第85話 ルナ救出作戦
広い草原のほぼ真ん中に街道が通っている。
左右約1km先に森が茂っているが、通常の方法でそこからの奇襲は不可能。
魔術を使えば気付かれる。
弓では届かない。
攻城兵器では狙いが正確ではない。
だからルナを乗せた馬車を警護する男達は、周囲を警戒しているが悠然と街道を進んでいた。
――ダンッ!
『!?』
発砲音。
金属製、鉄格子付きの馬車を引く角馬2頭が、1発の弾丸で即死する。
角馬の頭部が横一列に並んだ刹那、1発の『7.62mm×51 NATO弾』が2頭の頭部を貫通したのだ。
仮に足を狙い負傷させても、回復魔術で癒されてしまう。
だから即死しか選択肢がなかったのだ。
お陰で馬車を引いていた角馬が倒れ、脚が止まる。
「奇襲!? 馬鹿などこからだ!」
「弓!? いや、魔術か!?」
「ありえん! 魔力の気配なんて微塵もなかったぞ!?」
「変な音はあちらの方角から聞こえてきたぞ!」
「落ち着け! 早く角馬を繋ぎ直せ! 他の者は周囲を警戒、馬車を護衛しろ!」
最初は動揺していた男達だったが、リーダー格らしき人物の一喝ですぐに行動に移る。
男達は発砲音が聞こえてきた方角を警戒するが、そんな彼らを嘲笑うように弾丸はさらに飛翔する。
ダンッ!
ダンッ!
馬車の扉をがっちり閉じている閂を支える閂鎹と錠前ごと、弾丸が吹き飛ばす。
男達はさらに驚愕する。
「ふ、巫山戯るな! どこから攻撃してんだよ! 魔術も使わず錠前を破壊するなんて!? は、は、反則だろうがぁッ!」
1人の男が顔を真っ赤にして声を荒げる。
何が反則だ。
少女を誘拐して、どこぞへ連れて行こうとする外道が口にしていい言葉じゃない。
角馬が射殺され、倒れたせいで馬車本体が傾く。
鍵である閂も錠前ごと破壊されたため、扉が引き開いてしまう。
「な、何の音よ……って、扉の鍵が開いてるじゃない!」
馬車の中から、数日前に見掛けた私服姿のルナが姿を現す。
前と違うのは首に魔術防止首輪が締められ、手足には手錠。人種族に容姿を変えるペンダントは没収されたのか、ハイエルフ族の姿に戻っている。
ルナの姿を確認すると、クリスが立ち上がる。
約500m先の草原が剥がれ、人が姿を現したのだ。
最初、男達はすぐには状況が飲み込めなかった。
男達からしたら、突然、草原から少女が姿を現したに等しい。そんな異様な状況をすぐに飲み込める方がどうかしている。
だが、これはチャンスだ。
オレとスノーは、クリスが立ち上がったのを合図に肉体強化術で身体を補助! AK47を手に突撃する。
クリスがM700Pを構え、さらに発砲!
「キャッ!」
ルナの足に繋がっている鎖を真ん中から断ち切る。
とんでもない精密射撃の腕前だ!
「ルナ! こっちへ走って来い!」
オレは足の間に繋がっていた鎖を断ち切られ、走ることが出来るようになった彼女に声を張り上げる。
ルナは弾かれたようにオレ達に向かって走り出す。
「逃がすかよ! ぎゃあぁぁ!?」
我に返った男の1人がルナへ腕を伸ばすが、クリスはそれを許さない。
彼女は男の肩を『7.62mm×51 NATO弾』で撃ち砕く。
だが、これで5発目。
弾倉が空になる。
クリスは慣れた手つきで弾丸を込めるが、やはり時間はかかってしまう。
その間に男達の腕がルナに伸びる。
彼女も魔術師だが、魔術防止首輪で封じられている。そのため少女の身体能力で男達から逃げなければならない。
さらに男達の中に魔術師も居て、ルナを捕らえるための魔術を詠唱。
「ッ!」
クリスの装填はまだ終わらない。
代わりに今度はオレ達が発砲する。
距離にして約150m。
AK47はアサルトライフルの中では、命中精度があまり良くない(100mの距離で射撃した場合、直径20センチの枠内にはだいたい収まると言われているが)。
ルナに当てないよう気を付けつつ牽制射撃。
クリスの弾倉を込めるまでの時間稼ぎぐらいはオレとスノーで十分出来る。
牽制射撃で数人が倒れ、弾倉を詰め終えたクリスが一撃必中で次々倒していく。
見たことも聞いたこともない銃の攻撃に、男達は浮き立ち、角馬は暴れ統制が完全に取れなくなる。
こうなったら後はほぼ作業でしかない。
「ルナちゃん、確保したよ!」
「スノーはルナを連れて後方へ下がれ! オレが殿を務める! クリスは引き続き援護射撃!」
スノーの声にオレは指示を出す。
ルナは頬、髪、服など風呂に入っていないのか汚れていたが、怪我はないようだ。
酷い目に合っていないことに安堵の溜息をつく。
スノーはルナを抱き締め、来た道を戻る。
オレは2人の撤退をサポートするため、牽制射撃を継続する――が、
「このォッ!」
唯一残った動ける護衛の男性1人がAK47――銃器を知っているのかのように低く、ジクザグに移動し距離を縮めてくる。頭をすっぽりと隠す外套を着ているため外見までは判断出来ない。
空になった弾倉を捨て、新たに付け替える。
フル・オートで弾幕を張り寄せ付けないようにするが、魔力をふんだんに注いだ肉体強化術&抵抗陣により弾かれてしまう。
男は両手にナイフを握っていたが、右手のを投擲。
「くぅッ!」
オレは咄嗟に体を捻り回避するが、その挙動で一気に距離を縮められてしまう。左のナイフを振るわれるが、これもギリギリ避ける。だが、さすがに追撃の回し蹴りまでは避けきれず喰らってしまう。
手からAK47がこぼれ落ち、オレは地面へと倒れる。
「リュートくん!」
スノーの身を案じた一言で、男の動きが止まる。
オレはわざと地面を転がり、相手から距離を取った。
「……リュート、AK47……もしかしてあの『リュート』なのかい? へぇ、生きてたんだ」
「!?」
蹴られた箇所の痛みを驚きが凌駕する。
オレは目が痛くなるほど目蓋を開く。
先程の回し蹴りで被っていた頭の外套部分がめくれる。
お陰で相手の顔を確認することが出来た。
金髪から覗く猫耳。顔立ちはハンサムと言っていいだろう。
約数年前、オレを罠に嵌めて奴隷として売り払った1人! 獣人種族、アルセド!
今、目の前に過去のトラウマが立っている。
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明日、2月9日、21時更新予定です。
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