断たれた未来〜蘭サイド〜
「断たれた未来」を読んでから読むことをオススメします。
6月21日、この日はずっと嫌な予感がしていたの。空は気持ち良い程の青空が広がっているのに、私の心は、まるで霧が掛かっているように、その違和感を拭いきれずにいたわ。しかし今思うと、それは、これから起きる悲惨な出来事のほんの序章に過ぎなかったことを知ったのは、それから数時間後のことだったわ。
朝食を済ませて、1人で学校に登校している最中も、その違和感は未だに私の心に霧を掛けていたの。
私はこの霧に、ずっと首を傾げていたわ。
その時、後ろの方から、誰かが私に声を掛けて来たので、一旦そのことを考えるのを止めて、その声がした方に視線を移したの。すると、私の後ろには、テニスのラケットが入ったバッグを肩に掛けている、私と同じ位で、髪の色が金髪の女の子が立っていたの。そう、彼女は、私の幼馴染みであり、親友である園子だったの。園子は私に笑顔を向けながら元気にこう言ったわ。
「お早う、蘭!」
「お、お早う、園子…。」
私はさっきから抱いている違和感を頭の隅で考えていたせいか、園子の挨拶の返事が少し遅れてしまったの。それに何かを感づいた園子は、心配そうな表情をして私にこう言ったの。
「どうしたの?蘭。何か暗い表情をして…。何かあったの?」
園子の発言に対して、私は自分の顔の前で両手を振った後、慌てて弁解したの。
「べッ、別に何でも無いよ…。ただ、朝からずっと、心に違和感を感じるの…。それが何だかよく分からないんだけど……。」
そして私は、園子にそのいきさつを全て包み隠さず話したわ。園子は、私の話を聞きながらも、ずっと何かを考えているようにしてたのをよく覚えているわ。そして私の話を全て終えた時、園子は
「うーん…。」と唸っていたわ。
「これでこの話は終わりよ。何か分かった?園子……。」
「うーん…。ねぇ、蘭…。その“違和感”って、もしかして、新一くんのことじゃないの?」
「………えッ?」
暫く考えて出て来た園子の言葉は、あまりにも意外だったわ。でも私には、園子の言葉を否定することが出来なかったの。もしかしたら、その違和感の正体は、新一の身に何か起こるとも考えることが出来たから…。だけど私は、園子の考えを否定するようなことを言ったわ。私の中で、そんなことは無いとその時は思っていたから……。
「そ、そんなことは無いでしょ?あの大馬鹿推理之助の身に何か起こるなんて考えられないよ。」
「うん、確かにそうだよね〜。あの万年不在男に何かが起こるなんてある理由無いよね〜。」
そう言って舌をペロッと出しておどけた園子を見て、あまりの可笑しさに私はクスッと笑って、園子と色々と話しながら学校に向かったの。だけど、その時遠くの方で聞こえた小鳥の囀りが、私には異様なまでに不気味に聞こえてならなかったの。そう、まるで私達の考えを嘲笑っているかのように……。
園子と一緒に学校に行った私は、授業中にも関わらず、外を向いたままずっとその違和感の正体を考えていた。
(何なの?この違和感は…。まるで私の心に霧が掛かっているような感じだわ……。一体何なんだろう……。もしかして、新一の身に何か起こるとか…。ううん…、それは無いわ……。だって、あの大馬鹿推理之助は、そんなことで生命が危なくなるなんて絶対に無い!私はそう信じてるよ、新一……。)
その時の私は、必死になって、新一の身に何か起こるという考えを否定していたわ。
だって新一に限って、“死ぬ”なんて絶対にありっこない!って思っていたから…。
そんなことをずっと考えていたら、あっと言う間にお昼の時間になったわ。私は、違和感の正体を考えていたせいで殆ど取っていないノートを鞄にしまうと、変わりに朝作ったお弁当を取り出して、それを広げようとしたの。すると、一瞬自分の頭上が暗くなったかと思うと、親友の園子の声が聞こえて来たの。
「蘭、一緒に食べよう!」
「あ、園子。良いよ、一緒に食べよう。」
私は一瞬園子の見てその言葉に返事を返すと、直ぐさまお弁当の方に視線を戻したの。それを一部始終見ていた園子は、不思議そうな表情で私に言ったの。
「蘭、あんた、朝からずっと変だよ?授業中も殆ど上の空だったし、先生に指されても『えっ…!?すッ、スイマセン…。話を聞いていませんでした…。』の一点張りだったし…。どうしたの?何時もの蘭らしくないよ?まるで、心此処にあらずっていう感じだったよ…。」
「園子…。私…。」
「まぁ、大方、朝から感じていた違和感の正体をずっと考えていたってところでしょ?私には何となく分かったわ……。あんたがずっとそれを考えてたって…。」
「園子……。」
私は一瞬ドキッとした。
だって、私が授業そっちのけでずっと違和感のことを考えていたのを園子に見破られたから…。その時になって、私は園子に絶対に勝てないと思ったの。だって、私がどんなに隠し事をしたって、園子はそれを絶対見破って来ると感じたから…。そう、それはまるで、推理で事件を解決する新一のように…。そんなことを暫く感じていると、園子が
「ら〜ん?」と言いながら、私の肩を指で何度もつついて来たので、ハッと我に返った私は、驚いた表情で園子を見ていたの。そんな表情を見た園子は、一瞬私と同じく、驚いた表情をしていたけど、直ぐにニコッと笑うと、何時もの園子らしい、明るい声でこう言ったの。
「それよりも、早くお昼食べよ!もう私、お腹ペコペコ。」
「うん!そうだね。お昼、早く食べよっか。」
そう言って、私がお弁当を包んでいる風呂敷を空けようとした、その時だったわ。ある男子生徒が私達のいる教室のドアを慌てて開けるなり、教室内に響くような大声でこう叫んだのは……。
「たッ、大変だッ!!さっき先生のもとに電話があって、工藤が…工藤が道路に飛び出している子どもを助けた代わりに、車にひかれたって!!」「えッ……。」
その知らせを聞いて、私は一瞬頭が真っ白になったわ…。だって、新一に限って、そんなことは無い!って、ずっと思っていたから…。でも、その男子生徒は、更に続けてこう言ったわ。
「それで、工藤はそのまま病院に運ばれたけど、もう手遅れだったって……。」
「嘘ッ!?そんなの絶対嘘よッ!!?」
その瞬間、私は机をバンッと叩くと、無意識に叫んでいたわ。
信じたくなかった…。
“新一が死んだ”という事実に……。
認めたくなかった……。
もう二度と、新一と一緒に話すことも笑うことも出来なくなったという事実に……。
だって、認めてしまったら、私がずっと追い求めていた新一が消えてしまうと思っていたから…。
私は教室から走って出て行くと、無意識の内に病院に向かっていたわ…。
どんな道を通って来たのかは覚えていない…。
気がついたら、病院の前まで着いていたわ。
そう、新一が運ばれた病院の前に…。
私は病院内に入り、看護婦に新一がいる病棟を聞くと、急いでそこに向かったの。
そして何処か重苦しい雰囲気を出しているドアに手を掛けて、勢い良く開けたわ…。
新一が生きていて、そして笑顔で私を迎えてくれることを信じて…。だけど、私がそこで見たものは、永遠の眠りについた新一の変わり果てた姿だった。しかし、そんな姿を見ても尚、私は新一の死を受け入れられずにいた。そこにいる新一はただ眠っているだけで、どうせ新一は私を驚かせる為にやっていることだと思っていた。いいえ、そうであって欲しいと思っていた。
「新一?嘘だよね?私、信じないよ…。どうせ私を驚かせる為にやってるんでしょ?そんな私の顔を見て楽しんでるんでしょ?新一、目を開けなさいよ…、開けて、私の名前を呼びなさいよ!ねぇ、新一ッ!!」
私はそこで眠っている新一に向かって叫んでいたわ…。新一が目を覚まして、私を見て返事を返してくれることを期待しながら…。だけど新一は、私の声に反応することも無く、ただ黙ってそこに眠っているだけだった。私は目に溢れんばかりの涙を溜めながら新一に近付き、その肩を何度も揺すりながら、何度も新一に言ったの。
「ねぇ、嘘なんでしょ?新一…。私、そんなことをしたって、ちっとも驚かないわよ…。嘘だと言って…。嘘だと言ってよ!新一ッ!!」
そして暫くして、私はその場に崩れ落ちていたわ。大粒の涙を何時までも流し続けながら……。あれから10年が経って、私は27歳になった。あの後、私はお父さんや園子、新一のお父さんお母さん、阿笠博士、そして哀ちゃんがいるのにも関わらず、医者に向かって何度も叫んでいたわ…。
「返して!新一を返して!今すぐ返してよー!」って…。今思うと、あの頃の私はまだ心が幼く、そして新一に依存してたんだなぁ…。何時の間にか私の中で、新一の存在がとても大きかったのだと、新一がいなくなった今だからこそそう思えるようになったの。あの後、私は新一を失ったショックから学校に行かなくなり、部屋に籠もりながら、1人で泣いていたわ…。その度に、園子やお父さん、そして新出先生が私を慰めに来てくれていたのだけど、私はそれを頑なに拒否していたわ…。でも、そんな状態が続いたある日、私は泣き疲れていたのか、何時の間にか眠りについていたんだけど、その時、微かに声が聞こえたの。その声は、何処か暖かくて、優しい声だった。だから私は分かったの。その声の主は新一だっていうことが…。
『バーロ…。何時までも泣いてんじゃねぇよ…。園子達が心配してんじゃねぇか……。泣きてぇ気持ちは分かるけど、何時までも泣いてたら、オメェも先に進めねぇし、俺だって困るんだよ…。オメェが笑顔でいてくれねぇと、俺、安心して逝けねぇじゃんかよ…。』
だけど、私はその声に反して、まるで自分の気持ちを曝け出すように言ったの。
「だけど、私、これから何に頼って生きていけば良いのよ!私、新一がいない人生なんて、考えたくない!新一ッ!戻って来てよ!!私のもとに戻って…!!」
その時、私は次の言葉を失っていたの。
実際感触は無かったが、新一が優しく私の涙を指で拭ってくれた気がしたから…。私はそれが嬉しくて、つい言葉を失ってしまったの。実際には姿が見えた理由じゃなかったけど、何となく、新一が寂しそうな表情をしているのが分かったの。何となくだけどね…。そして、新一は私に、最後の言葉をくれたの…。そう、何時までも私の心の支えになる言葉を、ね…。
『蘭…、本当に悪かった…。必ず戻るって言ったのに、その約束を守れなくて…。でも、俺は何時だって蘭と一緒に生きて行く…。蘭が俺を忘れねぇ限り、俺はお前の中で生き続けるんだ…。だから、もう泣くな…。な?』
「新一…。」
『じゃあ、もう行くから…。蘭…、今まで待っていてくれて有難うな、そして、ゴメンな……。』
そして、その言葉を最後に、私は目を覚ましたの。そして、私は何時の間にか流していた涙を拭いながら決心したの。“もう二度と泣かない。そして、新一の分まで、精一杯生きて行こう。”と…。
それ以来、私は今まで休んでいた学校に行くようになり、一生懸命勉強し、高校を卒業した後、教師になる為に大学に進学、そして大学卒業後、晴れて教師になったの。
私は元々国語が得意だったから、国語の教師になり、現在帝丹高校で国語を教えている。そして、今現在、私は新出先生と結婚し、幸せな毎日を送っている。もし新一があの事故で死んでいなければ、新出先生との結婚を絶対に反対すると思うけどね…。
多分、今もあの世で恨めしそうに見てるんじゃないかしら?でも、新一だったら、私の幸せを心から願ってるのかもしれない。だって、新一は普段はキザで何処かクールじみているけど、本当はとっても心が優しいから…。私ね、そんな新一が大好きだったの…。今となっては、この言葉を言っても、何の意味も無いけどね…。
今日は、新一の命日の日。
私は昔、連絡を受けた先生に新一が死んだ場所を聞き、命日の度に来ては、お花を添えて祈ったの。
ねぇ、新一…。
最初私は、新一のことが忘れられなくて、新出先生のプロポーズを何度も断ったのよ…。私だけが幸せになっちゃいけないと思ってね…。でも、最後に新一が言った言葉に押されて、漸く新出先生のプロポーズにオーケーしたの。でもね、私はずっと新一のことが好きだよ。今までも、そしてこれからも…。だからね、新一…。何時までも私達のことを見守っていてね?
その時、優しく暖かい風が吹き抜け、私の髪を静かに靡かせて行ったの。まるで、新一が私の髪を優しく撫でたかのように…。
お早う御座います。ウォーターです。今回の小説は、“新一の死”をなかなか受け入れられずにいる蘭の視点から捉えてみました。しかし、女言葉は難しいですね。私女なのに…(笑)。評価・感想等お待ちしております。今回もこのような小説を読んで下さり、本当に有難う御座いました。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。
ついったーで読了宣言!
― お薦めレビューを書く ―
※は必須項目です。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。