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漫画喫茶の恋
作:大蔵裕司


干物女。最近流行っている言葉なのだろう。
私はそれにあてはまる。

大場理紗、24歳、フリーター。
夢・・・なし。貯金もなし、言いたくないけど・・・彼氏も今はいない。
そうは言っても高校時代、大学時代には、それなりにモテたのだ。
顔だって中の中くらい。妥協しなければ男にだって困らないだろう・・・と思う。

将来の夢もなにもなく大学卒業後はコンビニでバイトしている。
当然そのお金だけでは生活は苦しい。当初は大学時代の友達との遊びなどで服装代にもお金がかかった。
しかし今はもう最低限の容姿さえ確保できればどうでもいいとさえ思ってしまっている。

八万の家賃を払うことも厳しくなり私はしかたなく「漫画喫茶」で生活することになった。
ここにはシャワーもあるし、最低限の生活はできてしまう。
それも一日約二千円だ。

何も困ることは無い。ただひとつを除いては。

私のやめられない事。いやもう「癖」の領域だろうか。
それは・・・自慰行為だ。
中学生になり、友達と興味本位でやってみたこの行為に私ははまってしまったのだ。
一人暮らしならばいつ行為に至っても問題は無い。しかしそれが漫画喫茶となれば大問題である。
個室で別れてるとはいえここは立派な「公共施設」だ。
大声を上げるわけにも行かないし、あまり大胆にもできない。
・・・まぁそれでも今のところは毎日させてもらっているが・・・

この日も朝はバイト、夜は漫画喫茶。
もうこのサイクルが2週間も続いてる。
なんだかここのアルバイト店員には「住人」と呼ばれている様だが、私にはなにも気にならないしはずかしくも無かった。
この日もいつも通りの時間に漫画喫茶を後にする。
そしていつも通りの接客。
バイトを始めた頃は、きちんと接客できたか、相手にどう思われているのかが気になって仕方が無かった。でもそんな気持ちもどこかに飛んで行ってしまった。

この日も同じ時間に帰宅する。
「行為」を終え、目当ての漫画を探す途中に新しく入ったバイトらしい男の子とすれ違った。
若い臭い、澄んだ目。干からびた私の体に水が隅々まで流れるのを感じだ。
そう。この子の事が気になる。好みなのだと。

すぐに部屋に戻りまた行為に走る。
もしかしたら隣の部屋にも聞こえたかもしれないが、構わない。

それから彼がバイトに入る日は激しい「行為」が行われた。

その日にも彼がいるのを確認し、脳裏に焼き付ける。
そして行為にふけっている途中で不意に衝撃が走る。

「すいません。お客様の迷惑になるので・・・その・・・」
申し訳なさそうにも聞こえる店員の注意が入り突然現実に戻される。

「はい?」
何事も無かったように返事をする。そっと両隣の部屋を見るがだれもいない。
そんなに声も出ていないはず。・・・・なぜ

監視カメラ・・・
ごまかすように上を向く、そこには残念ながら丸いカメラのようなものが設置されていた。
これで確信した。アルバイトの男たち、いや、男女ともに私の行為を確認しただろう。
私は「住人」ではなく「変態女」のレッテルを貼られた気がした。
頭の中を整理するうちに血の気が引くのがわかった。


「・・・あの子にも見られてたのか・・・」
どこかに引いていった全身の血が顔に集まるのがよくわかる。
そして確信する。私は今恥ずかしがっている。こんな気持ちは何年ぶりだろうか。
そして私は思う。
やはり彼が好きだったのだ。
一般的にそれが「恋」といわれるかは置いとくとして・・・
しかしもうここにはいられない。どんなに小さな部屋でもいい。なんなら他の漫画喫茶でもいい。
早く彼から離れたい。

朝一番でここを出て行くことを決意した。そして悔やんだ。私の暴走したら止まらない「癖」を。

朝、精算を済ませる時の店員の顔が見れない。この太った男にも見られていたのか。
ニヤニヤしている。間違いない。こいつは見ている。
自分が情けなくなる。
世間はクリスマスだというのに。

精算を済ませ「彼」に気づかれないように出て行く。
町のあちらこちらで見かけるカップル達。
また今年も私はハズレか。
去年と何も変わらない。
いや、今年は違う。去年のクリスマスはテレビを見ながら行為にふけった。一昨年も。
今年は好きな男を思ってしたのだ。結果は去年以上に醜く残酷だったが・・・。
干物女にも間違いなく水が流れた。そう感じた。

彼は私を変態だと思っているだろう。でもこれが私だ。
顔が真っ赤になるのがわかる。
そのとき思う。高校以来の思い。
・・・思いを告げてから別れたい・・・。
でもできない。2年以上も干物だったのだ。無理も無い。
これで十分じゃないか。こんな気持ちに慣れたのはサンタさんのプレゼントだ。
「・・・ありがとう」

後ろで呼び止められる声がする。
彼だ。胸が高鳴る。あの夜の出来事が脳裏によぎる。

「・・・俺と付き合ってください」

何分くらい見詰め合っただろうか。いや、実際は数秒にも満たないかもしれない。
「何を言ってるの・・・?」
「だから、付き合ってって」
「冗談でしょ?からかわないで。」

「やっぱり気付いてなかったんだ。毎日あなたを見ていたよ。」

「え?」

「ほら・・・その、コンビニで働いてるでしょ?」

一日何百人と来るコンビニのお客。記憶力がいい人でも全員覚えるのは困難だろう。
なんの意欲も無くただ働いているだけの私は、気になる彼にも気づいていなかった。


「本気なんだ。バイト初日にあなたを見て驚いた。言おう言おうと思ってたんあなたがここに来ていた。」


「コンビニの時の私は私じゃない。あなたも昨日見たでしょ?・・・あれが私なの。」

「見たのは俺だけだ。あんなのどうでもいいんだ。君と付き合いたい」

「でも無理よ。私のは・・・癖だから。やめられないの」

「誰にでも癖はあるよ。そこも好きなんだ」

私は信じることにした。彼は嘘をついているかもしれない。でも関係ない。
この想いは止まらない。


 
彼とともに再び部屋に戻る。
入り口では太った男がニコニコしていた。

「お疲れ様です。店長」

この男が店長だったのか。売り上げ貢献をしている私を純粋に笑ってたのか。
心の中で謝ることにした。

何も知らない店長さんは言う

「メリークリスマス」 







 

「あ」

彼と私は同時に問う。

「名前なんですか?」














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