「夢を見たよ」
「どんな夢だい?」
「とても楽しい夢。あのままずっと夢の中ですごしてもいいくらいのね」
「そんなに楽しい夢だったんだね」
「ああ。だから目がさめた時はとてもさびしかったよ」
「終わりがあるから楽しいと思えたんだよ」
「どういう事だい?」
「終わりがない世界なんて虚しいだけだよ。それが夢でも現実でもね」
「そうかな? 楽しい夢ならいつまでも見ていたいものじゃないかな?」
「じゃあ一つ終わりの話をしようか。一人の少女の、終わりの話」
◇
一人の少女がいました
少女は幼い頃から体が弱くて
学校にいったり 友達とおもいきりかけ回ったり
好きなところに自由に出かけたり 好きなものを自由に食べたり
そんなことすら満足にできない体でした
少女は自由を求めました
最後に自由を求めました
誰も自分の病気のことを知らなくて
自分の意思で自由に行動することのできる
そんな場所を望みました
少女が望んだ場所 山奥にある診療所
少女はそこで ある少年と出会いました
そして少女は 恋をしました
少女はこわくなりました
自分がいなくなった世界を想像して こわくなりました
誰も自分のことを覚えていない世界
誰も自分のことを思い出してくれない世界
あの少年すら 自分のことを忘れてしまうのではないか
こわくて こわくて
少女は泣いてしまいました
わたしのことを忘れないで
そんな願いを 少女は星空にたくしました
少女と少年は 空の近くにいきました
いつもいる診療所よりも ずっとずっと空に近い場所
でも 神様はいじわるで
少女が望んだきれいな星空は そこにはありませんでした
雲のすきまの わずかに見えた光に 少女は願いをかけました
またこの人と この場所で 素敵な星空を見れますように
でも 神様はやっぱりいじわるで
少女のその願いは
叶えられることは ありませんでした
叶えられることは ありませんでした
少女が 終わりを迎えます
少女の物語が 終わりを迎えます
少年は少女を
あの場所に つれていってあげようとしました
少女にきれいな星空を見せてあげようと
あの場所に つれていってあげようとしました
少女が 終わりを迎えます
最後の力をふりしぼって
少女は 少年に伝えました
言えなかった想いを伝えました
声にならない声で伝えました
そして
少女は 終わりを迎えました
笑顔で 終わりを迎えました
少年は 少女をあの場所につれてきました
涙を拭いながら 少女に星空を見せてあげました
少女が望んだ星空が そこにはありました
どこまでも どこまでも
澄みきった星空が そこにはありました
どこまでも どこまでも
澄みきった星空が そこにはありました
◇
「どうだい? この少女はしあわせだったと思わないかい?」
「どうなんだろう? 少女はもっと少年と一緒にいたかったんじゃないのかな? 終わりなんか、迎えたくなんかなかったんじゃないのかな?」
「でも少女は笑顔で終わりを迎えたよ。少女の物語はこの終わりを迎えることでしあわせになったんだよ」
「そうかもしれない。だけど少年はどうなんだろう? 少年にとって少女の物語が終わりを迎えることはけしてしあわせではないはずだよ」
「少年の物語はまだ終わっていない。少年もいつか終わりを迎えることで自分の物語がけして不幸なだけじゃなかったと思うはずだよ」
「そうかなあ? 少年と少女はあのまま一緒にいた方が、ずっとずっとしあわせだったと思うよ」
「でも、少女の一番の願いは叶えられた」
「ああ、それはそう思う」
「少女は」
「少女は」
『忘れられたくなかった』
「少年は忘れない」
「少年は忘れられない」
「少年の心に深くやきついたから」
「少年の心は深くキズついたから」
「どっちだろうね」
「どっちだろうね」
あなたは思うだろう 少年と少女はしあわせだったと
アナタは思うだろう 少年と少女は不幸だったのではないかと
では、貴方は?
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