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廃遊園地のウワサ 作者:菱沼あゆ
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ジェットコースター前

 



「はいはい。
 此処に居たら、目立つから、とりあえず、門の中に入って、そこの案内所で待機な」

 島田にそう言われ、全員が門をくぐる。

 人数を確認するように門の前に立つ島田と神崎に、チケットを確認する係りの人みたいだな、とかつてのこの遊園地のにぎわいを思い出しながら、飛鳥は笑う。

 だが、飛鳥は気づいていた。

 鍵も壊れ、簡単に開けられる錆びた鉄の門のところに、二人とは違う、黒い人影が居ることに——。

 羽田は白っぽい人影で、うっすらその姿が見えなくもないのだが。

 この人影は真っ黒で、まったく表情も服装も窺えない。

 男のようだな、とは感じるが。

 だが、一箇所だけ、はっきり見えているものがあった。

 何故か頭にかぶっている麦わら帽子だ。

 その色だけが鮮烈で、あとは黒い。

 男の醸し出す雰囲気とその麦わら帽子がまるでマッチしていなくて、異様な感じを受ける。

 その黒い人影は、入っていくみんなに、

「おかえり……」
と言っていた。

 飛鳥たちが通るときも、

「……おかえり」
と言う。

 顔も見えないのに、目が合ったな、と感じたそのとき、霊が、ニィッ……と笑った。

 飛鳥は門をくぐったあとで、その姿を振り返り見ていたが、霊が居ても気にしない由真も、霊である羽田も彼を振り返ることはなかった。

 羽田に至っては、そこに霊に居ることにも気づいていない感じだった。

 前から思ってたんだけど、羽田さんって、霊のくせに、霊に対して鈍いような……。

 そんなことを考えながら、飛鳥は案内所の建物の横に立つ。

 壁にはこの遊園地のマスコットであるショッキングピンクのウサギの絵があった。

 みんな、それぞれに話しながら、順番を待っている。

 ……っていうか、この場で怪談はやめろ、と暗闇での怖い話にめちゃくちゃ盛り上がっている、まゆたちの方を見た。

 続けて出たのでは面白くないので、前の人から、かなり間隔を空けて出る。

 六番の飛鳥たちは、なかなか順番が回ってこず、暇だった。

 飛鳥は案内所の中を、土埃でくもったガラス窓から覗く。

 人が居なくなるだけで、どうしてこんな状態になるんだろうな、と思うくらい、物が散乱していた。

 誰かが勝手に入ってひっくり返したりするのかな?

 それとも、犬とか猫とか、ケモノとか、と思っている横で、羽田は由真に向かい、いろいろと愚痴っていた。

 最近、足腰が悪いが、もう年だろうかとか。

 いやいや、貴方、霊ですし。

 っていうか、姿はよく見えないけど、まだお若いようなんですが、と思っている間、由真は無言で羽田の話を聞いていた。

 みんなが居るので、相槌を打つことができないからだ。

 由真を寡黙で、ぼーっとしているとみんな思っているが、それは話している相手が、人前で返事のできない相手だったり、見つめている相手が、人には見えない相手だったりするだけではないのだろうか。

 そのとき、
「ほら、六番カップル、行け」
と島田に言われた。

「お前ら、いつも一緒なのに、新鮮味がないだろ」
と神崎が笑って送り出す。

 もうすぐ花火が上がるなーと思いながら、飛鳥は夏とはいえ、かなり暗くなってきた園内を歩く。

 時折、放置されている薄汚れたパンダの乗り物とかが怖い。

 お金を入れたら動くヤツだ。

 なにか、あっちの方で動いているのがある気がするのだが、と暗闇の中で動くクマかパンダのシルエットを遠くに見ながら飛鳥は思った。

 きっと先に出発した誰かがお金を入れたんだな、と思うことにした。

 動くときに流れる音楽が微かに聞こえてくる気がして、怖い。

 そんなことを思いながら、案内所を出てすぐの水の出ていない噴水の前に、飛鳥たちは行った。

 色褪せ錆びた園内の地図がある。

 由真が持っていた小型のLEDの懐中電灯でそれを照らしてくれた。

 その真っ白な光に、
「明るすぎて情緒ないね」
と苦笑いすると、

「じゃあ、ランタンか手燭でも持ってこい」
と飛鳥の手にもある懐中電灯を見ながら、由真が言ってきた。

 子どもの頃は少し高く感じた地図の看板が今は目線より少し低い。

 子どもに見やすいように作ってあるからだろう。

 それを眺めながら、
「えーと。
 最後の観覧車以外、何処から回ってもいいんだっけ?」
と呟く飛鳥の横で、羽田が、

「ジェットコースターとかどうだ?」
とウキウキした調子で言ってくる。

 なんだか楽しそうだな……。

 動いてないけど、ジェットコースター、と思いながら、

「そういや、ジェットコースターの噂ってなんでしたっけ?」
と羽田に訊く。

 由真が、
「ジェットコースターで昔、事故があったって言うんだろ?
 だが、事故があったということは、みんな知っているのに、どんな事故なのか、誰にもわからない」
と言いながら、もうジェットコースターに向かい、歩き出していた。

「誰に聞いても、話が違うって言うんだっけ?
 新聞でも見ればわかりそうな気がするのにね」
と言う飛鳥の言葉に、

「そうなのかー」
と他人事のように言いながら、羽田は付いてくる。

「あのー、羽田さん……」
と飛鳥が呼びかけると、由真が、どうした? という目でこちらを見た。

 いや、ちょっと気になっていることがあるのだが……。

 まあ、いいか、と思いながら、飛鳥はすぐにたどり着いたジェットコースターの前で足を止める。

 巨大なジェットコースターが、時折、パチンコ屋の紫色のレーザービームに照らし出される。

 今は動いていないそれは、暗闇でじっとしているオロチかなにかのように飛鳥には思えた。




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