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軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!? 作者:明鏡シスイ

23章

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第364話 エル、ギギの対応

 妖人大陸、アルジオ領ホード。
 その小さな町にある孤児院でも、空に浮かんだランス・メルティアの映像を当然見ることができた。

 突然の事態に町は騒然となった。
 この事態にエルは、まず外で仕事をしていた孤児院の子供達を呼び戻し、皆に部屋で自粛するよう指示を出す。

「タイガちゃん、悪いのだけど子供達のまとめ役を任せてもいいかしら」
「任せて、エルお姉ちゃん!」

 獣人種族、虎族(とらぞく)、タイガ・フウーが胸を叩き快諾する。
 彼女はホワイトと同じ、魔術師S級で獣王武神(じゅうおうぶしん)と呼ばれる猛者だ。現在は魔力を失い獣人種族の一般的な女子程度の腕力しかないが、子供達にも慕われているため、まとめ役には適任だろう。

 ちなみに魔術師S級、『氷結の魔女』、ホワイトは現在でも魔力消失が原因で眠っている。
 なぜ同じ魔術師S級のタイガが、普通に生活をしているかというと――単純にホワイトに比べて彼女の魔力が少なかったのと、普段の鍛え方が違うためだ。
 お陰で魔術は使えないが、動き回ることができていた。

 エルは次にボランティアで孤児院の世話をしている人達を、町へと帰した。
 今回の事件が解決するまで、手伝いを休むように告げる。
 彼女達が魔術師の力を得るために襲いかかってくるのを警戒している訳ではない。
 逆に騒動に巻き込まれないよう距離を取るよう声をかけたのだ。
 当然、魔術師基礎授業も事件解決まで休むことになる。

 手伝いの女性達は、もちろんエルの気遣いを理解し事件が解決したら再び手伝うことを約束する。また困ったことがあったらすぐに声をかけるようにとも念押しする。
 たいしたことは出来ないが、力になる、と。

 一通りの連絡を終えるとエルは、ギギと一緒に私室で向かい合い今後についての話し合いを設けた。

 私室に置かれたベッドに二人並んで腰掛ける。

「まさかこんなことになるとはな……」
「…………」
「エルさん、どうかしたのか?」

 隣に腰掛けるエルが、恐怖や怯えではなく、落ち込んでいるのを肌で感じる。
 彼女はギギの問いに、ゆっくりと口を開いた。

「ギギさん……アルトリウスさんの所に居た時、一度だけ先程空に浮かんでいた彼――ランスさんにお会いしてるんです」

 エルはぽつぽつと語り出す。

「ランスさんには――転んで出来た傷を治癒してもらって、その時少しだけお話しをしたんです」

『転んで』の部分で一度、言葉を詰まらせる。
 実際は始原(01)四志天(ししてん)の1人。妖人大陸支部を収めていた妖精種族、黒エルフ族、魔術師A級のシルヴェーヌ・シュゾンにつけられた傷だ。

 当時ランスにも『転んで出来た傷』と言ったので、今更シルヴェーヌのおこないを喧伝するつもりにはなれず、咄嗟にそう表現したのだ。
 ギギは彼女の態度を気にせず、黙って話の続きを待つ。

「ギギさんもご存じの通り、当時はアルトリウスさん達の所にお世話になっていました。リュート君達と敵対しているというのもあって、自分のことで精一杯で……。ランスさんとお会いした時、彼は物腰はとても丁寧でしたが、瞳はまるで親の敵を前にしたように冷え切っていたんです。いえ……もっと冷たいモノでしたね。まるでこの世の全てを憎んでいるような……」

 エルは膝の上に置いた手をギュッと硬く握り締める。
 過去を思い出し恐怖しているのではない。
 後悔の念から強く手を握ったのだ。

「さっき空に浮かび上がった彼の瞳は、昔とまったく変わっていませんでした。あれから随分経っているのに、誰も彼と正面からちゃんと向き合う人が居なかったんです。もしあの時、私が少しでもちゃんと話を……心の内に溜まっている感情を僅かでも吐き出させることが出来ていれば、こんな結果にならなかったのかもしれないと思うと……」
「エルさん」

 ギギが声をかけ、隣に座るエルの手を握る。

「後悔する気持ちは分かる。自分だって、もし過去に戻ってやり直せるなら――と考えることがある。昔の自分はあまりにも愚か過ぎたからな……。だが、本当に過去へと戻ることが出来たとして、後悔の念を晴らしてもまた別の後悔を抱えるだけだ。たとえ天神様だとしても、本質的には過去をやり直す、後悔を無くすなんて無理なんだ。第一、一人で出来ることなど限られている。だからエルさんが気にする必要はない」
「ギギさん……ありがとうございます。そうですね。私は傲慢過ぎました。一人で出来ることなど限られていますもんね」

 エルは一度目を閉じ、息を吸い込み吐き出す。
 気持ちを十分落ち着けてから、今後の建設的な話し合いを開始する。

「戦いについてはさっぱりなのですが、まだ時間的余裕があるうちに子供達を連れて、どこかへ逃げた方がいいのでしょうか?」
「それは逆に危険な可能性が高い。集団移動中に襲われたら魔力が無い現状、迎撃が困難になる。とりあえず今はここから動かず、いざという時逃げる経路と場所の準備をすべきだ」
「籠城戦というやつですか?」

 エルはいざと言う時、自分達が孤児院に篭もる姿を想像する。
 ギギは微苦笑を浮かべて首を横に振った。

「ここには防壁も何もないから、すぐに突破されてしまう。今から防壁を作る時間、資材、人材もない。だからいざという時は、子供達を連れて森に逃げ込む。森なら罠を仕掛ければ、敵の進行速度を鈍らせることができる。隠れる場所も多い。この後、自分が罠等をしかけておこう。ただ問題があるとすれば……ランスが創り出した怪物だろう」

 魔術師の力を得るため迫る者達は、森林内のトラップなどで進行を鈍らせることができる。
 だが、ランスが創り出した怪物は別だ。
 恐らく魔術が使えるだろう。
 遠距離から森に攻撃魔術を乱射されれば、魔力が無い現在のギギ達に防ぐ手段はない。

 唯一の方法は、

「その時は自分が時間を稼ぐ」
「ギギさん……」
「大丈夫。たとえ、魔術が使えなくても逃げ回り、時間を稼ぐぐらいはできる。時間を稼げば、リュート達がきっとランスを倒し、魔力を取り戻してくれる」
「リュート君達はランスさんを倒しに行くのでしょうか?」
「恐らくほぼ間違いなく。彼らには新型飛行船ノアがある。あれなら、どの飛行船より速くランスの元に辿り着くことができる。限られた兵力しか無いのなら、問題の根元に集中させ一気呵成に叩く。戦術の基本だ。リュートなら確実に気付き、実行するだろう」

 ギギは力強く、愛しい妻であるエルを励ますように断言する。

「自分達はリュート達がランスを倒し、魔力が戻るまで時間を稼げばいいだけ。逃げ回ればいいんだ。だから大丈夫だ」
「はい、ギギさん、分かりました」

 魔術を使う相手に一般人が逃げ回ることがどれほど大変なことか――魔術師であるエルにはよく分かっている。
 だが口には出さず、ただ夫の言葉を信じて頷くしかなかった。

 一通りの話を終えると、次にエルは他大陸の人達の心配を始める。
 特にギギの義両親にあたるダン・ゲート・ブラッドやセラスの心配をした。

「魔人大陸の皆さんは大丈夫でしょうか……」
「大丈夫。屋敷には旦那様がいらっしゃる。それに――たとえ旦那様がいらっしゃらなくても、セラス奥様がいらっしゃる」

 ギギは遠くを見つめるように目を細める。

「旦那様が唯一頭の上がらない人物がセラス奥様だ。自身の妻というのもあるんだが、旦那様はセラス奥様の実力を認めているんだ」
「実力ですか?」
「あの人は旦那様と出会う前、中央海で女性を中心にしたメンバーで海賊狩りをしていたんだ。中央海を根城にする男性海賊全てが名前を聞いただけで震え上がるほどの伝説の人物だからな……。いつまにかついた二つ名が『魂狩(たまが)りのセラス』」

 ギギは無意識のうちに内股で局部を押さえ、青い顔で震え上がる。

「なにより奥様は海、船上での戦いなら旦那様よりも強いらしい」
「ダンさんは魔術師A級なんですよね? そんな方より強いなんて……」

 魔術師A級は一握りの『天才』と呼ばれる者が入る場所だ。
 エル自身、魔術師Bプラス級でA級の壁を越えられなかった。だからこそ一般人より、その実力を知っているのだ。

「だから、ブラッド家を心配する必要はない。あの人達ならどんな状況下でも切り抜けられるだろう。それよりもまずは自分達が生き残ることを考えよう」
「はい、絶対に皆、誰一人欠けることなく生き残りましょうね」

 ギュッとエルは隣に座るギギの手を両手で握り締める。
 その瞳には現在置かれている状況に対して絶望や嘆きといった負の感情はない。
 ただひたすら『全員無事に生き残る』という強い意志だけが宿っていた。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 ――時間が経つ。

 飛行船ノアが真っ白な雲を切り裂き、海上へと姿を見せる。
 窓からようやく到着した目的地を視認することができた。

「あれが中心地――ランスが居る場所か……ッ」

 オレの呟きにスノー達も食い入るように海上に浮かぶ島へと視線を向けていた。

 あの地にランス・メルティア――田中孝治(たなかこうじ)が居る。
 気付けば自然とオレは痛いほど拳を握り締めていた。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
4月18日、21時更新予定です!

4月20日発売の軍オタ7巻の献本を頂いたので、活動報告に文章&帯つきの表紙等を撮影した画像をアップさせて頂きました!
よろしかったらご確認ください!

(1~5巻購入特典SSは15年8月20日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)
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