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第401話 師匠?

 メイヤパパこと竜人種族、魔術師Bマイナス級、ハイライ・ドラグーンが意味深な言葉を残し、本部を去った翌日。


 オレ達は何が起きても対処できるように話し合い、準備を整えていた。

 とはいえ相手はメイヤの身内だ。

 殺害しないように使用する銃器は非致死性で揃える。


 但し最悪、あちらが本気でPEACEMAKER(ピース・メーカー)や他団員達に危害を加えようとしたら容赦しない。


 グラウンド端にある第2研究所では、ルナや他団員達に頼み、いざという時は大型兵器を使用できるよう準備してもらっている。

 本部内とはいえ、ココリ街の街中で使用などしたくない。

 相手の反応からその可能性は低いと思うが……。

 用心に越したことはないだろう。


 なぜなら、ハイライさんはわざわざ先触れを出し、何時本部を改めて訪れると連絡をよこしてきた。

 最初は『何時訪ねる』とこちらを信じ込ませて、違う時間に奇襲をかけてくるとも考えたが、ミューア曰く、泊まっている宿から未だ外へ出ていないらしい。

 外部協力者と連絡を取り合って――という線もないとか。


 どうやら本気で予定時刻に到着するつもりらしい。


 しかたなくこちらも準備をして待ち構える。

 戦闘が予想されるのでグラウンドの中程に陣取った。

 オレの隣に当事者のメイヤ、逆隣にリースが。

 リース、メイヤの斜め後方にシアと護衛メイド一名が控えている。

 彼女達の手にはコッファーが当然のように握られていた。


 グラウンドにはこの五名しかいない。

 スノーは奇襲を警戒し、本部裏手を他団員と一緒に見張っている。

 クリスは本部建物から部下達を指揮して狙撃位置についている。

 ココノはグラウンド端の第2研究所でいつでもハンヴィーを動かせるようにしていた。


「…………」


 オレは改めてリースの装備を確認する。

 彼女はオレ同様に戦闘用(コンバット)ショットガンのSAIGA12Kを手にしていた。

 オレの弾倉には非致死性の非致死性装弾(ショットシェル)が入っている。


 一方、リースは弾倉をはずしていた。

 その状態はまるで対ララ戦の時と同じだ。

 彼女は弾倉の無いSAIGA12Kへ、『無限収納』から装弾(ショットシェル)を供給しララを無力化した。


 通常、ショットガンは装弾が大きすぎて、7、8発、多くても『MPS AA―12』で20発ぐらいが限界だった。

 だが『無限収納』を使えば、SAIGA12Kの薬室へ途切れなく装弾(ショットシェル)を供給し続けることができる。

 この力を使いリースは実姉を悪臭装弾をシャワーのように浴びせたのだ。

 今思い出しても震える光景だった。


 リースは場合によってはあの時の地獄を再現するつもりらしい。


 ……もしかしたらスノーやクリス、ココノは今回腐臭、悪臭兵器『SKUNK』を使用する可能性に気付き、万が一にも巻き込まれないよう距離を取ったのではないだろうか?

 まさか、な。


 疑惑に悩んでいると、武器の代わりに扇子を持つメイヤが興味深そうにリースへと話しかける。


「リースさん、SAIGA12Kに弾倉が無い気がするのですがよろしいのですか?」

「はい、むしろ私の場合、『無限収納』で装弾(ショットシェル)を好きに選んで送り出せるのでこっちの方が具合がいいんです」

「なるほど! ララさんを無力化する際、獅子奮迅の活躍をなさっていましたものね」


 リースとメイヤがオレを間に挟んで話を始める。

 メイヤはスノー達と違って、対ララ戦を好意的にとらえていた。

 ちょっと意外だ。


 メイヤは珍しくオレ以外の相手に対して、興奮気味に賛美する。


「わたくし、あの時の戦いを思い出すたび興奮と感動で胸がドキドキしてしまいますの。何年も前から殺さず捕らえることを決意し、何度失敗しても諦めず、不屈の精神で立ち上がる。最後は自身の精神的壁でもあるララさんにも臆さず、正面から有言実行で捕らえた姿。わたくしはリースさんを本当に心の底から尊敬しますわ!」

「そ、そんな、メイヤさん褒めすぎですよ」


 リースはメイヤに褒められてSAIGA12Kを片手に、空いた手で恥ずかしそうに赤くなった頬へ手を当てる。

 メイヤはそんな彼女に握り拳を固めて力説した。


「いいえ、決して褒めすぎなんてことはありませんわ! むしろ、リースさんは自身の成し遂げた偉業をもっと誇るべきです。貴女のなしたことは並大抵のことではないのですから。……わたくしも恥ずかしながらある意味で、以前のリースさんと同じ立ち位置にいます。婚約は一度断っていますし、わたくしが相手にしなければ大丈夫だと考えていました。しかし結果、このような皆様にご迷惑をおかけする事態になってしまって本当になさけないですわ……」

「メイヤさん……迷惑なんて誰も思っていませんよ!」

「ありがとうございます、リースさん。けれど事実は事実ですから。だからこそ、わたくしもリースさんを見習って長年の因縁、越えるべき壁を粉砕してみせますわ!」


 メイヤの誓いにリースは手放しに『私も微力ながらお手伝いします!』と応援する。

 一方、オレはというと――なぜかメイヤの力強い誓いの宣言を聞いて、全身を嫌な予感が襲う。


 思わず二人の会話に入ろうとしたが、


「皆様、いらっしゃいました」


 シアが静かにハイライさんが来たことを告げる。


 敵は入り口に立つ新・純潔乙女騎士団の視線も気にせず、堂々と正面から入ってきた。


 グラウンドで待ち構えるオレ達に気付くと、躊躇わず真っ直ぐこちらへ向かって歩いてくる。

 彼らは全員で4人と、思ったより人数が少ない。


 一人はメイヤパパのハイライさん。

 彼の後ろに護衛者らしき装備を調えた男性二名が付いてくる。

 さらに護衛者の後ろに、頭からすっぽりと旅用フード付きマントを被った人物が居る。


 最後に歩いてくる人物は、女性らしい。

 顔や体を隠すようにマントを纏っているが、大きな胸や細い足首、肩幅から性別がすぐに判明する。


 オレの勘が告げる。

 あの女性こそハイライさんの切り札だと。

 また彼女を視界におさめた瞬間、肌が粟立ったのも理由だ。彼女を見ていると、ぞわぞわとした嫌な感じが体を駆けめぐり続ける。


 ハイライさんがある程度の距離まで近付き立ち止まる。


「……見たところメイヤちゃんの帰る準備ができていないように思えるのだが。それともその恰好は、若者の間で流行っている帰宅スタイルなのかね?」

「誰がパパと一緒に帰るものですか! そちらこそ痛い目を見たくなければ今すぐ回れ右して帰るんですわね!」


 ハイライさんの嫌味に対して、メイヤが唾を飛ばす勢いで反論する。

 娘の態度を予想していたのか、父は不適に笑みを浮かべると舞台に上がった役者のように後ろに居る人物へと声をかけた。


「ならば宣告通り、力尽くで連れて帰らせてもらおう! 先生! 先生、お願いします!」


『先生』と呼ばれた人物。

 マントで容姿を隠した女性が前に出る。

 勢いよくマントを脱ぐとピンク色の長髪が陽に晒される。


 マントの下は薄手のワンピース姿で、胸の谷間や真っ白な足が惜しげもなくさらされる。

 歳はは20代半ば、背丈は女性にしては高く、兎耳が垂れている。

 顔立ちはオレが敬愛するエル先生と同じだが――恰好や全体の雰囲気からすぐに別人だと理解した。

 彼女こそエル先生の双子の妹、獣人種族、兎人族のアルさんだ。


 魔物大陸の娼館で働いているはずのアルさんが突然姿を現したことで、オレだけではなくリース、メイヤ、シア、狙撃位置についているクリスからも、困惑した気配が伝わってくる。

 そんなオレ達にたいしてアルさんが、ドヤ顔で宣言してきた。


「師匠であるこの私、アルが命じる! 即刻、抵抗を止めて降伏しなさい!」


 ……何を言っているんだこの駄兎(だうさぎ)は?

 エル先生の双子の妹だけあり、姿形は同じだ。

 お陰でエル先生の得意顔というレアな表情が見れてある意味嬉しいが、苛立ちの方が先に立つ。


 その困惑&苛立ちを動揺していると勘違いしたハイライさんが、勝ち誇った表情を作る。


「人種族最強の魔術師S級、アルトリウス・アーガーや『黒毒の魔王』、天神の力を手にしたランス・メルティアに勝利したのもすべて彼女、貴殿の師匠であるアル先生の助言と指導力、力があったかららしいな。その師匠が敵に回った気分はどうだね?」


『どうもしねぇよ』と口悪く言いそうになり、慌てて黙る。

 相手は年上で、メイヤの父だ。

 さすがに失礼な態度は取れない。


 オレは一度咳払いをして、気持ちを切り替えてアルさんへと尋ねた。


「アルさん、何をしているんですか? それに師匠って……」

「ふっ、決まっているじゃない。リュートの師匠として、ひいてはPEACEMAKER(ピース・メーカー)の産みの親的存在としてあんた達の間違いを正そうとしているのよ! さぁ、大人しく降伏して私の言うことを聞きなさい!」


 ……なんとなく状況を理解する。

 オレが子供の頃、孤児院を出た際、冒険者になるためエル先生の手紙を持ち、アルさんに師事すべく訪ねた。

 その事実はちょっと調べれば出てくる。

 そして魔物大陸ではアルさんと偶然再会し、色々世話にもなった。


 アルさんが上手く立ち回れば、オレ達の師匠ポジションだと他人に信じ込ませるのも可能だろう。

 ハイライさんは見事その術中にはまったようだ。

 メイヤが能力を酷評するだけはあるな……。


 ハイライさんもアルさんに負けず劣らずのドヤ顔で宣言してくる。


「どれだけ名を轟かせた軍団(レギオン)でも、師匠の言葉には逆らえないだろう。大人しくアル先生に従い降伏するがいい!」

「……彼女達を拘束しろ」

「かしこまりました」


 顔だけシアに向けて指示を出す。

 シアと護衛メイド一人が、アルさんとハイライさん、残り護衛者をスカート下から取り出したヒモで拘束していく。


「き、貴様! 師匠に対してそのような態度を取ってもいいのか!?」


 途中、ハイライさんが喚くが気にしない。

 残念ながらアルさん……彼女は師匠ではない。

 彼女はただの穀潰しだ。


 こうしてハイライさんとの騒動は終わりを告げた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

9月28日、21時更新予定です!


と、いうわけでアルさん登場です!

お忘れの読者がいらっしゃるかもですが、アルさんはエル先生の双子の妹です。

女神であるエル先生とは正反対の性格・存在として書かせて頂いていますが、意外と人気があるみたいで驚きました。

再登場させることが出来て、明鏡的にも満足しております。


さて、ここからは私事なのですが……昨日、親から電話がありました。

近状を話した後、親曰く――明鏡の中学校同期の息子さんがもうすぐ小学校に入学するそうです。

もう一人の同期友人には二人目の子供ができたそうです。いや、うん……なんかごめん。でも! 今は明鏡自身、大勢の方々に支えられ、応援して頂いて、その恩を少しでも返したいのと自分自身が楽しく書いている最中なのです! そういう意味では皆様が居るので問題ないのです! ……多分!


でもとりあえず、今度受付嬢さんを書くときはよりリアルな、真に迫った彼女の心情を書ききることができると思います!


こんな明鏡ですが、どうぞこれからも変わらず応援して頂けると嬉しいです。


(1~5巻購入特典SSは15年8月20日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)


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