もいいわけしません……。素直にLVに時間がかかりすぎましたですはい……。
申し訳ありません。
EP:21 信念と涙 (終曲)
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「感覚、最大……」
――響け
フィルから歌うように紡がれた言葉、それは空間を震わせる。
発動するのは探査の術式、その気になれば、世界のあらゆるものを読み取ることが可能な魔術。
もう、少し……
フィルの表情が苦悩に歪む。
そう、この術式はあらゆるモノを読み取れる。
故に、術者にかかる負担もまた、甚大。
普通ならば、検索条件を絞って、かつ、数人で発動させるのが前提とされた魔術。
そうしなければ、流れ込む情報量が脳の処理の限界を越え、意識など到底保てないからだ。
そんな魔術を一人で行い、さらに範囲を拡げようとする、フィル。
「フィルちゃん、それ以上はダメだよ?」
「なのは、さん……」
そう言ってフィルの意識を現実に引き戻したのは、バリアジャケット姿の高町なのは。
なのはの属する教導隊もまた、例の惨殺事件によって出動しているのだ。
フィルは、協力者として申し出て、探索を担当。
軽くでいいと、なのはに言われていたのだが、フィルは聞かず、無理をした。
「でも、私が頑張らないと魔族の位置が!」
そう。現状では魔族の邪気を感じ取れるのは、アレンとフィルの二人だけ。
さらに、看破の力で言えば、魔術で広域に網を張れるフィルの方がアレンよりも数段上。
無理をするだけの価値はあるかもしれない。
だが、それでもなのはは首を横に振った。
「例え、今頑張ったとして、フィルちゃんが疲労した所に攻め込まれたらどうするの?」
「その前に、見つけます……」
真っ直ぐにフィルを見つめるなのは。
対して、逃げるようにフィルは目を逸らし、術式を展開。
頭ではなのはが正しいとわかっている。
しかし、自分しか見つけられないという思いがフィルを締め付け、焦らせていた。
「フィルちゃん」
再び杖に手をかけたフィルの腕を強く握るなのは。
痛みを感じる程の力で握られては、とても繊細な魔術など使えるはずもない。
「その自分勝手な行動が、二の舞になりかねないっていうこと、わかってる?」
「わかります! わかりますけど……」
空回る。
確実にこのクラナガンの近くにいるであろう、魔族。
にも関わらず、魔族の頭は尻尾をみせないこの状況に。
「わかってるなら、我慢して。悔しいのは、皆、同じだから……」
「っ……」
その言葉に、フィルは唇を噛み締め、魔術を止める。
この状況に苦しんでいるのはフィルだけではない。
表情に見せないようにしているだけで、なのはも焦りでいっぱいなのだ。
襲撃の際、常に、とはいかなかったが、それでも警戒はしていた。
探索の魔術にも何も引っ掛からず、平和だと思っていた日々。
しかし、何の前触れもなく現れた巨大な邪気。
フィルが魔術を発動した時、映ったのは、砕け散った道路や、倒壊した建造物。……肉片と化した人々。
隊を纏める立場にあるなのはもその映像は見た。
二度と見たいようなものではない。
「フィルちゃん、ずっと魔術の使いっぱなしで疲れてるでしょ? 少し、休もう?」
それでも、なんとか冷静差を保っているのは、今までの経験によるもの。
焦って、魔族の探知が出来るフィルを酷使しようものなら、それこそ、思う壺に違いない。
「っ……、はい……」
「うん。良い子だね……」
何かを言いたそうに口を開いたフィルだが、グッと押し込み頷いた。
納得など出来ようはずもないが、なのはの言っていることは理解している。
故に止まったのだ。
俯き、悔しそうにするフィルの頭に慰めるかのようになのはは手を置き、優しく撫でた。
「さて、と……」
フィルの頑張りも虚しく、状況は全く好転しない。
なのはは、空からクラナガンを見渡す。
いつ、この眼下に広がる平和な町が戦火に飲まれるとも限らない。
何か手はないかと顎に手を当て、なのはは思考を重ねる。
「「っ……」」
その時、なのはとフィルの髪を吹き上げる程の強風が二人を襲った。
驚いたのはそんなことではない。
強風から寒気を感じた。
身に覚えがある、寒気を……。
「この感じ……」
すぅ、となのはは目を細めた。
普段は常識という字を知らない、ボケた人間。
見ていて微笑ましさすら感じることがあった。
しかし、戦闘になると別人のように変貌した、黒衣の男。
なのはをして震えるほどの殺意を振り撒き、人とは思えぬ怪力で人外をも打ち負かす。
これほどまでにインパクト抜群の人間を他になのはは知らない。
アレン・テスタクル。
何故かは知らないが、アレンが怒っている。
「戦ってる……!」
「え……?」
ポツリと呟いたフィルになのはは目を見開いた。
あまりにも、急すぎて展開についていけないのだ。
そんななのはにフィルは構わない。
フィルの周囲に浮かび上がる幾何学的な紋様、いや、文字。
「くっ……」
「フィルちゃん!」
しかし、それらは形を成さず、弾け飛ぶ。
空を飛ぶことすら維持できなくなり、落ちかけたフィルをなのはが抱き止める。
探査の魔術はフィルの脳に膨大な負担をかけていた。
常人なら気が狂ってもおかしくない量の情報を読み取り、それを何度も使用していたのだから当然と言える。
早い話、彼女は限界なのだ。
「フィルちゃんは休んでていいよ」
「でも……」
「大丈夫」と、言い聞かせるようになのはは頷き、フィルに笑いかける。
「置いていくって言っても、ついてくるんでしょ?」
『Accel Fin』
「だから、私が運んであげる」
なのはの踵から広がる大きな桜色の翼。
かつて、ティアナを抱えて飛んだように、しっかりとフィルを抱き抱え。
「なのはさんに、任せなさい!」
「……ありがとうございます」
「うん♪」
短い返事を皮切りに、翼が大きくしなる。
なのはが身体を沈めると、風に舞い上がる土煙。
次の瞬間には桜色の光が空に尾を引き、二人はアレンを目指して飛翔した。
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通常の世界から隔離された封鎖結界の中で、アレンと神道は対峙していた。
アレンは一刀両断にせんと大剣を握り締め、神道はそれを牽制するかのように銃剣をアレンへと向けていた。
ピリピリと針を突き刺すような緊張感の中、マコトだけが混乱していた。
「アレン君! やっぱりこんなのおかしいよ!」
「……何がだ」
「だって、神道さんが敵なら、結界なんて、張らないでしょ!」
「……」
確かに、その説には一理あった。
神道は最初の弾丸を放ってすぐ、結界を張り、世界を切り離した。
被害を気にしないでいいという点ではアレンにとっては好都合でしかない。
「だが、あの腕がある以上、味方であるとは言えない……」
邪気を放つ、神道の腕。
それを視野に入れると神道を味方だと判断するにはリスクが大きすぎる。
あの腕がある限り、アレンは神道を味方とは見なさない。
「じゃあ、きっとあの腕に操られてるとか、理由があって、神道さんは――っ!」
「マコト!」
神道を弁護するマコトの言葉が突如止まる。
マコトのすぐ側の壁に魔力弾が着弾したからだ。
それを放った神道は、クック、と笑う。
「神道、さん……?」
「マコト……。えらく俺を慕ってくれてるとこ悪いんだけどな。お前が思ってる理由じゃねぇぞ? 目撃者を減らすため。結界を張った理由はそれだけだ」
笑みを浮かべながら神道が紡いだ言葉にマコトは絶句した。
なんとか立っていた脚は震えだし、力が入らず、ペタンと尻餅をつく。
「俺と戦わないなら下がれ。邪魔だ……。っ!」
そう、冷たく言い放ち、何かに気づいたのか銃剣を縦に構え。
瞬間、火花が散り、神道の姿がブレ、霞んだ。
そびえ立つビル群が倒壊、一瞬にして瓦礫と化した……。
言葉の途中にアレンが横殴りの一撃を叩き込み、防御ごと吹き飛ばしたのだ。
そこに一切の容赦はない。
「黙れ……」
「オイオイ、厄介払いしてるだけだろ?」
「二度は言わん……」
瓦礫の中から声が響き、弾丸の閃光がアレンに刺さる。
それをアレンは全く意に介さず、大上段に振り上げた大剣を振り下ろす、否、叩きつける!
発生するは真空刃。剣圧が土煙の中へと飛び込み。
「チィッ!」
瓦礫の山を吹き飛ばす!
神道は剣圧を横っ飛びに回避はしたが、発生した瓦礫と風に身をさらし、転がっていく。
「二挺、一、刃!」
受け身をとり、跳ね起きた神道は言霊を紡ぐ。
輝く銃剣、その光は神道の銃の刀身を形取り、二振りの小太刀と姿を変える。
対し、アレンは大剣を外套の内にしまい、替わりに生まれでた漆黒の籠手を纏う。
「「オォ……ッ!」」
アレンは右足を踏み込み、右腕を引き絞り、神道は身体に巻き付けるように小太刀を構え。
同時に吼え、同時に打ち出し、斬り込む!
力ではアレンに分があるのか、アレンの片腕に対し、神道の小太刀は押し負け、後退。
アレンは踏み込んだ脚から跳躍、左を打ち出す。
ギャリ、と金属を擦ったような音が響く。
踏み込んできたアレンを神道が回転を行いながら受け流した結果だ。
互いの身体は横にある。
神道の黒とアレンの金、二つの瞳が互いを睨む。
「ヒュッ!」
「はぁっ!」
鋭い呼気と怒号が発せられる。
まるで華のように、一瞬にして五つ火花が弾けた。
刹那の時間に拳の刃のやり取りが行われたのだ。
千変万化。
重ねられていく合の中で、一つとして同じ技はなく、相手を打倒せんと技巧を凝らす。
牽制とフェイクを多段に織り交ぜ、本命の一撃を叩き込む。相手のそれらを見切り、対応した一撃を選択する。
両者共に、一撃でも選択を誤れば直撃を受ける。
その様は例えるならば綱渡りに似ていた。
「っ……」
息を飲んだのはアレンだ。
牽制として放った横殴りの一撃を神道に避けさせ、本命を叩き込む。
神道は横殴りを屈んで避け、待っていたと言わんばかりに本命を叩き込まんとしたアレンは右腕を振り下ろそうとしたが、下ろせない。
そうするには、余りに神道が踏み込んできていたからだ。
屈んだ勢いから突進するかの如く神道が跳んだのだ。
殆ど密着しているといっても過言ではない二人。
近づき過ぎればお互いに思うように重心を動かせず威力は出ない“はずだった”
「ブレイドメデューサ……」
「くっ!」
腹部に押し付けられた神道の銃剣。
この体勢ではいくら押し込もうとアレンの黒衣、フラグメント・オブ・ダークを貫くなど不可能。
だからこそ神道は――
「撃ち抜け!」
「ぐっ……!」
――射出した。
神道の銃剣、ブレイドメデューサの刀身となっていた魔力刃を塊として腹部に撃ち放った。
銃であり剣でもあるデバイスだからこそ出来る変質技だ。
零距離のためか衝撃が内蔵にまで届き鮮血がアレンの口からは飛び散った。
「温い……」
しかし、アレンはたった一歩引いただけで瞬く間に距離を詰め、下段に溜めた拳を打ち放つ。
ズン、と鈍い音が響き、神道の身体がビクリと痙攣。
「がはっ!」
込み上げてきたものを我慢出来ず、今度は神道が吐血した。
そのまま吹き飛んでいく神道の身体。
四本の漆黒の鎖が神道に巻き付いた……。
黒衣から放たれた鎖だ。
慣性の法則に逆らい、アレンの元へと引っ張られる神道。
「力場転換……」
「チィ!」
一歩、脚を引いて溜めを作るアレンの右腕には赤い文字の螺旋が巻かれていた。
それが何かがわからずともまずいのは誰でもわかる。
故に、神道は全力で障壁を張って――。
「倍加!」
「――っ!」
ひび割れた障壁ごと神道の身体は宙を舞った。
飛距離にして50m近くを飛んでいた。
拳でこれだ。もし、神道が反応出来なければ、アレンが大剣だったならば、このどちらかが揃えば神道は確実に死んでいただろう。
「ぐ、ぅ……」
痛みに呻いている神道に追撃は行わなかった。
理由は単純、アレンが迷っていたからだ。
アレンの後ろにはマコトがいたから。神道が傷つくことで心を痛めるマコトを見たくなかったために。
だが、奴は……。
敵。
腕から放っている邪気がそれを証明している。
魔族は絶やさねばならない。奴を殺せと血が疼く。
例外無く、アレンにとって魔族は全て、敵。
「どうして、どうして……」
「くっ……」
だが、目の前の相手は、仲間であり、友でもあるマコトの慕っている神道。
神道は、敵、仲間、敵、仲間、敵、敵敵、敵敵敵敵敵。
敵!
バチリと、頭の奥で電撃が走り抜けた。
「オオォォォォォ!!」
「アレン君っ!」
マコトの悲鳴はアレンの耳には届かない。
膝にこもる脚力、腕にたぎる腕力、その二つを揃え、敵を殺さんがために動く。
アンタは優しいから。
「っぅ!」
が、その一歩を地面を陥没させて押し止める。
押し止めたのはティアナの声。
そこで気付く。今自分は破壊のために力を使おうとしているのではないか、と。
アレンの身体は震えていた。
本能に従おうとする身体と、押し止めようとする理性とが反発しているせいだ。
本人は未だ知らないが、アレンの身体は人々の願いと希望とが集まり、人外の力を得ている。
人々の願いと希望とは、魔王の討伐、魔族の殲滅だ。
確かに、人間側からすれば魔族は敵であり、滅ぼすことが善で、今の神道を助けようとすることが悪かもしれない。
それでも私は、仲間の悲しむ顔を見たくはない……!
神道を殺せば、マコトは確実に悲しみに染まる。
何故、こんな簡単なことに気づかなかったのかと、アレンは心中で自嘲する。
それが人々の想いだとは気づきもしないが、アレンの中の数万、数億という願いと希望の激情に一度は流されたアレンの理性は確実にある。
神道勇輝は本人である可能性も零ではない……。だが!
数億という人々の想いと、アレンというただ一人の理性。
多勢に無勢にも程がある。
事実、アレンの身体は少しずつ神道へと向かっている。
誰かがアレンを倒さねば止まらない。
今のマコトでは、無理か……
マコトはアレンと神道が戦うという状況が呑み込めず、混乱している。
皮肉なことにアレンの身体は頑丈だ。
そんな状態のマコトでは危険すら伴う。
「エイシャン陸曹! アレン!」
響くよく知った声。
視線だけを声の方向へとなんとか向ける。
視界に入ったのは白いバリアジャケット姿の女性と、その人に抱き抱えられている女性。
「なのは! フィル!」
手段は考えてはいられない。
要は、この身体が止まればいいのだから。
「私を止めろ。手段は問わない!」
「え、えぇ!?」
響いた悲鳴はなのは一人だけ。
もう一人のフィルは――。
「人使い荒いよ!」
「すまないな……」
事情を把握したのか、それともアレンを信じたのか、どちらかはわからないが、なのはの腕から飛び上がり、魔術を紡いでいた。
既に探査術式で限界に近いフィルだが、一撃ならば、使える。
選ぶは倍加の極、込めるは拳、狙うは、頭部!
「せ〜〜〜のっ!」
「ごっ!」
一瞬にして地面に十m近い亀裂が疾った。
高高度からの急転直下で慣性の全てを使って頭部を打ち抜かれたアレンが地面に叩きつけられたためだ。
だが、その一撃ですら足りなかったのか、アレンが腕をつき、起き上がろうとする。
「なのはさん!」
「もう、知らないよ!」
『Load Cartridge!』
だが、フィルの一撃は精々時間稼ぎ程度のもの。
無論、なのはが決断してくれるまでの、だ。
事情は飲み込めてはいない。
正直、なのははまだ混乱している。
だが、必死だった。
必死に、普段冷静な筈のアレンが止めてくれと叫んだ。
それだけで、なのはが動くにはは十分。
結界を張り直す。
「我に閃光の如き、疾さを!」
「うわぁっ!」
集束の合間にフィルが身体加速魔術を身体に叩き込み、マコトと神道を抱えて脱出。
集束は、十全!
「ディバィィィン!!!」
「迷惑をかけた……」
自身の上に集う桜色。
あの大きさなら、とりあえずは、仲間の涙を見なくても済みそうだと安堵する。
何時間眠ることになるかはわからないが……。
「バスタァァァァァ!!!!」
「ふ……。流石だ……」
己に疾った激痛に、アレンはなのはへと称賛の言葉を送り、意識を闇へと落とした……。
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なのはからの砲撃を受けて数時間後。
寝息も無く、静かにベッドに眠るアレンいた。
ヒヤリとした感覚がアレンの額に広がる。
その冷たさのせいか、アレンの意識は目覚め、五感が感覚を取り戻し、ゆっくりと開いた右目が光を取り込み金色に輝く。
「ここは……」
情報を探し、視線だけを巡らせると見覚えのあるよく片付いた部屋。
ベッドから香るのは女性特有の甘い匂い。
普通、思春期の男性なら心拍数もあがろうものだが、アレンは唐変木と呼ばれるだけのことはあり、特には何も思わない。
精々、女性のものか、とその程度の反応。
ともあれ、視覚情報からここがどこであるかは把握した。
ミッドにある高町家である。
扉の向こうからは人の気配があり、なのはが帰宅しているのだろう。
なのはがいるならば、取り合えずは警戒をする必要はない。
しかし、いつまでも寝ているような図々しい真似をする気にはならず、起きようと力を込め。
「あ♪」
ガチャリと扉が開くと同時に響いた嬉しそうな声にアレンは視線を向けた。
扉の中程に頭があり、サイドツーテールの金髪、真紅と翡翠のオッドアイ、フリルのついた青いパジャマ姿。
なのはの子供、高町ヴィヴィオが笑っていた。
「ヴィヴィ――」
「ダメー!!」
「うっ!」
名前を呼ぼうとしたアレンに何を思ったか突撃したヴィヴィオ。
当然、避けるわけにもいかず、受け止めるしかない。
良い具合に腹部にタックルが決まり、アレンは再びベッドへと倒された……。
「怪我してる上にママの砲撃を受けたんだからまだ起きちゃダメ! アレンは寝てるの!」
馬乗りになりながら「メッ」と親指を立てるヴィヴィオにアレンは苦笑した。
何故アレンが笑ったのかわからないヴィヴィオは首を傾げる。
「あ……」
自分がその怪我人にタックルをかましたことを今更のように思いだし「ごめんなさい」と言いながらシュンとした。
「良い攻撃だった」
「ふぇ?」
ヴィヴィオの頭に軽く手を乗せ、ゆっくりと撫でる。
キョトンとしたヴィヴィオだったが久しぶりに撫でられるのが気持ちよかったのか笑顔に戻る。
「アレン、おかえり♪」
「あぁ、ただいま……」
ニパッと笑うヴィヴィオと優しげに笑い返すアレン。
平和な時間――。
「なぁにを、してるのかなぁ……。アァレェェェン?」
「……フィル?」
――だった筈なのだが、あっさりと消え去った。
様子を見に来たのか、扉の向こうにはいつのまにかフィルが立っていた。
“笑顔で蒼白い光を右腕に輝かせながら”。
「私は何もしていない……」
「何もしていないって言う人は大抵の場合は何かしてるんだよねぇ……」
聞く耳を持っていないのか、蒼白い輝きは増していく。
待機している魔術は迅雷。
低位術にカテゴリされてはいるものの、間違っても屋内で、そして怪我人に放つ魔術ではない。
だが、今にも放ちそうなフィルを見て、アレンはヴィヴィオだけは守ろうと自身の背後に庇う。
「フィルお姉ちゃん、ホントだよ?」
「…………はぁ」
そこからヒョコリと顔を出して首を傾げたヴィヴィオがアレンを弁護する。
しばらく考えていたフィルだが、右腕を払うと雷光は霧散し、消え失せた。
「ヴィヴィオちゃんに免じて無罪にしてあげる」
「……この場合は礼を言った方が良いのか?」
「ヴィヴィオちゃんに、ね」
どこか納得のいかないアレンではあったが、復帰早々雷撃を受けるという危機的状況を助けてもらったことは事実である。
「ありがとう……」
「? えへへ。どういたしまして♪」
事情は呑み込めてはいなかったヴィヴィオだが、明るく笑って対応した。
真に、可愛いは正義。が発動した瞬間であった。
フィルは「私も甘いなぁ」と呟いてはいたが……。
「ヴィヴィオ、済まないが、フィルと二人で話がしたい……」
「うん♪ わかったぁ♪」
は〜いと言わんばかりに手を上げて、ヴィヴィオが部屋を退室する様子を笑って見送った二人だが、ヴィヴィオが出ていった瞬間に笑みは消えた。
「まずは、おかえり、かな? 随分派手にやりあって来たみたいだけど?」
「少し、魔人とな……」
「それで雰囲気が違うわけか。仮面も半分に割れてるし」
詳細はあとで説明すると告げたアレンにフィルは頷き、深くは追求しない。
今のアレンの最有用事項は記憶のことでも、力のことでもないとわかっているからだ。
アレンが今求めている情報は、その後、神道勇輝がどうしたかの一点のみにある。
「フィル、奴は……」
「神道さんって人ならもう大丈夫。私が浄化しといたから」
「浄、化……?」
「あぁ、そっか。ごめん」
一言謝ってからフィルは説明を始める。
力の強い魔獣は邪気が濃くなり、一撃を受けて生き残ったとしても余程の人間でないかぎりはその邪気に精神を侵され、暴走をすること。
そして、侵され続けた場合は魔獣化すること。
助ける方法は侵食が進む前に浄化と呼ばれる措置を行い、邪気を取り除くこと。
「会話は出来たが?」
「うん。侵食にも段階があってね? 魔獣化するほどまでいくのは稀なんだ。最初に、私達の時代では“種”って呼んでたけど、無意識化で乗っ取られる状態ね」
種に乗っ取られた身体は知識を元に、親しい順に知人のもとへと向かい、悲しみの感情を集めるのだフィルはいう。
「神道さんの場合は、マコトさんが一番悲しむ方法、仲間同士で傷付け合うって方法をとろうとしたんだろうね。最も、相手が最悪だったみたいだけどね」
「笑えんな……」
場を和ませようとしたのか、フィルがおどけて言うが、そのせいでアレンは仲間の仲間を殺しかけた。
冗談だとしても笑える心境ではない。
「ごめん……。そんなつもりじゃ……」
「……構わない。続きを」
「うん」
悲しみの感情を集め続けた場合、種は蕾となり、やがては開花し、華は完全に本人の人格を破壊、魔獣として覚醒すると話す。
「さっきも言ったけど、神道さんはまだ初期、つまり、種の状態だったんだけど、私が魔力を当てて浄化しておいたから、安心していいからね」
「そう、か……」
ここまで話してもらって、ようやく安息を得る。
これだけ詳細に説明出来るフィルが大丈夫というならば、大丈夫なのだろうと思ったからだ。
「浄化、というのは私でも出来るものなのか?」
「少し難しいかな……。簡単に言うと、他人の身体に魔術を叩き込むってことになるから、今のアレンじゃ、ね?」
苦笑を浮かべたフィルにアレンは少し落胆をした。
自分が出来るのなら、仲間が魔獣によって負傷した際も手を貸せると考えたからだ。
しかし、フィルが言うように、アレンに出来るのは倍加系統、つまりは自身の身体強化だ。
魔力を放出することを得意とするフィルとは反対といえ、それはそのまま、浄化困難なことを意味する。
フィルには、目に見えて落ち込んでいるアレンが小さく見える。
「そんなに覚えたいならさ、また私が教えてあげるから、ね? 元気だしなよ」
そんなアレンが少し可哀想で、慰めのつもりで言った言葉。
だったのだが、アレンがガバリと顔を上げ、ベッドから飛び上がり、フィルを壁際に押し付ける。
わ〜! わ〜! 近いよ! 近いってば〜!
一瞬のうちにフィルとの距離を十センチ以下に縮めていた。
アレンにそんな気はないとわかりつつも、心臓が高鳴る。
「……本当か?」
「う、うん……」
以前は仮面に隠れてわからなかったものの、今や半分が割れ、整った顔立ちが覗いたアレン。
フィルにとっては元、想い人の懐かしい顔であり、自然と緊張してしまう。
「フィル、ありがとう……是非、頼みたい……」
「は、はい……。どう、いたしまして……」
口調もおかしく、真っ赤になりながら、フィルは了承する。
返事を聞くと、アレンの瞳が優しげに細められる。
あ、やっぱりこの人、アレンなんだ……。
その表情を見て、今さらながらにアレンをアレンと同一人物なのだと思う。
今のアレンが、昔のアレンと同じ表情をしていたが故に。
ボーッと熱に浮かされたようにフィルがアレンの顔を見ていると、アレンの表情が心配そうなものへと変わった。
それを見て、フィルは改めて自分が置かされている状況を把握。
密室、明かりが消えて、二人きり、距離は十センチ以下で、壁際。
「っ!」
キーワードから考えられるもので連想した瞬間、頭が爆発したかと思った。
実際、これ以上ないほどにフィルは赤面したのだから。
「体調が悪いのか? 顔が赤いが……」
「な、ななな、何でもないから! っていうか近いよ!」
「あ、あぁ……。済まなかった……」
一歩、二歩と、アレンが距離を取ると、フィルは大きく深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
最も、アレンからすれば何が原因で取り乱したなど知るよしもないが。
「大丈夫か?」
「原因が言わないでよ原因が……」
「……意味がわからない」
故に、ジト目で睨むフィルに何を言われた所で首を傾げることしか出来なかった。
最早アレンのそう言った所は諦めたのか、溜め息をつきつつ「他には?」と促す。
「マコトはどうした?」
「マコトさんなら、神道さんが入った病院って所。多分、看病しにいったんじゃないかな? 無傷ではないわけだしね」
「……悪いことをしたな」
「あの状況じゃ仕方ないよ。マコトさんもそれはわかってくれてた」
そうフィルが慰めるものの、アレンの傷は簡単にぬぐいきれるものではない。
どう言い繕った所で、アレンが神道を傷つけたのは事実だ。
「なっちまったもんはしょうがない。なるようになる。相手次第の運任せ。自分に出来るのはその後の行動の選択。ってね」
「……?」
「あらら、忘れてるか。これ、アレンが私に言ってくれたんだよ?」
フィルは手を後ろに組みながら、ニコリと笑ってそう言った。
過去から跳んできた彼女が言うのだから事実なのだろう。
だが、今のアレンはそこまで楽観的にはなれない。
なれないが。
「悪くはない……」
「凄く前向きだよね。こういう所が、私は大好き……」
「あぁ、私も好きだ……」
やけに時計の針の音が大きく響いている気がした。
一瞬の空白の後、フィルの顔がまたもや爆発する。
ズザザザッと下がり、柱に頭をぶつけるもフィルは痛みを感じ得ない程に驚愕する。
「え、えぇ、ぅえぇぇぇ!?」
「良い切り替え方だな」
「あ、あぁ、考え方ね!? うんうん。良いと思うよね!?」
あ〜、びっくりした……。
あまりに自然に言うので告白されたのか思ったが、なんのことはない早とちりだ。
二度目となる深呼吸を行い、心を落ち着ける。
まぁ、流石に効果も薄く、心臓はバクバクしたままだったが……。
「と、とにかく、今後、アレンがどうするかで取り返せばいいんだよ!」
「……本当に大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!」
「そうは思えんが……」
「大、丈、夫!」
「あ、ああ……」
強引に質問を切り上げ、心配するも、鬼気迫る表情で言い放ったフィルに気になりながらもアレンは引き下がる。
それに安心したのか、安堵の溜め息をもらしたフィル。
「じゃあ、行こっか」
「どこにだ?」
「リビングだよ」
「……」
ようやく落ち着いたフィルがドアノブに手をかける。
アレンの気のせいかもしれないが、ヒヤリとした空気が部屋に浸入してきた気がする。
「まずいな……」
ドアノブが開いていくにつれて、その冷気が気のせいではないことをアレンは知る。
取りあえずは、ドアの向こうには廊下だ。
危険はなにもない。
呼ばれている以上はいかなくてはならない。
廊下への一歩を踏み出した瞬間、扉が閉まった……。
「いってらしゃ〜い……」
「……何故閉める……」
「お、お役目が終わった人は退散するのがルールですから……」
丁寧に鍵まで閉めて、アレンの退路を断つフィル。
こうなっては諦めるしか道は残されていない。
左を向く。
リビングの方からとてつもない冷気が流れ、アレンの身体を貫いていく……。
「行くか……」
相手が何であれ、目的が自分なら自分がいかなくてはならない。
アレンは退くことを選ばない。
最も、選んたとしてもフィルが退路を絶っているため退くことが出来ないのだが。
余談はさておき、アレンは踏み込んでいく。
冷気放つリビングへと!
「あぁ、おはよ。アレン」
「やはり、ティアナか……」
リビングのソファにはティアナ・ランスターが座っていた。
ティアナ達はユーノと話した後、アレンを探していた。
しかし、当の本人はどこにもおらず、諦めてフィルだけでもと尋ねてみればアレンがそこにいたという状況だ。
驚いて事情を聞いたティアナは噴火前の火山のごとく押し黙り、なのはに待たせてほしいと願いでたあと、今までアレンが起きるまでの間待っていたのだ。
この家の住人であるなのはとヴィヴィオの姿は見当たらない。
恐らく、爆心地から退避したのだろう。
静まりかえる空間、時計の音が大きく聞こえるという状況的にはにているが、フィルの時とは決定的に違い、居心地は最悪だ。
無言の時間が1分以上経ったころ、ティアナが、口を開く。
「アンタさ、どうしてジッとしてらんないわけ? 帰りに拾ってこうとしたのに、どこにもいないし、探してたら戦闘の痕跡が見つかるし、嫌な予感してフィルに聞こうとして来てみたらアンタが寝てるし……」
「済まない……」
「事情を聞いてみたら、戦闘をしたのはアンタともう一人。フィルの話ではもう一人は邪気ってのに侵された人間らしいわね。アンタはそれを知らない違う?」
「あぁ……たった今聞いた……」
「予測もつかない動きをするかもしれない相手になんで様子を見るってことをしないのよアンタは……」
「済まない……」
並べられていく不満の数々にアレンはただ謝るしかない。
だが、ティアナはその態度自体に苛立ったのかソファから立ち上がる。
背丈はアレンより20センチ近く低く、見上げる形となるが、そんなことは関係なく、アレンはティアナに畏縮していた。
「謝らないで! 本気で頭にきてんだから! アンタ、今の状況がどんだけ危険かわかってんの!? 魔獣かもしれないからって、状況もよく把握しないで、事件に頭から突っ込むな! このバカ!」
「本当に済まない……」
「謝るなってんでしょ!」
バシン、と渇いた音が鳴り響き、アレンの顔が横を向いた。
ティアナがアレンの頬を叩いたのだ。
まだ、足りない。こんなものでは、足りない。
「私が悪いのは認める。しかし、マコトが……」
「マコトが、何よ? 何で誰にも……、私にも連絡しないで、いきなり戦うなんて手段に出たのよ! 被害だって拡大するし、端から見たらどっちが悪いかなんてわからない……。アンタにとって、悪いことずくめになるってどうしてわからないのよ! 言い訳なんてしないで!」
叩きつけられる言葉。
アレンのソレは、確かに言い訳だった。
魔法の使えないアレンには連絡用に無線を渡してある。
仮に、それが無かったとしてもあの場にはマコトもおり、アレンが冷静に指示をとばせばティアナには連絡がついた。
結果的には神道を救ったが、それも偶然の産物であり、結論的に言うとアレンがとった戦うという行動は最悪の選択肢に近い。
「アンタが強いのも、頑丈なのも知ってるけど、もう少し、考えてよ……。私が見てないとこで、無謀な行動とるな……。このバカァ……。私がどんだけ心配したと思ってんのよ……」
「……その、泣かないで、くれないか? ティアナが泣くと、私も辛い……」
「知らないわよ。バカ、バカ、このバァカ……」
感極まったのか、泣き出すティアナにアレンはどうするかもわからず、右往左往。
そんな光景を物陰から見ている瞳が十個……。
なのは、フィル、スバル、バレッタ、ヴィヴィオの五人だ。
一段落したら出ていこうと思っていたのだが、雰囲気的に出られなくなってしまったのである。
取りあえずとして、ヴィヴィオを除く四人が思うことは。
《痴話喧嘩は自宅でお願いします……》
ただ、これだけだった。
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