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第76話 大蠍2

「流石、リュートくんだよ! こんな強そうな魔物を倒すなんて!」

『お兄ちゃん、とっても格好良かったです』

「『wasp knife』にも驚かされたけど、パンツァーファウストも凄い威力だね。あの大蠍ジャイアント・スコーピオンがこんなバラバラになるなんて」

「私もリュートさんのお力を疑っていた訳ではありませんが、これほどとは想像もできませんした。リュートさんならきっと我が祖国を救ってくださると確信しました!」


 妻達&シア、リースが集まり称賛の声をあげる。


 スノーなど尻尾をぶんぶん振るほど喜び、抱きついてくる。

 胸が当たるのは嬉しいが、さりげなく匂いを嗅ぐのは止めて欲しい。

 戦闘直後、しかも人前で『ふがふが』は止めろ。

『新鮮な汗の匂いが最高なんだよ!』って顔をするな。


 オレは彼女の額に手をあて押し離しつつ――『あぁ~ん、もうちょっとだけふがふがさせてよ』という訴えも無視して、日本人特有の謙虚さで答えた。


大蠍ジャイアント・スコーピオンを倒せたのは皆の協力があったからだよ」


 実際、オレ1人だったら、いくらパンツァーファウスト60型があっても勝てなかっただろうな。改めて仲間の存在の大きさに感謝する。


「それじゃ、日が暮れる前に馬車に戻るためにも撤収作業を始めるか」


 オレの指示に皆が元気よく応える。

 前世の遠足ではないが、来た時より綺麗に片付けよう。


 スノー&クリス、シアはAK47の空薬莢拾いに。

 空薬莢は後でリロード(薬莢ケースの再利用)する。節約は大切な美徳だ。


 リースは予備に預けていたパンツァーファウスト60型を仕舞い、さらに大蠍ジャイアント・スコーピオンの死体、鉄条網を精霊の加護で収納する。

 オレは蛸壺の穴を埋めようとした。




 ――そんなオレがもう1匹の大蠍ジャイアント・スコーピオンに気づけたのは偶然としかいえない。


 洞窟の真上。

 切り立った崖の茂みから新たな大蠍ジャイアント・スコーピオンが見えた。敵の狙いは、倒した大蠍ジャイアント・スコーピオンの死体と鉄条網をしまい終えたリースだ。


「リース! 上だ! 避けろ!」

「え?」


 オレは肉体強化術で身体を補助し、リースへと駆け寄る。


 ドシュ! ドシュ! ドシュ!


 粘着質な発砲音を鳴らし、大蠍ジャイアント・スコーピオンは3本の尾から毒針を飛ばす。

 針はスローモーションのようにリースへと殺到する。こんなことならリボルバーを彼女の護身用に貸し出すんじゃなかった。

 オレは後悔しながらも、全力で駆け寄り地を蹴る。


 リースを毒針の圏外から押し出す。

 代わりに毒針の1本がオレの太股に突き刺さる!


「ぐあぁぁぁあッ!!!」

「リュートさん!」


 流れ込んでくる毒。肉を直接高温で焼かれていると錯覚するほどの激痛が走る。

 突き飛ばされたリースが慌てて、駆け寄り毒針を抜き毒消しの魔術を使う。


「生者を蝕む死の足音を消し去りたまえ! 毒よ去れ(ポイズン・ヒール)!」


 傷などを回復させる治癒魔術とは違う光が、リースの手から放たれる。

 お陰で激痛ではなくなったが、痛みは未だこの身を侵し続けている。体は痺れて動かない。その様子を見てリースは魔術を唱え続ける。


 地面が揺れる。

 切り立った崖から大蠍ジャイアント・スコーピオンが飛び降りたのだ。


 最初の大蠍ジャイアント・スコーピオンより小さい。

 体の大きさは約5メートルほど。


『ピギギイギッギギィぎぃいいぃぎギぃぎィイィッ!』


 オレ達のすぐ側に大蠍ジャイアント・スコーピオンが降り立ち、背筋が寒くなる雄叫びを上げる。


 オレは動かない体でスノーの言葉を思い出す。


『シアさんにも話したんだけど、妙に骨の数が多い気がするんだよね』

『そりゃこの辺の魔物の絶対数が減るほど狩ってれば、骨の数は増えるだろ。何か問題があるのか?』

『う~ん、上手く言えないんだけど気になるんだよ』

大蠍ジャイアント・スコーピオンは3本の尾から毒針を飛ばし、獲物を殺害して食べてしまいます。だから獲物を仕留める確率が高いんです。スノーさんはそんな毒針の危険性を訴えているのではないのですか?』

『うーん、そういうのでもないような……』


 スノーが違和感を感じた答え――オレ達が倒した大蠍ジャイアント・スコーピオンには子供が居たんだ!

 2匹も居るから、巣の周りには予想以上に骨が多く散乱していたのか!


 スノーとシアが我に返って走り寄ってくる。

 だが、大蠍ジャイアント・スコーピオンが毒針を飛ばす方が速いだろう。


「リ……リー、ス、逃げろ……」

「嫌です! リュートさんを……大切な仲間を見捨てて逃げるなんて出来ません!」


 リースは魔術を継続しているせいでその場を動くことが出来ないのだ。

 魔術を止めればオレが毒で死ぬ。

 大蠍ジャイアント・スコーピオンの尾がオレ達を狙う。


「リュートくん!」

「姫様!」


 2人の声がいやに遠かった……。


 ドンッ!


 大蠍ジャイアント・スコーピオンの尾が1本動きを止める。

 さらに立て続けに残り2本の尾が破壊され、動きが止まる。


『ピギギイギッギギィぎぃいいぃぎギぃぎィイィッ!』


 大蠍ジャイアント・スコーピオンが苦痛に喘ぐ悲鳴を上げる。

 視線の先――クリスがM700Pを構えていた。


 彼女はライフルの7.62mm×51でも外皮を突破できないと判断。そのため尾にある毒針発射口を狙いM700Pで狙撃したのだ。

 数㎜の穴を文字通り針の穴を通す正確さで!


「我が手で踊れ氷りの剣! 氷剣(アイス・ソード)!」


 スノーはオレ達から大蠍ジャイアント・スコーピオンを引き離すため、より正確に狙える魔術を選択する。10本の氷剣(アイス・ソード)がオレ達の間に突き刺さる。


 尾が破壊されたお陰か氷剣(アイス・ソード)を警戒して、大蠍ジャイアント・スコーピオンが距離を取る。

 狙いは完全にスノー&クリスに絞られた。


 2人はオレ達から大蠍ジャイアント・スコーピオンは引き剥がすため移動する。


「姫様! 一度ボクが解毒を引き継ぐので、パンツァーファウストを出してください!」

「わ、分かりました!」


 シアはオレ達に駆け寄ると指示を出す。

 リースはシアと一旦解毒役を交代し、精霊の加護でしまった最後の1本であるパンツァーファウスト60型を再度取り出す。


「シア、お願い!」

「任せて下さいッ!」


 再び解毒役を交代すると、シアはパンツァーファウスト60型を手にスノー&クリスに加勢する。


 スノー&クリスは大蠍ジャイアント・スコーピオンを翻弄し、シアの準備が整うのを待っているようだった。


(落ち着け……ッ。習った手順通りにやるんだ)


 オレの胸中の言葉が届いたのか、シアが教わった通りに手早くパンツァーファウスト60型の準備を行う。


 まず弾頭の根本あたりに付いている安全ピンを抜く。

 照門を立てる。

 安全レバーを前へ押し出せば発射準備完了だ。


 スノーは準備が出来たことを確認すると、大蠍ジャイアント・スコーピオンを誘うように誘導する。


「ほらほらこっちだよ!」

『ピギギイギッギギィぎぃいいぃぎギぃぎィイィッ!』


 大蠍ジャイアント・スコーピオンは尾が破壊されたため、勢いよくスノーに接近して両手の鋏で捕らえようとしていた。

 だが、彼女は軽業師のようにひらり、ひらりと回避する。


 大蠍ジャイアント・スコーピオンはオレが先程まで入っていたタコツボに足を取られ体勢を崩す。


「粉々に吹き飛べ害虫!」


 シアが唾棄するように叫び、トリガーを押す。

 後方発射炎を吐き出し、『バシュッ!』という発射音が響き渡る。


 体勢を崩していた大蠍ジャイアント・スコーピオンが初速45m/秒の弾頭を避けられる筈も無く、吹き飛ばされる。


『ピギギヤァァアッっ……ァアッッッ!!!』


 大蠍ジャイアント・スコーピオンの断末魔が響く。

 太い足などがクルクルと空中を舞い地面に突き刺さった。


 こうして無事、2体目の大蠍ジャイアント・スコーピオンを退治する。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日、1月31日、21時更新予定です。


やはりというか、大蠍戦があれで終わりではないと多くの方に気付かれてましたねw

今後はもっと精進して上手く伏線を張れるように頑張りたいです。

後、夜に活動報告をアップします。よかったら覗いて行ってください~。

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