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第355話 ランス過去編 永遠の誓い

「ずっと……ずっとお会いしたかったです。私の運命の人……ッ」


 暗がりのため目に魔力を集める。

 尖った耳に、新緑のような緑の瞳。

 外見的特徴からすぐに彼女がハイエルフだと悟る。


(援軍としてハイエルフ王国、エノールの軍が来ていたはずだよね? トップは確か……)


 僕は前世に比べて圧倒的に物覚えがよくなった頭から、名前を引っ張り出す。


「いくら女性とはいえ、夜分に男性の私室に入るのは不作法ですよ、ララ・エノール・メメア様」


 妖精種族、ハイエルフ族、ララ・エノール・メメア第一王女。


 ハイエルフの寿命は約10000年と言われている。

 実際は2000年を過ぎたあたりで心が耐えきれず亡くなるらしいが。

 さらにハイエルフは生涯に1人としか結婚しない。

 故に長寿と夫婦愛を司る種族として、人種族からは絶大な支持を受けているはずだ。


 あまりに人気が高く、混乱を避けるため滅多に人前には出ない。

 よっぽどの機会が無いと、遠目に見ることすらできない一族だ。


 僕自身大国の王子だが、国外に出たのは初めて。一族の特性上、彼女がメルティアを訪れたこともないはずだ。

 今回は初の顔合わせだと自信を持って断言できる。


 なのに彼女は、僕のことを知っていて、あまつさえ『私の運命の人』と告げた。


 さらにエノールの軍は今日到着したばかり。

 野営の準備があるため、正式な挨拶等は明日おこなう予定だったのだ。

 つまり明日になれば必然、僕と顔を合わせることになっている。

 別に今夜、護衛を一人も連れず非公式で陣幕に押し入る理由はない。

 どうも運良く警備の兵士達に見つからずに辿り着けたようだが、友好国の王女とはいえ、こんな暗殺者のようなマネをしたら敵と勘違いし殺されても文句はいえない。


 無茶無謀以前に、あまりの意味不明な行動に疑問しか湧いてこない。

 本で読んだが、エノールにはハイエルフに姿を変えるペンダントがお土産にあるとか。

 もしかしたら、そのペンダントで姿を変えた暗殺者の可能性すらある。

 ハイエルフの姿で、大国メルティアの王子を殺害。

 両国が衝突するように仕向ける――という筋書きだ。


 しかしそうなると目の前に跪いて『私の運命の人』と言い出す理由がよく分からないが……。


 彼女は可笑しそうに『くすり』と口元を揺らす。


「まずは自己紹介を。私は妖精種族、ハイエルフ族、魔術師Bプラス級、ララ・エノール・メメアと申します。許可無く深夜、異性の私室に入ったことはお詫びします。ですが火急の用件のため参った次第です。ゆえにどうかご容赦を」

「火急の用件とは、今回の一戦に関わることですか? ならばすぐに将軍達を集めますが」


 一応、軍の頭は『僕』ということになっているが、今回の戦を仕切るのは他将軍達だ。

 所詮、僕は現場の空気を感じとるため遣わされたお飾りでしかない。


「いえ、そんな些末なことはどうでもよろしいかと」

「戦争が些末ね……」

「はい、これからお話する内容はランス様の――タナカコウジ様の運命に関わることですから」

「僕のうんめ――いや、ちょっと待て、今なんて……ッ」


 11年振りに聞く前世の本名。

 彼女は微笑みを浮かべる。

 その笑顔はどこまでも好意的だった。


「なぜ私が前世のお名前を知っているのか……まずはその理由をご説明させて頂いてよろしいですか?」

「……分かりました。お願いします」


 なぜ前世の名を知っているのか?

 その理由が知りたい。答えてくれるなら断る理由はない。

 彼女は語り出す。


「私達、ハイエルフ族は100歳になると『精霊の加護』という力を得るのです。通常は一つですが、私は二つの加護を受けました。『千里眼』と『予知夢者』です」


『千里眼』は最大約4000キロの周囲を確認することが出来る。

 まるで軍事衛星か、高々度を飛ぶUAVのような力だ。

 この力を使って陣地を警備している兵士達の間を縫って、この陣幕まで来たらしい。


 だが最も警戒すべき彼女の『精霊の加護』は、『予知夢者』の方だった。

 彼女はこの『精霊の加護』によって未来を見通すらしい。

 この『予知夢者』を使って、僕の前世の名前を知ったとか。


「ちょっと待ってください。どうして『予知夢者』で、前世の名前――過去を知ることができたんですか?」

「これから先の未来で貴方様が教えてくださったのです。他にも貴方様が教えてくださった前世の記憶を将来の私が紙に纏めていたのです。その内容をあちらからすれば過去の私が、『予知夢者』で視て知ったのです」

「……ややこしい話ですね」


 現在から未来の自分が彼女――ララに前世のことを話し、その内容を彼女が紙に纏めた。その内容を、『予知夢者』で視たからララは自分の前世の名前や過去を知っているなど……魔術が存在する世界なのにSF話を聞いているようだ。


 だが問題は――彼女が僕の前世、屈辱の過去を知っていることだ。


 途端に胸がざわつく。


(殺そうか……)


 ララの言葉を信じるなら、未来で僕達は協力態勢を取っているようだ。

 しかし、前世の名前や過去を知っているからと言って、彼女が真実を話しているかどうかは別の問題だ。

 何より僕自身が、心情的に前世の過去を知る者の存在を見過ごすことができそうにない。

 相手はハイエルフの王女様だが、深夜無断で侵入した不法者だ。

『賊と勘違いして誤って殺害した』とでも言えば、非難は避けられるだろう。


 相手は魔術師Bプラス級だが、今の僕なら殺害は容易い。

 文字通り呼吸をするようにだ。


「!?」


 動き出そうとした刹那――ララが涙を流す。

 女性に目の前で泣かれたことは前世や現世を含めても一度も無い。

 さらに自分を想ってララほど綺麗な人が泣くなど……。


「私は……ランス様が産まれるずっと前から貴方様を知っていました。正直、最初は『予知夢者』の力で貴方様を知った時、煩わしいと思いました。いくら『予知夢者』の力で未来を視ているからと言って、私が貴方様に力を貸すことはありなえいと思っていました。しかし視ていくうちに次第に、貴方様に私は同情してしまいました」


『同情されるいわれなどない!』と叫びそうになるが、呑み込む。

 彼女はまだ話の途中だったからだ。


「そして気付けば共感していました。ランス様……貴方様の復讐は間違っていません。正当な行為です」

「ッゥ――」


 ララのその言葉で反射的に泣き出しそうになる。


 別に誰かにこの苦しみを理解してもらおうなんて少しも思っていない。

 勝手に同情し、共感されて迷惑ですらある。

 これは本当の本当に心の底からの本心だ。


 それでも自身の復讐が正しいと正面から認められて、泣き出しそうになるほど嬉しかったのも事実だ。


 ララは十分な間をおいて告げる。


「是非、私にその復讐を手伝わせてください。私なら貴方様のお力になれると自負しております」


 そして彼女は具体的に協力方法を語り出す。

 まずは、現在逃走中のケスラン王国王族の生き残り、シャナルディア・ノワール・ケスランをララが救出。

 信頼を勝ち取り、『黒』という組織を設立し、魔王復活を画策する。

 そうすることで最終的に僕が『神核』を手に入れることができるらしい。


 先程、ララが口にした『火急の用件』とはこのことだ。

 逃走中のシャナルディア・ノワール・ケスランを救助するには、そろそろ時間的にこの場から出ないと不味いらしい。


 決断が迫られる。

 協力を断るか、受けるか。


「…………」


 暫しの沈黙。


(――答えなど決まっているじゃないか)


 僕はララへと改めて向き直る。


「ララ様、どうか僕に貴女のお力をお貸し下さい」

「ありがとうございます! ですがランス様、私に敬語は必要ありません、様も不要です。どうぞ『ララ』とお呼び下さい」

「分かったよ、ララ」


 敬語を止め、呼び捨てにすると彼女は嬉しそうに微笑みを浮かべる。

 カッコイイ系統の美人だが、笑みは幼かった。

 彼女は笑みから一転、暗がりでも分かるほど恥ずかしそうに耳の先まで染める。


「あ、あの……不躾なお願いなのですが、忠誠を示すためにもお手をお借りしてもよろしいですか?」

「手を?」


 僕は何気なく、ララへ右手を差し出す。

 彼女はまるで騎士が愛しい姫君に口づけするように僕の手に唇を寄せた。


「ララ・エノール・メメアは、ランス様に永遠の忠誠を誓います」


 まるで神の前で愛を誓うように、彼女は僕に永遠の忠誠を誓ったのだった。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日3月9日、21時更新予定です!


ランス過去編も次で最後の予定です。

心情変化やシリアス部分が多いので、なかなか大変でした。

いつもより書くペースも遅くなるし……!

でもランス&ララの出会い、やりとりが書けてよかったです。

後もう少しなので頑張って書いていければと思います!


また、軍オタ1~6巻、コミックス1巻も、引き続き発売中です。

まだの方は是非、よろしくお願いします!

(1~6巻購入特典SS、コミックス1巻購入特典SSは15年2月20日の活動報告をご参照下さい)

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