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神剣その九
 朧な光を放つ満月に照らされイード砂漠が砂漠に浮かんでいる。寂しくも幻想的な景色の中にレヴィンはいた。
 壊れた城門をくぐり中に入る。市街地は荒れるに任せてあった。コヨーテの遠吠えの声やチチッというトビネズミの鳴き声の他には何も聞こえない。
 城に入る。盗賊達の死体があちこちに転がり死臭を放ちはじめている。その中には数体法衣を着た魔道師が転がっている。
 死体の胸を調べた。一冊の魔道書があった。それは黒い表紙にレヴィンが今まで見た事の無い紋章が描かれた奇妙な魔道書だった。
「・・・・・・・・・何だこれは」
 手に取り中身を読んだ。全く知らない文字で何やら書かれている。
「解からん。ユグドラルのものではない」
 レヴィンは大陸各地を放浪して得た知識を検索した。だがそのどれにも当て嵌まらなかった。
「アカネイアのものでもバレンシアのものでもないようだ。一体何処の大陸の魔道書なのだ」
 その時昔シグルドに聞いた話を思い出した。彼とその妻ディアドラがヴェルダンで闘ったサンディマという魔道師はもしかしたらロプトマージだったのかも知れない、と。
「まさかな・・・・・・。ロプト教団はあの聖戦で滅亡した。当のシグルドも信じていなかった。そんな事は有り得ない。・・・・・・だがこの悪寒は何だ」
 魔道書を持ちながらレヴィンの表情が病人のそれの様に蒼ざめていく。その時部屋の片隅に光が差し込んでいるのを見た。
「壁が崩れているのか?」
 壁に近付いた。小さな穴が開いている。軽く押してみた。鈍い音を立てて後ろに落ちた。その向こうには抜け道が続いていた。
「イード城にこんなものがあったとはな」
 他の壁も簡単に崩れた。レヴィンは道を進みだした。やがて城の橋の墓場に着いた。墓の中に一つ荒らされたような墓があった。
「どうやら荒らされたわけではないな」
 開けられた棺の中には屍ではなく階段があった。地下へと続いている。
「カタコンベか」
 トーチの杖で灯りを取り中へ入って行く。
 レヴィンは中へ入るにつれ己が目を疑うようになった。
「これは・・・・・・何なのだ」
 壁に描かれている絵は古に伝わる暗黒竜のものであり禍々しい銅像やレリーフが飾られていた。
「ロプト教団・・・・・・まさか本当に残っていたというのか」
 誰もいない部屋には子供が描いたものと思われる暗黒竜が十二聖戦士達を倒す落書きがあった。他の部屋にはかってガレと共に反乱を起こした十二魔将の小さな像が置かれていた。更に奥へ進む。そこは祭壇であった。レヴィンはそこにこのカタコンベに入るまで信じていなかったものの最も恐るべきものを見た。それは巨大な暗黒竜ロプトゥスの漆黒の像だった。
「今更この世で何を為すつもりなのだ・・・。暗黒神も帝国もガレも滅び去ったというのに・・・・・・」
“いや、まだ暗黒神は滅び去ってはいない”
「誰だ!?」
 レヴィンが振り向いた方には淡い緑の光の輪が浮かんでいた。そしてその中に一人の美しい若者がいた。
“私の事は知っていよう。風使いセティの末裔よ”
「まさか・・・・・・」
“そう、私の名はフォルセティ。汝が為すべき事、そして私が為さねばならぬ事を教え為す為にここへ来た”
「私が為すべき事・・・・・・」
“そう、それは・・・・・・”
 二刻程経ったであろうか。イード城からレヴィンが出て来た。それは確かにレヴィンだった。しかしその表情、物腰、発せられる気等は今までのレヴィンとは何かが違っていた。今までのレヴィンに別の何かが憑依したかの様だった。それを遠くで見ていたセイラムはワープで姿を消した。レヴィンはそれに気付いたか気付いていなかったか城を見た。そして杖を使わず手でワープを使い消えた。淡い緑の光と共に。
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