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廃遊園地のウワサ 作者:菱沼あゆ
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暗がりの自動販売機






 真っ暗な遊園地の中に、明かりのついた自動販売機が、ぽつんとあった。

 暗闇を自動販売機が明るく照らすという光景自体は、街中のそこ此処で見られるものなので、最初は違和感を覚えなかったのだが。

「……ねえ。
 なんで、これ、動いてるの?」

 飛鳥はその自動販売機を見て呟く。

 廃墟となっている遊園地に電気が通っているとは思えない。

 水も出ないのではないかと思うのだが。

「さっきからついてたか?」
と前のめりに、その自動販売機を見ながら、羽田が言ってくる。

 由真が、
「他にも自動販売機はあったが、動いているものはなかったな」
と言った。

 さすが、よく見ているな、と飛鳥は今更ながらに、園内を見回した。

 ところどころ、明かりが動いているのは、みんなの持っている懐中電灯の光だろう。

 月明かりと、時折、パチンコ屋さんのレーザーが園内を照らしているが、他に人工的な明かりは園内にはない。

「……恐ろしいな」
とその自動販売機を見ながら、羽田が呟いていた。

「なにがですか?」
と飛鳥は訊く。

 霊が恐ろしいとか言い出すのも妙だが。

 もしかして、いつの間にか、羽田さんの横に立っている見知らぬ小さな男の子のことを言っているのだろうか?

 そう思ったのだが、羽田は、自動販売機の下の方を見ながら、
「見ろ。
 明かりに寄ってきたのか、小さなカエルがたくさん張り付いてる。

 蜘蛛までいるぞ」
と嫌そうに言ってきた。

「ホラーですね……」

 阿呆か、お前ら、という目で由真が見たとき、こちらに背を向け、自動販売機を見ていた少年が振り向き、言ってきた。

 ――買ってよ、ジュース。

 買ってくれるって言ったじゃない。

 炭酸のブドウ。

 誰もが黙っていたが、やがて、羽田が口を開いた。

「悪ぃな。
 今、小銭ねえんだわ」

 ふうん、と言って、少年は闇夜を走って何処かに消えた。

 それを見送ったあと、飛鳥が言う。

「よかったですね。
 この自動販売機、お札もカードも使えるじゃん、とか言われなくて」

「……無駄に新しいな、この自動販売機」
と羽田が顔をしかめて言ってくる。

「まあ、五年前ですからね、此処が廃墟になったの」

「もったいないな。
 なんで此処に置きっ放しなんだろうな」

 この自販機、現役でいけるだろ、とどうでもいいことを羽田は呟いている。

「恐らく、中身はないと思いますが。
 あっても、五年前のじゃ、もう飲めないんじゃないですか?」

「ずるっとした新食感のジュースが飲めるかもしれないぞ」
と羽田は笑うが、

 いや、五年じゃそんなにはならないと思うのだが。

「そうだ。
 電気、もしかして、あれじゃないのか?
 さっきのおじさんちから引いてるとか」
と羽田が遠くに見えるおじさんの家の明かりを指差した。

「いや、勝手に引いたら、犯罪でしょ?」
「おじさんが許可してるのかもしれないぞ」

「なんのためにですか」

「……散歩中に喉が渇いたときのため?」

「そのために、此処に自販機、設置してるんですか?
 豪気な人ですね」

 っていうか、あのおじさん、此処、電気通ってないって言ってましたよ、と羽田とやり合っていると、由真が、
「おい。
 しょうもないこと話してないで、そろそろ行ったらどうだ」
と急かしてくる。

 行くぞ、という由真に、はいはい、と答えながら、飛鳥は、そうだな、そろそろ、次のスタンプをと思ってカードを見る。

 すると――。

「……あれ?」

 いつの間にか、三つ目のスタンプが押されていた。

 それを覗き込み、羽田が言ってくる。

「さっきの男の子が押してってくれたんじゃないのか?」

 可愛らしいリスかなにかのスタンプだ。

 そのスタンプを見ながら、由真が呟く。

「そういえば、気になってたんだが。
 島田たちは、七つスタンプを押せと言ったが、此処のウワサは七つあるが。

 そのうち、アトラクションに関係あるものは、六つだ。

 最後のひとつは、この遊園地で子どもが消えるというウワサ。

 何処で押すんだろうな、と思ってたんだ」

「島田くんたちのうっかりかもね」
と言うと、

「うっかりしそうだな」
とにこりともせず、由真が言う。

 うーむ。

 こんな綺麗な顔をしているんだから、もうちょっと愛想よくすればいいのにな、と思いながら、
「……じゃあ、今のは、ウワサに出てくる此処で消えた子どもなのかしら?
 気を利かせて押してってくれたとか?」
と言うと、

「どんな気の利く霊だ」
と羽田が言う。

 羽田はあの自動販売機のお札の投入口とカードをタッチする場所を見ながら、

「子どもだからチョロい……

 ってこともないか」
となにかを思い出したようにつぶやいていた。

「さ、行くか」
と羽田が飛鳥の背を叩く。

 霊だから、感じるわけもないのに、今、本当にその手が触れた気がして、振り返った。

 スーツを着た羽田は先に歩き出しながら、遠くを見つめている。

 その顔立ちが、随分はっきり見え始めていた。

 本拠地に来たからかな、と飛鳥は思った。






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