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廃遊園地のウワサ 作者:菱沼あゆ
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ゴールだ、飛鳥

 



 真横に麦わら帽子の男が立っている。

 スタンプも押さないまま、ミラーハウスを見上げ、飛鳥は呟くように言った。

「私もミラーハウスに入ったからかしら」

 血の付いたスーツを着た羽田も由真もこちらを見ている。

「私も前居た私とは別人なのかしら?
 私はそんなウワサを広めた覚えはないんだけど――」

 それにさっき、ミラーハウスの話をしたとき、まゆが、きょとんとしていた。

 自分の知っているミラーハウスと、みんなが見ているミラーハウスは違うのかもしれない。

 そのまま無言で、まだ花火の上がらない闇夜に佇むミラーハウスを見ていると、
「……行ってみるか」
と一度目を伏せた由真が言った。





「気をつけろよ。
 鏡に触るな。

 倒れてきたら危ないから」
とうっすらと埃の積もったミラーハウスの中を歩きながら、由真が言ってくる。

 密閉された空間の中、独特の匂いがした。

 湿った感じではない。

 此処は天井が少し光を通すような素材でできているので、昼間は蒸された感じになる。

 その上から差し込む太陽の光が、鏡をキラキラと輝かせて、いい感じだった気がするのだが。

「……なんかタッパーの中に居るみたいな匂いがする」
とまだ昼の余熱の残る中で飛鳥が呟くと、由真の後ろに居る羽田が血まみれのまま笑った。

「タッパーの中に入ったことあるのか?」
と言って。

 今は月明かりとLEDライトでしか中の様子は窺えないが、そのせいで、本当に自分が無数に立っているように見えて怖い。

 ミラーハウスのウワサを流した私もこの中に居るのだろうか、とふと思ってしまう。

 此処に居る私の数だけ、別の真実がありそうだ、と思いながら、進んでいると、
「この辺りだった気がするんですが」
と突然、前を歩く由真が言い出した。

「そっちから気配がするな」

 そう羽田が言う。

 そのとき、後ろから男の子が駆けてきた。

 一気に自分や羽田たちの身体を駆け抜けていく。

 霊だとわかっていても、ハッキリ見えている子どもに身体を通り抜けられると、ぞわっと来た。

「あっちのようだな」
と羽田が子どもが行った先を指差す。

 突き当たりにある鏡だ。

 そこにも自分や由真が映っていた。

 羽田も何故か最後尾についてきていた麦わら帽子の黒い男も映ってはいない。

「今の子……。
 自販機のとこの子ですね」

 そう飛鳥が呟くと、
「そうそう。
 ジュース買ってやるって言ったんだったよ」
と羽田が昔を思い出すように言っていた。

 由真が、
「あの自販機で、神崎たちは買えたみたいなんで、あとで買って、彼にあげておきますよ」
と言うと、頼むわ、と言っていた。

 由真は少年が駆け抜けた先にあった突き当たりの鏡の前に行く。

 そして、その鏡の端に手をかけた。

 それは奥へとぐっと動いて新しい道を作り出す。

 その中を確認しながら、由真が言った。

「このミラーハウス、可動式なんだ。
 迷路の形を変えたり、トラップが作れたりしたようだ」

 そのとき、羽田が、
「じゃあ、この辺で」
と言い出した。

 由真は無言で頷く。

 えっ? と飛鳥が振り向くと、
「いやあ、意外に繊細なんでな、俺」
と羽田は苦笑いして言ってくる。

 いや、血まみれでウロウロしている人間に繊細とか言われても、と飛鳥は思っていた。

 羽田はずっとこの姿でウロついていたのだ。

 自分の脳が拒否していただけで。

 此処へ来て、羽田の姿がはっきり見え始めても、黒いスーツ、としか認識していなかった。

「あの日、子どもが走って逃げたから、此処、開いたままになってたんだな」
と由真が言う。

「そして、運悪く、この中で迷って俺とはぐれたお前が遭遇してしまった。

 誘拐犯の羽田さんたちと」

 そうだ。

 この先にあったんだ。

 ミラーハウスの突き当たりが。

 それを自分はゴールだと思った。

 いや、ゴールだと言った人間が居たからだ、と由真を見上げる。

 その由真は道を確かめるように、鏡に手をつきながら進み、曲がり角を曲がって、その先を差した。

「ゴールだ、飛鳥」

 そこにはボロボロのスーツを着、白骨化した男が鏡に寄りかかるようにして、座り込んでいた。

 まるで実体のように見える霊の羽田は鏡に映らないのに。

 この世ならざるもののように見える骨の羽田の方が映っているのが不思議な感じがした。

 そのとき、耳許で、ぼそりと声が聞こえた。

「死体があるだけいいよなー」

 振り向くと、あの麦わら帽子の男だった。

「貴方は平気なんですか」
と由真が彼に訊く。

 平気、と彼は言った。

「見ておかねばならんと思うからねー」






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