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第450話 軍オタアフター 対クラーケン再戦

 飛行船ノアがクラーケンに破損されてから数日後。

 オレとシアはレシプロ機(擬き)に乗って、再びクラーケンが出没する海域へと向かう。

 操縦席にシアが座り、後部座席にPKMを無理矢理つけた座席にオレが座っている。


 空は晴れ、眼下に見える海が太陽光をキラキラと反射する。

 巨大な魔物の住処とは思えない心奪われる綺麗な光景だ。

 クラーケンがいなければ、妻達とのんびりクルージングに来てもいいぐらいの素晴らしい海である。


 そんな場所を取り戻すため、早速作戦に移った。


 目標海域に到達すると、操縦席に座るシアがスイッチを押す。

 レシプロ機(擬き)底部には赤いペンキに似た塗料が詰まった入れ物が設置されている。スイッチを入れると、赤いペンキが海上へと散布されていく。

 シアは慣れた手つきでレシプロ機(擬き)を操縦し、なるべく広範囲にペンキを散布していった。


 まるでアメリカの農場で作物に農薬を撒くかのような気分だ。

 アメリカの場合、農薬散布ひとつでも豪快である。


 一通り巻き終えると、海上はまるで赤潮になったように赤く色づいていた。

 赤ペンキには色だけではなく、撒き餌の役割を果たすために家畜の血も混ぜておいた。

 もちろんクラーケンを誘き寄せるためである。


 シアは今までクラーケンが触手を伸ばしても届かない位置でペンキを散布していた。

 散布し終えると、まるで挑発するように高度を落としグルグルと飛び回る。

 血の臭いに釣られたのか、シアの挑発が功を奏したのか、赤い海面が揺れ出す。

 赤ペンキのお陰で、前回と違ってクラーケンの姿をはっきりと捉えることができる。


 クラーケンは体表を変化させて擬態しているが、ペンキが体に付着してその意味を失う。


 敵対する相手が分かれば対応策などいくらでも出せる。


 シアはすぐにレシプロ機(擬き)を上昇させ、触手の範囲から逃れる。

 オレもようやく自分の仕事に取り掛かる。


「シア、操縦は任せた!」

「お任せください!」


 シアに声をかけると打ち合わせ通り、彼女は速度を上げクラーケンへと突っ込む。

 レシプロ機(擬き)を捕まえようと伸ばされた触手を回避。

 後部座席に座るオレはPKMの引鉄(トリガー)を絞る。無数に吐き出される弾丸の殆どが高速で移動するレシプロ機(擬き)によって流されクラーケンから外れる。

 しかし元々の大きさが巨大なため、胴体や触手などに複数命中。


 さらに数十発のうち数発、魔石を使って作り出した炸裂焼夷弾(さくれつしょういだん)を使用している。

 炸裂焼夷弾(さくれつしょういだん)とは、第二次世界大戦時にドイツが作った内部で爆発する弾のことだ。

 本来は銃弾内部に黄燐(おうりん)を詰めて作るのだが、魔石で代用している。


 クリスがドラゴンなどの巨体を倒すとき好んで使っている特殊な弾薬(カートリッジ)だ。


 さすがにPKMで使用する全ての弾薬(カートリッジ)炸裂焼夷弾(さくれつしょういだん)にするわけにいかず、数十発のうち数発だけ混ぜて使っている。

 だが効果は覿面で、炸裂焼夷弾(さくれつしょういだん)がクラーケン胴体に着弾すると内部から爆発!

 クラーケンが痛みに暴れ出す。


 クラーケンは怒りに燃えているのかオレ達が乗るレシプロ機(擬き)を捕らえようと夢中になる。

 ここまでは全て作戦通りだ。


 シアは飛行船ノアを操縦する機会が多いためか、レシプロ機(擬き)を動かす腕はオレより高い。

 捕らえようと伸ばされる触手を回避し、近すぎず、離れすぎない位置を上手くキープしてくれる。

 オレもクラーケンの意識を集中させるため、PKMで狙いをつけ懸命に叩き込む。


 努力の甲斐あって完全にクラーケンは、オレ達が乗るレシプロ機(擬き)に意識を集中していた。


 ――そろそろ頃合いか。


 シアに指示を出すと、翼を上下に揺らす。

 遊んでいる訳ではない。

 合図を出しているのだ。


 オレ達より高度を取り待機していたココノ&リースが搭乗しているレシプロ機(擬き)が、太陽を背に彗星のごとく降下してくる。

 しかしクラーケンはオレ達を追いかけることに夢中でココノ&リース組に気付いていない。

 彼女達が乗る機体は海面が近付くと水平に保つ。


 まるで忍者のごとく静かに素速くクラーケンの背後を取る。

 機体ごと突撃するかのように高速でクラーケンへと迫るが、当然本体ごとぶつかるはずがない。

 ココノがスイッチを押し、機体底部に設置された金属製の物体をリリース。


 金属製の物体は高速で飛行するレシプロ機(擬き)から解き放たれると、まるで石が川面を跳ねるようにクラーケンへと迫る。

 まるでダムの壁のごとく巨大なクラーケンの胴体へと吸い込まれ、衝突――大爆発を起こす。


『!!!!!!?』


 背後からの完全な奇襲。

 8.8cm対空砲(8.8 Flak)や120mm滑腔砲(かっこうほう)にも劣らない攻撃にクラーケンは痛みに悶えるように触手を動かし、海面を叩く。

 叩くたびに大量の海水を巻き上げた。


 オレ&シア、ココノ&リースが乗るレシプロ機(擬き)はすでに退避済みのため、触手も海水にも巻き込まれる心配はない。


 ココノ&リースがおこなった攻撃は――反跳爆撃(はんちょうばくげき)と呼ばれる攻撃方法である。

 英語でスキップボミングとも呼ばれる。


 どのような攻撃かというと、航空機に爆弾をセット。海面近くを高速で飛行し、爆弾をリリース。

 爆弾はまるで川面に投げられた石のように水を切って前進し、目標へと向かう。

 まさにオレ達が川で遊んだ『飛び石』である。

 投げるのを石から爆弾に代えただけだ。


 反跳爆撃はいくつもの利点がある。

・反跳爆撃専用の爆弾を使わずとも、既存の物で代用が可能。

・魚雷を装填する航空機でなくても、船舶に攻撃が可能。つまり魚雷代わりに使うことができる。

・魚雷より大量の炸薬を詰めることが可能。

・爆弾を上空から投下するよりは命中率が高い。


 もちろん利点だけではなく、欠点も当然ある。

 航空機から投下した際、海面にぶつかり誤爆したり、上手く水を切って前進しない場合もあるのだ。

 また100%命中する訳ではない。


 意外と問題点も多いが、現状の手札でもっとも有効的な攻撃手段なのは確かだった。


 そこで操縦技術の高いココノにレシプロ機(擬き)で反跳爆撃の練習をしてもらった。

 オレとメイヤはその間に、反跳爆撃に適した爆弾の準備をおこなう。


 練習を終えて作戦当日。

 オレとシアが乗るレシプロ機(擬き)でクラーケンを挑発し、意識をこちら側に向けさせる。

 ココノ&リースのレシプロ機(擬き)で背後から強襲。

 反跳爆撃によってすぐには身動きできないレベルの大ダメージを与えた後、止めを刺すという作戦を立案したのだった。


 ちなみにオレとシアが乗っているレシプロ機(擬き)は、リースの『無限収納』に修理用に予備パーツとして入れておいた部品を組み立てたものだ。

 予備パーツで組み立てたとはいえ、急造で組み立てたものなので戦闘途中で本体がバラバラにならないかと心配したがどうにかしのげたようだ。


 そして狙い通りクラーケンは背面を大きく削り取られ、最初こそ痛みのためか激しく悶えていたが、胴体がぐらりと倒れ海面へと着水。

 反跳爆撃によってえぐり取られた背中を再生するのにエネルギー&魔力を集中しているせいで、潜ることもできず、触手の動きも鈍くなる。

 こうなったら後はどうにでも料理できるというものだ。


『まな板の上の鯉』――ならぬ、『まな板の上のクラーケン』状態である。


 時間が経てば再生し再び活動を始めるだろうが、待ってやるほどオレ達は優しくない。


 ココノ&リースが乗るレシプロ機(擬き)が、始原(01)の地上部隊を爆撃したようにぐるぐるとクラーケン上空を飛行する。

 リースが腕を伸ばし『無限収納』から、爆弾を落としていく。

 爆弾はオレとメイヤが反跳爆撃に適した型式は無いかと研究用にいくつか試作品を作った。捨てるのももったいないので爆雷代わりに利用する。

 もちろん他にも確実に止めを刺すため、爆弾を投下していく。


 まるで雨が降るように『無限収納』から爆弾が落ち、海水に着水しては飛沫を飛ばし起爆。


 先程の飛沫などとは比べモノにならない水柱が何本も作られる。

 水柱の中にはクラーケンの千切れた触手や胴体がいくつも紛れ込んでいた。


 水柱が収まると海上にクラーケンの千切れた胴体や触手、目玉などが浮き上がる。再生する気配は無いため、完全に止めを刺しただろう。

 同時に海水によって作られた虹がキラキラと輝き、オレ達の眼を楽しませてくる。


 こうして無事に巨大な魔物――クラーケンを討伐することに成功したのだった。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

4月25日、21時更新予定です!


軍オタ10巻発売中です!

皆様の予想通り、クラーケンを討伐する方法は反跳爆撃でした!

もう少し上手く伏線を張れるとよかったのですが……。まさか昨日の感想であれほど指摘を受けるとは。

今後も精進しなければと思いました。

さてさて次話でいよいよ新婚編もお終いです。

よろしければ最後まで読んで頂けると嬉しいです。


(1~5巻購入特典SSは15年8月20日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)


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