とある悪人の話
彼は生まれた瞬間から悪人でした。
自分の目的のためならばあっさりと他人を切り捨て、騙すことのできる人間でした。
彼のような悪人が生まれるような世界なので、当然の如く、神様に見捨てられていて、人間たちはお互いに疑心暗鬼に陥っており、誰も信じるということが出来なくなっていたのです。
そんな世界で、彼は自らの願いを叶えるために生きることにしました。
彼の願いを果たすためには大きな力が必要なので、彼は組織を作ることにしました。
彼は人を騙すのがうまかったので、あっという間に人は集まり、とても大きな組織が出来ました。
その組織を使って、彼はたくさんお金を稼ぎ、権力のある人間を買収し、たくさんの軍隊や強力な兵器を作りました。
やがて、彼が手にした権力、財力、軍事力は世界の中でも類を見ないほど強大なものになっていました。
彼は、その力を使って世界征服を始めました。
人々はお互いを信じられないので、強大な力を持った彼に対して戦いを挑むことも出来ず、あっさりと世界は征服されてしまいました。
やがて、彼は神様の居る世界も征服しようと、人智を超えた力を手に入れました。
神様はそんな彼を恐れ、彼が征服した世界にとある『希望』を落とします。
その『希望』はやがてその世界に生まれ、勇者と呼ばれる存在になりました。
勇者は人々に再び、『誰かを信じる』ということを取り戻し、今度こそ人々は団結して彼に立ち向かいました。
彼が作った組織はお互いを利用しあっているだけの烏合の衆にに過ぎませんが、勇者が率いた人々はお互いに信頼し合い、助け合っています。敵うわけが無かったのです。
それに元々、組織の人間のほとんどは騙されていただけなので、勇者の説得によってあっという間に組織の人間は勇者に寝返ってしまいました。
残されたのは彼と、勇者の説得に応じず、彼に従う奇妙な男が一人だけです。
そして、人智を超えた力を手にした彼といえど、勇者が率いる人々には敵いませんでした。
彼と、彼に最後まで従った男は、最後まで人々に抗いましたが、最後は勇者によってあっさりと殺されてしまいました。
彼が殺された後、彼と彼に従った男の魂は、神様がもっとも暗くて深い闇に閉じ込め、もう二度と彼のような人間が生まれないようにしました。
そして、彼が居なくなった世界では、勇者は英雄としていつまでも語り継がれ、信頼を取り戻した人々は幸せに暮らしました。
めでたし、めでたし。
何も見えない暗闇の中、最後まで彼に従った男は彼に尋ねました。
「そういえば、お前の願いって結局なんだったの?」
彼は苦笑しながら答えます。
「この世界が救われますように」
これは唾棄すべき悪人のお話です。
彼は自分の願いのために人々を苦しめ、神様さえもその手のひらの上で弄んだ、史上最悪の悪人でした。
彼の罪が許されることは無いでしょう。
しかし、それでも彼は世界の誰よりも誇り高く、誰よりも優しかったのです。
これは、そんな悪党のお話です。
一応、童話のつもりですが、全然話の内容が子供向けじゃないことに、書き終わった後、気づきました。