妖屋奇譚 〜帝京騒乱記〜(3/12)縦書き表示RDF


妖屋奇譚 〜帝京騒乱記〜
作:ama



第参話 Written by 佐倉信輔


 長屋の間を駆け抜けていく。
 昼過ぎの町は人が多くていけねえ。面倒くさいから途中から長屋の屋根に登ってその上を駆ける。下から窓越しに婆が怒声を飛ばしてきたが、一切無視だ。
 ちなみに一言断っておくが、なにも客が来ないから豆腐屋を早仕舞いしているわけじゃあない。
 豆腐屋の仕事というのは午前中までに大概を済ませてしまうのだ。
 まだ丑三つ時から仕込みを始め、早朝から営業開始。昼を過ぎる頃には商品を売り切ってとっとと店じまいしてしまうのだ。
 ――って、豆腐屋のことなんぞどうだっていい。
 俺にしてみりゃこっちの方が本業。豆腐屋なんてただの暇つぶしだ。
「どうやらあれだねえ」
 白銀しろがねの声に、俺は天空の向こうを仰ぎ見る。
 なるほど、確かにいやがる。どうやら今日の獲物はむしらしい。人のつら程もある羽蟲が何匹も飛んでやがる。
「あれは死壺蟲しこちゅうだねえ。死人しびとの魂をあさる卑しい連中さ。あの辺で誰か死人がでたんじゃないかい?」
 白金は事務的に解説を加える。長生きしてるだけあって妖怪の知識は深い。あの爺ですら一目置いてるほどだ。
「なんでもいい! ぶっ飛ばしゃいいんだろ!?」
「まあ、できるならねえ」
 つくづく嫌味な野郎だ、全く。
「一分で片付けてやるよ」
 そう言うと右腕に念を込める。
 あっという間に右腕は大振りの爪――金剛爪こんごうそうに姿を変える。
 ――これが俺の能力だ。
 爺が言うには、俺は生まれつき体内に霊体武器ウェポンというのを宿しているらしい。そいつを解放する事で生身でも奴らと戦えるってわけだ。
 金剛爪をふるって目の前の二匹を瞬時に片付ける。――楽勝だぜ。
 が、次の瞬間――。
穂月ほおづきビィ〜〜ム!!」
 いきなりピンク色の光線――性格には妖気を圧縮した波動だが――がかっ飛んできた。
 俺は慌てて防御したが、ビームをまともに食らって吹っ飛んでしまった。
「手前ェ、毎度毎度いい加減にしろ、このクソウサギ!」
 叩きつけられ、粉々になった長屋のはりを押しのけて、俺は立ち上がった。
 その上空では、ピンクの着物を着た切れ目のウサギがニヤニヤしながらこちらを見ている。
「だあってぇ、キンちゃんのお邪魔だったんだもぉん♪」
 おどけたような――というか、人を小馬鹿にしたような口調でウサギはそう言った。
「こんのヤロ――」
「穂月の言う通りだ。妖怪退治は我々政府直属除霊部隊・“玄武げんぶ”の任務だ。非合法なモグり野郎はそこで黙って見ていろ」
 屋根の上に立つ美麗な青年がそう言い放った。
 ――尊大な口調といい、人を見下す冷徹な目つきといい、相変わらず毎度毎度いけすかねえ野郎だ。
 奴の名は高円寺こうえんじ 金成(かねなり
 政府の直属で密命を受けて暗躍する隠密部隊・“四神隊しじんたい”の一つで、除霊や妖怪退治を専門にこなす除霊部隊・“玄武”の若き隊長だ。
 ちなみに“青龍せいりゅう”は治安部隊、“白虎びゃっこ”は暗殺部隊、“朱雀すざく”は皇族護衛部隊という構成だ。
 俺は何か言おうとしたが、金成は完全に無視して反対を向くと、腰の刀を抜き左手を刃先に滑らせる。
 たちまち刀は青白い光を帯びて淡く輝きだす。
 剣士であり、霊刀使いである奴の愛刀・“霧幻むげん”だ。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう