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廃遊園地のウワサ 作者:菱沼あゆ
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黒い男

 



 飛鳥たちがミラーハウスの前にたどり着いたとき、また、神崎たちと出くわした。

 ミラーハウスの中を覗いて、まゆがきゃーきゃー呑気な悲鳴を上げている。

 結局、上手くいったのだろうかな? この二人は。

 そこのところは、怖いウワサより、謎な感じだが、と飛鳥が思っていると、振り向いた神崎は、
「スタンプは此処だぞ」
と入口横にある台を示したあとで、

「よお。
 お前ら、あと何個だ?」
と訊いてきた。

 由真が、
「残り、三つかな。
 此処を入れて」
と答えると、

「そうか。
 俺たちはあと二つだ」
と言ったあとで、神崎は、おや? と首を傾げる。

「待てよ。
 あと、メリーゴーランドだけのはずだよな。
 もうひとつなんだ?」

「いや、神崎くん、最後は観覧車じゃないの?」
と飛鳥が訊くと、観覧車はもう通った、と言う。

「島田の霊が騒いでいたな」
とさらっと流すので、こいつも素通りしたのか、と思った。

 っていうか、叫ぶ悪友をスルーして、スタンプ押してきたのか……。

「あ、そういえば、このミラーハウスの怖いウワサってなんだっけ?」
と唐突に、まゆが訊いてきた。

「ミラーハウスに入った人間が、何人か別人のようなって出てきたって言うんだろ?
 まるで中身が入れ替わったみたいに」

 珍しくすぐに由真が答える。

「別人のようにって、どんな感じなのかな?」
と言うまゆに、飛鳥が、

「怖くて、顔色が悪くなってたとかじゃないの?」

 前に誰かがそう言っていた気がする、と思いながら答えると、まゆは、きょとんとして、
「ミラーハウスなんて怖くないじゃない。
 まあ、たくさん自分が居て気持ち悪いし、中、迷路になってるから、出られなくて、ぐるぐる回って迷子になっちゃったりもするけどさ」
と言ってくる。

「……でも、ミラーハウスって、ゴールに」
と飛鳥が言いかけたとき、由真が、

「ほら、早くスタンプ押さないと、花火が上がるぞ」
と言ってくる。

 あ、うん、となにかが気になり、生返事をしたとき、まゆが、
「あ、そうだ!」
と声を上げた。

「そういえば、私、最初に飛鳥から聞いたんだよ。
 ミラーハウスの怖い話」

 えっ? と言うと、
「間違いないよ。
 六年のとき、閉園前の此処にみんなで来たあと聞いたんだから」
と言って、自分で確認するように、うん、と頷く。

「うちの学校では、一番最初に飛鳥から聞いたよ。
 塾とか入れても、それが最初かな」

 自分で広めといて忘れるなんて、飛鳥らしい、と笑われた。

 ……私?

 私が言ったって……

 此処のウワサを?

 一番最初に?

 ミラーハウスに視線を戻そうとしたとき、こちらを窺うように見ている由真と目が合った。

 そのとき、ガガッと上の方で音がした。

「なに?」
とまゆが見上げる。

 ……スピーカー? と一緒に見上げたとき、園内のあちこちにあるスピーカーから、音がし始めた。

 雑音のようなものがもれ聞えてくる。

「なあ、此処、やっぱ、電気通ってねえ?
 さっきの自販機も動いてたし」
と缶ジュースを手に、神崎が言ってきた。

「えーと。
 あの、神崎くん。
 そのジュースはもしかして……」
と飛鳥がおそるおそる訊くと、

「ああ、さっき、そこの自販機で買った」
と神崎はケロッと言ってくる。

「やめなよって言ったんだけどねー」
と苦笑いするまゆの手にも、缶ジュースがあった。

 つぶつぶオレンジを一口飲んで、
「普通に美味しいよ」
と言ってくる。

「ある意味、最強のカップルだな……」
と由真が呟いていた。

 そのとき、突然、軽やかな音楽がスピーカーから流れ始めた。

 いつか聞いたことがある、と思ったら、この遊園地のテーマソングだった。

「いやーっ。
 出たーっ」
とまゆは叫ぶが、特になにも出てはいない。

 まあ、曲が可愛らしいだけに、怖さをあおってはいるが……。

 あちこちのスピーカーから流れているのか、そのテーマソングは園内に響き渡っているようだった。

 何処でも鳴っているから、逃げても無駄だと思うのに、騒いで駆け出したまゆを、
「どうしたっ!?」
と神崎が追いかけていき、二人は消えた。

 なんとなく口ずさみそうになるテーマソングを聞きながら、飛鳥は呟いた。

「ねえ、この状況で、どうした? っておかしくない?」

「神崎にとっては、おそらく違和感ないんだろ?
 遊園地だから、遊園地のテーマソングが流れて当たり前、とか思ってそうだ」
と由真は言ってくる。

 神経が太いのか。
 無神経なのか。

 どちらにしても、やはり、最強、と思ったが、なにかが気になり、飛鳥は耳を澄ましてみた。

 派手に流れるテーマソングの陰で、もうひとつ、なにかが流れている。

 お経のようにも聞こえる、つらつらとなにかを読み上げているような声。

 飛鳥は目を閉じた。

 メロディの下にかき消されそうな、その声すべてを聞き取ろうと――。

 それは、女性の声だった。

「……迷子のお知らせです……

   ……を着た……歳くらいのお子様を……」

 延々と繰り返されるテーマソングと同じに、迷子のお知らせが繰り返されているようだった。

 なんとなく後ろを振り返る。

 黒いスーツを着た羽田が、丸い花壇の前に、まるで生きた人間のように立っていた。

 こうして見ると、結構男前だな、と思ったのだが、それより目に付くものがあった。

 羽田は全体的に黒い色のスーツを着ている、と思っていたのだが、そうではなかった。

 羽田のスーツは乾いた血で赤黒く染まっていた。




「……迷子のお知らせです……

   ……を着た……歳くらいのお子様を……」



 そのとき、耳許で声が聞こえた。

「オカエリ――」

 入り口に居た、あの麦わら帽子をかぶった黒い男が飛鳥の真横に立っていた。



「……を着た男の子を探しております。
 お心当たりの方は、ミラーハウスまでお越しくださいませ」
という声だけ、はっきり聞こえてきた。






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