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第420話 終わりよければすべてよし?

 初めてロン・ドラゴンと出会った時、彼は言った。


『リュート・ガンスミスよ。己こそ分を弁えよ。自身の尺度が全て正しいわけではないのだ。何よりそちと朕では格、器とも違うのだからな』


 その台詞を聞いて、嫁達が殺気だった。

 オレ自身、胸中で溜息を漏らし呆れてしまった。


 しかし、今、目の前で見せられる光景に、オレ達――PEACEMAKER(ピース・メーカー)を含めた全員がロン・ドラゴンの言葉の意味を実感した。


 彼は本当に格が違っていた。


「私ね、子供の頃からの夢で夫婦になったら『ハニー』『ダーリン』って呼び合いたくて……。ダーリンって読んでもいいかしら?」

「分かった。ではその願いを叶えよう、はにー。これでよいか?」

「きゃぁぁぁ! もうダーリン、格好いい!」


 目の前で花嫁衣装の受付嬢さんとロンがいちゃいちゃしている。


 見ているだけで胸がドキドキしてくる。


 まるで核ミサイル発射ボタンの掃除を、目の前で見せられている気分だ。


 高鳴る鼓動が止められない!


「国の者達に朕の后を知らせねばならぬゆえ、急ぎ戻らせてもらう。PEACEMAKER(ピース・メーカー)、大儀である」

「一足先にダーリンと一緒に竜人大陸に戻っているわね。みんな、私達の結婚式には絶対に出てね!」


 用事を終えたロンが、竜人大陸へ戻ろうとする。

 彼の片腕に体ごと捕まる受付嬢さんが満面の笑みを浮かべていた。

 結婚式に出るのは吝かじゃないが……この二人は本当に結婚できるんだろうか? ロンは王族だから、種族的に問題がある気がするのだが……。


 とはいえ問題を指摘する勇気は無く『もちろんです! その際は是非、出席させてください!』と忠誠を誓うように畏まって返答した。


「それじゃ、まーちゃんも行きましょうか」

『グルッ!?』


 戦闘が終わったため、ホワイトさんの拘束をといてもらったまーちゃんが、受付嬢さんの言葉に動揺する。

 どうも彼女が結婚したらお役ご免と考えていたらしい。


 魔物なのに、あそこまではっきりとした絶望顔はそうそう見られるものじゃない。

 こちらの胸まで締め付けるような絶望顔だった。


「どうしたの? 早く行きましょう」

『グル……』


 受付嬢さんはまーちゃんの反応に首を傾げつつ、再度要求する。

 まーちゃんが助けを求めるように、こちらへと視線を向けるが――皆、目を合わさないように背けてしまう。


 一応、まーちゃんは受付嬢さんのペット枠だし……飼い主の要求に逆らってまで身柄を押さえるわけにはいかない。


 まーちゃんは恨めしそうにこちらをチラ見しながら、受付嬢さんの方へと近付いていく。


 二人はまーちゃんの上に乗り、ロンが乗ってきたドラゴンが後からついて行くようだ。


「では、また会おう! PEACEMAKER(ピース・メーカー)!」

「またね! みんな! 次は結婚式会場で会いましょう!」


 手を振ってくる二人にオレ達は全力で手を振り返す。


 独裁者夫婦を見送る市民のごとくだ。




 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 ロン、受付嬢さん&まーちゃんが去った後は、後片付けだ。

 ざっと兵器などをリースの無限収納にしまい、気絶した男性達は昨夜も泊まった宿へ戻ってもらう。


 一番大変だったのは男性達を落ち着かせることで、目を覚ますと大抵恐慌状態に陥っていた。

 すでに恐怖の元凶は去り、誰も彼女と結婚する必要はないと聞くと涙を流し喜んでいた。


 そんな男性達を宿へと戻し、PEACEMAKER(ピース・メーカー)+αは誰一人欠けることなく無事にブラッド家へ帰還する。


 一番広い会場ではブラッド家専属の料理長マルコームさんが腕によりを掛けてパーティー料理を準備してくれていた。

 オレ達の帰還に合わせてくれたらしく、どの料理も出来立て美味そうな匂いが立ちこめる。


 皆、お湯で濡らしたタオルで体を拭き、衣服を着替えてパーティー会場へと繰り出した。


 すでに陽は暮れ、夜も遅い。

 お陰で腹が減って鳴るほどだ。


 世界を救ったパーティー会場で、お腹も減っているというのに――会場の空気は若干暗かった。

 その発生原因は会場の隅、椅子の上で体育座りをしながらぶつぶつと呟き続けている。


「こんな簡単に解決するなんて……こんなことになるならギギさんに告白なんてするんじゃなかった。今更どんな顔で孤児院に戻ればいいの? もうずっとエルお姉ちゃん、ソプラ、フォルンとも顔を合わせていないし」


 獣人種族、虎族(とらぞく)、魔術師S級、タイガ・フウー。

 天下の獣王武神(じゅうおうぶしん)が絶望の呟きを漏らし続ける。

 お陰でパーティー会場の空気は果てしなく重い。


 団員達が視線を向けてくる。

『どうにかしてください』と。


 オレは溜息を一つして、タイガの側へと歩み寄る。


「た、タイガ……今回の一件は色々酷い目にあったかもしれないけど、区切りをつける良い機会だと捉えることはできないか? タイガ自身、あのままずっと自分の気持ちを誤魔化して側に居続ける訳にはいかないと思ったから、ギギさんに告白したんだろ?」

「…………」


 タイガは膝を抱えたまま答えない。


 見かねた嫁達もオレに続き声をかける。


「わたし、タイガちゃんは立派だと思うよ。逃げずに好きな人に告白するなんて」とスノー。

『スノーお姉ちゃんの言う通りです!』とクリス。

「想いが届かなかったのは残念ですが、告げずに心を腐らせるよりずっとよかったと個人的には思いますよ」とリース。

「皆さまの仰る通りです。タイガさまが落ち込む必要などありません」とココノ。


「わたくしもそう思いますわ。それにいつかタイガさんを幸せにしてくれる素敵な殿方がきっと現れます。だから、そう気を落とさずに」


 最後にメイヤが声をかけた。

 嫁達の言葉にタイガはというと……。


「他はともかく、メイヤ・ドラグーンに慰められるとイラっとするんだけど……」

「なぜわたくしだけピンポイントに名指しするのですか!? だいたいわたくしはメイヤ・ドラグーンではなく、『メイヤ・ガンスミス』ですわよ! 訂正をお願いしますわ!」


 メイヤはタイガの台詞にヒートアップする。


 正直、メイヤには悪いが、タイガの言葉に思わず同意してしまう。

 とりあえず彼女の肩に手を置き、タイガから引きはがす。


「どうやらここは私の出番のようね!」


 メイヤを落ち着かせていると、白い塊――パーティー会場に居るもう一人の魔術師S級、妖精種族ハイエルフ族の『氷結の魔女』ホワイト・グラスベルが自信ありげに名乗り出てくる。


「ここは『恋の伝道師』でもあるこの私に任せてもらおうかしら」

「ホワイトさん……」


 なぜだろう、失敗の空気しか感じない。

 しかし彼女の実績は凄い。

 オレが知っているだけで、スノー、メイヤ、受付嬢さんが最終的には恋を叶えているのだ。

 ある意味、この場にもっとも相応しい人前ともいえる。


 タイガもホワイトさんの実績を知っているのか、ずっと俯いていた顔を興味深そうにあげる。


「さぁ、聞きたいこと、知りたいことがあるなら遠慮無く言っていいのよ?」

「『氷結の魔女』ホワイト・グラスベル……。貴女は噂で聞いたが、占いにも長けているんだよね?」

「ええ、そうね。一時は占いで食べていこうと思ったほどよ」


 軍団(レギオン)大々祭(だいだいさい)中、勝手に店を開いていて捕まえたのが今では懐かしいほどだ。


「……なら、今からでもギギさんと結婚できるか占ってもらえないだろうか? もし駄目でも元通りの関係に戻れるかどうかも一緒に占って欲しいんだが……」

「そういうことならおやすいご用よ。誰かテーブルと椅子を用意してくれないかしら」


 団員達が手伝いホワイトさんの前に椅子とテーブルが準備される。

 彼女は氷魔術で、球体の氷と台を生み出すと手をかざし占い始める。


 というか、タイガはまだギギさんとの結婚を諦めていないのか……。


「タイガちゃんの知りたいことは、ギギさんと結婚できるかどうかしら?」

「あと、結婚できなくても、元の関係に戻れるかどうかです」

「分かったわ」


 ホワイトさんが目の前に置かれた球体に手を翳す。


「……………………あっ」


 ホワイトさんの小さな呟きが、広いパーティー会場に響く。

 答えを告げる前に答えが出る。


 タイガは一層膝を抱えて、顔を伏せ自分の世界へと引きこもってしまった。


 もう止めてやれよ! 死体に鞭を打つってレベルじゃないぞ!


 こうして世界を救った祝賀会は気まずい空気のまま終わりを告げたのだった。





 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 数日後。


 魔人大陸出身の見合い相手男性達は現地解散となった。


 一方、ザグソニーア帝国のツテで集めた男性達は、飛行船ノアで運ぶ予定だったのだが……彼らの受付嬢さんに対する怯えが半端無かった。

 このまますぐに元居た場所――現実に戻すと『|心的外傷後ストレス障害《PTSD》』を発症する危険が高い。


 前世、航空機の発達により戦争の形態が変化した。


 戦場で銃器を発砲していたら、飛行機を使い1日で元居た場所――平和な日常に戻る。

 その急激な落差により、アメリカ兵士の多くが『|心的外傷後ストレス障害《PTSD》』を発症したと本で読んだことがあった。


 回避方法としては船で数ヶ月、同じ戦場を共にした者達と一緒に時間をかけて戻らせると発症の率を下げることができたらしい。

 昔、読んだ本のため若干あやふやだが……大きくは間違っていないはずだ。


 これ以上、受付嬢さんによる被害を増やすのは忍び無い。

 約50人の見合い男性達に船を手配した。

 数ヶ月かけて優雅な船旅を満喫してもらうためである。受付嬢さんの重圧を体験した者同士で話をしながら、ゆっくりと現実に戻る。そういう作業だ。


 結果として彼らはまったく役に立たなかった訳だが、それを責めるのは酷というモノである。


 また精神的傷をお金である程度でも消すことができるなら、安いモノだ。


 男性達も異存はなく、船旅の手続きを終えると彼らを見送った。

 手続きをしている間、飛行船ノアを遊ばせていた訳ではない。

 いつまでも団員達がブラッド家にお世話になっている訳にはいかず、飛行船ノアでさっさと獣人大陸へと送り届ける。


 最終的にブラッド家に残ったのはいつものメンバーのみだ。


 元黒メンバーは、一度獣人大陸にある新・純潔乙女騎士団本部に寄ってから、妖人大陸へと向かい下ろした。

 運転を担当したシア曰くノーラ、エレナ、メリッサは、再び他メンバーと再会した際、泣いて抱き合い無事を確認しあっていたらしい。


 まるで地獄のような激戦区から戻ってきた兵士のような扱いだ。


 ある意味、間違っていないが……。


 ちなみにタイガは、ノーラ達と一緒に妖人大陸に戻らず、新・純潔乙女騎士団本部に留まっているらしい。

 空いている客室に引きこもっているとか。


 彼女のことも何とかしなければならないだろうな……。


 男達の船旅を見送り、飛行船ノアが戻ってきてメンテ&調整を終えると残っていたオレ達も獣人大陸へと出発する。

 ブラッド家屋敷の裏側平原に旦那様達が見送りに集まってくれていた。


「旦那様、奥様、お世話になりました」

「ははっはっは! 気にするなリュートよ! むしろ今回はあまり力になれず不甲斐ないぐらいだ!」

「そうね……今回、わたくし達、本当に良いところがなかったわよね」


 旦那様と奥様はやや気落ちした口調で答える。

 オレは慌てて否定した。


「そんなことありませんよ! お二人のお力がなかったら、あれだけの見合い相手も準備できないし、宿屋や冒険者、終わった後の船の手配等も何もできませんでしたよ! 力になれなかったなんて絶対にありません!」

「ありがとう、リュート。貴方にそう言ってもらえると、肩の荷が下りた気分になるわ」

「ははっははあははは! 次も何かあったら、遠慮無く我輩達を頼るのだぞ?」

「はい! その時は是非お願いします!」


 挨拶を済ませると、オレ達は飛行船ノアに乗り込み出発する。


 ブラッド家の皆は、ノアが見えなくなるまでずっと手を振って見送ってくれた。




 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 ブラッド家を後にしたオレ達は、すぐに獣人大陸へ向かわず一度竜人大陸を経由する。


『クモクモ君あるふぁ2』の研究者である竜人種族、魔術師B級、リズリナ・アイファンにクモクモ君を返却するためだ。

 一緒に実戦に使用した報告書を提出する。


 今回の実戦で行進間射撃をした際、足の関節部分が根本から折れてしまった。

 いくらなんでも脆すぎる。

 これでは到底実戦では使用できない。

 今後も用研究が必要だろう。


 リズリナに壊れた『クモクモ君あるふぁ2』をリースの無限収納から出して報告書と一緒に押しつける。

 いつもの押し問答をする気力も無く、オレ達はさっさと獣人大陸へと帰還した。




 団員達は先に帰還させていたため、業務は滞りなくおこなわれているだろう。

 オレ達は本部に到着すると、確認より先に休息を取ることを優先した。

 今回の騒動は下手な戦いより疲れたためである。


「肉体的にはそこまででも無いんだけど精神的疲労が強い気がするな……」

「だねぇ。わたしも今回たいして体を動かしていないはずなのに、なんだか疲れちゃったよ……」


 PEACEMAKER(ピース・メーカー)メンバー内でも、体を動かすことが好きなスノーが、疲労の濃い溜息を漏らす。

 それだけ受付嬢さんに対する精神的ストレスが強かったのだろう。

 もう二度とこういうことは起きて欲しくないものだ。


「皆さん、お帰りなさい」


 本部建物に入ると、外交部門担当のミューアが出迎えてくる。

 彼女は幼馴染みのクリス、仲のいいココノ、他仲間達と挨拶を終えるとオレに用事を告げてくる。


「リュートさん、帰還早々申し訳ありませんが、お時間よろしいですか?」

「何か問題でも起きたのか? 緊急事態でないのなら、このまま休ませて欲しいんだが……」

「緊急事態ではないのですが、すぐにリュートさんに伝えておいた方がいいと思ったので」


 この言葉にミューアは勿体ぶった返事をする。

 彼女の態度に首を傾げるが、すぐに意図を悟った。

 ミューアはオレの表情変化を見て、答え合わせをするように告げる。


「リュートさんから任されていた案件――アルジオ領ホードをPEACEMAKER(ピース・メーカー)の領地として無事切り取ってきましたわ」


 受付嬢さんのインパクトが強すぎて忘れていた……。


 メイヤの婚約を直接断りに行くため、竜人大陸へと向かった。

 ミューアには先程、彼女が口にした案件を任せていたのだ。


「リュートさん、お疲れのようですが、無事に案件を達成した私のことを褒めてくださいますか?」


 ミューアはこちらをからかうように、茶目っ気たっぷりな微笑みを浮かべたのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

12月16日、21時更新予定です!


感想で軍オタ総話数が今回で444話になることに気付きました。

受付嬢さんの結婚確定の今回の話が、444話とか不吉過ぎるだろう……。


ちなみに次からエピローグに入ろうかと考えております。

なのでプロットを作るため、若干の時間を頂ければと思います。

ご迷惑をおかけして申し訳ございません。


(1~5巻購入特典SSは15年8月20日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)


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