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お嬢様と秘密の恋。 作者:庚 真守
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銀の雲と令嬢

 そもそも編入生の存在が珍しい学校において、二人の編入生が同時期に同学年というのも目立つ。さらに同じクラスになるとは、あきらかに偶然などではない。
 犬飼校長が言っていたことにしろ、まさか本当にそこまでやるとは思わなかった。
 すべては“お嬢様”を思ってのことだろう。
 それも萌花にしてみれば、よけいなお世話でしかない。
 よりにもよって編入生二人は、教卓の正面の席に並んで座ることになる。元から空席だったわけではない。編入生のためだけに用意された席のようだ。
 事情を知らない真雪まで巻き込んで萌花は、心苦しい思いだった。

 当然、この特別扱いを面白く思わない生徒もいる。
 業間の休み時間になったとたんクラスメイトたちは、いっせいに真雪の周囲に集まった。
「姫宮さんって、すごいのね。編入試験すべて満点ですって」
「おきれいでいらっしゃるから、前の学校でも人気がおありだったんでしょ?」
「姫宮さんのお祖父さまって、皇室の祝典舞踊を踊ったんですって? 人間国宝の八姫流のお家なの?」
 話しかける声は、口早で真雪本人ですら返事をするいとまもない。
 ぼんやりと隣の席で聞いていたが、あらためて真雪という存在に遠さを感じた。
 隣の萌花のことは、まるで透明人間のような扱いだ。

 ――前の学校とノリも全然、違うな……。
 何より萌花が驚いたのは、誰もがお嬢様言葉だということだった。
 挨拶は、いつでも“ごきげんよう”
 初めて聞くと笑ってしまいそうになるが、ここではそれが当然のことである。少数派(マイノリティー)は、萌花のほうだ。
 自分が“お嬢様”たちとは別の世界に生きているのだと、今さら思い知る。気が付けば一人取り残されていた。

 ――ダメだ。待っていたら! こっちから声をかけなきゃ。
 昼休みまでこの状態だったらいわゆる“ぼっち飯”という状況になりかねない。そう思うと萌花も必死になった。
 最初に仲良くなろうとした真雪には、すでに親衛隊でもできそうな勢いで近寄ることもできない。なまじ席が近いばかりに、自分の椅子に座っているだけで邪魔者扱いされてしまう。

 正面は教卓。隣は人気者の真雪。そこで萌花は、後ろを振り返った。
「あ、あの……さ、西園寺さん?」
 背後の席にいるのは、賢そうな少女だ。一度、萌花が指されて答えられない問題を代わりに答えてくれた。
 真雪ほどではないが人目を惹く美貌。西園寺という名字からしても、どこか名士のお嬢様らしい。
「……ごめんなさい。わたし、舞台のお稽古があるの」
 渾身の勇気を振り絞って声をかけたもののその返事は、そっけなかった。
「舞台?」
「演劇部なのよ。今度の文化祭では“ロミオとジュリエット”をするの。だからタイヘンよ。お昼休みもないんですもの」
「そ、そうなんだ……」

 ――文化祭。今から練習しているんだ……。
 そういえば、前の学校でも吹奏楽部の子がお昼休みも練習するために、いつも早弁をしていたのを思い出した。
 この学校で早弁をしているような生徒は見かけなかったから、おそらく練習の合間に急いで食事を摂るのだろう。

「じゃあね。宇佐見さん」
 返事をするのももどかしそうに西園寺は、あわてて立ち上がった。
「う、うん……じゃあ、また……」
 急ぎ足で教室から出て行く西園寺を見送りながら萌花は、一人取り残された。

 ――忙しいときに声をかけて悪かったな……いや、めげてる場合じゃない。
 気を取り直して萌花は、さらに後ろの席にいる三つ編みの生徒へ声をかけた。
「あ、あのね。よかったら、一緒に……」
「ごめんなさいね。わたくし、お約束があるの」
 三つ編みの生徒もあわただしく立ち上がる。まるで避けられているかのようだ。
 気がつくと周囲ではグループごとに弁当を開いている。隣の席にいた真雪もとっくにいない。
 萌花は、弁当を持ったままその場で竦んでしまった。
 今さら、どこかに入れてくれとは言いにくい雰囲気が出来上がっている。
 以前の学校なら、どこかのグループが声をかけてくれたものだ。

 ――……編入生ってこんなものなの?



 仕方なく萌花は、教室を出た。どこか一人でも弁当が広げられる場所を探すつもりだった。

 ――美少女のお友達が出来たと思ったんだけどな……上手く行かないよね。
 昔、観た映画では窮地に陥った主人公が言うセリフがあった。
“どんな雲にも銀の裏地がついている”
 雨雲もその上には太陽が照っていて銀色に輝いている……という意味だったと思う。
 どんな出来事や失敗にも必ずプラスの面(銀の裏地)があるから、それを見つければいい。
 とりあえず思いついた先は、中庭と屋上だった。
 ランチと言えば、学生食堂だろうが一人で入る勇気がない。
 まだ慣れていない校内だから中庭を探すより屋上のほうが早いだろう。そこまで考えると萌花は、階段を昇って行った。

 屋上とはいっても安全のため、たいていは閉まっている。それならその手前の踊り場でも構わない。
 踊り場のそこかしこには小さな聖母子像や天使像が置かれおり、壁や柱には細やかな装飾がほどこされている。
 階段を昇りつめ、屋上へ出る両開きの扉の前にたどり着く。意外にも扉に鍵はついていない。
 普通なら南京錠でもついているところだ。
 銀色のドアノブを回して押し開くと、もわっとした外気が顔に当たる。

「やっぱり暑いなぁ」
 ――こんなところでお昼ご飯は、やっぱり楽しくなさそう。せめて雰囲気のいい場所探そう……っと。
 そう思って、踵を返そうとしたとき、背後から肩をつかまれた。
「当たり前だろう」
「う、うわっ!」
 驚いて振り返るとすぐ後ろに犬飼小太郎がいた。
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