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第438話 軍オタアフター どっちが本物?

第437話、第438話の二つを今回は連続でアップしました。


なので読み間違いないようご注意ください。


 魔王を倒した勇者、『魔力消失事件』を解決した英雄であるオレ達の結婚式パレード&パーティーは三日三晩続いた。

 ココリ街だけではなく、壁外にも万単位で集まった人々から祝われることになる。


 4日目はさすがに皆、体力が限界に達して休んだ。


 5日目になって集まった人々はそれぞれの暮らす場所へと戻り出す。

 その帰省ラッシュの中にエル先生達も含まれていた。


「リュート君、スノーちゃん、皆さんの結婚式はとても素晴らしいものでした。大勢に祝福されたリュート君達の結婚はきっと幸多いものになるでしょう。しかし、当然、幸福だけがある訳ではありません。苦しいこと、辛いことも多いでしょう。ですがリュート君達ならきっと乗り越えられると信じていますよ」

「ありがとうございます、エル先生。これからもスノー、妻達と一緒に頑張っていきたいと思います!」

「わたしも、頑張ります!」


 場所は獣人大陸、ココリ街。

 新・純潔乙女騎士団本部グラウンドで、飛行船ノアが出発の準備を終えて待機している。


 乗り込む前に送り届ける人々と挨拶をかわしていた。


 第一陣で送り届ける人々は妖人大陸のエル先生組、北大陸のアム・白狼族組だ。

 旦那様達、魔人大陸組は第二陣で、飛行船ノアが戻り、用事を終えてから帰宅して頂く手筈になっている。


 そう、結婚式パレード&パーティーは終わったが、まだ旦那様には大事な大事な用件があるのだ。


 ちなみに竜人大陸組、メイヤパパのハイライ・ドラグーン、自称メイヤのライバルであるリズリナ・アイファンは、すでに帰宅済みである。


 招待していないのになぜか来ていた受付嬢さん&ロン・ドラゴンがまーちゃんの背中に乗って竜人大陸に戻ると言い出し、2人のご厚意から、ハイライ&リズリナも乗ることになった。

 最初、リズリナ達2人は遠慮しこちらに助け――げほん、ごほん、視線を向けてきたが気付かないふりをする。

 なぜなら次期ドラゴン王国国王夫婦(予定)の気遣いを無にするなんてとんでもない! 大変光栄な申し出のため、2人のためにも気付かないふりをしたのだ。


 ハイライ&リズリナは、まるでドラゴンに捧げられる供物のような表情でロン達2人の後に続いた。


 しばらくして飛行船ノアに第一陣の荷物を積み込み終える。

 出発準備が整ったので、オレはエル先生やギギさん、ソプラ、フォルン、アムやアイス、他白狼族の皆々に挨拶を交わしていた。

 ソプラ、フォルンは寝ていたため、しっかりと挨拶できなかったのが残念だが……。


 最後にスノーがエル先生、スノー父のクーラさん、母のアリルにギュッと抱きつく。

 挨拶を終えると、飛行船ノアに搭乗。

 甲板に立ちこちらを見下ろす。


 全員が乗り込んだところで飛行船ノアがゆっくりと上空へと浮き上がる。

 今回、飛行船ノアを操り、エル先生達を護衛、送り届けるのはシア達護衛メイドの一部と新・純潔乙女騎士団の団員達に任せていた。


 本来であれば最後までオレが付き添いたかったのだが……エル先生が帰った後、どうしてもやらなければいけないことがあるのだ。

 オレ達はどんどん上昇し小さくなる飛行船ノアへと手を振る。

 甲板に出ているエル先生達も一生懸命に手を振り替えしてくれた。


 底部しか見えなくなると、一般的な飛行船では考えられない速度で一路妖人大陸を目指し飛び立ってしまう。

 スノーがギュッと隣に立つオレの手を握ってくる。


 エル先生達が帰ってしまったのが寂しいのだろう。

 確かにエル先生達と別れるのは悲しい。

 できればずっとココリ街に住んで欲しいぐらいだ。

 しかし、そういう訳にもいかない。


 それにスノーの側にはオレだけではなく、他妻や団員達、街人など大勢が居る。

 決して、一人ではない。

 オレはその意味を込めて、強く握り返す。


「リュートくん、ありがとう……もう大丈夫だよ」


 しばらくしてスノーは元気を取り戻し、ごしごしと目元を拭ってから笑顔を作る。

 彼女の笑みは虚勢ではなく、本心からのものだと確認してから手を離した。

 できればこのまま慰めたい所だが、オレ達にはまだやるべき仕事が残っている。


 結婚式パレード&パーティーの片づけではない。

 警備に関しての報告でもない。

 今回の結婚式パレード&パーティーで発生した問題を聞くためでもない。


 オレはグラウンドを後にしながら、心の底から笑みを作る。


「エル先生達も無事に見送れたことだし、早速始めようか――駄兎狩りをな!」


 向かう先は新・純潔乙女騎士団本部、駄兎アルが眠る私室だ。




 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 獣人種族、兎人族、アル。

 オレとスノーを育ててくれた孤児院を運営する聖母エル先生の一卵性双生児の妹である。


 聖母エル先生に対して、妹であるアルさんは『駄兎』『邪神』と思わず言いたくなるほど質が悪い。

 特にエル先生に対して恩義を感じていたり敬愛している者であればあるほど、その傾向が強くなる。

 獣人種族虎族(とらぞく)、魔術師S級タイガ・フウーですら手も足も出ず、心を折られて旅に出たほどだ。


 現在、タイガはブーケをキャッチ後、エル先生&ギギさんに見つかったにもかかわらず、再び姿を消していた。

 恐らくまた駄兎であるアルさんの封印方法を探す旅に出たのだろう。


 だが、彼女の旅は無駄になる可能性が高い。

 なぜなら、今からオレの義父である魔人種族、魔術師A級、ダン・ゲート・ブラッド伯爵に、アルさんを鍛えてもらうたからだ。


 今までどんな悪人だろうと、旦那様が鍛えることで真っ当な人物に更生させてきた。

 今まで更正させてきたのは男性のため、女性に効果があるか分からないが、旦那様ならきっとあのアルさんを真っ当な人物にしてくれるだろう。


 そのアルさんだが、現在は新・純潔乙女騎士団本部に割り当てている私室で眠っている。


 実姉のエル先生の見送りもせずにだ。


 そんな駄目妹のフォローをエル先生は別れ際にしていた。

『昨日は久しぶりに遅くまで酒精を飲みながらお話をしたので、起きられなかったみたいで。見送りはいいので暫く寝かせてあげてください』と。


 エル先生の言葉通り、昨夜、アルさんは街の宿屋ではなく、本部にある自身の私室で一夜を過ごした。

 アルさんが久しぶりに姉妹水入らずで話をしようとエル先生を誘ったのだ。


 確かに結婚式パレードや準備等で、2人がゆっくり話をする機会はなかった。


 そして本部客室でアルさんがエル先生、ギギさん、ソプラ、フォルンと顔合わせをした時。

 彼女はエル先生がトイレに立っている間にソプラ、フォルンを前に呟いた。


『2人とも凄く高く売れそう……金貨100枚、いや、1000枚は固いわね』


 彼女の隣に座っていたオレだから、その呟きを聞くことができた。

 甥っ子、姪っ子を前にそんな感想を呟くなんて!?

 オレは戦慄し、絶対にこの駄兎を封じ込める決意を固めた。


 当然、彼女を逃がさないために部屋の前には歩哨を立て、窓の外にも警護という名の監視員を置いている。

 エル先生の手前、位置が把握できる『魔術防止首輪』を装着させるわけにもいかなかった。

 しかし現在、エル先生の目は無い。

 アルさんを逃がさないためにも『魔術防止首輪』を付けておくべきだろう。


 オレとスノーがアルさん私室に到着すると、歩哨をしていた2人の団員がノック後扉を開いてくれる。

 オレ達は躊躇わず中に入った。


「アルさん! おはようございます! エル先生はお帰りになりましたから、もう遠慮しませんよ!」


 意図して声量を上げながら、話しかけるが彼女はベッドで気持ちよく寝続ける。

 私室テーブルには酒精の瓶が何本も置かれ、コップにも半分ほど飲みかけが入っていた。

 昨夜はよほど飲んだらしい。


 酒精の臭いに鼻が良いスノーが顔をしかめて、両手で鼻を覆う。


「アルさん、起きてください! 朝ですよ!」


 ベッド側に歩み寄り声をかけるが起きない。

 彼女は幸せそうに眠っている。

 本当に黙っていれば、神々しいエル先生と瓜二つだ。

 一卵性双生児ゆえの奇跡である。


「……?」


 違和感に気付く。

 なぜか彼女は渡した私服姿で眠っていた。

 普通、パジャマで寝るものじゃないのか?

 それに耳がいい兎人族のアルさんが、近くで大声をあげているのに起きないなんて……。


 オレは歩哨に立つ団員に彼女を揺さぶってもらうよう頼む。

 スノーは何か気になるのか、コップ等が置いてあるテーブル周りをうろうろしている。

 彼女を気に懸けていると、団員がアルさんを起こすため強めに体を揺さぶるが起きない。


 酒精を飲み過ぎたとはいえ、これはちょとありえないぞ。


「リュートくん、ちょっといい?」

「どうした、スノー」

「この酒精、なんか変な臭いがする」


 スノーが指さしたのは半分ほど飲み残しが入ったコップだ。

 彼女は鼻を近づけて『すんすん』と臭いを嗅ぐ。


「なんだろう……酒精の他に、薬臭い臭いが混じっているっぽいよ」

「!?」


 スノーの言葉に脳裏を電撃が走り抜ける。


「まさかアルさんの奴、エル先生に一服持って入れ替わったのか!?」

「? どういうこと?」


 首を傾げるスノーに説明した。


「昨晩、姉妹水入らずで語りたいって言って、エル先生を部屋に招き入れて、睡眠薬入りの酒精を飲ませる。意識を失わせて、着ている衣服を交換。朝、時間になったらエル先生として部屋を出たんだ」


 そうすれば歩哨に怪しまれずに部屋を出ることができる。

 スノーは慌てて否定した。


「あ、ありえないよ! だってエル先生に抱きついて匂いを嗅いだ時、いつも通りの匂いだったもん!」

「同じベッドで一晩中一緒に寝たんだろう。衣服も交換して、匂いを誤魔化したんじゃないか?」


『私室で姉妹水入らず話がしたい』と言われ許可したが、小石のような違和感もあった。


 なぜわざわざ私室で一晩飲み明かすのか?


 オレ達の結婚式パレード&パーティーで街の中も外も人で溢れているためバーや飲み屋、食事所は使い辛い。それでも本部食堂などで飲んでもいいのだ。

 わざわざ私室にする意味は薄い。

 だが、『エル先生と入れ替わるため』だとすると筋が通る。


 一晩中一緒に過ごし、エル先生の匂いを体に染みこませたのだ。

 まるで匂いを消すため水に入るように。

 スノーやギギさんの鼻を誤魔化すため、アルさんはエル先生&酒精の匂いを纏ったのだ。


 睡眠を促す魔術薬をどうやってアルさんが手にしたのかは分からない。

 私物のどこかに隠し持っていた可能性が高い。

 一応、危険物が無いか団員に確認したが、手落ちの可能性は十分にある。


 後は飛行船ノアに乗ってすぐ『まだ酒精が残っている』と言って、目的地に到着するまで個室に引きこもり極力他者と接触しなければ正体がバレる心配も少ない。


 まるで前世地球で読んだ推理小説の大胆な心理トリックだ。

 大勢の前であれだけ堂々としていたら、誰もエル先生とアルさんが入れ替わったとは気付きにくい。

 まさに盲点である。


「……とりあえずベッドで眠るエル先生(?)かもしれない彼女を起こそう。スノー、解毒の魔術を頼む」

「やってもいいけどあんまり意味はないと思うよ?」

「そうなのか?」

「睡眠薬とかは飲んだ直後やちょっと時間が経ったぐらいなら、なんとかできるけど……長時間経って全身に回ったらその人の睡眠欲なのか、薬のせいか分からなくなるから解毒できないんだよぉ……」


 この世界の魔術に解毒魔術があるが、睡眠欲は『毒』扱いされない。

 疲労ならある程度なら治癒魔術でなんとかなるが、睡眠欲――眠気は治癒や解毒魔術ではどうすることもできないのだ。

 もちろん前世地球にあるような栄養ドリンク系、眠気防止のような薬もあるが、今、それを飲ませても意味はない。


 つまり、目の前の女性がエル先生か、アルさんか判明するためには目を覚ますまでまつしかないらしいな。

 一応、スノーに解毒魔術をかけてもらう。




 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 数時間後、ようやく彼女の瞼が開く。


「んぅ……」


 微かな声音。

 ゆっくりと瞼が開く。

 部屋を見渡し、彼女はソッと呟いた。


「ここはアルのお部屋……私、昨日は一緒に飲んで……ッ」


 彼女は昨晩のことを思い出そうとして頭を抑える。

 二日酔いだろう。

 睡眠薬とお酒など最悪の組み合わせだ。二日酔いになるのもしかたない。


 オレ達の視線に気が付き、こちらへと視線を向ける。


「リュート君、スノーちゃん……どうしてアルのお部屋に? あっ、今何時!? 私もしかして寝坊したん――ッゥ」

「む、無理しないでください!」


 慌てて起き上がろうとしたので止める。

 しかし本当に彼女はエル先生なのだろうか……。

 もしかしたらアルさんが、演技をしている可能性もある。


 だがどうやって確認すればいい?


 悔しいがアルさんはエル先生と一卵性双生児のため、見た目だけ……見た目だけは同じだから質が悪い!


 スノーの『ふがふが』で確認しようにも本人の匂いが混ざっているのと、酒精が邪魔をして判断が付かないだろう。

 クリスに外見判断をしてもらおうにも、一卵性双生児のため意味がない。

 ここはベタにエル先生しか知らない過去の話を振るしかないだろうが……確実にアルさんが知らないエル先生との話なんてあったか?


 腕を組み思案するが、どれもアルさんが知っていそうで質問を躊躇ってしまう。


(あっ! 一つだけ絶対にアルさんが知らない話があるじゃないか!)


 オレはベッドで横になる兎耳女性に尋ねる。


「突然で申し訳ないんですが、オレの左肩に何があるか覚えていますか?」

「左肩ですか? 右肩になら星形の痣があった覚えがありますが……左肩には何もなかったとはずですよね?」


 はい! エル先生です!

 赤ん坊時代から面倒を見ている彼女なら、オレの肩に星形の痣があることを知っている。

 引っかけで『左肩』と言ったが、騙されることもなかった。

 なので今ベッドに眠っている兎耳女性はエル先生で確定だ!


 あの駄兎! まさか白昼堂々とエル先生の振りをして逃げ出すとは!


「あの私からも聞きたいのだけど……どうして私はアルの服を着ているのかしら?」

「いえ、オレにもちょっと……アルさんの悪ふざけとかじゃないですかね」

「もうあの子ったら! 昔からよく意味の分からない悪戯をするんだから」


 エル先生はベッドに横になりながら、プンプンと怒る。

 きっと昔はエル先生の振りをして、アルさんが色々やらかしてきたんだろうな……。


 ベッドに横になっている女性がエル先生だと確定したので、逃亡したアルさんを捕らえるため情報担当のミューアに声をかけておく。


 エル先生は酒精に酔って寝坊した事実に落ち込んでいた。


 新型飛行船ノアはすでに出発しているため、戻ってくるまで彼女を送り届けることは難しい。

 そのため飛行船ノアが戻ってくるまで、エル先生には本部で待ってもらうことになった。

 アルさんが脱走したとはいえ、意外な形でエル先生と再び一緒に居られることにテンションが上がってしまう。

 悪いとは思っているのだが……。


 とにかく、次はまたこういうことが起きないように対策を立てなければ!


 飛行船ノアが戻ってくるまでオレは逃げ出したアルさんを捕らえた後、どうやって絞ってやろうか考え続けたのだった。

軍オタ10巻発売まで後8日!


今回は2話連続更新です!

1話がアルさんの話なので、口直しにと連続投稿させて頂きました。


第437話、第438話と二つアップしているのでご注意くださいませ。


(1~5巻購入特典SSは15年8月20日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)

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