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軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!? 作者:明鏡シスイ

3章

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第35話 逃避行

 リュート、12歳。

 日が沈み、夜が世界を支配する。

 数時間前、あんなに騒がしく楽しかった時間が嘘のように城内は静まり返っていた。
 クリスお嬢様は心配そうに窓から外を眺めている。

 つい最近まで外に出ることすら怖がっていた少女には見えない。

「ご安心をお嬢様。旦那様がいらっしゃる限り私達に敗北はありません」

 メルセさんがそっと肩に手を置き励ます。
 お嬢様は賛同するように微笑んだ。

「……お嬢様、メルセさんお静かに」

 励まし合う2人にオレは声をかける。
 1階が不自然に騒がしい。
 慌てる声、荒い足音などが聞こえてくる。

 メルセさんがギュッと、お嬢様を守るように抱き締めた。

 扉がノックされる。
 手つきが荒い。
 もしここに執事長であるメリーさんがいたら、怒声をもらうレベルの荒さだ。

「……お嬢様、メルセさん、念のため下がっていてください」

 指示を出すと2人は素直に指示に従う。
 オレは念のため、手紙の封を切るペーパーナイフを手に取った。
 ゆっくりとドアノブに手を掛け、扉を開く。
 廊下に居たのは1人のメイドだった。

 彼女は焦った表情で部屋の中を窺う。

「お、お嬢様はいらっしゃいますか! 至急お伝えしたいご報告があるのですが!」
「報告? どんな用件ですか?」
「今、メリーさんが戻られて、旦那様と奥様が――」

「!? お嬢様、メルセさん! 伏せて!」
「きゃぁぁぁあ!」

 報告途中だったメイドさんの悲鳴。
 オレは咄嗟に振り返り、窓へ向けてペーパーナイフを投擲する!
 同時に2階ガラスを突き破り男が突入、部屋に着地。そこにオレが投げたペーパーナイフが飛び、敵の腕に深々と刺さった。

 肉体強化術で身体能力を向上させ、中庭から2階の部屋に突入してきたのだ。オレは外で魔術が使われる気配を感じて、咄嗟に行動したのだ。

「ぐぅッ――!」

 男の見た目は20代前半。
 人種族のような外見だが、犬歯が妙に長いことからお嬢様達と同じヴァンパイア族なのかもしれない。魔術師なのは確かだ。

 男はペーパーナイフを抜き、治療を始める。

「手に灯れ癒しの光よ、治癒なる灯(ヒール)!」

 恐らく長兄たちによってかき集められた素人の1人なのだろう。
 戦いが終わっていないのに傷を気にして治療を施している。どうやら戦い慣れていないらしい。
 結果、大きな隙が出来る。

 オレはその隙を見逃すほど甘く鍛えられていない。
 ギギさんの教え通り、すぐさま魔術師との距離を縮める。
 魔術師の男は慌てて、腕から抜いたペーパーナイフを牽制するため横薙ぎに振るう。

 旦那様に比べたら速さも、迫力もまったく無い。
 オレは腰を落とし楽々と避け、相手の腹部に強化した一撃を叩き込む。

「ごほッ!」

 男は呼気と唾液を撒き散らし、悶絶。
 それでもオレは容赦せず、掌底で顎を打ち抜き、入って来た窓から叩き出す。

 男は窓から叩き出されると、地面に激突して動かなくなる。
 手足は痙攣して動いているから死んではいないだろう。
 気絶しているだけだ。

 相手は魔術師だったが、敵の戦闘経験が未熟だったお陰で撃退することができた。
 しかし、どうして城にこんな奴がいるんだ。

「お、お嬢様、ご無事ですかメェー……!」
「メリーさん!」
「!?」

 魔術師の男を叩き出し、気絶しているのを確認すると、執事長のメリーさんが体中傷だらけで部屋に転がり込んで来る。
 彼は旦那様達と一緒に戦に出た筈だ。
 なのにどうしてこんなボロボロで城に戻ってきたんだ。

 嫌な予感が胸中を渦巻く。
 だが、オレの想像以上の凶報がメリーさんの口から告げられる。

「お嬢様、ご報告が御座います。先程の戦で我が警備長ギギの裏切りにより、旦那様が敗北致しましたメェー」
「「「!?」」」

 オレ、お嬢様、メルセさんが報告に耳を疑う。
 ギギさんがブラッド伯爵家を裏切る筈がない!

 使用人は旦那様、奥様の人柄に魅了され、皆高い忠誠心を抱いている。
 その中でもギギさんは別格だ。
 お嬢様のことなど、自分の娘のように大切にしている。

 そんな彼が裏切るなんて何かの間違いだ。間違いに決まっている!
 オレは思わず傷だらけのメリーさんに詰め寄っていた。

「ギギさんが裏切ったなんて、何かの間違いじゃないんですか? もしくはギギさんになりすました偽者とか!」
「間違いなく本人です。彼は銀のナイフで奥様を刺し、銀毒にして旦那様に降伏を迫ったのです。しかもこちらの反銀薬アンチシルバードラッグを警備長の権限でいつの間にか紛い品にすり替えていたのです。反銀薬アンチシルバードラッグは敵側しか持っておらず旦那様は奥様を救うため、自ら魔術防止首輪をつけ降伏しましたメェー」

 メリーさんは悔しそうに目尻に涙を浮かべる。

「本家当主たちは旦那様と奥様を手中に納め、次はお嬢様の身柄を狙い城に進軍中です。私は隙を見て抜け出したのですが、追っ手にやられこのざま……。もうすぐ本家当主たちがこちらに到着します、お嬢様はお早く脱出の準備をメェー」

 メリーさんの鬼気迫る進言。
 しかしお嬢様は圧倒的な状況変化に未だ頭が付いて行っておらず、青い顔で呆然としているだけだった。
 代わりにメルセさんが動く。

「お嬢様、失礼します」

 メルセさんはすでにパーティードレスからパジャマに着替えていたお嬢様に、生地の厚いファーが付いたコートを着せる。

 メリーさんはもう1人、悲鳴を上げていたメイドに指示を出し、お嬢様の部屋の宝石箱を漁らせる。
 さらに彼はまだ渇いていない血に濡れた手でオレの腕を掴んで来た。

「これからリュートを私と旦那様、奥様しか知らない隠し通路に連れて行きます。そこからお嬢様を連れて遠くへ逃げるのですメェー」
「メリーさん達はどうするつもりですか?」
「私達は当主達の目を引きつけ、時間稼ぎをしますメェー」

 その返答に奥歯が軋む。
 メリーさんの血に濡れた手に力が篭もる。

「私達が不甲斐ないばっかりにまだ12歳の子供のリュートに頼ってしまい申し訳ない。ですが、今お嬢様をお守り出来るのはリュートしかいないのです。どうかッ、どうか! お嬢様を守ってくださいメェー」
「……もちろんです。お嬢様の執事兼血袋としてお役目を果たして見せます」
「ありがとうございますメェー」

 メリーさんとの会話が終わる頃に、お嬢様の準備が整う。
 お嬢様は未だ青い顔で、目の焦点が合っていない。
 現実にまだ意識が追いついていないのだ。

「それでは1階の食堂に移動しましょうメェー」

 血だらけのメリーさんに手を貸してオレ達は1階の食堂へと向かう。

 いつもは旦那様と奥様が使う食堂。
 長いテーブルに豪奢で品の良い椅子。分厚いカーテンに、金箔の貼られた燭台に瑞々しい花が生けられた花瓶――オレが普段使っている使用人食堂とは雲泥の差の食堂にある暖炉。

 メリーさんは暖炉内の壁にある石の1つを押し込む。
 連動して暖炉の薪を積み上げる床石が1つ持ち上がった。

 メリーさんが震える手で石をつまみ上げると、金属製の取っ手が現れた。彼は力一杯取っ手を持ち上げると、暖炉の床が蓋のように開き階段が姿を現す。

 メルセさんがお嬢様の手をオレに預けてくる。
 絹の手袋に包まれた華奢な掌をオレはしっかりと握り締めた。
 さらに革袋に包まれた逃亡資金を差し出してくる。

「ごめんなさい、時間が無くてたいした額は集められなかったけど。それとこっちの袋には今日のパーティーで余ったお菓子が入ってます。途中で食べてください」
「……ありがとうございます。どうかメルセさんもご無事で」

 一瞬、喉から『メルセさんも一緒に逃げましょう』と出かけた。
 しかしそれは彼女に対する侮辱でしかない。
 すでにメルセさんは覚悟を決めた目をしている。

 例え自分の身がどうなろうと、お嬢様を逃がすための時間稼ぎをするつもりなのだ。

 オレはお嬢様を隠し通路に促す。
 ここで初めて彼女の意識はようやく現実へと追いついた。

「…………ッ!」

 お嬢様は真珠のような大粒の涙を流し、行くことを拒む。
 か細い手を伸ばし、メルセさんの裾を掴んだ。

 声を出せないが、懸命に口を動かし首を横に振る。
 離れたくない、行きたくない――と全身で伝えようとしていた。

「お嬢様、時間がありません。お急ぎ下さい」
「…………ッ」
「お嬢様……」
「…………ッ」


「お嬢様ッ!!!」

「ッ!?」

 メルセさんがお嬢様を怒鳴る。
 恐らく彼女がメイドとして雇われて、お嬢様を叱るなど初めてのことだろう。

 お嬢様は怒声に身をすくませた。
 メルセさんは一転、まるで姉か母親のような慈愛に満ちた表情で、お嬢様が掴んだ指を解きほぐしていく。

「我らをご心配頂き誠にありがとうございます。ですが我らがどうなろうとお嬢様が無事でさえ居れば、ブラッド伯爵家の血筋が途絶えることはありません。だから例え泥水を啜ろうとも、酷い屈辱を与えられようとも、生き延びてください。お嬢様が無事でいることが我らの願いなのですから」

 メルセさんの言葉に食堂に集まっていた使用人全員が、『まさに我が意』と言わんばかりの表情で頷く。その表情は一様に同じ決意で塗り固められている。

 メリーさんがさらに告げた。

「旦那様と奥様のことは我らにお任せください。命に替えてもお助けしますので。お嬢様、それまでどうかご無事で。さっ、リュート、早くお嬢様を隠し通路へメェー」
「……はい、お嬢様、お手を」

 お嬢様はまだ涙の痕を残しながらも、オレの手を取り隠し通路の階段に足をかける。
 最後に一度だけ振り返る。

「リュート、お嬢様を頼みましたメェー」

 メリーさんが最後の言葉を残し、扉を閉めた。
 隠し通路を再び隠す音が木霊する。
 光が一切無くなった。

 オレは目に魔力を集中し、夜目を強化。
 お嬢様の手を引き、階段を下りきる。

 隠し通路は地下に掘られたトンネルだった。
 高さは160センチの人間が手を伸ばせば届く程度。
 幅も2人が手を広げれば壁に付く。

 恐らく魔術で作り出したのだろう。
 まったく利用されていなかったせいで、通路は埃っぽかった。

「お嬢様、失礼致します」

 オレは未だに泣いているお嬢様を抱きかかえ歩き出す。
 お嬢様はオレの首筋に顔を埋め、涙を流し続けた。
 温かな雫がオレの肌を濡らす。

 魔力を節約するため足や腕などには使わず、自力で歩いた。



 ――約1時間ほどだろう。終着点に付く。

 入り口同様、階段が伸び鉄製の扉で塞がれている。
 お嬢様を抱きかかえているため片腕に魔力を集中、ゆっくりと警戒しながら開く。

「……ここは小屋か?」

 扉は屋敷同様、暖炉の下に作られていた。
 警戒しながら様子を窺う。

 部屋に人気は無く暗い。
 丸太で作られた壁、端に置かれた資材、木で出来た粗末な机に椅子などがある。
 部屋に入り、お嬢様を椅子に座らせた。

「少し、外の様子を確認してきますので、お嬢様はこちらで少々お待ち下さい」
「…………」

 お嬢様は何も言わず、言われるがままオレから手を離す。

 扉を開き、外へ出て周囲を確認する。
 出た場所は森の中だ。

 振り返るとここは丸太小屋で、休憩所の1つのようだ。
 小屋の周りはそこそこひらけていた。
 脳内で地図を広げる。

 該当する場所は、城の裏手にある森しか無い。
 オレは確かめるため手近な木によじ登る。
 もちろん肉体強化術で身体能力を向上してだ。

 木の天辺に立ち視力を限界まで強化。
 城の様子を辛うじて確認することが出来る。

 城の周囲では狼煙のように煙が上っていた。
 メイドや使用人達が、シーツにくるんだ人らしきものをかかえて四方に逃げる。
 その後を角馬に乗った本家側の男達が追いかけていた。

 どれが本物のお嬢様か分からず、彼らは全員を捕まえるまで走り回らなければならない。
 彼女、彼らは懸命に2本の足で走り追撃を振り切り、オレ達が逃走する時間稼ぎをしている。

 メルセさんらしき人物が、男に手を挙げられる。

「あいつら……ッ」

 無意識に奥歯が砕けそうなほどの歯ぎしりをしてしまう。
 だが、オレのやることは彼女達を助けに行くことでは無い。
 皆の心意気を無駄にしないためにも、一刻も早くお嬢様を安全な場所へお連れすることだ。

 オレはすぐさま木を降りて、小屋に戻る。
 お嬢様は体育座りで椅子に座り、顔を膝に埋めていた。

「お嬢様、ここはまだ危険です。すぐに場所を移動しましょう」
「…………」

 お嬢様は反応を示さない。
 オレは『失礼します』とだけ告げて、再び彼女を抱きかかえた。

 オレは暗い森の中、星の光だけを頼りに街へ向けて歩き出す。
 城の方角を振り返ると、未だに煙が昇り続けていた。

 お嬢様とオレの逃避行は続く。


第34話、第35話、第36話、第37話の計4話を連続で更新しました。
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