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第61話 双子魔術師

 彼女達からアジト襲撃の了承を得ると、早速準備に取り掛かる。

 角馬は手綱を木に縛ろうかとも思ったが、他の魔物に襲われる危険性があるため自由にさせておく。


 AK47の安全装置を解除して、セミ・オートマチックへ。

 コッキングハンドルを引き、薬室(チェンバー)に弾を移動させる。


 クリスもボルトを前後。

 薬室(チェンバー)に『7.62mm×51 NATO弾』を押し込む。


 全員が戦闘(コンバット)ブーツの紐を改めて硬く結び直し、戦闘用プロテクターの具合を確かめ、アイプロテクション・ギアを装着する。


「フォーメーションは訓練通りシアが先頭、スノー、オレ、一番後ろがクリスだ。今回の目的は双子魔術師の現アジトを突き止めて、敵を制圧すること。途中で遭遇するだろう魔物とはなるべく交戦せず、迂回出来る場合はしていこう。発砲音で相手に気取られるのはマズイから」

「任せて。なるべく魔物に出会わない道を選んで進むから。それにいざという時は、ボクがナイフで静かに仕留めるよ」


 シアが頷き、腰に下げているナイフを二、三度叩く。


「これ以上、魔術師達の被害者を出さないため彼らを倒すつもりだが、もし生存者が居た場合は優先的にその人を救出する。もちろん、自分達の身の安全が第一だが」


 将来、オレは困っている人や救いを求める人を助ける軍団(レギオン)を立ち上げたい。

 まだ立ち上げられるレベルには達していないが、そんなの関係なく困っている人、助けを求める人が居たら救助しようと改めて皆と確認しあう。


 スノー達も同意するように頷いてくれる。

 オレは本当にいい嫁、友人を持ったものだ。

 オレも頷き返し、告げた。


「それじゃ出発だ」


 掛け声を合図に皆が森の中へと分け入る。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 シアは『自分を奇襲で襲うのは深夜の森でも不可能』と自慢するだけあり、夜の見張り番では、誰よりも早く魔物の存在に気が付き、肉体強化術で身体を補助してナイフで仕留めていた(深夜だったため、発砲音で睡眠を妨害したくないという気遣いだろう)。


 彼女は気配察知技術がずば抜けて高いのだ。

 それは魔物だけではなく、追跡や罠の察知にも役だってくれる。


 早速、罠を発見。

 金属製のトラバサミだ。


「この辺に住んでる狩人が仕掛けた罠か?」

「誰が仕掛けたか断言は出来ないけど、生身でかかったら足の骨ぐらい楽に折れちゃう。ボクの足跡以外の場所は踏まないように気を付けて進んでね」


 シアの指示に従い、彼女の足跡以外を踏まないようにトラバサミを迂回する。

 さらに進むと鳴子に連動した糸が結んであった。


 この糸に引っかかると、鳴子が鳴る仕組みだ――と、見せかけてこちらはダミー。本命の魔術結界が張られていた。ブラッド家に侵入した時に見たものと同じタイプだ。


 鳴子に目を行かせ、分かりにくい場所に設置された魔術結界に引っかからせる罠のようだ。


「努力は認めるけど鳴子の設置があからさま過ぎるよ。これじゃ『さらに罠が隠されてます』って宣伝しているようなものだよ」


 シアはどこぞの批評家のような毒舌を吐き、魔術結界の杭を3分も経たず沈黙させる。

 スノーでも5分以上かかっていたのに、さすがだ。


「魔術結界があるってことは、そろそろ奴らのアジトが近いってことだな。皆、気を引き締めて行こう」


 スノー達はそれぞれ返事をする。

 オレ達はさらに森の奥へと進んだ。


 この探索の間中、魔物と出会うことはなかった。

 魔物達も大鬼(オーガ)の集団によって狩り尽くされてしまったのだろうか?

 オレ達にとっては都合が良い。


 約30分ほど――自分達が居る場所から、約50メートル先に森が途切れた空き地が広がっている。

 広さは先程の広場の約半分ほど。

 奥には洞窟がある、そこから再び木々が茂っている。


 そんな空き地のほぼ中央で焚き火がたかれ、大鬼(オーガ)達が遺体や角馬の死体を美味そうに喰っている。


 数はざっと41、2匹。

 50匹はいなかった。


「……ッ」


 クリスが口元を抑える。

 この中で一番目が良い彼女にとっては辛い光景だろう。

 だが偵察をしない訳にもいかない。


 洞窟の脇には強奪したと思われる荷物が積み上がっていた。

 いかにも魔術師っぽいローブを頭から被った2人が、積み上げられた荷物の中身を確認し談笑しているようだ。

 恐らくあの2人が双子魔術師なのだろう。


 オレは視線を動かし、生存者を確認する。

 荷物側に猿轡をかまされ、縄で手を縛られた女性が震え上がっていた。

 まず間違いなく、商隊の生き残りだろう。


 オレの視力では遠目のため、女性としか分からない。

 歳は恐らく20歳を少し過ぎたぐらいだ。


 男達は女性を無理矢理立たせると洞窟の奥へと消える。


(下種共が……ッ)


 この後、彼女がどうなるか嫌というほど想像出来る。

 時間が無い。すぐさま作戦を立案する。


 皆が顔をつきあわせ、小声で話し合う。


(まずオレが左、スノーとシアが右から大鬼(オーガ)達を一掃する。クリスは洞窟入り口正面、見える位置に着いてくれ。もし男達があの女性を人質にしたら遠慮無く7.62mm弾を喰らわせてやれ)


 スノー、クリス、シア達は真剣な瞳で頷く。


 オレ、スノー、シアが左右に広がる。

 広がると言っても、10メートルほどしか離れていない。

 クリスの射線を確保するため、洞窟の正面には立たないよう位置を取る。


 クリスに視線を向けると、膝立ち姿勢――膝射(ニーリング)という射撃体勢だ。


 オレもセミ・オートから、フル・オートへ切り替える。

 皆に見えるよう左腕を上げ、カウントを開始。


 5、4、3、2、1――


「GO!」


 肉体強化術で身体を補助! オレ、スノー、シアは茂みから飛び出し、焚き火を囲んでいる大鬼(オーガ)達へ一斉に射撃をおこなう。


『!!!???』


 オーガ達が驚き、こちらを振り向く。

 だが遅い。

 オレが左、スノー&シアが右から『×』字を描くように発砲する。

 大鬼(オーガ)達もどちらへ向かえばいいのか一瞬躊躇し、その結果無防備で7.62mm×ロシアンショートを山ほど喰らう。


 だがオークよりも上位だけはあり、胴体に叩き込んでも中々死なない。


『オオオォオオオォオオオ!!!』


 1、2発被弾しながらも雄叫びをあげ、オレ達へ突撃してくる。


 オレは身体――特に目を強化。

 昔、ゴブリンを倒した時のように頭部に狙いを変更する。


 リボルバーとは違う圧倒的火力。

 威力も段違いのため、オーガの頭部に直撃すると簡単に分厚い頭蓋骨を砕き脳漿をぶちまけた。

 弾倉交換もスムーズで淀みがない。


 2つ目の弾倉を使い切った時点で、自分に向かってきたのは殲滅する。

 スノー&シア側も同様に倒しきったようだ。

 時間にして1分もかかっていない。


 ――静寂が訪れる。


 オレ達はマガジンポーチから新たなマガジンをセットして、銃口を洞窟入り口へと向けた。

 オレ、スノー、シアは互いに頷きあいゆっくりと歩き洞窟入り口を包囲する。


 さらに約3分ほど経って先程、洞窟奥へと入って行った魔術師風の2人が女性を人質にしながら姿を現す。

 顔に黒い塗料で左右半分ずつ入れ墨を彫っている。

 2人で合わせると1つの絵柄になるようだ。


 その入れ墨以外は顔立ち、背丈も全て一緒。

 この男2人が、双子魔術師でまず間違いないだろう。


 右半分に入れ墨を入れている男が、女性にナイフを向け楯のように扱っている。

 強姦はされていないようだが、女性は顔を殴られたせいか腫れていた。


「「貴様等、何者だ! 魔術も使わずどうやって短時間にこれほどの大鬼(オーガ)共を退治したんだ!」」

 男達はユニゾンで喋り問いかけてくる。

「誰でもいいだろう。それよりも、お前たちこそ……ってそういえば、こいつらの名前知らなかったっけ」

「「オレ達の名を知らないとは――無知とは罪! オレ達こそはこの界隈に名が轟く双子の魔術師、2人同時に魔術を使うことによって我らの力は跳ね上がる! さあ見るがいい我が魔術を、そして死にゆく魂に刻むがいい我らの名――カ」


 ――ダン!


「ぎゃぁあぁぁッ!」


 敵の台詞は弾丸で遮られる。


 クリスのM700Pが発砲した『7.62mm×51 NATO弾』が人質を取る男の肩を砕く。

 人質が腕から離れると、呆然とするもう片方の足を撃ち抜く。


「ぐああぁぁあッ!!!」


 男2人は経験したことのない痛みに悶絶する。

 さらにクリスは容赦なく、1発ずつ弾丸を男達へ撃ち込んだ。


 オレが腕を上げ射撃中止を指示。

 シアと共に駆け寄り悶絶する男たちの顎をそれぞれ蹴り抜く。

 男2人はあっけなく意識を手放す。


 足と肩の出血は激しいが、弾は貫通していた。

 念のため持って来ていた魔術防止首輪を付け、縛り上げる。その後、シアが足と肩の治療をしてやる。

 こんな所で楽には殺さない。生け捕りに出来たのだから、ちゃんとした法の場に引きずり出し、罪を償わせてやる。


 スノーはうずくまっている女性に駆け寄り声をかけていた。

 ナイフを取り出し、縛られた手の縄を切る。


「安心してください、わたし達は助けに来た者達です。魔物達は全員退治したのでもう大丈夫ですよ」

「あ、ああ、あり――」


 恐怖で一杯一杯の彼女は、震えてお礼を口にするのも難しいらしい。

 スノーは気にせず、水筒を彼女に渡し背中を落ち着かせるようにさすった。また顔に治癒魔術をかけてあげる。

 治癒魔術の力で、彼女の顔についた傷痕は綺麗に無くなった。


 オレはその姿を見届け、クリスに手を振る。

 彼女がこちらに来てから、残党がいないことを確認し、皆に指示を出す。


「シアは先に戻ってゴムゴさん達に無事を知らせてくれ。戻ってきたら角馬を1頭つれてここに戻って来てくれ。この双子を一緒に運ぶから。オレとクリスは残党がいないか周辺を調査する。スノーは彼女が落ち着くまで側に居てあげてくれ」


 皆が指示を聞き、迅速に動き出す。

 こうして無事、オレ達は女性を救い出し、賞金首である双子魔術師を捕らえることに成功した。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日、1月16日、21時更新予定です。


炸薬の擬人化はすでにあったのか……。自分が考えるようなことは大抵出ているもんですね。色々作品名を教えて頂きありがとうございます!

あと、野外用携帯ウォッシュトイレ。教えて頂いたHP覗いたけど、凄いね。よくあんなの思いつくよな。マジその発想は無かったわ。

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