表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

440/509

第416話 リュートが視た悪夢

 夢。


 今、オレは夢を視ている。


 受付嬢さんと戦う夢だ。


 今、現在の状況をオレはちゃんと夢だと認識していた。


 場所は何もない荒野。

 随分、先に受付嬢さんが一人で立っている。


 オレ達、PEACEMAKER(ピース・メーカー)は塹壕を掘り、8.8cm対空砲(8.8 Flak)を並べ、砲弾もセットし終えている。

 前方の一面には対戦車地雷を無数に埋め込み、幾重にも鉄条網でバリケードを作り上げていた。


 補助的にM2が置かれ、団員が緊張した顔で受付嬢さんを遠目に見据えている。


 竜人種族、魔術師B級、リズリナ・アイファンが開発した最新多脚戦車『クモクモ君あるふぁ2』は、オレ達が居る位置から大分離れた場所に待機していた。

 左右に2台ずつ配置されており、対戦車地雷が埋まっていない場所をやや遠回りに移動して、受付嬢さんを挟撃する予定である。


 多脚戦車は遠隔操作タイプなので、周囲に団員達はいない。


 団員に手で合図を送る。

 多脚戦車が起動し、移動を開始。

 想像以上に素速く、滑らかな動きで遠回りしながら受付嬢さんの挟撃位置を目指し動く。


 彼女も気配的に『クモクモ君あるふぁ2』に注目をしているのを感じる。

 恐ろしい兵器というよりは、好奇心を刺激され魅入っているようだ。


 だが、多脚戦車は本命から目を逸らさせるための囮でしかない。


 初手からPEACEMAKER(ピース・メーカー)が所持する兵器で最大最強の札を切った。


 受付嬢さんの遙か上空で、新型飛行船ノアが飛行している。

 予定ではノアからダン・ゲート・ブラッド伯爵が、飛び降りている最中だ。


「全員、塹壕に隠れろ!」


 オレの指示に予定通り団員達は、塹壕に引っ込む。


 一人顔を出すオレの視線の先――一本の光が放たれる。


 オレは思い出す。

 昔、『黒毒の魔王』は帝国側にあるグラードラン山を中心に約15kmを黒い煙で満たす黒煙結界(ネグロ・ドィーム)を作り出した。

 一切の生物が近づけない毒の煙を拡大させつつ、魔王は山の奥深くへと引っ込んでいた。


 当時、オレ達は手も足も出せず、指をくわえてみているしかなかった。


 だが、旦那様の協力のお陰で、とある兵器を投下し、毒煙や山ごと魔王を吹き飛ばすことに成功する。

 その兵器とは――『Bunker(バンカー) Buster(バスター)』だ。


『核兵器に次ぐ威力』と呼ばれるほど破壊力が高い。

 さらに新・純潔乙女騎士団本部のグラウンドにある第2研究所で、オレとメイヤ、ルナは『Bunker(バンカー) Buster(バスター)』の研究を続けていた。


 当時は急造で『Bunker(バンカー) Buster(バスター)』を作ったため、あれ以来暇を見つけては少しずつ研究をおこなっていたのだ。


 お陰で今回使用する『Bunker(バンカー) Buster(バスター)』は前回より洗練され、魔力だけではなく、質の良い魔石を詰めることで重量&質量ともに『黒毒の魔王』時代に比べて1.5倍ほど増加している。


 そんな強化された『Bunker(バンカー) Buster(バスター)』が、真っ直ぐ受付嬢さんへと光の柱が繋がったように激突し――爆発。


「ッゥ!」


 見届けていたオレも慌てて塹壕へと伏せる。


 爆発音、地震のような震動。

 空気が硬い壁のように吹き抜ける。

 石ころや砂が土砂降りの雨のごとく降り注いでくる。


Bunker(バンカー) Buster(バスター)』は兵器の性質上、地下に潜って爆発するため、本来は細い煙が出る程度だ。

 だが前回同様に旦那様の魔力や筋肉が反応した結果、本来あり得ない爆発が起きたらしい。


 爆発と振動が落ち着いたところで、ゆっくりと塹壕から顔を出す。


 当初はここから8.8cm対空砲(8.8 Flak)や『クモクモ君あるふぁ2』で追撃を考えていたが、旦那様の身を案じて採用することができなかった。


 それに常識的に考えれば『Bunker(バンカー) Buster(バスター)』の直撃を生身で受けて原型が残っているはずがない。常識外だとしても多少の手傷は負っているはずだろう……。


 ぶわっと爆発中心部に待っていた土煙が破られる。


 巨大な砲弾のような物体――旦那様が空気を切り裂きオレ達から見て左の『クモクモ君あるふぁ2』に激突!

 多脚戦車2台が粉々に大破する。


「は?」


 土煙が舞っていたせいで受付嬢さんがどうやったのか分からないが、100kgを優に越える旦那様の巨体を空気を切り裂くレベル……音速を突破し多脚戦車2台をあっさり破壊してしまったのだ。


 さらに現れた受付嬢さんは無傷で、衣服に汚れすら付いていない。


 無事なのは薄々理解していた。

 手傷を負わせることができないことも。

 しかし無傷どころか、衣服に汚れすら付けられないとは想像できなかった。


「あ、ありえないだろ……」


 いくら最近、生物を越えて怪奇現象化している受付嬢さんとはいえ、どうすれば『Bunker(バンカー) Buster(バスター)』の直撃を受けて衣服に汚れすら付かないのか本気で分からない。


 まだ大分距離があるのに受付嬢さんと目があったことを悟る。

 彼女がニタリと笑ったのを認識した。


「ヒィッ……!」


 本能的に喉や肺からではなく、魂から悲鳴が漏れる。


 受付嬢さんがこちらに向かって歩き出す。

 まるで散歩をするかのように、笑いながらこちらへと向かってくる。


 彼女は口を大きく開き楽しげに笑っていた。

 未だに遠くてはっきりとは聞こえないが『あはっははっはは』、『あははっはっはは』と笑っている。

 まるで無邪気な童女が楽しげに笑うように。

 絶望を振りまく狂った怪異のように。


「う、撃て! 撃て撃て撃て!!!」


 気付けば無我夢中で攻撃命令を下していた。


 団員達も恐怖にかられたように二足歩行で向かってくる悪夢に全力で攻撃を開始する。


 8.8cm対空砲(8.8 Flak)の一斉射撃。

 無事だった『クモクモ君あるふぁ2』達も攻撃を開始した。

 対戦車地雷も一斉に起爆し、M2も撃ち尽くすたびに弾薬(カートリッジ)を補充し、再度発砲を繰り返す。


 駄目押しとばかりに、旦那様が飛び降りた新型飛行船ノアが燃料気化爆弾(FAEB)を連続で投下する。

 赤い花が次々に産まれは消えて、産まれては消えてを繰り返す。


 オレ達は悪夢を振り払うがごとく、狂ったように発砲を繰り返した。


 なのに耳元で未だに受付嬢さんの笑い声が消えてくるのだ。

 幻聴ではない。

 証拠に自分以外の少女達にも聞こえているのが、皆の顔色で分かる。


 天神化したランスにも使ったことがない大火力。

 その中で受付嬢さんが服に汚れ一つ付けず、何事もないように歩き続けている幻想を抱く。


 ――しかし、彼女はオレの想像などあっさりと越えてくる。


 ふいに音が止んだ。


 弾薬はまだまだある。

 攻撃を止める指示は出していない。

 なのに皆、一斉に攻撃を中止したのだ。


 慌てて周囲を確認しようとしたが、それより早く耳元で声が聞こえてくる。


「私ね、ずっと昔から、思っていたことがあるの……」

「!?」


 慌てて振り返り、跳び距離を取る。


 目の前にはなぜか先程までずっと遠くで攻撃を受けていたはずの受付嬢さんがいつのまにか立っていて、彼女の背後には8.8cm対空砲(8.8 Flak)、『クモクモ君あるふぁ2』、M2、ノアの船体一部が千切られ山積みにされていた。


 驚愕し、視線を巡らせ確認する。


 いつ、どうやってやったのか分からないが、存在する全ての兵器が彼女の手によって破壊されていた。


 馬鹿な馬鹿なありえないありえない!

 ランスの瞬間移動や超スピードをもってしても、ほぼ同時に各種兵器を破壊することなど不可能だ!


 さらに受付嬢さんは、PEACEMAKER(ピース・メーカー)最大火力をもってしても、未だ傷ひとつ、衣服に汚れすら付けられずにいた。

 魔術的、物理的にそんなことがありえるのか!?


 受付嬢さんはこちらの動揺、驚愕、絶望など気にせず話をする。


「リュートさんって子供の頃から『可愛い顔をしてるな』って……」

「あ、あ、あ……」

「アームスさんやギギさんが駄目なら、リュートさんで許してあげる」


 彼女の口元が頬、耳元までさける。


「リュートさん、ケ、ッ、コ、ン、シ、マ、シ、ョ、ウ?」




「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっぁああぁッ!」


 飛び起きる。


 視界は暗く、着ているパジャマがびっしょりと汗で湿っていた。

 右、左と周囲を確認する。


 オレはベッドで一人寝ていた。

 周囲をどれだけ注意深く見回しても受付嬢さんの影はない。

 自分が今、ブラッド家屋敷でお世話になっていることを思い出す。

 クリス実家のため、妻達とは別々の部屋で寝ていたのだ。


「ゆ、夢か……なんて夢だ」


 オレは安堵の溜息を漏らし、ベッド脇にある水差しに腕を伸ばす。


 ぬるくなった水に口を付けるが、上手く飲む込むことができない。

 喉が渇ききって水を拒絶しているようだった。

 なんとか飲み干す。


「そうだよな……あれは夢だよな。いくら受付嬢さんが理不尽な存在でもあれだけの火力を受けて服に汚れすら付かないなんてありえないよな」


 ――しかし最近、超常現象化している受付嬢さんの場合、否定できないのが怖い。


 オレはベッドで上半身を起こした状態で、自身の体を抱きしめ震え上がる。

 もし彼女と戦いになったら、先程の視た悪夢状態になるかもしれない。

 そうなったらオレが受付嬢さんと結婚……ッ!?


「だ、大丈夫! 大丈夫だ! 今は受付嬢さんの婿候補として約100人の男性が集まっているんだから!」


 魔人大陸で奥様がツテを頼りにして、50人ほどが集まった。

 さらに旦那様が妖人大陸でザグソニーア帝国、ウイリアム・マクナエルの協力で50人ほど集めたのだ。

 団員達を屋敷に下ろした後、すぐ妖人大陸へ向かい旦那様と婿候補約50人を乗せて、魔人大陸へと移動した。


 無理な連続稼働したため飛行船ノアは以後、飛ぶことが出来なくなってしまった。

 メンテナンスと魔石交換で数日かかるだろう。


 ブラッド家屋敷には、うちの軍団(レギオン)メンバーが50人ほど宿泊している。

 連れてきた婿候補は近くの街で宿を貸し切り泊まってもらった。

 警備の名目で高レベル冒険者達が宿をぐるりと囲っている。

 決して逃がさないためじゃない。

 何かあったら困るから、警備のために冒険者を置いているのだ。


 100対1の集団お見合い。

 当日はオレ達、PEACEMAKER(ピース・メーカー)も会場警備という理由で出席する予定だ。

 飛行船ノアが男性達を連れてくる間に、会場の警備態勢は準備が完了している。


 8.8cm対空砲(8.8 Flak)や『クモクモ君あるふぁ2』、M2や対戦車地雷、迫撃砲があるのも全て警備のために必要だからだ。

 決して、受付嬢さんとの戦いに備えている訳ではない。


 オレはベッドから下りて、窓際へと移動する。

 カーテンを開くと綺麗な夜空が広がっていた。

 この分なら明日、雨が降ることはないだろう。


「大丈夫、100人も居るんだ。一人ぐらいはきっと受付嬢さんと付き合える人が居るはずだ。大丈夫、きっと大丈夫だ……ッ」


 まるで自分自身に言い聞かせるようにぶつぶつと『大丈夫』を繰り返す。




 PEACEMAKER(ピース・メーカー)vs受付嬢さん&まーちゃんとの戦争(仮)まで後、約12時間。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

11月27日、21時更新予定です!


一昨日の11月22日は、何気に軍オタ投稿日でした。

皆様のお陰様で軍オタも、3周年を迎えることができました!

これからも頑張って最後まで書かせて頂ければと思います!


(1~5巻購入特典SSは15年8月20日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ