挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
お嬢様と秘密の恋。 作者:庚 真守
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

11/15

恋文と令嬢

 慣れないバス通学なので早めに家を出たせいだろうか。
 昇降口にはあまり人がいない。部活の朝練には遅いし、始業時間には早いという中途半端な時間だ。
 靴を履き替えていると、突然、声をかけられた。
「ごきげんよう」
 足音一つさせず、ひっそりと姿を現したのは、真雪だ。
 この暑いのに、きちんとカーディガンを着込んでいるが、汗をまったくかいていない。
「ご、ごき、ごきげん、よぅ……」
 言いなれない挨拶に、言葉を何度も噛んでしまう。
 これが普通に言えるようになったら、きっとお嬢様になれるのかもしれないが……卒業までには無理かもしれない。
「どうかしましたか?」
「ううん。なんでもない。あの……真雪さんって、汗かかないのね」
「そう?」
「女優さんみたいだよ。顔に汗かかないって」
「…………」
「えっと、なんていう女優さんだっけ……ほら、真雪さんみたいなハスキーボイスの……あの……」
 なんとか話題を探そうとして、無駄に空回りしているようだ。
 結局、真雪に似た女優の名前は出てこない。
「ご、ごめんなさい。あの……」
「なぜ、謝るの」
 ――あ、……なんか気まずい……。話題を変えよう。
「い、いや……あの……えっと、昨日、面白いテレビとか見た?」
「テレビはあまり見ないから……あ」
 真雪は、下駄箱から上履きを出そうとしていた手を止めたらしい。その不自然な動きに萌花が声をかけた。
「え、何?」
「手紙が入っていたわ」
 上履きと、ローファーを入れ替えながら真雪は、薄いピングの封筒を取り出した。
 ラブレターじゃない? と言おうとしたが、真雪は、無造作に手紙の封を切り、その場で読み始めた。

 ――ここにいていいのかしら。
 もしかしたらゆっくり一人で読みたいかもしれない。
 とても気になるが、先に教室に行くべきだろう。そさくさと靴を履き替える横で、真雪は手紙を雑に破き始めた。

「……あの……えっと……不幸の手紙だったの」
 そう言いながら、じつはそんなことは本気で信じていなかった。
 ――小学生じゃないんだから不幸の手紙なんて……。
「あ、これ? ラブレターよ」
「だよね。不幸の手紙なんて……って、え、ええ? 破いていいの?」
「女同士で気持ち悪いわ。それも知らない人ですもの」
 切って捨てるような言い方だった。
 それでも真雪は、眉一つ動かさず、何の感情も伺えない。
「あの……あたしも分からないけど……こういうのって、女子校じゃ、よくあるのかな?」
 へらっと笑ってごまかそうとした。そんな萌花を頭一つ分高い位置から真雪が覗き込む。
「そうね。わたくしも萌花さんならよいのですけど」
「え、あたし……?」

 真雪は、腰をかがめるようにしてますます顔を近づけてきた。
 ふわっとエキゾチックな香りが広がる。
 これほど近づいたから、ようやく気づくような微かな……でも、存在感のある品のいい香り。
 ニキビどころか毛穴さえ見えない。陶器のような白い肌。最初に会った時もビスクドールのようだと思った。長い髪が白い頬にまつわる。
 淡い桜色の唇は、ふっくらとしていて艶やかで……同性なのに、胸がざわざわするような落ち着かない気分になってしまう。

 ――こんな……こんなに奇麗な女の子……現実の人じゃないみたい。それに……いい匂いがして……って!!
 顔が近い。鼻先がぶつかりそうなほどだ。真雪の吐息さえ感じて、あわてて萌花は呼吸を止めた。

「どうしたの。何もしやしないわ」
 萌花の鼻先にふっと息を吹きかけるようにして、真雪は離れた。
 それでも萌花は動けない。まるで体の中に棒を入れられたみたいに硬直してしまう。
「さあ、教室に行くわ」
 真雪は、萌花の手首をつかんで引っ張る。
 手を繋いだまま真雪は先に歩き出す。上靴つま先にひっかけたまま萌花は、真雪について行った。
 どうやら教室につくまで手を放さないつもりらしい。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ