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軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!? 作者:明鏡シスイ

21章

370/480

軍オタ6巻発売記念連続更新SS スノー過去編・後編

(不覚っす……)

 彼女はずきずきと痛む頭部の痛みを堪える。
 それ以上に自身の油断に歯噛みした。

 外出許可を取りに行く途中。人気のない場所で背後から強襲を受け気絶してしまう。
 気付くと、手足を拘束され、魔術防止首輪が付けられていた。周囲を確認すると昼間の新入生のレイシースと同級生男子2名。
 見晴らしのいい草原に武装した男達が100人ほど居た。

 視線の先には魔術師学校制服のスノーが立っている。
 その状況だけで自分がスノーを誘き寄せるエサに使われたと理解した。
 昼間の新入生男子が余裕たっぷりに口を開く。

「よく来てくれたね。一応、呼び出しに応じなかったら困るから、君の友人に同行してもらってよかったよ」
「同行ってふざけるなっす! 無理矢理、自分を気絶させて連れてきたくせに!」
「見解の相違だね。目的は果たせたから、もうどうでもいいけど」

 レイシースが肩をすくめてスノーへと視線を改めて向ける。

「スノーちゃんとは話がしたくてね。なんでも僕の部下達に対して随分失礼な態度を取ったそうじゃないか。この落とし前はどう付けてくれるのかな?」
「失礼? 初対面の人達しかいないのに、失礼な態度なんて言われても……」

 スノーは本気で『覚えがない』と言いたげに首を捻る。
 この態度に男子生徒2名が激怒する。つまりこの約1年、色々嫌味や当て擦りをしていたが、覚えられていなかったということは本気で歯牙にもかけられていなかったことになるからだ。
 スノーが意図した訳ではないが、彼らをこれ以上ないほど挑発した形になる。
 爆発しそうになる部下達を抑えるようにレイシースが片手をあげた。

「……なるほど話には聞いていたけど、本気で意中の相手以外には眼中が無いんだね。面白い。ますます気に入った。僕の愛人になれば、今までの部下達に対する態度は許してあげよう。他にも色々、良い思いをさせて――」
「結構です。わたしにはリュートくんがいるから。他の人のモノになるつもりはないよ。お話は終わり? だったらアイナちゃんに謝って、縄を解いてください」

 レイシースの台詞を遮り、彼の要求を一蹴する。
 余裕ぶっていた態度の彼も、自分の思い通りにならず表情を歪める。

「だったら魔術師学校の生徒らしく、僕達を魔術で倒して奪えばいいじゃないか。その場合、こちらも遠慮無く反撃させてもらうけどね。もちろん負けたらどうなるか分かっているんだろうな」
「スノーちゃん! そんな要求に乗る必要ないっす! 自分のことはいいから、ザーゴベルへ行ってホワイト様に助けを求めてくださいっす!」

 スノーやアイナが、あの『氷結の魔女』、魔術師S級ホワイト・グラスベルに師事していると魔術師学校の一部で話題になっていた。
 だがアイナの戦闘技術が最下位に近いため、眉唾だと信じられていない。そのためホワイトの名前を出されても、レイシース達は余裕の態度を崩さないのだ。
 むしろ、スノーの返答に困惑する。

「? そんな条件でいいの? 分かったよ、それじゃ貴方達を倒してアイナちゃんを取り戻させてもらうね」
「うん?」
「え?」

 スノーの発言にアイナ、レイシース達が首を捻る。

「本気か? こっちには僕の部下達が100人がいるんだぞ? 最初に言っておくが手加減はしないし、倒した後、君の体を自由にさせるつもりだぞ」
「そ、そうっすよ、スノーちゃん! わざわざ危険を冒さなくてもホワイト様を呼んでくれれば大丈夫っすから」
「? 別に構わないよ。だって全員倒せばいいんでしょ? それにわざわざこんなことで師匠を呼ぶなんて迷惑かけちゃ悪いよ」

 本気で彼女は目の前に居る私兵100人を相手に勝てる自信があるらしい。
 雑魚扱いされた兵達の目が怒りで煮えたぎる。
 スノーはどこ吹く風で『S&W M10 2インチ』リボルバーを取り出す。
 レイシース自身、自慢の私兵を馬鹿にされて声が震えるほど怒りを覚えた。

「な、なるほど君は戦闘の授業もトップで、強力な魔術道具も所持しているらしいね。だからそんな余裕の態度を取れるんだね……獣人風情が思い上がりやがって! 身の程を分からせてやる!」
『オォオォォォォォォォォォッ!』

 レイシースの切れた叫び声に呼応するように、私兵100人が突撃する。
 彼らは魔術師ではないが、対魔術師戦の訓練を積んでいる私兵達だ。何度も訓練や実戦で魔術師を相手にしてきており、魔術への対応の仕方は心得ている。だから魔術師としてはまだ未熟のスノーに舐められた態度を取られ、腹を立てているのだ。

 盾を持った男達が列を作りスノーへと突撃する。魔術師戦ではとにかく距離を縮めるのが肝要。魔術師でも距離さえ縮めて、数の暴力に訴えれば抗うのは難しい。
 スノーがリボルバーを構え発砲。
 男達が持つ盾を貫通し、鎧を破り肉に食い込む。

『がぁぁぁッ!?』

 盾を持つ男達10中6名が悲鳴をあげる。

「ど、どうして!? あれは魔術じゃないのか!? なぜ我々の盾を貫通するんだ!」

 彼らが持っているのはただの盾ではない。魔石を組み込んだ魔術道具だ。攻撃を受けると魔石に溜め込んだ魔力を消費し、一定以上の攻撃魔術を無効化する物だ。
 高価なため貴族とはいえ私兵全員に持たせることができず、壁役の10名に持たせていた。この盾で攻撃魔術を無効化し、驚愕している隙をついて接近。後は魔術師を囲んで複数人数で襲うのが彼らのやり方だった。

 スノーの持つ魔術道具は『強力な攻撃魔術を発射する』と聞いていた。それを防がれた彼女は動揺し動きが止まると考えていた。
 だが逆に自慢の盾を貫通され、すぐに6人も倒されたことに彼らが驚き足が止まってしまう。
 スノーは悠々と空薬莢を排出。次弾を装填する。
 驚き足が止まっている彼らに対して遠慮無く銃弾を叩き込む。
 再び悲鳴が上がる。

 残り88名。

「い、今のうちだ! 魔術道具が撃ち止めになっている間にあのガキを倒せ!」

 スノーが再び空薬莢を排出すると、私兵の一人が声をあげる。

『オオオオォォオォォ!』

 彼らは仲間を倒された怒りと共に彼女を目掛け一心に駆け出す。
 次弾を装填している暇がなくなったスノーだったが、少しも動揺せずシリンダーが空のまま元に戻す。左手に氷の『S&W M10』リボルバーを作り出すと、肉体強化術で身体を補助。
 突撃してくる私兵達に向けて駆け出す。
 そのまま大きくジャンプ。空中で体を捻り両手に握ったリボルバーを私兵達に向ける。
 一つは弾薬(カートリッジ)はなく、一つは氷で作り出した偽物だ。本来であれば攻撃力など皆無のはずだが――リボルバーを中心に六つの氷柱が浮かび上がる。

「む、無詠唱魔術!?」

 私兵の一人が驚愕の声をあげた。
 無詠唱魔術とは名前の通り、詠唱を唱えずおこなう魔術のことである。
 その際、どういった攻撃・形・威力にするかなどを明確に想像しなければならない。
 無詠唱魔術は通常の魔術方法に比べて出も遅ければ、威力も落ちて、魔力の消費も多い。
 デメリットが満載の技術だが普通の魔術が使えない状況などは多々ある。無詠唱魔術は魔術師にとって覚えないといけない必須技術だが、スノーの場合、一般的魔術師に比べて発動速度が異常に速い。
 彼らは知らない。
 スノーが『リボルバー』を媒体に、イメージを固定。即座に魔術を発動できるよう訓練していたことを。
 空中からスノーは6発×2の合計12発をそれぞれ私兵へと撃ち出す。

『ぐぎゃぁ!』

 狙い違わず12人に氷柱が突き刺さる。
 スノーは肉体強化術を維持したまま、集団の中央へと着地。すでに無詠唱魔術で新たな氷柱を作り出していた。着地と同時に左右に腕を突きだし発射。
 さらに腕を交差して新たに生み出した氷柱を発射する。
 残り52名。

「く、クソが!」

 スノーの背後に居た男が剣を振り上げるが、それより早く彼女が一回転。
 肉体強化術で強化された回し蹴りが男の顎を砕き、吹き飛ばす。男に習って詰め寄ろうとしていた他兵士達を巻き込み転倒させる。
 スノーは倒れた男達へ向けて氷柱を容赦なく撃ち、無力化した。

 彼女は止まらない。むしろ、自分から兵士達へと突撃する。風のように速く、鋭い動きで兵士達の間をすり抜ける。もちろんただ通り過ぎるわけではない。

「ぎゃぁあ!?」
「足に! 俺の足にぃ!」

 通り過ぎると同時に、氷柱を発射。魔術で強化された腕を振るってグリップ底部を当て顎を砕き、一緒に意識も奪っていく。
 残り12名。
 だが、彼女は立ち止まり、再度展開した氷柱を線を引くように左右に腕を振るう。
 発射された氷柱は違わず、スノーの暴風のような攻撃に棒立ちになっていた最後の12人に突き刺さり地面へと倒れ伏せさせる。
 私兵100人は、一人の少女によって壊滅されてしまった。

 レイシースが青い顔で激高する。

「な、何をしている貴様ら! 高い金を払っているんだぞ! 早く立ち上がってあの獣人女をぶっ殺せ! まだ人数的にはこちらが有利なんだぞ!」

 彼の言葉は間違っていない。
 100人中、重傷者も居るが、軽傷でまだ戦える者も多い。だが彼らは一向にスノーへと戦いを挑まない。
 高い金を払って維持をしてきた私兵が、この程度の軽傷で戦意を失ったと思いスノーの戦いに恐怖を抱きつつも声を荒げたのだ。

「戦うなんて出来るわけないよ」
「な、何……ッ!?」

 スノーに話しかけられ、レイシース達が肩を震わせる。
 彼の怯えなど気にせず、彼女は説明した。

「だって彼らに刺さった氷柱が魔力を奪って、体温を下げてるから。戦うどころか、まともに動くこともできないよ」

 スノーの言葉にレイシースは私兵達を観察する。
 腕などに氷柱が刺さった比較的軽傷者は、立ち上がらず寒そうに体を小刻みに震わせていた。まるで雪原に裸で放り出されたようにガタガタと。

 レイシース達はようやくスノーの言葉を理解する。
 どうやら彼女は刺さった氷柱を媒体に、相手の魔力を奪い、体温を下げて無力化することができるようだ。
 レイシースはゾッと心胆を寒からしめる。
 そんな規格外なことを平然とやってのけるなど、並の魔術師ではない。
 少なく見積もっても魔術師Aマイナス級以上の天才だ。

 レイシース達は今、そんな化け物を敵に回しているのだと自分達の立場に気付く。

「く、来るな! それ以上、近付くな!」
「ッゥ!?」

 アイナが息を呑む。
 レイシースが腰から下げていた見栄え重視の細剣を、彼女の首に突きつけたのだ。
 スノーの瞳が嫌悪と敵意で細まる。
 いつも朗らかで明るい性格の彼女にしては珍しい表情だ。

「それ以上、近付いてみろ。この半耳の喉を切り裂いてやる! 分かったら、大人しく魔術道具を捨てて手を上げろ!」
「す、スノーちゃん! 従う必要は無いっす!」
「オマエは黙ってろ! 大人しくしていないと――ッ」

 青白い刃。
 その青がより一層濃くなる。
 刃だけではない。
 自分達の肌も青白くなっていくのが分かる。慌てて体を動かそうとするが、まるで凍り付いたように動かない。
 いや、気付かないうちに凍り付いていたのだ。

「なんで、こおり、ついて、るんだよ!?」

 驚愕し声をあげるが、喉が内部から凍りはじめたせいか上手く声が出せない。
 指先もいつのまにか指一本動かないのだ。

「女の子に懸想するのはいいですが、いくらなんでもやりすぎですよ」

 背後から声が聞こえてくる。

「ほ、ホワイト様!? どうしてここに!」
「師匠! ありがとうございます!」

 アイナはレイシース達の異変に気付き、腕からするりと抜け出す。
 彼の背後から声が聞こえてきたため確認すると、そこには魔術師S級のホワイト・グラスベルが立っていた。

 どうやらホワイトが、背後からレイシース達の体を凍結させ自由を奪ったようだ。
 お陰でアイナは助かったのだが……その表情は引きつっていた。
 なぜなら彼女達が居た場所は見晴らしの良い草原。
 なのにいつ接近されたのか、分からない。
 気付いたらすぐ側にホワイトが居たとしか言いようがないのだ。
 スノーは気にせずホワイトへと駆け寄り、お礼を告げていた。
 アイナも助けられたのは確かなため、スノーに続いてお礼を告げる。

「た、助けて頂いてありがとうございます、ホワイト様」
「いいのよ、気にしないで。私はいつだって女の子の味方だから。それと、はい、鍵。そんな無粋な物はさっさと外した方がいいわよ」

 ホワイトはレイシースのポケットを漁ると鍵を取り出す。
 アイナの手足、魔術防止首輪を外す鍵だ。
 彼女はスノーの手を借りながら、拘束を外していく。

「で、でもどうしてホワイト様がこちらにいるんっすか?」
「どうしてって、恋する女の子のピンチだもの。当然、助けにくるわよ」

(答えになってないっす……)とはさすがに口には出せなかった。実際、お陰でアイナは助けてもらうことができたのだから。

 ホワイトもそれ以上、説明せず話を進める。

「とりあえずスノーちゃんは大勢の人と戦って疲れたでしょ? 私が治療して拘束するから、見張りをお願いね。アイナちゃんは、私のお手伝いをしてもらえないかしら」
「分かりました! 頑張って見張ります」
「て、手伝いっすか? 自分に出来ることならいいっすけど……いったい何をすればいいっすか?」
「別に難しいことじゃないわ」

 ホワイトが、凍り付き喋ることも出来ず石像のように佇むレイシース達を一瞥する。

「ちょっと彼らを連れてお話をしに行くだけだから」



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 妖人大陸で五指に入る名門貴族のアルデン・ショハ家だけあり本家は石造りの巨大な城だった。
 アイナが夜、母親に読み聞かされた絵本に出てくる以上の城である。
 当然、物語に出てくるような屈強な兵士達が城を守っている。

「何者だ! ここをアルデン・ショハ城だと知っての狼藉か!」
「ま、まさか背後に居るのはレイシース様ではないか!?」

 アイナが引く氷の台車の上に、レイシース・アルデン・ショハ&手下2名が恐怖に顔を歪めて凍り漬けになっていた。
 兵士達は気付くと一斉にざわめく。

「貴様ら何者だ!? レイシース様達を解放しろ!」
「もちろん解放しますよ。ただ彼のご両親にお話があるの。ご両親はいらっしゃるかしら?」

 ホワイトは兵士の怒声も虫声のように受け流し、逆に問いかけた。
 その態度が兵士達の神経を逆撫でする。
 兵士の一人が功を焦り、ホワイトを無力化するため槍を振るう。狙いは足だ。

「なっ!? わわわわぁあ!」

 しかし槍穂がホワイトの足に刺さることはなかった。
 彼女の体から約一m手前で槍が止まり、ピシピシ音を立てて凍り漬けになっていく。
 兵士は慌てて槍から手を離すと、槍は空中にそのまま浮かび柄先端まで凍り漬けになる。
 最後は自壊し、キラキラとした氷粒になり舞い散ってしまう。

「私ったらご挨拶が遅れて申し訳ありません。妖精種族ハイエルフ族、魔術師S級のホワイト・グラスベルと言います。今のは私のオリジナル魔術、『絶対凍結(アブソリュート・ゼロ)』。一定範囲に入ったモノ全て凍らせる魔術です。なので下手に近付くと死にますよ? アイナちゃんも私の手を離さないでね。私の体の一部に触れている限りは影響は受けないから大丈夫よ。でも離したら死んじゃうから気を付けてね」
「は、はいっす」
「魔術師S級!? 氷結の魔女がどうして!?」

 彼女の名乗りに兵士達は慌てて距離を取り、ひび割れた驚愕を上げる。
 その場に居る誰一人例外無く恐怖に引きつっていた。

「うーん、どうやら案内は期待できそうにないわね。それじゃ勝手に上がらせて頂くわね」

 ホワイトはまるで親戚の家に上がるような軽いノリで告げる。
 兵士達の上官がこの言葉に弾かれたように指示を出す。

「と、止めろ! なんとしても止めるんだ!」

 兵士達は『そんな無茶な』という顔をするが、命令を与えられた手前、動かない訳にはいかない。
 侵入者襲撃を知らせる鐘が大音量で鳴り響く。

 兵士達は槍を投げつけるが、その全てが凍り砕け散る。
 次に弓兵が駆けつけ次々に射るが、当然その程度で『絶対凍結(アブソリュート・ゼロ)』を突破することなど叶わず凍り粉々になる。
 兵士達は力を合わせて正面玄関の門を閉ざした。扉は分厚い鋼鉄製で、さらに魔術を重ね掛けして強度を跳ね上げている。たとえ上級攻撃魔術をぶつけられても耐えられる仕様だ。
 しかしホワイト達の歩みは止められない。

「では、勝手に上がらせて頂きますね。えい」

 可愛らしいかけ声。
 ホワイトが閉じた門を杖で軽くこづく。
 すると凍り付いていた門がまるで砂糖菓子のように粉々に砕け散ってしまったのだ。

『!?』

 これには兵士達も驚愕するしかない。

「お邪魔しますー」
「お、お邪魔しまっす」

 ホワイトは返事をして城内へと侵入する。
 アイナも後へと続いた。
 これほど丁寧な侵入者も珍しい。
 城内に侵入したホワイト達は、城内の魔術師達から攻撃魔術をシャワーのごとく浴びる。しかし彼女達には一切届かず全てが凍り付き砕けるだけだった。
 炎も、水も、風も、土も、雷すら凍り付かせ砕け散る。
 さらに凍り付くのは彼女達を襲う攻撃だけではない。
 ホワイト達が歩いた後が青く凍り付いてしまうのだ。
 凍り付いた箇所はまるで増殖する細胞のように範囲を自ら広げていく。

 どんどんどんどん――一部魔術師が炎を放つがまったく効果がない。
 一向に構わずその範囲を拡大していくのだ。
 いつしか床と言わず、壁、柱、窓、天井、家具に美術品、シャンデリア、城そのものが氷漬けになっていく。
 誰も止めることができない。
 これこそが魔術師S級、ホワイト・グラスベル。『氷結の魔女』と恐れられる彼女の力だ。彼女以外、決して誰も凍り付いた氷を溶かすことはできない。城だろうが、魔術だろうが、空気だろうが構わず凍らせる。
 まさに『氷結の魔女』の名に相応しい力だと言える。
 そんな彼女達が誰の案内もなく、偉そうな人が居る場所を迷いながら探す。
 三カ所目でようやく目的の人物を発見することができた。



 権威を示す謁見の間、当主を守るはずの近衛兵、金銀贅を尽くした装飾品――それら全てが凍り付いていた。まるで部屋ごと冷凍庫に入れられたかのようだ。
 扉が凍り付き動かないせいか、レイシースの父親は部屋を出ることも、寒さをしのぐため厚着をすることもできず自分自身を抱きしめて、ガタガタと寒さに震えていた。
 この近衛兵達も金属鎧は寒さを加速させるためか、脱ぎ捨て押しくらまんじゅうのように集まり暖を取っている。槍は手が悴み持っていることができず、手放し赤い絨毯と一緒に凍りついていた。
 天井まで青い氷が張り付いているせいで、まるで南極、北極にある氷で作られたホテルのような内装になっている。見てる分には幻想的で楽しめるが、日常生活を送るには不便すぎる状態である。

「よ、よよよ、ようこそ来てくださった。魔術師S級、『氷結の魔女』ホワイト・グラスベル様。こ、ここ、今回のご訪問は随分と、とと、突発的で乱暴ですな。当方が怒りの矛先を向けられる無礼を致しましたかな?」

 領主しか座れない席、その前に立ち応対する人物――レイシース・アルデン・ショハの父、現当主である。
 席に座らないのは、腰を下ろすと衣服が凍り付き離れなくなるためだ。
 なんとか威厳を保とうと声を出そうとするが、寒すぎて上手く喋れず、唇もプールから上がった小学生のように紫色をしている。
 この状態では、どんな名君だろうと威厳を保つことなどできない。
 ホワイトは相手の状態など気にせず、突然の訪問について告げる。

「アルデン・ショハ領や家に恨むことなど何一つありませんよ。でも、一つだけどうしても許せないことがありまして。レイシース・アルデン・ショハ君、息子さん達についてなんですが」
「ほ、ほほ、ほう我が愚息がお気に障るようなことをしましたかな?」
「はい、気に障るどころか、心底、怒りを覚えるほどのことをしました。ですからこうしてお話に来たのです」

 もちろん父親自身、アイナの引く氷塊――実息子&手下2名が凍り漬けになっていることには気付いていた。
 彼らに原因があるのは一目瞭然である。
 どれほどの無礼をしたのかを探るように、下手に出た発言をしたのだが。父親が考える以上に、息子達はホワイトの怒りを買っていた。
 その事実に現在の寒さとは違う戦慄に襲われ震え上がる。

「私は趣味で『恋する女の子を応援』しているのですが、息子さん達はこともあろうに恋する女の子、私の弟子であるスノーちゃんを権力と暴力で手に入れようとしたのです。しかもスノーちゃんの親友で、私にとっても友人のアイナちゃんを人質に取って」

 ホワイトはさらに続ける。

「彼らもスノーちゃんに恋をして、一般的なアプローチをするのなら何も言いません。それは若人が持つ特権ですから。むしろ素晴らしいことです。しかし息子さん達はもっとも愚かな方法でスノーちゃんを自身のモノにしようとしたのです。これは『恋する女の子を応援する』者にとって、決して見過ごすことができないません。言いたくはありませんが、いったいどのような教育をおこなって来たのですか?」
「申し訳ない。当主としてではなく、親として謝罪させてください。魔術師の才能を持つ、一人息子ということで甘やかし過ぎたようです。平に、平にご容赦を」
「……とりあえずまだ成人していない子供ということで殺してはいません。ですが今後、今回のように他者の恋路を邪魔するなら……一切の容赦をするつもりはありませんよ?」

 底冷えする声。
 同時に温度がどんどん下がる。
 床や天井、壁の氷が厚くなり、城だけではなく城外の街すら凍り付かせようと範囲を広げていく。

「もしまたこのようなことをしたら、アルデン・ショハ領を二度と溶けない永久凍土にしますからね」
「わ、わわ分かりました! 息子と他二名は魔術師学校を止めさせ、馬鹿なマネをせぬよう厳しく躾なおします! なのでどうか今回はご容赦くださいませ!」

 父が慌てて頭を下げる。
 近衛兵達も一斉に頭を下げた。
 レイシースを運ぶために着いてきたアイナ自身も、魔術師S級の実力を目の前で見せつけられトラウマレベルで恐怖する。
 味方であるはずのホワイトに対して、アイナは震え上がってしまった。
 まさかここまでとは彼女自身、想像していなかったのだ。

 だがホワイトのお陰で無事に問題は解決された。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 アルデン・ショハ領をホワイトが襲撃した翌日。
 いつも恋愛授業の場所に使っている都市ザーゴベルの暗部を支配するトップ屋敷にスノー、アイナ、ホワイトは集まっていた。
 中庭の気持ちよく日が当たる場所に、テーブルを置き昨日の顛末をお茶会ついでにスノーへと伝えていたのだ。

「わたしが二人を待っている間にそんなことがあったんだ」
「しかもまさか約束したとはいえ、本当にあのレイシースと腰巾着二人が今日すでに魔術師学校を退学しているなんて。早業っすね」

 アイナは感心するが、同時に納得していた。
 魔術師S級、『氷結の魔女』の実力を文字通り嫌というほど体験させられたのだ。
 息子と手下二人の退学が遅れて、『氷結の魔女』の矛先が再び向けられ領地を永久凍土にされたらたまったものではない。しかも脅しではなく、本当に実現できる実力を持ち、誰にも止められないのだから恐ろしい。
 スノーは改めてお茶を飲むホワイトへとお礼を告げた。

「師匠、助けてくださって本当にありがとうございます! これからもご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします!」
「そのことだけど……もう私からスノーちゃんに教えることは何もないわ。だから私は恋に悩んでいる女の子を捜す旅に出ようと思っていたの」
「し、師匠! そんなことありません。わたしはまだまだ師匠に教えてもらいたいことが一杯あります!」

 ホワイトは首を横に振る。

「いいえ、スノーちゃんは十分立派に成長したわ。後は自分を信じ、勇気を出して意中の相手と向き合えればきっと恋は叶うはずよ」
「し、師匠……」
「頑張ってね、スノーちゃん。私はいつでも貴女の恋を応援しているわよ」
「は、はい、師匠! 師匠の教えを守って絶対にリュートくんと結婚します!」

 スノーとホワイトはテーブル越しに手を取り合い涙し合う。

「…………」

 アイナはその二人の姿を微妙な表情で眺める。

(昨日のスノーちゃんの活躍を見て、褒めるところがそこっすか? 魔術師として何か間違っている気がするのは自分だけなんっすかね……)

「そうそう。後、昨日の戦いは素晴らしかったわ。攻撃を与えた相手の体温を奪うなんて、私の教えをしっかりと実戦で生かしたわね。魔術師の先生としても鼻が高いわ。今後は『氷雪の魔女』を名乗るといいわよ」

(す、凄いっす! あの『氷結の魔女』様から二つ名を頂けるなんて! やっぱりホワイト様もスノーちゃんの魔術師としての才能を見抜いていたんっすね!)

 魔術師S級のホワイト直々に二つ名を与えられるという奇跡的現場に居合わせたことに、アイナは興奮を覚えた――が、スノーの一言で思いっきり水を差される。

「え? あれって体温を奪ってたんですか? わたしは相手の魔力を奪って、体温を下げていたつもりだったんですが……」
「そうなの? でも体温も一緒に奪っていたようだし、『氷雪の魔女』でも問題無いわよね?」
「はい、ありがとうございます。なら『氷雪の魔女』でいいですよ」

 二人の軽い会話に、さすがのアイナも不満を爆発させる。

「なんでそんなに二人とも軽いんっすか!? 特にスノーちゃん! せっかくの二つ名っすよ! しかもホワイト様から直々に頂いた! なのに井戸端会議の席で話すようなノリで決めるって!」
「そんなことないよ。これでも嬉しくて喜んでるよ。あっ、このお菓子、美味しい!」
「嘘っす! 二つ名より、お菓子の方が嬉しそうじゃないっすか!」
「女の子は甘いお菓子でできてるから、しかたないわよ」
「ホワイト様も別に上手いこと全然言ってないっすよ! あっ……す、すみませんす」

 アイナが勢いでホワイトにツッコミを入れてしまう。
 彼女はアイナのツッコミに『自分としてはいい感じなことを言ったつもりだったのに……』と肩を落としていた。
 アイナはそんなホワイトを慰めフォローし、スノーは師匠が落ち込み親友が困っているのにも意に介さず美味しそうにお菓子を食べていた。
 こうしてスノーの二つ名が決まり、お茶会は何事もなく終わる。

 翌日、魔術師S級、『氷結の魔女』、ホワイト・グラスベルは、『恋に悩む女の子の気配を感じる』と言ってふらりと街を出て行ってしまった。

 そして一年と数ヶ月後。
 今度はスノーがメイヤ・ドラグーンと出会い、そして彼女はリュートを探し出すため魔術師学校を飛び出したのだった。


ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
明日2月24日、21時更新予定です!

ちなみに今日、買い物に出たついでではありますが台湾地震の募金をしてきました。
明鏡の地元が東北なので、当時の地震でお世話になりました。少しでも恩返しできればと、少額ですが寄付させて頂きました。
その帰り道にずっと買い忘れていたパンツを買うことができました! これで穴の空いたパンツとはおさらばだぜ!

さて、明日はランス過去編。
連続延長更新も明日で最後です。
ちなみに軍オタ6巻&コミックス1巻が絶賛発売中なのでどうぞよろしくお願いいたします。

また、軍オタ1~5巻も、引き続き発売中です。
まだの方は是非、よろしくお願いします!
(1~6巻購入特典SS、コミックス1巻購入特典SSは15年2月20日の活動報告をご参照下さい)
+注意+
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