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お嬢様と秘密の恋。 作者:庚 真守
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令嬢運搬される

 放課後になると萌花は、クラブ見学のために体育館に向かった。
 冷房の完備された広い館内だが、運動部の熱気でムンムンしている。
 バスケ部。バレー部。体操部……。女子ばかりだというのに迫力は男子にも勝る。
 広い体育館とはいえ、すべての運動部が練習できるわけではない。武道場もある。

 ――運動神経が壊滅的なあたしには、無理かも……。

 早々に諦めて、体育館を出ようとした時だった。
「危ない!」
 悲鳴に近い声に驚いて立ち止まった瞬間、ものすごい衝撃がきた。





「しっかりして、大丈夫?!」
「ダメよ。目をまわしちゃってる!」
「揺らしちゃダメ! 起きないで! 誰か、保健室へ」
 眼の中で火花が飛んでいる。
 放電するような閃光が収まるとようやく目の前の大勢の人の顔に気付く。
 知らない顔ばかりだが、ユニホームを見てようやく彼女たちがどこかの運動部だということが分かる。
 起き上がろうとすると、後頭部に鈍い痛みがある。顧問らしい先生に押しとどめられた。
「起きないで、脳震盪起こしているかもしれないから!」
 ――脳震盪?
 見学していたあたりから、完全に記憶が飛んでいた。
 いつの間にか人が集まっている。
 なんだか、おおごとになってしまった。

「脳震盪起こしたのは……この子ですか?」
 男性の声と力強い足音が体育館に響く。
 体育館用の履物ではなく土足で入ってきたらしい革靴の音。
 この声……お兄ちゃんとは違う。
 ぎょっとして眼だけであたりを伺ったが、動かないように押さえつけられているので状況が今一つ理解できない。

「失神したんですか? 時間は、何分くらい?」
「その場で、ひっくり返っただけで、失神はしてないと思うんですけど」
「ごめんなさい。わたしがボールをぶつけたから」
 顧問の先生と、たぶん保健の先生。そこに泣き出しそうな女生徒の声が重なる。

「い、いえ、もう大丈夫ですから!」
 慌てて起き上がろうともがいたが、やはり、その場にいた生徒たちに押さえられる。
「大丈夫じゃないでしょ!!」
「伊達先生」
「でも、ぶつけて、そのままひっくり返っちゃったんです!!」
 生徒たちの騒ぐ声が頭に響く。
 身動きすると後頭部が固い地面に当たって痛い。どうやら床にそのまま寝かされているらしい。

「とりあえず彼女は、わたしが連れていきますから」

 何を言われているのか。何をされようとしているのか。身をすくませていると、肩のあたりと膝裏に誰かの手が入り込んできた。
 タンカで運ばれるのかも……と思うと、恥ずかしくてたまらない。
「やっ、大丈夫! もう平気ですから!!」
「大丈夫なはずがないでしょう。ウサギちゃん」
 聞き覚えのある軽口と、ふわっとスパイシーな印象のある香り。微かな甘さが混じって、思わず鼻を押し付けたくなるようないい匂いがする。
 身体がすくい上げられて、宙に浮いたような気がした。地面がない。
 ようやく自分が伊達の腕の中にいるのだと気づく。

 ――そうだ。保険医って……伊達先生だ。

「え、ふえええぇえ?!」
 自分でもバカみたいだと思うような声が口から洩れる。
 それに対して伊達先生は、あくまで冷静だった。
「落とされたくなかったら、暴れないでください」
「だ、だいりょうぶです! 歩けます!!!」
「呂律が回ってませんね。これは、いよいよ……まずい」
「ち、違う!!」
 状況としては、いわゆる“お姫様抱っこ”というものだろうか。
 あり得ない。
 いっそタンカで運んでもらったほうが、まだマシだった。

「ホントに大丈夫です……下ろして!」
「頭痛以外に、吐き気はありませんか。手足のしびれは?」
「な、ないです! ないですから!!!!」
 ――もう、泣きそう……。恥ずかしすぎて、頭が爆発しそう。

 何度、大丈夫と言っても伊達は、聞きいれるつもりはないのだろうか。
 いくら萌花が小柄だといっても、人間一人を両腕だけで抱えて歩くなど無理がある。
 そのうち手がブルブルになってしまうに違いない。
 まさか、体育館から保健室までの距離を、保険医の腕に抱きかかえられたまま運ばれるなんてことはないはず……。
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