夫なのかと自分でも思う。今日の別れは終わりじゃなくて、始まりに過ぎないというのに。

 そう、これからが遠距離恋愛の始まりなんだ。そして、私はスタート直後に思いっきりずっこけて転んでしまったわけで。本当に手の施しようがない。

 海に向かって強い風が吹いている。私は彼を乗せた電車を風のようだとおもう。色んな物を運び、吹きすさぶ風。それは大切なものまでまとめて去っていく。

 次に彼を運んできてくれる風はいつ吹くのだろうか。夏になったら彼は帰ってきてくれるのだろうか。

 私は再び弱い心に囚われる。次なんて本当にあるの。彼はもう戻らないんじゃないの。

 私はにわかに焦りだす。次なんて待ってられない。今すぐにでも会えなければ私は死んでしまいそうになる。今すぐに会える確証がほしい。

 と、そこで思い至る。

 ――今から会いに行ってはだめなのだろうか。

 馬鹿だとおもう。阿呆な考えだと思う。次の電車まで一時間近く。彼の乗る新幹線には間に合いそうもないけれど、次がある。

 少し逡巡して、やがて私は決めた。今日別れて、今日会いに行くと。

 できるだけ秘密にしてやろうと思った。彼がどんな表情をするのか楽しみになったからだ。

 彼はどんな反応をしてくれるのだろう。笑ってくれるのだろうか。それともさっきみたいに驚いた顔をするのだろうか。それとも呆れられてしまうのだろうか。

 なんて頭の悪い行動だろうと自分でも思う。でもしょうが無いのだ。私は馬鹿なのだから。


 私は今、広い海の中で一人ぽつんと立っている。
 そして、背中を押すように海に向かって強い風が吹いていた。

***

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
14/03/29 14:24
彼氏
Re:
□IMG_0084.jpg
 そういえばみてよ
 もう桜が咲いてる
 さっき写真とっておいたんだ
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14/03/29 14:29
彼女
Re:
 みえるよ
 きれい
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14/03/29 14:32
彼氏
Re:
 でしょ?
 はやいよなあ
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14/03/29 14:35
彼女
Re:
 ちがう
 写真なんか見ないでもみえるよ
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14/03/29 14:40
彼氏
Re:
 ??
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14/03/29 14:47
彼女
Re:
 桜、咲いてるね
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「もしもし」
『はい、もしもし』
「ねえ」
『おう、急にどうした』
「迷っちゃった。迎え頼んでもいい?」

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