挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。
<R15> 15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

俺の脳みそがこんなにどろどろの訳がない

作者:三日月明
短いです。
 ゾンビになった。
 未認可肉体増強薬の影響ではなく、ゲームのやり過ぎだと専門家はコメントしている。ゲームのやり過ぎの影響として画面にはゾンビで溢れる渋谷マルキューや表参道、お台場から江の島海水浴場までのお馴染みの風景が次々と映し出される。こういう場合の被写体に首都圏が多いのはやはりテレビ映りが良いからか、それとも彼らが東京以外に世界は無いと思っていたからか。或いは単に近いからか。報道番組から時折覗く学祭気分のあの感じ。まあいいや。東京が全国ネットのあらゆるキーテレビ局のホームだって事はみんな知っている。チャンネルを変えると浅草雷門前でやや頭髪の薄い気さくそうな白人観光客にマイクが向けられている。
「今回の旅行のお目当ては何でしょう?」
 吹き替え。笑顔で答えが返ってくる。
「決まっているじゃないか。ゾンビを見に来たんだよ」
 日本名物になってんじゃねーか。
 ここ数年のメディア上の様々の流行がぐちゃぐちゃに溶け合ったような得体の知れない印象を醸しているテレビ報道を半ば見流しながら、この光景の現実感をゾンビになった脳の見せるリミックス映像ではないかと疑う。ゾンビになった事そのものは疑わない。俺は、心臓の上に手を置く事でこの漫画じみた造りのプロローグを終える事にする。鼓動は無い。
 これが漫画なら以上のくだりを全部そのまま女子高生にやらせるところだが、これは漫画ではないし、俺にはそんな技術は無い。自堕落な独り部屋でテレビ音声を聞くともなし流したままにスマホを取り出し着信を確かめると、悪友から着信がある。
「おう、ゾンビコンやんぞ」
 用件はこの一行だけで、あとは日時と場所だけが示され、最後に「幹事:おれ 参加するひとは連絡されたし」とある。
 ゾンビコン、という言葉に耳慣れない響きを覚えたが、ゾンビ合同コンパの略称だろうという事が分かった。してみると奴はゾンビになっているらしい。自分の事を完全に棚上げして笑ったが、直後に、自分がほぼ同時にゾンビ化を発症していたという事実に気色の悪さを覚える。
 ゾンビコンには四対四でぴったり同数のゾンビ男女が集った。男で幹事と俺以外の二人はサークルの後輩で、完全に数合わせの気配がある。女子は、二人は幹事の同学部生で俺も顔くらいは知っている。可愛い。どっちかが奴の本命だろう。あとの二人の内、一人は他大学の子で、女の子たちの知り合いらしい。そうしてもう一人は、キャビンアテンダントだと言った。
「キャ、キャ、キャビンアテンダント!? マジすか!?」
 興奮のあまり立ち上がった俺に、女性は思わずという動作で笑いを見せた。
「ええ、マジです」
「あ、す、すいません。おどかしちゃいましたよね」
「本当すいませんこいつゾンビ化してバカ度進行しちゃってねーもう、フォローすんの大変ですよ。女の子たちもごめんねー」
「いやー、スチュワーデスさん、憧れなんですよ。俺昔パイロットなりたくて。ほら、子供の頃って飛行機とか格好いいと思うじゃないですかみんな。小三の頃外国行ったんですよ。そん時初めて飛行機乗って、で、スチュワーデスさんきれいだなーって」
「そうなの?」
「あ、いや、マジですよ! 職種にかこつけて記憶を手繰って無理矢理持ち上げてるとかそういうアレじゃなくて、憧れの原型としてその体験があるっていう本当の話ですからね。大事な話なんですよ。俺にとっては」
「そうなんだ」
「ええ」
「あー、えーと、じゃあもうこいつ止まりそうにないし、このまま始めちゃいましょう」と幹事が全体に告げる。
「あれですよねー。やっぱ、制服とか着る訳ですよね」
「ええ、着ますよ」
「あ、すごい分かる。何か今、俺の中でその姿すごい想像できますよ! 超似合いますよね! キャビンアテンダントの制服!」
「ありがと」
「ていうかマジ綺麗ですよね。ゾンビとか全然分かんないですもん。ぶっちゃけ、本っ当のところ、本当にゾンビなんですか?」
 女性はまた、くすりと笑った。
「ゾンビだよ。確かめてみる?」
 そう言って、女性は自分の左胸に右手を乗せ、左手を、俺の方に差し伸べてみせたのだった。

「リゾート行こうぜ! このメンツで!」
 閉会間際、俺はそう宣言した。どうやら組を作って話し込んでいた他のメンバーが一度に俺を見た。次には俺は、幹事に連れられ喫茶店内の鉢植えの幸福の木の陰に来ていたのだった。
「なあ。お前大丈夫か? ゾンビになってから本当おかしいぞ。突拍子も無さすぎるだろ」
「どこがだよ」
「いや、突然リゾートとかって、言われた方は反応に困るんだって」
「そうかぁ? 案外みんな乗り気なんじゃねーか?」
「じゃあ、そうだな。お、丁度いいやあれ。あれ見てお前どう思う?」
 示された方を見ると、店のガラス戸の向こうを明るい髪のスタイルの良い、人間の女性が通り過ぎるところだった。俺は考えもせずに答える。
「うまそう」
「ああ、そうか。そうだよな。分かった」
 幹事はそのまま押し黙り、俺は無意味に外を眺めていた。
「どう言おうかな。やっぱ言った方が良いよな、これ。なあ、知ってるか?」
「何だよ?」
「ゾンビ検査。ゾンビにも陰性と陽性があるんだよ。知ってる?」
「いや。初めて聞いた」
「だよなー。普通に話してるし知ってるだろうと思ってたんだけど。とりあえずゾンビ検査ってのがでかい街なら大抵どこでもあって、今無料で受けられるから、一回受けとけよ」
「へー。受けたらどうなんの? ていうか俺はそのどっちっぽいの?」
「いや、受けないと分かんないよ。だから受けるんだろ」
「でもお前は何か目星がついてるから今それを俺に勧めてる訳だろ? なあ、陰性とか陽性だとどうなんの?」
 幹事は妙な溜息をついた。
「そういう奴だよ。ゾンビ前から嫌なところで妙に頭の回る奴だったよ」
「早く言えって」
「あのな、ゾンビの陰性の場合、理性が保てるからほとんど人間と変わらないんだけど、陽性の場合、段々タガが外れて来るんだって。そんで」
「そんで?」
「あー、まあ、ちょっと危険ってとこだ。俺もよくは知らないよ。ただ何か治療とか受けるんだろ? で、そういうのは何であれ早期発見の方が良いって話」
「で、俺はお前の見立てでは」
「……陽性って事だ」
「そうか」
 幹事は暫く何も言わなかったが、やがて咳払いした。
「じゃあ、まあ、そういう事だ」
「ちょっと待てよ。お前、何でおれがゾンビになった事知ってたんだ?」
「は? いや、お前言ってなかったっけ。ゾンビになったって」
「言ってない」
「忘れたんだろ。ゾンビ化の後遺症とかよくある話だし」
「いや、よく覚えてるよ。それに成り立ての記憶障害は聞いた事が無い。お前、何か知ってんじゃないの?」
「え、何かって何だよ」
「俺がゾンビになった理由。お前何か知ってんじゃないのか?」
「知る訳ねーだろ。ほら、みんな待ってんだから戻るぞ」
「おい」
 俺は鉢植えの幹を右手で逆さに掴むと、振り上げて植木鉢を幹事の膝裏に叩きつけた。幹事は即座に悲鳴を上げて床に転がる。
「てめえ、嘘吐いてんじゃねーよ。何なんだよ。お前絶対何か知ってんだろ」
「し、知らねーよ畜生。うあー、いってえ、糞。てめえ何て事しやがった。いい加減にしろよ」
 植木鉢は粉々になって店中に吹き飛んでしまったが、片手に握り込んで余りある胴回りを持つ幸福の木を再び振り上げ、転がるそいつの膝に今度は真正面から振り落した。
 多分極端な負荷と運動によって、右腕の上腕から血が噴き出した。そいつの膝は粉々に砕けていた。
「言えよ」
「し、仕事だよ! 歩合制だからしょうがないんだって! あー、ちきしょう! 俺の足! もう歩けねーかもしんねーじゃねーか! 俺だって悪いと思ってるから今回だって呼んだだろ! ちきしょう! さっさと処分されろ陽性ゾンビ野郎! いいか、陽性は完全処分だからな! お前は死ぬんだよ! ざまあみろ!」
 店中に響くそいつの雑言の外は、全く無音である事に気が付いた。客の多くは突然の暴漢ゾンビの前からとうに避難し終えていたか、またはまだ店内に居残ってテーブルの下に身を潜めていた。
「警察呼んだからな!」
 それが駄目押しであるかのようにそいつは俺に叫んだ。しかしそれより以前に通報していた客か店員が居たのだろう。そいつの言葉が止んでほとんど間も置かずに、遠くの方から複数のサイレンが近づいてきた。
「あなたも陽性なの?」とこの時平然と歩み寄り、語り掛けて来たのがキャビンアテンダントのお姉さんだった。
「私もなの。ねえ、もしここを出たらまずどこへ行きたい?」
 お姉さんがそう話している間にも、店の外に大挙した警察車両がわらわらと機動隊員を吐き出して包囲網を配備して行った。
「君は完全に包囲されている。大人しく出て来なさい」
 俺は店のレジスターを掴み上げると、思い切りガラス戸の向こうへ投げつけた。そうして、言った。
「リゾート」
「いいね。じゃあ、行こう?」
 お姉さんが答えた。
 穴の開いた出口と同じ面の大窓の向こう側はもうもうと上がる黒煙。それに蝟集した警察部隊。レジスターは、真っ直ぐに包囲を縫って警察車両の一台に激突し、ボディを抉り抜いて爆発させた。あいつの言った、タガが外れるという意味。また右腕から血を噴き出した。
 お姉さんはこちらへ右手を差し出した。俺はその手を握ると、駆け出した。
お読み頂きありがとうございました。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ